#1680 〈竜の試練〉VS〈エデン〉。準備いっぱいOK!
―――〈竜の試練〉。
そこはだだっ広いフィールドだった。
「なにここ? 空が見えるじゃないの!?」
ラナが空を見て驚いた声を上げる。
そう、さっきまで火山の洞窟を歩いていたはずなのに、なんとここは青い空が広がっていたのだ。しかもである。
「あの遠くに飛んでいるのは、みんな〈竜〉ですか?」
「なんと、ここは竜の巣なのか?」
エステルやリカがそれを見ておののく。
遠くの空には、旋回する巨大生物の〈竜〉がいくつも、何十も存在していたのだ。
フィールドの中央にあるのは巨大な樹。――名を〈竜樹〉。
そこを中心にして多くのモンスターが住んでいたり、跋扈したりしている。
樹には大量の洞があり、竜たちがそこで暮らしている光景が遠目にも分かったのだ。
「これが、〈竜の試練〉……」
「リーナ、〈竜の箱庭〉を出してくれ」
「! わかりましたわ! 〈竜の箱庭〉起動――『フルマッピング』ですわ!」
シエラを始め、みんなその光景に圧倒され、次にどう行動すべきか考えあぐねている様子だったので、俺が道を示す。
俺の言葉にリーナが〈竜の箱庭〉を出し、『フルマッピング』他いつものスキルを使っていった。
「なるほどね。ここまで大きな空間、大量のモンスター。いつものレアイベントボスのボス部屋じゃない、ということなのね」
そう。ここはレアイベントであってレアイベントボスのボス部屋ではない。
俺の言葉からシエラは改めてこの場所を部屋では無いと判断したようだ。正解だ。
「ここは別の空間と思われますわ。まさか、第二のダンジョン?」
「ダンジョンの中に、別のダンジョンが存在する、ということ?」
そこに映し出されたのは、別のダンジョンを映す〈竜の箱庭〉だった。階層を選択できず、先程の65層に繋がる項目なども無いようで、リーナが狼狽えている。
「ひぇ~、何ここ、安全ルートもなにもないよ!? もうそっこら中にボス級の竜が跋扈してるんだよ!」
「な、なんだってカイリ君!? お、落ち着きたまえ、あれは全てボスなのかい!? 〈金箱〉は落とすのかい!?」
「ニーコ君も落ち着きないよ!?」
「と、とんでもないところに来てしまったですの……」
「竜の巣? 本当に? あそこにいる何十もの、もしかしたら100に届きそうな〈竜〉が、全部ボス?」
「あ、あはは、あはは、とんでもないところにきちゃった……」
「お、おいクイナダ、しっかりしやがれ! 傷は浅いぞ!」
動揺と驚愕がギルドメンバー全員に伝播していき、とても良い反応を見せてくれる。
もちろん俺はちょっと後ろからみんなの反応を傍観するのである。
やっぱり驚くよな!
みんな、良い反応だ!
「ゼフィルス先輩、これからどうするんですか?」
そんな中、非常に純粋に声を掛けてくる子がいた。
もちろんマシロだ。その後ろには、興奮しているのか、やや頬が紅潮しているエフィもいる。
「もちろん突き進むぞ! 〈竜の試練〉、ここはまさしくレアイベントに違いない。かの上級下位ダンジョンの〈火口ダン〉レアイベントでも5体のエリアボスと対峙したからな。そのチェーンダンジョンである〈竜ダン〉のレアイベントボスも複数だというのは当たりが付いていた」
「なるほど。さすがはゼフィルス、〈エデン〉のギルドマスターは慧眼!」
俺がそれっぽく情報を提供すれば興奮したようにエフィがよいしょしてくる。戦いたいというのがその顔に表れまくっていた。
「ちょっと待ちなさいゼフィルス。アレに挑むというの?」
「もちろんだシエラ! これは試練。そして、このフィールドで一番目立つあの巨樹が目指すべき場所に違いない! 襲い来る竜たちを全てなぎ倒し、試練を突破しようぜ!」
「いえ、〈火口ダン〉のレアイベントボスの時は撤退したじゃない。勝てるの?」
むむ! さすがはシエラ、凄まじく鋭いご指摘。
あの時のレアイベントボス、門番の〈怪異兵隊リザードマン〉は5体いた。
5体全てが揃ったとき、その攻略推奨レベルは60にまで引き上げられる。
故に、俺たちは戦闘をスルーしてお宝だけ奪ったのだ。懐かしい。
この〈竜ダン〉のレアイベントボスも、おそらく同じ感じではないか、とシエラは思っているのだろう。間違っていない。
だが、それは5人でやるときの難易度だな。
現在ここには約50人のメンバーがいる。
ならば、たかだか100くらいの〈竜〉、やり方次第でいくらでも相手できるのだ!
「もちろん勝てるさ! さあ、とっておきの戦法を披露しようか! このレアイベントボス、全部撃破して突破してやんよ!」
「む! 私はゼフィルスに付いて行くわ! あれくらいの数、確かに私の宝剣ならけちょんけちょんよ!」
「ん。みんな強い。大丈夫」
「そうだな。それに、ここまで来るのにこれくらいの集団戦はたくさんあった。それが〈竜〉になっただけだ」
「ルルもやったるのです! ヒーローは負けないんだもんって、ルルのスキルにも書いてあるのです!」
俺が意思決定すればラナ、カルア、リカ、ルルと、どんどんメンバーも乗ってくる。
そう、こんなこと、〈エデン〉ではなんの問題もない。
じゃなくちゃ俺もみんなをここに連れては来ないしな!
俺が大丈夫と判断したんだ。間違いなく大丈夫だ!
「先輩方、マジメンタル強いんだけど」
「これが、私が身に着けなくちゃいけない度胸なんですね」
「アリスも戦うの! 上から雷いっぱい落っことすの!」
1年生のゼルレカとキキョウが2年生たちのセリフにおののいているが、尊敬の眼差しだ。
アリスなんか結構本格的にとんでもないことを宣言している。
効果は抜群だな!
「よし、行くぞ! 戦法名は〈スターライト総力戦〉! エステル、〈スターライト〉を出してくれ!」
「はい! 〈スターライト〉――召喚!」
ズドン。
相変わらずどう考えても〈空間収納鞄〉には収まらないだろうというサイズの〈乗り物〉がドカンと登場する様はロマンだぜ。かっこいい。
乗車人数は驚異の55人なのでモナたちだって楽々乗せられる。
全員で〈スターライト〉に乗り込むと、エステルが叫んだ。
「〈スターライト〉、発進します!」
瞬間、エンジン音も無しにふわりと〈スターライト〉が宙に浮かぶ。
「目標は竜の巣の中心地、あの巨大な巨樹だ! あそこには何かあると俺の『直感』が叫んでいる! あれを便宜上〈竜樹〉と呼称するぞ! 全ての〈竜〉を撃破し、あの〈竜樹〉にたどり着く!」
「「「「おお!」」」」
目標は竜たちの居る中心地、〈竜樹〉。
あまりに巨大すぎてもはやあそこ以外どこを目指すのと言わんばかりに目立っている、このフィールドの目的地だ!
入り口の石像が言っていた100体の〈竜〉を突破し、〈竜樹〉にたどり着いてやるぜ!
「エステル、ユニークスキル、発動だ!」
「はい! 『戦車姫最終奥義・戦車覚醒』!」
出し惜しみは無し。
エステル最強にして最高のユニークスキルを発動!
フィールドを出るまで〈戦車〉に乗っているメンバーたちのスキル・魔法・ユニークスキルの発動を許可する。
〈エリクサー〉も大量に用意しておいたぜ!
「ここをエステルさんのユニークスキルで突破しちゃおうってことなんだね! 凄い! それじゃあ歌っちゃうよ~! 『プリンセスアイドルライブ』!」
「戦車の、というか空飛ぶ〈スターライト〉の上でスキル使い放題って、すごく贅沢なんだよ~。私もバフ行くね! 『時兎タイムブースト』!」
「私も、ステータスの底上げならお任せください――『星の歌』!」
バフもてんこ盛りだ。
ノエルが全員の能力値を上げ、ルキアが移動速度を引き上げる。最後にオリヒメさんが全員のステータスを上げれば、何この鬼畜集団と言われても反論できないようなとんでも部隊が出来上がった。
なお、準備はまだまだ続く。こんなもんじゃない!!
「『四聖操盾』!」
「『大聖女の祈りは癒しの力』!」
「『充填』!」
「『エージェント猫召喚』!」
「精霊よ、力を貸してください――『六精霊全召喚』! 『古式精霊術』! 『大精霊様二大降臨』! 『イグニス』! 『グラキエース』!」
「『バースト・フォース・ガン・メイデン』!」
「『忍法・一体分身の術』デース!」
「『滅妨害陣』ですわ!」
「ゼニス、『大型化』です!」
「クワァ!」
「ポン! 幻影は心を掴むパフォーマンス――『イッツショータイム』!」
「「「『神装武装』!」」」
「〈スターライト〉の周りを囲みますわ――『拠点を覆う大結界』!」
「〈モンスターカモン〉! 来てリーちゃん! ぺーちゃん! ヴァイア! 『我に勝利を取ってこい』!」
「天使のみなさん集まってください、飛びますよ」
「フィナちゃん、私は置いていって! なにお姉ちゃんに後ろから抱きついちゃったりしているのかな!? ここに居るのボスだから! 〈即死〉効かないから!」
「そうでした」
「フィナ先輩! 集まりました!」
「準備完了だよ~」
「いつでも、戦える、いける」
「では行きましょう」
「「「「――『天空飛翔』!」」」」
「私たちも準備しますわよクラリス! 『ウェポン革命オールマスター』!」
「はい――『千聖操剣』!」
「アリス、ルルと一緒にエネルギーを溜めるのです!」
「おー!」
「「『エネルギーチャージ』!」」
「『氷結強化』!」
「『お稲荷召喚・カンザシとモミジ』!」
「いくよ~〈モンスターカモン〉! ヒナ! ワダラン! フォング!」
「『必殺の溜め』!」
「『悪魔召喚』!」
全員が全員、いつでも戦えるように準備する。
というか、壮観だなこの光景!
周りにはアイギス、フラーミナ、アルテ、シヅキの空飛ぶモンスターたちが〈スターライト〉を護衛するように囲み、〈スターライト〉の甲板ではカルアの黒猫ちゃんとカグヤのモミジとカンザシが気合いを入れている。可愛い。
さらにバフが全員に行き渡り、エフェクトがキラキラ〈スターライト〉全体を輝かせているようだ。
うん。なんだかこれから挑まれる〈竜〉が可哀想になってくるくらい準備万端になっちゃったな。
「それじゃあ、行こうか!」
「『ドライブ全開』!」




