#182 レアボス宝箱回。心が洗われるようだ。
「勝ったぞー!」
「勝ったわー!」
「や、やりましたー!」
「ぶい」
恒例の勝ち鬨。うむうむ、なんだかんだハンナも付いてこられるようになったな。次はつっかえずに言ってみような!
「ふふ。なんだそれは、ゼフィルスたちは毎度こんなことをしているのか?」
「まあな! 強敵に勝った時なんかはつい叫びたくなるもんだ」
「そうだな。わかる気がする。確かに強敵だった」
レアボスである〈デブブスペシャル〉の強さは初級上位並、リカとカルアにとって非常に強力な相手だった。
何しろ2人の職業LVはまだ24だ。レアボスとやり合うのはちょっと厳しいレベル。
しかし、蓋を開けてみればリカの完璧なパリィでほぼ本体を完封したのだから凄まじい。
〈モチッコ〉のぬいぐるみに惹かれて加入を決めた時は大丈夫かなぁと思ったものだが実際にはとんでもない逸材だったな。あの時の俺にナイススカウトと伝えてあげたい。
「あまり、役に立てなかった」
「ま、今回はカルアとは相性が悪かったからな。〈バトルウルフ〉の時は大活躍だったんだから気に病むなって。それに〈チビ〉たちの処理は助かったぞ?」
カルアは属性武器さえ持っていたら光ったんだろうけどな。素早い移動で〈チビ〉を狩りまくる姿が容易に想像出来る。何せAGIがもう200近いから、動きの遅い〈チビゴースト〉なんて簡単な獲物だろう。
それでも攻撃が効きにくい中、カルアは頑張っていた。
俺もチラチラ見ていたがダメージの通りにくい〈チビゴースト〉を何体も狩ってたからな。ほとんどはラナやハンナの取りこぼしだが、そういう取りこぼし処理をしてくれるのも大事な役割だ。
「ねえゼフィルス君! 宝箱開けようよ!」
「だな。レアボスだから中身も期待出来るぞ」
「ん。行く」
ハンナの声にドロップを確認する。今回は〈銀箱〉2つだった。
つまり最低保障。ん~残念。
ま、前回のレアボスドロップが〈金箱〉だったからな。仕方ないか。
俺はハンナの持つ扇子を見て肩をすくめた。
「さて、今回の宝箱だが——」
「「はい!」」
早い。俺がまだ言い終わってもいないのに手を挙げるラナとハンナがとても良い反応をしていた。
〈銀箱〉といえどレアボス産。
良い物は入っているはずなので開けてみたい気持ちは凄くよく分かる。俺も開けたい。
くっ、出遅れた!
「ん、何?」
「何かのイベントか?」
しかし、途中で話が終わってしまったので後続組は理解出来ない様子だ。ごめんな、俺たちのパーティって宝箱中毒者が多いんだ。
何故か遺憾を示すシエラと困ったエステルの幻覚を見たような気がしたが、きっと気のせいだろう。
「誰がこの宝箱を開けるのか、そういう話よ」
珍しく真剣な表情のラナが説明する。隣でうんうん頷いているハンナも含めてガチだ。
ちなみに俺もそっち側に居る。
「そ、そうか。私は気にしないので開けたい者が開ければ良いと思うが」
「リカ、それはダメよ。〈エデン〉のルールでは宝箱は公平に、それが決まりよ。不平等は禁止されているわ」
ギルドにそんな項目があったなんて事、ギルドマスターの俺は知らないんだが?
いつの間に出来たのだろうか。
「ん。開けてみたい」
「そうよね! カルアはちゃんと分かっているわ!」
ちょこんと手を挙げるカルアにラナが喜色を示した。
「ま、そういうわけだ。リカも遠慮せずに宝箱を開けたら良い。ちゃんと順番にだがな」
「別に遠慮しているというわけではないのだが…。ふむ、郷に入っては郷に従えという言葉もある。なら、私も〈エデン〉のルールに従おう」
「たまに〈幸猫様〉級のぬいぐるみがドロップする事もある」
「是非開けよう!」
良し、全員がやる気になったところで誰が宝箱を開けるか相談する。
そして公正な審査の結果、レアボスドロップに初めて遭遇したというカルアとリカが宝箱を開ける事に決まったのだった。
「初めてのレアボスドロップよ! ちゃんと記念に残る物になるよう〈幸猫様〉にお祈りするのを忘れないようにね!」
「カルアちゃん。開ける前にちゃんと祈るのよ? 忘れちゃダメだからね?」
「ん。しっかり祈る」
ラナとハンナが宝箱を開ける時の作法(?)を説いていた。
本当にこれが〈エデン〉のあるべき姿で良いのだろうかと、ちょっとだけ思う。
「では、まず私から行こう」
さっきまで遠慮していたリカはどこに行ったのか。
トップバッターはリカだった。
宝箱の前で真剣に何かを祈ると宝箱をパカッと開く。
「これは…」
「あ、あはは。氷属性のついた短剣〈アイスミー〉だな」
〈アイスミー:攻撃力20、氷属性〉。鞘から持ち手の部分まで全てが透き通るような青で彩られた綺麗な短剣だ。
ずっと欲しかった属性付きの短剣がここでドロップか。
少し、遅かったなぁ。ま、〈ダン活〉にはよくある事だ。
ずっと欲しかったのに、もう用がなくなったタイミングで出る。「妖怪、物欲センサー」に取り憑かれていたんだな、妖怪怖い。
リカは分かりやすくガックシしていたが、カルアは目をキラキラさせていた。短剣はカルアが使う事になった。
「リカ。ありがと。大切に使う」
「こほん。そうだな、それならば良いか。どういたしまして」
続いてはカルアの番だ。
キラキラした目で〈アイスミー〉を見つめていたカルアだったが、それを一旦しまいラナとハンナの教え通りに〈幸猫様〉に祈る。
「どうかリカにも、良い物、ください。〈幸猫様〉」
思いっきり声に出して祈るカルアの言葉にリカがサッと後ろを向いた。
横目で見るとリカは耳まで真っ赤になっている。
カルアは短剣のお礼にリカに良いドロップをお願いしたようだ。
なんだか心が洗われるな。俺の心に汚れなんて付いていないはずだが、何故か綺麗になった気がする。
「ん、開ける」
お祈りが終わったカルアもパカリと宝箱を開けた。
「ん。ふわふわな、毛玉?」
「お、大きいね」
宝箱から取り出したそれは、白くふわっふわな大きな毛玉だった。それを見てハンナも思わずといった様子で呟く。
「あ〜、レア素材の〈モコモコ毛玉〉×10個だな。これが出るのは、うん、凄く珍しいぞ」
何しろ低確率でラインナップされたレアボスドロップ唯一のハズレ枠だ。
どこをどう見てもレアには見えない毛玉。
【裁縫師】にこれを装備品にしてもらっても雀の涙くらいの防御力にしかならないのだ。じゃあ服用なのか、と思うも迷宮学園は基本学生服を着用することが校則で決まっているので着る機会なんてない。
となると、せいぜいインテリアにしかならないわけだ。日夜攻略に明け暮れる〈ダン活〉プレイヤーにはとんでもないハズレ枠であった。まあ滅多に出ないのでそこまで気にするほどの物でもない。出たとして売って終わりだったしな。
しかし、今のカルアの祈りが〈幸猫様〉に届いたのだとすれば、これは彼女にとって大当たりなのだろう。なにせ、
「ゼフィルス」
「ああ。それはぬいぐるみ素材として優秀だぞ。多分だがあの〈モチッコ〉ぬいぐるみもその毛玉から作られているはずだからな」
「本当?」
「後でマリー先輩の所に行って可愛いぬいぐるみにしてもらおうな」
「やった。楽しみ」
カルアがそれを聞いて微笑んでリカを見る。
リカは相変わらず照れていた。珍しい顔だな。
しかしこりゃ、ギルド部屋にぬいぐるみが増えそうだ。
そろそろ何か飾るための台でも購入した方が良いだろうか?