#1676 〈竜ダン〉深層に突入!初めての〈竜〉種戦!
「ゼフィルス」
「おう。どうだったシエラ?」
「…………強いわ」
「そうだろう、そうだろう、そうだろうとも」
タゲ常時固定。
それでボス〈ミズチ〉をほぼ完封し、戻って来たシエラのセリフがこれだった。
短くも、様々な感想が詰まった一言だったぜ。
「なによあれ、シエラすごいじゃないの!」
「はい。とても複雑な気持ちですが、清々しいほどに強かったですわ!」
「ありがとうラナ殿下、リーナも」
ラナやリーナもシエラに駆け寄って熱く今の感想を吐露する。
リーナがやや複雑そうなのは、リーナが装備していた〈クーラーユニークアームレット〉が、今はシエラの腕に装備されているからだ。
――〈クーラーユニークアームレット〉。
アクセ装備で、その効果はユニークスキル限定でクールタイムを半分にする『ユニーククールタイム軽減LV10』。
さすがの【盾姫】も〈竜の叡智〉単体では『完全魅了盾』を常時かけ続けることができないため、〈クーラーユニークアームレット〉と組み合わせて使うのだ。
〈竜の叡智〉で『完全魅了盾』の効果時間を延ばし、〈クーラーユニークアームレット〉でそのクールタイムを軽減すると、見ての通り常時『完全魅了盾』をかけっぱなしにできるのである!
これぞ【盾姫】系統の職業の正しい使い方だ!
まさにこんな使い方は初めてだったことだろう。
シエラ自身も驚きの様子だ。
普通はヘイトを稼ぎタゲを向けさせなければいけないのに、タゲ常時固定だからなぁ。ヘイトの概念ぶっ壊れだ。
だが、これも『完全魅了盾』を当て続けなくちゃいけないというテクニックがいる。1度でも回避されるとリカバリーが利かないため要注意。シエラは「必ずものにしてみせるわ」ととてもかっこいいことを言ってその後のボスも2班が積極的に立候補し、シエラが中心に立ち回ることでじゃんじゃん攻略していったのだった。
◇
「あっという間に60層ね」
「もうすぐ61層だけどな」
もはや俺たちにとって〈亜竜〉すら温い。
なにせ、六段階目ツリーは最上級ダンジョンを攻略することが前提のスキルや魔法だ。
それを俺たちは贅沢に撃ちまくれるのである。
装備も充実しているし、スキルや魔法だって現在の時点で覚えておいた方がいいものは全部覚えさせている。
加えてハンナが作製してくれた大量の〈エリクサー〉の在庫がありまくるおかげで、俺たちは節約することなくじゃんじゃん戦えるのである。
さらにはボス戦だってシエラが本当の意味で覚醒し、【操聖の盾姫】の力が発揮された今、もう止められない。止められるモンスターは居なかった。
ダンジョン週間9日目、最終日。
おかげで60層までスムーズに攻略してきて、さっきまでお宝フィーバーエリアを満喫してきたところだ。
次はいよいよ61層。深層エリアに突入する。
「でも、ここまで〈竜〉種は1体も見なかったわ。もし本当に〈竜〉が出るのなら、ここからよね」
「だな。〈火山ダン〉の時も〈亜竜〉が出てきたのは深層からだった。なら〈竜ダン〉でも同じという可能性は高い。なにせ、チェーンダンジョンだ」
ここまで〈竜〉種は出ず、全てのモンスターが〈亜竜〉だった。
でもそれもここまで。チェーンダンジョンの法則から言っても、深層で〈竜〉が出ることは予想できる。実際出る。
まさに〈竜ダン〉はここからが本番だと言っていいだろう。
―――〈火山の竜宴ダンジョン〉。
その名の通り、ここから先は竜の宴が行なわれるのだ!
「それじゃあみんな覚悟しろよ! 61層へ突入だ!」
「「「「おおー!」」」」
こうして俺たちは、いよいよ〈竜〉たちの居る深層へと潜った。
「『四聖操盾』! ここは、本当に洞窟なのかしら?」
「溶岩がすっごく流れているのです!」
「初めて見ましたが、本格的な火山の地下という様相ですね」
そこはまさに溶岩が流れる地下空洞みたいなエリアだった。
これまでも溶岩エリアはあったが、ただ洞窟内を流れていただけだったし、一部川のようにもなっていたが、ここはまるで違う。エステルの言うように本格的だった。
まさにフィールドが溶岩。溶岩で出来た洞窟内に迷い込んだような光景。
超巨大な空間では左右には溶岩の川が流れ、上からも溶岩の滝が降り注ぎ、地面だけでは無く壁まで溶岩というとんでもないフィールド。
一部では溶岩の柱のようなものもあり、上から下に流れているどころか、逆に下から上に登っている溶岩まであるほどだ。
しかし道もあり、壁や天井にも巨大な洞穴がいくつもあって、なにかが住んでいると思わせる作りになっていた。
「ここが、火山のチェーンダンジョンの奥地にして深層、ですか」
「なんだか圧倒されるデース……」
初めての光景に冷静沈着組のシズや天真爛漫なパメラもこの通り。
圧倒されてるなぁ。
だが、そんな悠長なこともある光景を見て言っていられなくなった。
「あ! 見てください!」
「なにあれ!? いきなりボス!?」
マシロのセリフに前を見ると、巨大な横穴から大きな大きな、それは大きなモンスターがのそのそと出てきて溶岩の川を歩いていたのだ。シヅキも目を丸くして叫ぶ。だが、あれはボスでは無い。
俺はすぐにエステルから〈幼若竜〉を借りて『看破』する。
エステルも、まだ冷静ではいられないっぽいからな。
「あれは――〈陸竜〉だ。ちなみに大型モンスターだがボスでは無いぞ」
「ボスじゃないの!?」
「〈陸竜〉……。あんな巨大なモンスターが普通に闊歩しているのですか?」
「みたいだな。ちなみに、あれは正真正銘の〈竜〉種だ」
「「「〈竜〉種!!」」」
エステルの問いに補足を加えると、みんなその情報に声を上げた。
そう〈竜〉種である。
初めての〈竜〉は〈陸竜〉でした!
これ、実はアルテが持っている〈地竜〉の進化系である。
もう出会えるとは運が良い。
「さて、それじゃあまずは俺たち1班がやろうか!」
「ゼフィルス先輩!? あれやっちゃうの!?」
「初めての〈竜〉種発見からとんでもない展開ですの!」
俺の言葉にピョンと跳び上がるカグヤとサーシャ。
それもそのはずで、1班のメンバーは俺、カグヤ、サーシャ、ラクリッテ、ノエルだからだ。
ちなみにヴァンはリーナの班だ。
今のヴァンはかなり防御に特化して硬いので、〈竜〉が相手でもリーナやカイリたちをしっかり守ってくれるからな。
いつも同じ班の2人を引き離して悪いが、今回はカグヤとサーシャには俺の班に参加してもらっている。
理由はもちろん。
「サーシャ、早速だが頼む。それが終わったらラクリッテだ」
「わ、わかりました! 覚悟を決めるですの――『全ては凍り付き溶けることは無い、永久のニブルヘイム』!」
「ギュル?」
瞬間、溶岩フィールドが凍った。
これがサーシャのユニークスキル。
『全ては凍り付き溶けることは無い、永久のニブルヘイム』は全体氷属性魔法攻撃系で最強。
溶岩の川も、滝も、柱も、ついでに〈陸竜〉も、全てが凍ってしまったのである。
「ポン! ……あれ? 凍ってます?」
「ありゃりゃ? 〈氷結〉状態になってるんだけど!?」
「ですの!」
先制サーシャのユニークスキル。続いてラクリッテがヘイトを稼ごうと前に出たが、ノエルの言う通り、なんと〈陸竜〉は〈氷結〉状態になってカチンコチンに凍っていたのだった。しかもHPは6割が吹っ飛んで残り4割である。
あの防御とHP特化の〈陸竜〉を相手にこのダメージと状態異常。
これは美味しい。
「今だーー! 『フルライトニング・スプライト』!」
「ああ!?」
「無慈悲ですの!?」
慈悲など無用!
〈氷結〉状態の時に攻撃を受けると、ダメージは2倍になる。
俺の五段階目ツリー、『フルライトニング・スプライト』で開幕のでっかい花火を打ち上げ――もといドパーンと直撃させて大きくHPを削ると、その後に『サンダーボルト』で追撃! これがトドメとなって〈陸竜〉のHPはゼロになり、そのまま何もせずに消えてしまったのだった。
ふう。まずは〈竜〉種初戦、お疲れ様でした!(全然疲れてない)




