#1672 学園長にまた特大の報告。お茶くみ冥土頑張る
ここ最近の学園長は、忙しさに追われていた。
というか忙しくない訳がなかった。
「ひぃ、ひぃ」
「ふぅ~」
「いや、ラマーズしている場合じゃないんじゃって。コレット君、お茶を入れてくれ」
「はい。私が冷ましておきましたよ」
「さっきのふぅ~はお茶を冷ましてたの!?」
思わずバッと顔を上げる学園長。
その周りには書類の山。学園長は埋もれに埋もれ、コレットが見えなかったのだ。
その書類をひぃひぃ言いながら片付けているところである。
「どうぞ。愛情が籠もってますよ」
「ああ、うむ。愛情よりも仕事を手伝って欲しいのじゃ」
「私は秘書ですよ?」
「いや、秘書は書類に目を通すものじゃよ!?」
「いいえ、間違えました。今の私はお茶くみメイドでした」
あらうっかり、とでも言うようにコレットは訂正。コレットの職業は【ヴィクトリアンメイド長】なので間違ってはいない。
学園長もそれ以上は何も言わず、最近の癒しであるお茶をズズズと飲み、束の間の安らぎを得る。
ゼフィルスが、というか〈エデン〉全員が伝説上でしか登場したことのない六段階目ツリーなるスキルを大観衆の前でお披露目し、さらにそれがLV60になると全開放されるなどと発表してから、学園長はてんやわんやだ。
各方面から情報を求められ、いくら答えても減りはしない。
今まで五段階目ツリーであれば、条件を整えれば僅かに発現例があったが、今回の六段階目ツリーに至っては発現例など当然皆無。
〈エデン〉がギルドバトルをやるらしいと学園都市に駆けつけた人以外にとっては、まさに見たこともない未知の能力なのだ。
その力を測ろうとするのは為政者として当然のこと。
一応ここ数日で少しは落ち着いてきたが、六段階目ツリーはあまりに強すぎた。
何せ新進気鋭のAランクギルドが圧倒されて一方的にやられてしまったのだ。
そんな報告をされれば1発で「あ、わかりました」となるわけもなく。「え? ごめんわからない。もうちょっと詳しく聞かせてくれる?」となるのが当然である。
学園長の仕事は、増えに増えていた。
最近では日に1回は必ずコレットの熱いお茶が火を噴いているほどだ。
そして今日はまだ世話になっていない。
コレットはいつ出番が来るのかとそわそわしながら学園長をチラリ。
学園長はそれを察して身震いした。ね、狙われている!
「(じゃが、そう何度も意識を飛ばすと思われては困るぞ。今日こそ耐えてみせるわい)」
もはや手遅れ感があるものの、学園長はそう奮起して再度書類に取りかかる。
だが、そこに追い打ちが掛かった。それも特大の追い打ちが。
「失礼します! おじ――いえ、学園長、報告が」
「フィ、フィリス!?」
学園長室にノックの直後に返事もそこそこに扉を開けてフィリス先生が駆け込んできたのだ!
学園長、これ、見たことある。
「ま、まさか」
いやそんな、フィリス先生はすでに〈エデン〉クラスとも呼ばれ始めている〈戦闘課2年1組〉の担任だ。
その先生がこんなに慌てて駆け込んでくる案件など、1つしかない。
「ゼフィルス君たちがランク8ダンジョン、〈天魔の教会ダンジョン〉を攻略して帰って来ました!」
「カヒュンッ」
「ああ学園長!」
学園長。再び現実逃避の道に旅立つ。
しかしコレットがそうはさせない。
「ああ」とかお労しいとばかりの言葉を言いつつ、やっと私の出番が来たとばかりに流れるように殺人級――こほん、とーっても熱いお茶を入れて学園長の手に持たせる。
学園長はなぜかそうされると無意識にお茶を啜るのだ。きっとお茶に癒しを求めているのだろう。
よく訓練されている。
「熱っつあっ!?」
だが、残念ながらそれは癒しとは正反対だった模様だ。
気付け完了。
学園長の意識は無事引き戻されたのだった。
「学園長、お気を確かに!」
「つ、冷たい水ちょうだい!?」
だが、これも慣れたもの。
なんだか演技っぽくコレットが嘆けば、学園長はそんなこといいから冷たい水くれと急かす。
ズズズと氷の入った水を飲み、ようやく人心地つく学園長。
こうしてフィリス先生が来てから僅か1分で学園長は復帰した。
これが最近の日常になりつつある。
「学園長、大丈夫ですか?」
「こ、こほん。心配無用じゃ。フィリス先生、報告の続きを」
「はい! 先程も言いましたが、ゼフィルス君と〈エデン〉のみなさんが攻略者の証を持って帰還しました」
「ま、また全員かのう?」
「みたいです。どうも昨日今日で全員分の証を取ったみたいです」
「仕事が早すぎるんじゃ」
「あとゼフィルス君から伝言で、最上級ダンジョンの準備を進めておいてくださいとのことです」
「マジで3月に間に合わせる気かの」
―――最上級ダンジョン。
それは学園に80あるダンジョンの中でも最高峰、そして現在唯一封印されているダンジョン門でもある。
別にこの最上級ダンジョンの封印を解くことは悲願でも何でもないが、なんかこのままだと、あと1ヶ月か2ヶ月くらいで本当に開きそうな予感。
ゼフィルス的には3月の卒業シーズンまでに開けておきたかった。
もちろん学園長の裏に居るユーリ王太子的にはどんどんやってとゴーサイン中なので、世界も学園もゼフィルスも止まらない。止める人はいないのだ。まさに暴走特急である。
「ま、また仕事が増えるのう」
「それと」
「え? まだあるのか?」
「はい。ゼフィルス君からヴィアラン会長の方にランク4、〈巣多の樹海ダンジョン〉の報告書を届けたとのことです」
「ガフッ!?」
「あ、学園長! お気を確かに~」
「ま、待つがいいコレット君、わしは無事じゃ。じゃからその手に持ったポットはそっと戻すのじゃ」
「…………」
出番だ! とばかりにいつの間にか湯飲みに注ぐ寸前までいっていたコレットをなんとか押しとどめる学園長。
ちょ、コレット君行動早すぎ! そう驚愕しても声には出さない。
自分は大丈夫、正常だという落ち着いた声を意識してコレットを説得し、なんとか引かせることに成功する。
「ホッ」
学園長は心底ホッとしつつ、フィリス先生の話の続きを聞く。
「ヴィアラン会長の方で、報告書は各方面に通達するのでこちらは任せて欲しいとのことです」
「助かるのう」
自分が忙しいことを知っている孫のヴィアランの気遣いにちょっと涙がこぼれそうになる学園長。
でもその実体は六段階目ツリーが開放できるダンジョンの詳細な報告書が全国にばらまかれるということであり、入学シーズンも間近に迫っている今、さらなる忙しさの波が迫ってきているという意味でもあった。
学園長には是非来年も元気でいてもらわなければならない。
コレットは気合いを入れて健康になれるお茶の提供を続けることを決意した。
「そ、それでゼフィルス君は? 報告書をヴィアランに持っていったということはここには来ないのかのう?」
「えっと、その……」
以前、フィリス先生のこの報告の後を追うようにしてゼフィルスが来襲したことがあったのだ。学園長はそれを警戒していた。
それに対し、フィリス先生はとても言いづらそうにこう言った。
「ゼフィルス君たちはその――ランク9の〈火山の竜宴ダンジョン〉を攻略しに行ってくると言い残し、先程入ダンしていきました」
「…………ほ?」
フィリス先生の報告がよく分からなくて固まる学園長。
えっと? ランク8の〈天魔の教会ダンジョン〉を攻略して戻って来たのがついさっき、それで、ランク9の〈火山の竜宴ダンジョン〉に突入した?
え? なんで?
学園長は混乱した。
「あの、それともう1つ。〈秘境ダン〉の報告書もヴィアラン会長に預けられたとのことで、〈救護委員会〉の人手が足りなくなると連絡を預かっております」
「…………ほ、ほっほっほっほ」
「ああ! 学園長、お気を確かに~」
「熱っつあっ!?」
ゼフィルスからの報告がいっぺんに来た。
この日、学園長が熱いお茶で目覚めた回数は、歴代トップに輝いたという。
あとがき失礼いたします!
昨日〈ダン活〉コミックス20話が更新されました!
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シエラの台詞「ゼフィルス 大好き」が目印です!




