#1684 ルキアのユニークは味方以外の全てを止める!
「それじゃあ、早速開戦の花火を打ち上げるよ――『特大打ち上げ花火』!」
最初に魔法を打ち上げたのはタンクのシャロン。
挑発系だ。だがその撃った方向は完全に〈黒竜〉。
打ち上げなのに、上じゃないんだ!? とツッコミを入れられそうだが、俺だって電撃の花火を相手に打ち込むので、きっと花火って攻撃なんだよ!
「ギャアアアアア!?」
「え? 掛かった?」
「わ! 〈盲目〉状態じゃん!」
驚くシャロンの声と、エミのセリフに見てみれば、〈黒竜〉のHPバーにしっかり〈盲目〉のアイコンが光ってた。
シャロンの〈六ツリ〉がただの挑発な訳がない。〈盲目〉〈気絶〉〈混乱〉を誘発する状態異常攻撃でもあるのだ。
だが全て体内状態異常のため、ボスには掛からないだろう、特に〈竜〉には、そんなことを思っていたのかもしれない。しかし、実際は掛かった。チャンス!
「「「『神気個三波装砲撃』!」」」
最初の攻撃はサチ、エミ、ユウカだった。
3人が横並びになって『神気開砲撃』の上位ツリー、六段階目ツリーの必殺技を発射する。『神装武装』で得た神気を全力でぶっ放した。
「ギャアアアアア!?」
メガヒット!
いきなり〈黒竜〉にとんでもないダメージが入る。
「「「『神装武装』!」」」
ここで再び『神装武装』でフルチャージ。
サチ、エミ、ユウカの武器がキラッキラに輝き、その武装は神のごとき神聖な光を発し始める。
3人の武器は、以前の〈竜武器〉から〈神・ヒヒイロカネ武器〉へと換装されている。サチなら〈神剣・ヒヒイロカネ〉、エミは〈神本・ヒヒイロカネ〉、ユウカは〈神弓・ヒヒイロカネ〉だ。
本当は〈竜武器〉の方が能力が高いのだが、〈ヒヒイロカネ武器〉には〈竜武器〉にない特性がある。それが〈神〉カテゴリーだ。
そして、サチたちの【神装】系職業は、この〈神〉カテゴリーの武器を装備することでスキルの威力が劇的に上がる。
なにしろ【神装】だからな。〈神〉を装備する職業なのだ。
加えて、基本コンボで発動するスキルも、個で発動できるようになるなど、まさに真の力が発揮できるようになる。
とはいえ、これは3人で撃った方が全然強いため、個で撃つことはそうそう無いんじゃないかな。サチたち、いつも一緒に居るし。
「『時奪取』!」
ルキアが発動したのは相手の素早さと移動速度を奪うドレイン系。
ギルドバトルではエグいくらいとんでもない魔法ではあるが、ボス戦でも非常に重宝する。
〈盲目〉状態でも黒いブレスをあちこちにぶっ放しながら接近してきていた〈黒竜〉がさらに遅くなった。
「それじゃあ、エミちゃん、ユウカちゃん、攻撃開始だよ!」
「サチっちの分までやっちゃうよー! 『神宝本・ダイイングユーゼロ』!」
「動かないでね~! 『神宝弓・アルテミス』!」
個別に攻撃するのはエミとユウカ。
2人は遠距離攻撃持ちだ。
しかも、いきなり個で使える最強技を撃っている。
分かってるなぁ。
「ギャアアアアア!」
直撃した〈黒竜〉はさらにダメージを受けて、ようやく〈盲目〉が解けたようだ。
怒り狂っているような目で〈スターライト〉に飛んでくる。
「怖! でもかっこいいかも……『クレッセントブラスト』!」
うむうむ。ルキアの気持ち、よく分かるぞ。
〈黒竜〉はあの怖いところがかっこいいよな!
おっと、黒炎ブレス来た!
この黒炎ブレスこそが〈黒竜〉を黒竜たらしめる技。ブレイク系を内包し、こっちの攻撃を全て燃やし尽くして飲み込むとんでもないブレスだ。
「『ゴッドオリハルコンランパート』!」
対するはシャロンの防壁のような巨大盾。神のオリハルコンは破壊無効を内包する。黒炎ブレスでも防ぐことが可能だ。なお、シャロンがこれを選択したのは偶然だが。
いつもは地面から飛び出てくる盾だが、今回は甲板の手すりからこんにちは。しかもスライドして空中へと躍り出る。それ浮けるんだ!?
どうやって手すりに隠れていたのか、どうやってスライドしたのか、訳が分からない。現れた防壁が黒炎ブレスを完全に防ぎ消えていく。
もちろん防壁を生やした手すりは無傷だ。どこにも生えた形跡無し。マジ不思議!
「これくらいならカタリナさんの結界に代わってもらうまでもないよ!」
現在〈スターライト〉はカタリナの結界に覆われている。そのため『ゴッドオリハルコンランパート』は艦の上で顕現したあと空中に出張って結界の外で攻撃を受けたのだ。
「『魔剣群』!」
おっとここでサチが業を煮やしたのかいきなり大技を発動。
サチだけ遠距離攻撃をほとんど持っていないので先程から剣と盾を構えてうずうずしていたのだが、『神装武装』のクールタイムが終わり掛かったために、神装状態を全消費してぶっ放す『魔剣群』を発動したようだ。
〈黒竜〉の周りに現れるのは無数の〈ヒヒイロカネの剣〉。
それが前後上下左右斜め、全方向から襲い掛かったのだ。
「ギャアアアアアアアス!」
だがこれを〈黒竜〉は黒炎のブレスで薙ぎ払いまくって迎撃する。
「ええ、えええ!? そんなのあり!?」
「あのブレス、もしかしてブレイク効果あるの!?」
「サチの『魔剣群』があんなに簡単に燃やされるなんて! 試してみるよ!」
サチ、必殺の『魔剣群』は〈黒竜〉の黒炎ブレスによって防がれてしまったが、エミがあの黒炎ブレスにブレイク系が混じっていることを掴んだようだ。優秀。
早速エミとユウカが大技を放つ。
「『神宝本・セイクリッドレター』!」
「『神宝弓・サジタリウスミサイル』!」
エミとユウカの手紙とミサイルが一気に範囲攻撃となって〈黒竜〉を襲う。だが〈黒竜〉は迎撃の黒炎ブレスを吐き、薙ぎ払ってきたのだ。
エミとユウカの攻撃が飲み込まれ、さらには〈スターライト〉にまで襲い来る。
「ちょ!? 本当にブレイクじゃん――『完全防備』!」
これに驚いたのはシャロン。
なにせ、〈スターライト〉全体に盾を貼って防がないといけないレベルの極太ビームの横薙ぎが来たのだ。しかもブレイク付き。
もちろんシャロンの貼った破壊無効付きの巨大な盾たちが横薙ぎのブレスから〈スターライト〉を完全に守ることに成功。しかし。
「って、横薙ぎ戻って来た!?」
なんと〈黒竜〉は一旦左から右に黒炎ブレスで薙ぎ払った後、今度は右から左に黒炎ブレスを吐きながら戻してきたのだ。
シャロンはこれを想定できず、うっかり防御スキルを消してしまっていた。
相手の大技の後は攻撃チャンス。故に盾が邪魔で攻撃ができない状態を嫌ったのだ。普段なら消すのは最善。だが、今回はそれが裏目に出たかたち。
シャロンも使用後の硬直でスキルは使用不可だ。〈スターライト〉に黒炎ブレスが迫る。
「ルキア、ストップだ!」
「はいよ! 『タイムストップ』!」
ここで初めて俺が口で割り込んだ。
俺の指示でルキアが素早く六段階目ツリー『タイムストップ』を発動。
それにより、こちらに向かうはずだったブレスが、途中でピタリと停止していた。
完全に色んな法則を無視している、文字通り、時が止まったようにボスごと攻撃がストップしたのだ。
「エステル取り舵!」
「はい!」
すぐに攻撃範囲からエステルが離脱し、時が戻る。
黒炎ブレスは何もない空間を薙ぎ払っていた。回避成功だ。
「ルキア、ナイスリカバリー!」
「イエイ!」
俺のナイス発言にピースで答えるルキア。今のは絶妙だった。
『タイムストップ』は文字通り時間を止める魔法。全体ではなく、一部のみ、今回で言えばボスとその攻撃を一時的にストップさせたのだ。
ストップ出来る時間はせいぜい3秒程度だが、スキル硬直などを解消したり、攻撃を回避したりするのには十分な時間。
つまりは緊急回避用の魔法みたいなものだ。絶対回避に近い上に、攻撃にも使えてしまうため鬼強い性能を誇る。
もちろん、『タイムストップ』が切れたあとは止まっていた攻撃が再開されるため注意されたし、である。
「ギャアアアアアアオ!」
「やっと近くに来たね! 『神宝剣・アマネタチ』!」
ついに〈スターライト〉へ接近する〈黒竜〉。
今まで迎撃してきた〈竜〉の中で、これほど接近されたのは初めてである。
だが、それこそサチが求めていたこと、と言わんばかりに個で最強攻撃を放ち、ドカンと大ダメージを与えていた。
「ギャアアアア!」
「『激槍ファランクス』!」
「『神宝弓・スピリチュアルハンディング』!」
「『神宝本・終末のディストラクション』!」
「『神宝剣・神の一太刀』!」
「『ホーリームーンエターナル』!」
〈黒竜〉が突っ込んで来たが慌てず、シャロンはファランクスで迎撃防御。
止まった所へユウカ、エミ、サチが攻撃し、反撃でダメージを受けたみんなをルキアが全体回復魔法で回復する。
「うわ、取り付かれそうだよ!」
「サチたちは『女神化』だ! 一気に倒しきれ!」
「! オッケーだよ!」
「そうだね! ここで決めちゃうよ!」
「見ればHPも残り3割だ! いける!」
俺の指示に3人は笑顔で集まり、変身する。
「「「『女神化』!」」」
変身する3人はなんと神々しいことか。
まるで後光の如くまぶしい聖なる光が装備から発せられ、その光が多少収まった時には、3人の女神がそこに居た。装備も大きく変わり、まさに神の如く真っ白なローブに包まれていた。
「相変わらず、すっごいパワーを感じるよ!」
「この力、一気にぶつけちゃうよ!」
「2人とも、手を合わせて、あれをやるよ!」
「「うん!」」
「「「『グラスプ・アタッチメント・シンチャージ』!」」」
「ギャアアアアオ!」
「ええい、いい加減離れてよ! 『疑似ダンジョンシステムボス召喚』! 〈炎帝鳳凰〉!」
「ギャアアアアアア!」
「ギャアアアアオ!」
「うひゃあ、怪獣大決戦だよ! 『ハイクレッセントブラスター』!」
「ギャアアアアアアオ!」
「ギャアアアアアア!?」
「ああ!? 〈炎帝鳳凰〉がんばれ!」
空が飛べるボスということで迎撃に選ばれた〈炎帝鳳凰〉だが、さすがに〈黒竜〉相手では分が悪すぎるようでボコボコにされていた。
そして最後は黒炎ブレスによって吹き飛んでしまう。〈黒竜〉が強すぎる!
〈黒竜〉はここで〈スターライト〉に降りようと、脚を向けた。よし、ここだ。
「ルキア、ここだ!」
「よしきた! ――『クロノス』!」
瞬間ボスが完全に停止した。
ボスを止めることができるスキルは――1つじゃない。
これはルキアのユニークスキル『クロノス』。
1戦闘1回のみ使用可能で、本来であれば地形、ボス、攻撃、環境、様々なものを16秒の間ストップさせてしまう、とんでもなく凶悪なユニークスキルだ。『姫騎士覚醒』などと組み合わせるとボスを秒殺できることでも名高い。
発動した瞬間、ルキアの背後に巨大な懐中時計が現れた。これが『クロノス』の化身。これが顕現している間は時はルキアの味方だ。
「いいぞサチ、エミ、ユウカ!」
もちろんこんな大チャンスに何もしないなんてことはあり得ないわけで、サチたちが3人揃って武器を向ける。
『グラスプ・アタッチメント・シンチャージ』は文字通り溜めスキル。
しかもただの溜めではない。3人コンボの溜めだ。
溜めで、コンボ?
え? いったいどうなっちゃうの? と思うだろ?
『グラスプ・アタッチメント・シンチャージ』は次に3人が使うコンボ攻撃の威力を格段に上げてしまう狂ったようなスキルだ。
武器を向けた3人が、声を揃えてスキルを唱える。
「「「『三柱神授神器・ジャストメイトジャッジメント』!」」」
〈黒竜〉は逃げられない。だって時が止まっているから。
動く事も出来ないのだ。命中する確率100%。
3人から放たれたジャッジメントの剣は、発射とほぼ同時に直撃。
〈黒竜〉のHPを一撃で3割削り取ってしまった。
「ギャ?」
『クロノス』の化身が消えた瞬間、動けるようになった〈黒竜〉は自分のHPバーを見て「あれ?」っと不思議な声を出した気がした。多分気のせいだ。
そのまま〈黒竜〉は膨大なエフェクトを発生させながら地面に墜落していったのだった。




