#181 〈デブブスペシャル〉後半戦。放て、火球祭り
「ゲッゲッゲ!!」
「『切り返し』! 『切り払い』! 『弾き返し』!」
「ゲゲ!?」
マッスル連続パンチを繰り出す〈デブスペ〉だったが、全部リカの防御スキルに阻まれている。何あれ、完璧なスキル回しなんですけど。しかも最後の『弾き返し』で大きくノックバックまで取ったぞ。あ、攻撃しないとな。
「『ライトニングバースト』!」
「ゲゲッ!?」
「く、惜しかったな」
後一歩のところでノックバックが終わってしまいノックバックダウンならず、残念。
しかし、上級魔法の直撃で大きくダメージを稼いだな。
「ケケェ!! ボボボボボボーーーーー!!!」
ついに3ステップ目。〈チビゴースト〉36体に突入。
この時点で通常の〈デブブ〉は超えたな。〈デブスペ〉も最高が36体なのでこれ以上は無いのは助かる。さすがにこれ以上は処理しきれないから。
「『アピール』!」
俺はこれまでと同じく、〈チビ〉たちのヘイトを取らんとした。
しかし、〈デブスペ〉の挙動がこれまでとは違う。〈チビゴースト〉たちが俺にタゲを向けずに、まるでお祭りの提灯のように並びだしたのだ。
「あ、まっず」
〈デブスペ〉の体が赤いエフェクトに包まれる。
それはレアボスのみ持っているユニークスキルの兆候。
まずい。そういえば俺、皆にユニークスキルの説明してなかったじゃん!
「全員防御! もしくは回避ー! ユニークスキル『デブブ流・火球祭り』(612連バースト)が来るぞ!」
「え? 何それ!?」
「あわわ!?」
後衛組みが慌しく動く、俺も後衛を守るために急いでハンナたちの下へ向かった。
『デブブ流・火球祭り』(612連バースト)は文字通りファイヤーボール612連発だ。
あの提灯〈チビゴースト〉から部屋中にばら撒かれるファイヤーボールは圧巻で、〈ダン活〉プレイヤーたちは「祭りが始まったぞー」と言ってよく騒いでいた。
何故か〈デブブスペシャル〉がファイヤーボール連射中は鉢巻き付けてマッスル踊りを披露しているからな。爆笑しすぎてキャラを落としてしまうプレイヤーが続出したんだ。「祭りが始まったぞー」とは「警戒しろー」の意味である。
※〈ダン活〉は1人用ゲームでした。(通信対戦可)
しかし、リアルだとそんな面白いもんじゃない。とにかくハンナだけは守らないと! マジ戦闘不能になる!
「私に任せなさいよ! 『聖守の障壁』!」
「え?」
と思ったらラナが機転を利かせて一瞬で解決させた。
『聖守の障壁』は防御結界魔法。大きく魔法ダメージを減退させ、下級魔法ならダメージそのものをカットするほどの優秀な〈魔法〉だ。ファイヤーボールくらい、余裕で防いでくれる。
……そういえばラナは【聖女LV40】超えだったな。
ゲームではLV35を超えたら〈幽霊の洞窟ダンジョン〉なんて来ないので、三段階目ツリーで解放される『聖守の障壁』で防ぐなんて考えもしなかった…。
ハンナも結界に入っているので後衛組はこれで生き残れるだろう。
「どうかしらゼフィルス!? これで防げそう?」
「あ、ああ。そうだなさすがラナだ」
俺は動揺する心をなんとか抑えつけ、クルッとターンして戻っていった。
見れば〈デブブスペシャル〉がキュッと鉢巻きを巻くところだ。
すぐにファイヤーボールが放たれるだろう。
カルアとリカは、2人とも〈チビゴースト〉の真下にいた。頭いいなぁ。アレならユニークスキルの範囲外だ。
あれ? ということは射程に入ってんのって俺だけじゃない?
「ゲッゲッゲ! ゲーーーー!」
マッスルな〈デブスペ〉が「放てー」とでも言うように声を出すと、部屋中にファイヤーボールの嵐が巻き起こった。ほとんど俺狙いである。
「おわー!?」
ドドドドドドドドドッ! と放たれる一斉射撃。
一体につき17発も撃つもんだから防御スキル『ディフェンス』でもすぐ効果切れになってしまう。アレ数秒しか効果無いし。
俺に残された手は、回避に専念しつつ『オーラヒール』で自己回復するくらいだ。
「あたた!? 『オーラヒール』! あちゃちゃ!?」
回避不能ー。むっちゃ被弾しまーす!
やっべ、このままじゃダウン取られるかもしれん。
「『ディフェンス』! 『ガードラッシュ』!」
俺は回避を諦め防御スキルを発動しなんとかダウンだけは取られるのを防ぐ。
スキルがクールタイムに入れば防御姿勢でやり過ごした。天空の盾よ、どうか俺を守りたまえ! あちゃちゃ!?
そうしているうちに、長かった祭りが終わる。
「ケッケッケー!」
「耐えきったぜ! 反撃の時間だー! 『シャインライトニング』!」
「クケケケ!?」
結局HPを5割以上がっつり削られたが耐えきった! ここからが反撃の時間だ!
「もう何やっているのよゼフィルス。『回復の願い』!」
「サンキュー!」
「ケッケッケ!」
「そうやって筋肉見せびらかしていられるのも今のうちだけだぜ! 『属性剣』(雷)!」
ラナの『回復の願い』で8割方回復した俺は初登場の『属性剣』を使い攻撃を雷属性に変更する。
そしてマッスルポーズを決め中の〈デブブスペシャル〉に襲いかかった。
「隙有りー! 『ソニックソード』!」
「グケ!?」
ただの物理攻撃に過ぎなかった『ソニックソード』も『属性剣』を使った今の俺なら雷属性で攻撃が可能だ。急なダメージに〈デブスペ〉が悲鳴を上げた。
「私が相手になろう」
「ケッケ!」
「『受け払い』!」
リカの挑発的な言葉に、はち切れんばかり力こぶがもり上がったかと思うと〈デブスペ〉はラリアットを繰り出してきた。しかしそこはすぐにリカが立ち塞がって防ぐ。
リカの防御スキルの使い方は素晴らしいな。
二段階目ツリーでさらに3つの防御スキルを使用可能したリカは、もうクールタイムも関係無しにがんがんパリィを決めていく。まだ〈スキル〉LVが低いから相殺くらいしかできないが、今後LVを上げていけばノックバックやダウンも取れるようになるだろう。そうしたらリカに敵は居なくなるんじゃないか?
「ゼフィルス。次で決める。秘技『二刀払い』!」
「ゲゲッ!?」
「よっしゃ! 『ライトニングスラッシュ』!」
「グゲェッ!?」
リカの両手二本の刀を使った防御スキルが決まり、〈デブスペ〉が大きくノックバックした。今度は逃さない。
高威力の『ライトニングスラッシュ』を叩き込むと、とうとう〈デブスペ〉がノックバックダウンした。
「今だ! 総攻撃!」
「任せて!」
「行くよ!」
やっと出番だと、今まで〈チビ〉たちを掃討していたラナとハンナが待っていましたと言わんばかりに高威力の魔法を叩き込んでいく。
俺も『勇気』『勇者の剣』『ハヤブサストライク』『ライトニングバースト』と繋げ、大ダメージを与えた。そして、
「ゲ……ケケ……」
強力な攻撃を散々その身に受けた〈デブスペ〉のHPは0になり、膨大なエフェクトの中シュルシュルと筋肉を萎ませて消えていったのだった。
〈デブブスペシャル〉戦、勝利。