#1695 ゼフィルスが学園長に直接報告!そして高みへ
「学園長、今報告が入ってきました。〈エデン〉が〈火山の竜宴ダンジョン〉、通称〈竜ダン〉を攻略したとのことです」
「ほ?」
「学園長、〈エデン〉が〈竜ダン〉を攻略したとのことです」
「…………ヶヒュン」
「そこへお茶を差し出す私です」
「熱っつああ!?!?」
ここは例によって学園長室。
クール秘書さんことコレットの報告から始まったいつものパターン、流れるようなプロの動きで熱いお茶をグイッと学園長に飲ませて見事復帰を果たさせるコレット。
マジ無駄の無い、見事な気付け術だった。
「ひぃ……ひぃ……」
「学園長しっかりしてください。先程ゼフィルス様から報告に来ますとアポが入りました。未だ見ぬ素材だかなんだかを手土産に持ってくるに違いありません。その対応もしなくてはならないのですよ?」(←トドメ)
「…………カヒュン」
「あ! また夢の中に!」
学園長の安らげる場所はまさにドリームのみ。
全力でそこへ逃げる学園長とそれを連れ戻すコレット。
「今回のはスペシャルです。一発で戻って来れますよ」
そう言いながらじょぼじょぼと新しい湯飲みにお茶を入れるコレット。
いつも一発で戻って来れているのに、今回のはさらにパワーアップさせたスペシャル版らしい。パワーアップさせる意味とは?
危うし学園長! 危うし!
「はっ! わしはいったいなにを!」
「あ、学園長、気が付かれましたか!?」
だがここで学園長復帰! ピンチ脱出!
もちろんコレットはスペシャルをそっと隠して如何にも心配していましたよという感じに学園長を労った。
「はぁ、はぁ、うむ。なんだか凄まじい悪寒がしてのう。おかしい、まるで熱いお茶を超えるなにかがすぐそこまで迫って来ていたかのような……」
「そんなことはきっとないでしょう。無事に戻られてこのコレット、とても嬉しく思います」
学園長の鋭い感覚のコメントにしれっと良かった風な雰囲気を出すコレット。これがプロの仕事。
「それで、なんの話じゃったか? おお、そうじゃ、今日は豪華な昼食を食べに行く予定を練っていたのじゃったな?」
「もう昼食は過ぎたでしょう学園長。今は夕方ですよ? そうではなく〈エデン〉が〈竜ダン〉を攻略したという話です。それと、もうそろそろゼフィルス様が来ますよという話です」
「……!?」
学園長、思わずなのか無意識なのか定かでは無いが、なんとかボケるもすぐにコレットから事実と現実を突きつけられる。
どうやら思い出せたようだ。そこへ響くノックの音。
「学園長はいらっしゃいますか! ゼフィルスです!」
「! は、入りたまえ」
思ったより早く――ゼフィルス襲来。
学園長が意識を飛ばしている間に、本人来ちゃった!
「失礼します学園長! 聞いてください、やりましたよ! 先程〈竜ダン〉を攻略して帰還しました! これで上級上位ダンジョン、5箇所目の攻略! ついに最上級ダンジョンの入ダン条件を満たしました!!」
入室したゼフィルスの第一声(?)がこれである。
「前人未踏? なにそれ?」を地でいく発言に加え「偉業? ああ、偉業ね、知ってますよもちろん、あの偉業ですよね?」とでも言いそうな、偉業という言葉を勘違いしているのではないかと思わせる楽しそうなテンション。
なんとなく、次の遊び場を早く開けてくださいと願う子どものような感覚を学園長は幻視した。それ、実は思い違いじゃないですよ学園長。
「そ、それが〈竜ダン〉の攻略者の証かのう……?」
「はい! 最奥の通常ボスだと物足りなさそうだったので、レアボス狩ってきました!」
「……はい?」
おかしいな。なんだか今、聞こえてはいけない言葉が聞こえた気がする。
いや、きっと気のせいだろう。
ゼフィルスが手に持って見せてくる、この学園長が見た事も無い証。
いや、最近そんな証ばっかりだけど、うむ、今度の証も見た事がないね。
そう、認識してちょっと気が遠くなる学園長。しかし――。
先程からゼフィルスと学園長の会話を邪魔しないよう徹していたコレットが唐突にお茶を入れ始めた。なぜかそれだけで学園長の遠くなった意識が戻って来た気がする。
これぞスペシャルの威力?
「それで実はですね? お土産を持ってきたんですよ!」
「ま、毎度すまんのう……? じゃが、そんな気を使わん――――」
「いえいえ~、学園長にはいつもお世話になっていますから! それで最上級ダンジョンのことなのですが」
「う、うむ。滞りなく進めておるぞ? おそらく、3月には……」
「そうですか! おおお、楽しみですね!(歓喜)」
「そうじゃな……楽しみじゃ(遠い目)」
ゼフィルスがそっとなにかの腕輪やアイテムをテーブルに置いたのが見えて学園長は乾いた笑みを浮かべた。
この80のダンジョンを統べる学園の長が全く見た事も無いアイテムや装備である。
きっととんでもないものだろう。
「最上級ダンジョンかぁ。まさかわしの代で開けることになるとは、2年前まではつゆほども思わなかったのう」と遠い目になる学園長。
ついに学園が誇るダンジョン門、その最後の門も解放されようとしていた。
「78歳、そろそろ引退じゃのう。ユーリ殿下の卒業を見送ったらわしも……」とか考えて居た2年前の自分に今の話を聞かせたらどんな反応をするのか、そんなとりとめのない感想を抱く学園長。まさに現実逃避である。
ついこの間、〈エデン〉は伝説の六段階目ツリーがこの世に存在し、かつ上級上位ダンジョンのランク4深層でLV60になった時に全てのスキル・魔法が開放されたことを発表した。
今までも凄まじかった学園の攻略ブームがさらに活発になった瞬間だ。しかも、ランク4ダンジョンの〈巣多ダン〉はすでに報告書が出回っている。
そりゃみんなテンション上がるさ。学園長の仕事量も大爆発だ。
とはいえそれからまだ2週間、未だSランクギルドどころか学園公式ギルドですらランク4の深層にたどり着いていないのが現実だ。
〈エデン〉は少し突っ走りすぎだと感じる学園長。ちょっとスピードを緩められないかと交渉してみる。
「う、うむ。そのことなのじゃが、実はまだSランクギルドどころか我が学園の公式ギルドですら六段階目ツリーを開放出来た者は居なくてのう」
「なんと……」
ゼフィルスが素で驚く。
前ばかり見て全力疾走していたら、気が付けば後ろに誰も居なかった件。
しかし学園長は知っている。これでもゼフィルスは全力では無い――というより準備を怠らず、安全マージンを確保しながら安全運転で走っていることを。
そして、万が一自分たちに何かあった場合、学園公式ギルド〈救護委員会〉のことを頼りにしているのを。
故に〈救護委員会〉などへの支援もしているし、協力も惜しまない。
あの報告書なんてその代表だろう。
一応前人未踏のダンジョンなのだ。万が一何かがあり、助けも来ないとなれば大変。
だからこそゼフィルスは後ろに誰もいないということに危機感を抱くはず。
「うむ。だから公式ギルドが追いつくまで待――」
「つまり俺たちがみんなを鍛えれば良いんですね!」
だが、学園長の考えなんてゼフィルスは余裕で飛び越えていく。
「え?」
「確かにもうすぐ2月のダンジョン週間! いいでしょう! 上級下位ダンジョンの時のように、俺が学園のみんなを鍛えて上げます! 任せてください!」
「い、いや」
「SSランク戦ももうすぐですもんね! なのに六段階目ツリーが開放されてないとか大変だ! そうと決まれば準備をしなければ! 学園長、今日はこれで! では、失礼いたします!」
「あ」
そうしてゼフィルスは嵐のように去って行った。
なんだかまた、とんでもないことをしでかすことが確定した瞬間である。
◇
その日の夜。
Sランクギルド及び、Aランクギルドのギルドマスターたちに爆弾が降り注いだ。
「わわ! 見てみてセーダン君! 〈エデン〉からこんな通知が来たんだけど」
「え? これは、一緒に上級ダンジョン攻略のお誘い?」
「しかも〈エデン〉が所有するあの〈イブキ〉や〈ブオール〉に乗せて連れていってくれるって書いてあるんだよ! 目標は六段階目ツリーの開放だって!」
「え、えええ? しかもこれ、全Sランクギルド、Aランクギルドが対象?」
〈千剣フラカル〉ではリカのお姉さんことリンカがサブマスターのセーダンを呼んで一緒に〈学生手帳〉を覗き込む。
もうすぐ卒業だと感傷に浸っている暇は無さそうだ。
◇
「ははははは! さすがはゼフィルス氏、もうすぐ始まるSSランク戦にどう間に合わせようかと頭を捻っていたが、ゼフィルス氏がサポートしてくれるならば心強いぞ!」
「混沌も美味しそう!」
〈ギルバドヨッシャー〉はお祭り騒ぎ。
ギルドマスターのインサー先輩はどう頑張ってもギルドメンバーの全員がSSランク戦までにLV60にはなれないだろうと悩ましく思っていた。しかしとあるメッセージで全て解決。これがお祭りにならずにいられようか? いやいられまい。
〈ギルバドヨッシャー〉もこれには大賛成とすぐに〈エデン〉へこちらからお願いしたいとの旨の連絡を入れたのだった。
◇
「ゼフィルスめ、まさか、敵に塩を送りつけるとはな! その長くなった鼻、へし折ってやる!」
「ふふ、僕たちを甘く見たこと、後悔するのです」
「だな! ゼフィルスは自分が蒔いた種で溺れるのさ!」
「俺様を忘れてもらっては困るぞ! SSランク戦で立ちはだかるのは俺様だというのを思い知らせてやろう!」
こちら〈天下一パイレーツ〉。〈天プラ〉4人。
彼らは盛大にブーメランを投げながらも闘志に燃える。
SSランク戦、今度こそゼフィルスを打ち倒してやると!
「また、あの〈エデン〉と戦うでやがりますか? もう初手からギブアップでもするべきですか……」
一方モニカは遠い目になっていた。
◇
ゼフィルスは学園長の思いを勘違い。
学園長は〈救護委員会〉が育つまで先には行かないでと頼もうとしたつもりだったが、近々SSランク戦が行なわれる予定なのがいけなかった。
すでにSSランク戦の話は広まっている。
ランク戦が開始されるのは――2月28日、卒業式の3日前だ。
きっとSSランク戦の調整だろうと判断してしまったゼフィルス。
なにせ上位ギルドの卒業生はほとんどを学園がヘッドハンティングして公式ギルドに所属してもらうことにほぼ決まっている。
故に、SSランク戦を盛り上げるため、〈エデン〉がSランクギルドとAランクギルドの集中レベル上げを手伝い、六段階目ツリーを開放させようと画策したのだった。
今、学園で――六段階目ツリーの開放ラッシュが始まろうとしている。
第三十七章 ―完―




