#1673 レッツ、ランク9!〈火山の竜宴ダンジョン〉!
「さあついにやって来ました! 上級上位ダンジョンのランク9! 〈火山の竜宴ダンジョン〉だーーーーー!」
「いえ待ってゼフィルス。落ち着きなさい、落ち着いて」
「これが落ち着いていられるかーーー!」
「いや落ち着きなさいよ」
「ほふん!?」
テンション高らかにヒャッホーしていたら脇腹へシエラの指でツンされた。
思わず肺の空気が抜けたぞ。
俺は一瞬で落ち着かされてしまった。
「うわすご! 一撃じゃん。しかも指で。――フィナちゃん見た? 参考にするべきだよ!」
「いえ、私はグー派なので」
「そんなこだわりいらないよ!?」
いつも脇腹にグーを入れられているエリサがフィナに訴え出ているな。
効果があるかは不明な様子だ。
「ようやく落ち着いたわね。なんで今回はそんなにテンション高いのかしら?」
「よくぞ聞いてくれたぜ!」
〈教会ダン〉を攻略し、そのまま〈笛〉を吹きまくりレアボスを周回しまくった俺たち。エステルのユニークスキルが光りまくってしまったぜ。
あと報告書に書く用に、空が飛べなかった時の攻略法もしっかり試したぞ。レアボスがユニークスキルを発動したら、レアボスに乗っかるのが最善だ。レアボスって波乗りするので、その上に居るのが安全圏だったりするんだよ。
これも大成功で終わって満足したので、いよいよ次へと進む。
そして俺たちがやってきたのが、上級上位ダンジョンのランク9、〈火山の竜宴ダンジョン〉だった。
ここを攻略すれば最上級ダンジョンの入ダン条件が達成できるので、実質上級上位で最後のダンジョンと言っていいだろう。
もちろんそれだけではない。
「ここは〈火山の竜宴ダンジョン〉だ! 名前に竜の文字が輝いている! 加えてここはチェーンダンジョンの可能性が高い! つまり、上級下位の〈火口ダン〉、上級中位の〈火山ダン〉と繋がっている、上級上位バージョンであることは想像に難くない!」
今までもランクで特定の特性が被っているということはあった。
ランク4なんて分かりやすいだろう、あそこは共通して物量型ダンジョンだ。
ランク3以下は練習用というか、チュートリアルみたいなダンジョンなので、ランク4でここからが本番だ。通りたければ俺を倒してからにしてもらおう! というメッセージを感じるな。
それと同じでランク9ダンジョンはチェーンダンジョン。
火山に連なるダンジョンだ。つまり。
「つまりあなたは、上級中位で〈亜竜〉が出たのだからその上位である上級上位では――本物の〈竜〉が出るといいたいのね?」
「その通りだ! さすがはシエラ! 話が早い!」
「いえ、誰でも気が付くと思うけれど。むしろそうじゃないかって噂されてたわよ? さすがに確かめる人は居なかったけれど」
おっとシエラから報告。
まあそうだろう。なにせ名前に竜が入っているのだから。「もしかして、〈竜〉、出るんじゃない?」と思うだろうさ。上級上位ダンジョンが解放され、ダンジョンの名前が明らかになった時からその可能性はみんな感じていたらしい。
ただ、〈竜〉は強い。
そのせいかおかげか、誰も確かめに潜る人は居なかったようだ。
未だにランク1やランク2のダンジョンを攻略中の後続を見れば然もあらん、だ。
さすがに一足飛びでランク9に突入する人は居なかったらしい。
周りを見ればメンバー全員が少し緊張した空気を……いや、あまりしてないな。
むしろ興味深そうに周りを見渡している。
「ここどこなのかしら? 洞窟っぽいわね」
「ぽい、というより洞窟そのものですね。今までの〈火口ダン〉と〈火山ダン〉は外でしたが、〈火山ダン〉では頂上に着きましたし、その続きがあるのかと訝しんでおりましたが、なるほど、火山内部を攻略するのですね」
「むしろ地下へ向かっているのかもしれません」
「ひっろい洞窟デース。確かに〈竜〉もすっぽり入りそうデース」
ラナがキョロキョロ見渡しながら言い、エステルが納得したように頷いている。
シズは洞窟の先を見ながら呟き、パメラは広大すぎる洞窟を見てぽけーっと口を開けていた。
改めて周囲を見渡してみると、まさに洞窟内。
真上は、とーーーっても遠くにぽっかりと穴が開いており、火山の頂上を見ることができる。
そう、ここは〈火山ダン〉の最後の火口を降りたところがステージなのだ。
まさかの火口を降りて再スタート、ここからが真の上位ダンジョンだ、とは思うまい。
そして洞窟は、シズの言う通り微妙に下っている。
上ることが多かった〈ダン活〉では珍しい、下るダンジョンなのだ。
「リーナ、カイリ、どうだ?」
「あ、見てくださいましゼフィルスさん!」
「凄いよここ……」
すでにリーナは〈竜の箱庭〉を起動し、カイリも加わって全マッピングとフィールドの全体像を浮き彫りにしていた。
もちろんそこに居るモンスターも全て丸裸で、〈竜の箱庭〉の周りにはメンバー全員が囲って確認していた。
「これは、〈3つ首ヒュドラ〉だよ!」
「こっちは〈ドレイク〉と〈ワイアーム〉が居ます!」
「これは〈ワイバーン〉ですよ。つまり〈火山ダン〉の深層モンスターだった種が、ここでは1層から普通に登場する、ということでしょうか?」
「みたいだな。まさしく〈火山ダン〉の続き、ということだ」
フラーミナが指差し、ロゼッタも近くのモンスターに反応。
カタリナが俺に向いて真剣な表情で考察を告げてくる。カタリナ、すごくキリッとした顔だ。俺はそれにキリッとした顔で鷹揚に頷いて返す。
「きゃ、ゼフィルスさんのキメ顔、間近で見ちゃった!」
「あ、カタリナいつの間にそんな近くに!」
「真剣な雰囲気を出しておいて心の中はピンク色ですよ!」
するとなぜかカタリナがスッとフラーミナたちの下に向かって小声でなにかをキャピっていた。きっと俺と同じでテンションが高まってしまったのだろう。
そう、ご想像の通り、ここは〈亜竜〉と〈竜〉しか出ないダンジョンなのだ!
故に〈竜宴〉なる名前が付いている。
「1層から〈亜竜〉が登場するダンジョン。ここは〈竜ダン〉と呼称しようと思う。そして、まずは戦闘だな。〈火山ダン〉に居た〈亜竜〉と同じ種のようだが、違いがあるのかを確認しよう」
「賛成ですわ!」
そう方針を決める。
〈竜の箱庭〉には溶岩が流れるエリア、大きな空洞のエリア、洞窟の太い道がグネグネしながら長く続いているエリアなど、様々なエリアが存在する。
そして、そこに生息するモンスターもまた違いがある。
そのためメンバーを各エリアに派遣して、とりあえず全モンスターと戦ってもらった。
「『リーナさん、8班は〈ワイアーム〉と戦ったけど、前とそんな手応えは変わらないかなって感じだよ! むしろ弱くなってる?』」
「『3班から報告です。〈ドレイク〉種2体と戦闘しました。〈火山ダン〉の時は単体行動だったはずですが、時々群で動いているモンスターが居るようです』」
「『たはは~。5班はメルト様が〈ワイバーン〉と〈ワイアーム〉を全部叩き落としちゃってなんにも手応え無かったからもうちょっと待っててね~』」
8班のサチ、3班のエステル、5班のミサトからの連絡など、各地に散ったメンバーの連絡をリーナが『ギルドチェーンブックマーク』のメモに纏め、俺たちとも共有してくれる。
「六段階目ツリーを開放してパワーアップした俺たちなら楽勝レベルのようだな」
「まだ断言は出来ませんが、少なくとも1層のモンスターは余裕みたいですわね」
「慣れもあると思うな。みんな〈火山ダン〉ではエンカウントしまくってたから」
司令部に残る俺たちが分析班だが、予想の範囲内だった。
〈火山ダン〉で戦った個体よりレベルは多少上がっているが、行動パターンが同じな上にこっちは六段階目ツリーを開放しているものだから余裕余裕。
少し調査すると、1層に敵無しと判断した司令部から号令が掛かった。
みんな集合する時はリーナのユニークスキル『本拠地を守りなさい。全員集合ですわ』を使えばいいので超ラクだ。
「みなさんのおかげで情報が集まりましたわ。少なくともこの階層にわたくしたちの敵は居ないようです。〈イブキ〉で階層を突破し、2層を目指しますわ!」
ということで、1層にめぼしい情報が無いことが分かったので次の階層にいくことに決定する。と、そこでシヅキから手が挙がった。
「エリアボスはいいの?」
「そうですわね、ついでに狩っていきましょうか」
悲報。
エリアボス、ついでに狩られることが決まる……。
「OK。『エリアボス探知』! 『希少ボス呼び』! え~っと、あっちの方だから、あ、発見だよ! ってあれ? なんだかこっちに近づいてきてる!?」
「ギュウウウオオオオオオオオ!!」
「もう見えているわよ!? 私がやるわ!」
「ちょーっと待てラナ! ここは俺が先に力を測ってやろう!」
「私もやってみたいわ。力を測るというのなら、私の盾が最適よ」
「じゃあ、シエラの2班で!」
「ええー!? もう! ゼフィルスはシエラに甘すぎるわ!」
「いや、うちのタンクなんだし、これが最適の人選なんだって。他意は無い!」
『希少ボス呼び』は、たまに希少ボスを自分たちの下に呼び寄せることもあるんだ。ということで寄ってきた希少ボスはシエラがリーダーの2班が請け負うことになった。
1層のエリアボスだし、5人パーティで十分だと判断したので他は見学。
「『看破』です。あれは希少ボス――〈クライランドドレイク〉というようです」
〈竜〉ダン記念すべき最初のボスは〈クライランドドレイク〉という〈ドレイク〉種。
地面を破壊し、砕き、環境すら変えてしまう〈亜竜〉ボスだ。だが、シエラたちにはあまり効いてなかった。それは――。
「『盾乗り空中移動』!」
シエラが小盾の1つに乗り始めたからだ。『盾乗り空中移動』は文字通り、小盾の1つに乗り空中移動ができるスキル。
これを使うと小盾が1つ使えなくなる弊害はあるものの、ついにシエラが空を飛べるようになったのだ! 凄い。
とはいえ、さすがにトモヨのように避けタンクが出来る程速くはなく、浮遊する感じだな。
今までは『攻陣形四聖盾』を使うと、ジャンプする足場に使えることが分かっていたが、基本シエラの自在盾は人が乗ると落下する仕様だった。
それが今回、完全に乗って空を飛ぶことができるようになっていたんだ。
これがこのボスにはまさに特効。
相手の地面からの攻撃、全く届いてないんよ。効果が無いようだ状態だ。
「う~ん。〈教会ダン〉の時も思ったのですが、ボス戦はそろそろ5人に戻してもいいかもしれませんわ」
「ああ、それは俺も思っていた。10人でやるとあまり出番がないんだよな」
ボス戦する5人を見てちょうど良いと判断するリーナと俺。
どうも〈天下一パイレーツ〉戦の時に装備を大きく更新し、六段階目ツリーを開放したことで、俺たちは強くなりすぎてしまったようだ。
〈教会ダン〉のエリアボス戦や守護型ボス戦の時も、10人だと人数が多すぎたもん。
ゲームの時はちょうど良い感じだったが、リアルだと各メンバーが自分で動けるし、それぞれの技能も高まっている。故の余裕だと思う。
これは一度5人パーティにして様子を見ようということでリーナと俺の意見は一致したのだった。
そして希少ボスを倒し、帰ってきたシエラからの報告。
「なんだか〈教会ダン〉よりも手応えを感じなかったわね」
「ハンディに慣れすぎたか!」
哀れ希少ボス。
〈教会ダン〉のエリアボスはいつも2ハンディでやっていたため、ハンディ無しの今回の戦いではシエラの評価がいまいちだった模様。
うむ。ハンディをやり過ぎた弊害だな!
嬉しいことに、ギルドメンバーは俺の想定以上に強くなっているみたいだ。




