#1704 オルク、戦力強化!悪魔猫と契約できるのか!?
「お、いたぞ。あれならオルクは契約できるんじゃないか?」
「確かに悪魔っぽい。というか悪魔猫?」
「『看破』によれば名はそのまんま〈ハニーデビルキャット〉というらしい」
俺が〈馬車〉から指差し、オルクが目を丸くし、その隣からメルトが冷静に〈幼若竜〉で看破する。
〈猫猫ダン〉に入ダンして3日目、現在56層。
そこでにゃんにゃん戯れていたのは黒いネコ。
額の中心に黄色の宝石が輝き、普通のネコサイズにコウモリの翼が生えている。
そして個体によっては浮いている。後ろ足をダランと下げて飛ぶ姿は悪魔的可愛さだ。
「ゼフィルスさん、確認なんですが、あれは強いんっすか?」
「なに言ってんだオルク。このダンジョンのネコの強さは身に染みて分かっているだろ? また油断してぶっ飛ばされた上に戦闘不能になりたいのか?」
「いや、うん、そうっすよね。俺が悪かったです」
実は道中。すでにオルクは3度戦闘不能になっている。
しかもボスを除いての道中でだ。
1度目は普通のネコモンスターが相手だった。
救済場所でネコとじゃれたことで警戒心が緩んだのだろう。救済場所の外で無防備に触ってしまったのだ。
勝手にお触りされたネコの制裁は苛烈で、オルクはボコボコにされてしまった。
2度目は猫津波。
あの光景は、俺は二度と忘れないだろう。
俺たちが守護型ボスと戦っている間になぜかオルクが禁足地へと足を踏み入れてしまったんだ。結果はお察しの通りだ。
大量の猫津波が侵入者を排除しようとオルクに襲い掛かり、オルクはネコに揉みくちゃにされてしまった。これでツーアウト。
最後は、なぜかは知らないが、休憩中のおり、気が付けばオルクが戦闘不能状態になっていたんだ。
最初は意味が分からなかったよ。普段は見慣れているHPバーのゲージがゼロになっているんだもん。最初はHPバーの故障を疑ったさ。
だが聞けばオルク。休憩中に1匹のネコと意気投合、というかバトルの兆しを経て救済場所の外でがちでやりあったらしい。
今回はしっかり戦おうと決断しての戦闘だった。ツーアウトまでのうっかりではない。
だがこのダンジョンのネコって、パーティで相手をするようなモンスターなのである。当然ソロで挑んだオルクは負けて帰ってきたらしい。スリーアウト。
まさかのフォーアウトがちらつく。オルクならやらかしそうなのだ。
メルトもオルクへ復活魔法『リヴァイヴ』を掛けるのも慣れてきたようで「むしろ〈エデン〉では使う機会が皆無だからな。練習させてほしい」と言ってきているほどである。その杖は、4回目の機会があるか? と、オルクに向けられている気がしないでもない。
「よし、早速契約しにいくか! ここのテイム用アイテムは持ってるよな?」
「は、はい! 〈匠の猫じゃらし(特大)〉、買ってきました!」
ネコをテイム、契約するのにこれ以上のものはない。
ちなみにこれは〈エデン〉のものではなく、オルクが別口で買ってきたものだ。
テイムなどを使わないギルドからするといらないものなので、そこそこ市場で取引されているらしい。
一応〈猫猫ダン〉も20層までの攻略報告書は学園長に渡してあるからな。
オルクがちょっと微妙な顔で〈空間収納鞄〉から取り出したのは、1メートルに迫る巨大な猫じゃらしだ。
ピンク色で、匠の技が見える形をしている(?)。
きっとネコたちは翻弄されてしまうに違いない。
ということで、俺たちはアランも含め数人で〈ハニーデビルキャット〉のところへ向かった。
「オルク、猫じゃらしを前へ向けるんだ。そうだ。先端を猫じゃらしにして視線を集めるように」
「お、おっす」
「ニャ? フ…………ニャ?」
こっちに気が付き、一瞬で戦闘態勢に移りそうな〈ハニーデビルキャット〉だったが、そこは本能なのか垂らされる猫じゃらしに目が釘付けだった。
よしよし、まずは成功。
普通テイムというのは戦い、HPを減らすなどしてこちらの力を見せつけて仲間にする方法が一般的だが、猫じゃらしを使う場合は最初から戦闘はしなくてもいい。
いや、これも戦闘の一種なのだろうか?
目を光らせた悪魔猫は容赦無く素早い動きで猫じゃらしをネコパンチでぶん殴った。
だが、それもただのジャブ、まるで暖簾に腕押しのようにフワッと帰ってきた猫じゃらしにまたもネコパンチ。
「お、おお!?」
「慌てるなオルク。じゃらしてじゃらしてじゃらしまくるんだ! 契約出来るかはオルクのじゃらしの腕に掛かってるんだぞ!」
「お、おう! じゃらしてみせるぜ!」
「じゃらすとはいったい……」
俺の指示にオルクが容赦無くじゃらす。
なぜか隣のメルトが微妙な顔をしていたが気にしない。今はそれよりも大事なことがあるからだ。
「おらおらおらおら!」
「フシャー!」
「こうか? これが好きか? こうならどうだ?」
「フニャ~ン♡」
「見極めた! こうだな!?」
「フシャー!(怒り)」
全然見極めきっていないオルクのじゃらしテクと〈ハニーデビルキャット〉の戦いは2分にも及んだ。
〈ハニーデビルキャット〉も翻弄されるばかりではなく、反撃にネコパンチをかましたり、威嚇したり、ゴロニャンして手足4本使ってテシテシしたりとさまざまなじゃらされテクを披露した。オルクもよく頑張った。その結果。
「フシャー!」
「ふぐふぁ~~~~~!?」
「オルクーーーーーー!?」
失敗した。
思いっきりネコパンチでぶん殴られて吹っ飛ぶオルク。
そのまま去って行くネコ。
「復活は必要か!?」
「いや、大丈夫です。物理ならセーフ!」
「おお、頑丈じゃん!」
まあ、ドンマイである。
初めてだもんこういうこともあるさ。
「諦めるなオルクよ! 諦めず、努力を重ねた先に成功はある! 故に決して諦めなければ結果は出る!」
「おお……アラン! 俺頑張るぜ!」
「その意気だオルクよ!」
なんだかあそこだけ熱血もののスポーツ漫画っぽくなっているが、感覚としては近いかもしれないな。
その後、オルクの挑戦は続いた。
猫じゃらしは失敗した場合は消えないので7回ほど挑戦することになった。
うち6回ほどネコパンチで撃沈させられるオルクと、それに回復魔法を掛けるメルト。
しかし、ついに努力は実る。
「ニャ~ン♡」
「やった……ついにやったぞ! 契約可能状態になったぞー!!」
ついにじゃらして完全に下すことに成功したのである。
「よし、今だオルク!」
「おう! 『召喚契約』!」
「ニャ~ン♡」
オルクが『悪魔召喚』スキルと対になる『召喚契約』スキルを発動。
「悪魔」カテゴリーであるモンスターと契約すれば、いつでも『悪魔召喚』で呼び寄せることが可能だ。
「成功! やったぞ! 俺はついに成功したんだ!」
「やったなオルク!」
「アラン! あなたの言葉の通りだった! 努力は報われるんだ!」
「はーっはっはっは! 俺たちの筋肉も喜んでいるぞ! ――よーし、祝いの筋肉わっしょいだーーー!!」
「「「「「おおおおお!!」」」」」
「あ、ちょ、それは待っへ!?」
「「「「「わーっしょい! わーっしょい!」」」」」
「あひゃりゅら~~~!?」
「うおー! 俺の筋肉がまだ足りないと叫んでいる! パージ!」
「なぜ脱いだーーー!?」
「「「「「わーっしょい! わーっしょい!」」」」」
「ゼ、ゼフィルスさんへるぷ…………」
オルクの大成功にギルドメンバーの筋肉14人が筋肉を躍動させて心から、いや身体から祝福した。
わっしょいわっしょい!
もちろん俺たち〈エデン〉組はそれに巻き込まれないように少し遠目で見ていたんだ。
揉みくちゃにされ、胴上げされ、また揉みくちゃにされていくオルク。
途中14人の筋肉が、ただでさえ少ない装備しか着ていないのになぜか脱ぐハプニングもあったが。それだけテンションが極まったということだろう。
大量の筋肉におしくらまんじゅう状態のオルクが俺に助けを求めていた気がしたが、きっと気のせいさ。
こうしてオルクは新しい戦力を得た。
今までは『上級召喚盤起動』による、召喚盤での召喚しかできなかったことを考えれば戦力は倍! なにしろ『悪魔召喚』と『上級召喚盤起動』を両方使えるようになるのだ。そしてオルクも加わることでかなりの戦力アップが見込めるはずだな。
「よし、このまま最奥ボスまでいくぞ!」
「「「「「わっしょい!」」」」」
もみくちゃにされて意識を手放したオルクを〈馬車〉に積み込み俺たちは進む。最奥へと。
ここからは巻きでいこう。
そうして俺たちはその日のうちに最奥のボスが待つボス部屋の前まで走破したのだった。
「あれ? ここは、どこだ?」
「お、目覚めたかオルク。ここは最奥だぞ。早速ボス戦しようか!」
「…………へ?」




