#1663 レアイベント〈堕天魔族天帝・アビスエル〉!
―――〈堕天魔族天帝・アビスエル〉。通称〈アビスエル〉。
その名の通り、堕天使系のモンスターだ。
背中に3対6枚で左半分が漆黒に染まり右半分は白一色の翼を持つ、身長は10メートルを超える人型。
男性型の堕天使で、半身が悪魔、半身が天使というボスだ。頭の上にも半分が黒に染まりボロボロな天使の輪っかのようなものがある。
鎧装備に漆黒の槍を持ち、ぶっちゃけかなりかっこいい見た目をしていた。
半分が悪魔、というか魔族で、半分が天使だから〈堕天魔族天帝〉らしい。
こいつは登場した瞬間、その階層にいる天魔全てを眷属にしてプレイヤーに襲い掛かるので相当難易度の高いボスとして知られていた。
全方向に散らばっているはずのモンスターたちが一箇所に集中して集まってくるのである。ガチでイベントみたいだぜ。
囲まれたキャラは脱出の機会を見誤ると大体の場合全滅だ。マジパナイ。
空に逃げたり逃走したりしても、敵性モンスターは全員飛べるので結構追いつかれたりするのだ。逃げるときは転移で逃げるのが最善。
【姫総帥】が居たら最高だが、いなければ【ダンジョンインストラクター】のユニークスキルや〈テレポ〉、〈転移水晶〉で逃げるのが推奨されていた。
あれは緊急避難用としても優秀なので、〈教会ダン〉に来る時は絶対他のギルドにも持たせた方が良いだろう。
そして、戦う時は包囲されないように素早く態勢を整えて、眷属担当とボス担当に分かれて戦うのがセオリーだな。
ボス戦に雑魚を介入させてはいけない。
「まずフラーミナとカタリナは抜けてくる通常モンスターたちの対処を頼む!」
「了解!」
「承知いたしました!」
なにせ通常モンスターは数が多い。
いくらノーアやメルトたちが抑えても、抜けてくるときは抜けてくるので、対処を2人に任せる。
「トモヨは空を、ラクリッテは地上からヘイトを稼ぎつつ交代でタンクを頼む!」
「任せてよ!」
「頑張ります!」
「『天空飛翔』! 『エル・フォース』!」
まずはトモヨとラクリッテがメインタンク。
トモヨは即で空に上がると、六段階目ツリーの大挑発スキル『エル・フォース』を発動した。これは防御力と魔防力の自己バフも兼ねていて、しかも重複が3回まで可能という【ガブリエル】最強クラスのスキルだ。
なんと言っても、名前に『エル』が付いているのである。後は分かるな? 俺の『カリスマ』スキルと同じくらい凄いぞ。
「ポン! 心を奪え、幻で魅せよ――『マインド・ハード・プロテクション』!」
こっちはラクリッテ。
大挑発に加え、自分は防御力、魔防力の大上昇バフと、相手は防御力と魔防力のデバフを同時に与えるやべぇ〈六ツリ〉である。
「オオオーーーーー!」
対して〈アビスエル〉は槍をぶん回して、続いて突き攻撃。
狙いはラクリッテ。
「ふん、ばるー!」
ガツンと両手盾で弾く。だが止まらない。
15メートルを超える大槍がガンガンラクリッテの盾を叩く。
「槍の回転ヤバ!」
「あの突きの連打じゃスキルも差し込めません!」
「みんなは今のうちに攻撃準備! ――トモヨ、スイッチだ!」
「わかったよ! 『必殺の溜め』!」
「『破滅の予告』! ラクリッテちゃん、タンク交代するね!」
「た、助かりました!」
「オオオオオオ!」
〈アビスエル〉の槍捌きはまさに達人級。
相当なアウトレンジから槍による突きをガツンガツン連打で繰り出してくるのが特徴で、これが続くとタンクは挑発スキルを使う間もないほどなんだ。
故に、まずはバフを掛け、誰かが援護できる態勢を整えるのが肝心。
まずはラクリッテとトモヨに〈アビスエル〉の槍捌きを慣れてもらうために、交代でタンクを任せた。加えて、
「ラクリッテちゃんのところにエリア回復を貼るわ! 『ダークエリアハイヒール』!」
「私はトモヨ先輩を回復します! 『ハートフル・マイ・エンジェル』!」
ヒーラーはエリサがラクリッテ、マシロがトモヨを担当ししっかり回復。
「ノエル、じゃんじゃんバフを掛けてくれ!」
「うんうん、いくよー! 『プリンセスアイドルライブ』♪ 『コングラチュレーション』! 『エールベストパフォーマンス』! 『音速リズム』!」
「ポン! 全てが能力を下げる業の幻――――『ファントムランド・ステージ』!」
ノエルがバフ、ラクリッテがデバフを掛けると、ゼルレカが飛び出した。
「デバフであたしが負けてちゃいらんねぇだろ! 『モチベーション・ゼロ』! 『エンド・オブ・バイタリティ』!」
「ポン! 我ら、無限の幻影なり――『幻影妨害』! ポン! 今こそ現れるは最強無敵の盾狸王――『幻獣霊最強・狸王様完全盾』!」
「オオオオオ!?」
「続いてこれです! ポン! 騙されて怯め、驚いて止まれ――『たぬきだまし』!」
「オオオオオオオ!」
ラクリッテのスキル連打がパナイ。〈五ツリ〉『幻影妨害』はたくさんのラクリッテの幻影を召喚するスキル。〈六ツリ〉『幻獣霊最強・狸王様完全盾』は超巨大な盾狸様の召喚だ。
さらに〈四ツリ〉挑発スキル『たぬきだまし』は、他の狸にも目を奪われる騙す挑発スキルである。
これが組み合わさると、ボスはわらわら逃げ惑う幻影ラクリッテと超巨大盾狸様に目を奪われ、そっちばっかり攻撃してしまう。
「ふえええ、助かったよラクリッテちゃん!」
「トモヨちゃんは休憩しててください! 私が引きつけます!」
「ラ、ラクリッテちゃんが頼もしすぎ!」
「トモヨ! 変身だ!」
「マジ? ゼフィルス君は容赦なさ過ぎだよ! 『大天使フォーム』!」
ラクリッテがタゲを取ったので今のうちにトモヨを変身させておく。
なにせ相手が速すぎてトモヨが全然避け切れていないのだ。
トモヨの空中タンクは避けタンクと受けタンクが両方出来るのが利点。避けタンクができなければ厳しいため素早さ上げが目的で変身を指示する。
こっちにはゼルレカも居るのでどんどん〈アビスエル〉の素早さも下げられるが、時間が掛かるしな。それに、あれを使うにもちょうど良い。この変身はその準備段階。
「アタッカーはタンクの行動が分かったな? これより攻撃を解禁する! 充分気をつけて攻撃しろ! 『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』!」
タンクをスイッチし、交互に受けさせると色々合わせにくいことが出てくる。
しかも六段階目ツリーのタンクだ。実は六段階目ツリーになって交互にタンクをさせるのはこれが初めて。故にタンクだけではなく、アタッカーにも慣れてもらうために、まずタンクとボスの動きを見ることに集中してもらっていたが、そろそろ良いだろう。攻撃を解禁する。
「『必殺・大神抜閃・破邪銀狼華』!」
「オオオオオオ!?」
ズドンと衝撃。〈五ツリ〉スキル、次の必殺技の威力を大上昇する。溜めていれば溜めているほど威力上昇の『必殺の溜め』をし続けていたクイナダが、上級ユニークスキルの最強の一撃をぶっ放していた。
初手からやべぇ! ダメージたっかっ!!
「『ジェットバーストフェニックス』! すご、これ、すごい! 興奮する! 『アルティマス・グラディウス』! ヤバい!」
「エフィ先輩、突っ込みすぎですよ!? 『天光』!」
エフィは相当強い達人級堕天使に大興奮の様子だ。
『ジェットバーストフェニックス』でフェニックスの翼を背中に生やして突っ込み、続いて超威力の〈六ツリ〉斬撃スキル『アルティマス・グラディウス』で大ダメージを稼いでいる。マシロが呼び戻しているが、興奮しているのか返事が無いな。よし。
「エフィ! ユニークスキルの発動を許可する!」
「マジ? すぐ戻るよ! ―――――『大天使フォーム』!」
うむ。やっぱりエフィにはこの言葉が最適だな。
エフィもびゅいーんと即で戻って来て『大天使フォーム』を発動。
その間に盾狸様も消えてしまったので、ここで大天使フォーム状態のトモヨに行ってもらう。
「トモヨ! 『エルシール』で右腕に張り付け! 〈アビスエル〉は右利きだ!」
「堕天使にも利き腕あるんだ!? 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』!」
本当は『エル・フォース』を連打させてあげたいが、さすがに初見ボスでそれをやってしまうとラクリッテではタゲを取り戻せなくなって危険だ。
なのでいつも通り『エルシール』で束縛。
「オオオオオオオ!」
「『エル・バランレード・ラグナロク』!」
「オオオ!?」
「ここです。『天界の一撃・スペリオールジェネシス』!」
「オオオオオオオオオ!?」
フィナが行った! ここで強烈な二撃を叩き込んだフィナ。
凄まじい衝撃とダメージによりガクンと体勢を崩す〈アビスエル〉。
「クワァ!」
「いきますよゼニス! 『アルティメット・ドラゴンクロウ』!」
「私たちも行くですよワダラン――『ブラストエンゲージストライク』!」
「ガアアアア!!」
ここでアイギスを乗せたゼニスが両手を強化して連続で切り裂きまくり、アルテを乗せるワダランが凄まじい威力の突撃を直撃させた。
こりゃ相当なダメージが入ったな。
「ッッッ! オオオオオオオオ!」
「全員離れろ!」
ズドドドドンと非常に強力な攻撃の応酬を受けた〈アビスエル〉が怒り、15メートル級大槍をぶん回したのだ。
周囲範囲攻撃。
「クワァ!」
「ガアアアアア!?」
「アルテ!」
「大丈夫、です! 『聖獣姫騎・人聖一体』!」
アイギスはさすがの回避力で避けたが、アルテはこれの直撃を受けてしまう。
すぐに自己回復&自己バフスキル、『聖獣姫騎・人聖一体』で体勢を立て直す。
「きゃあああああ!?」
「トモヨちゃん、大丈夫!?」
「す、すごいパワーだよ!? 剥がされちゃった!」
なんとトモヨの『エルシール』すら剥がされる非常事態だ。
槍、回しすぎだろ! むちゃくちゃかっこいい。でも危なすぎて近寄れないので遠距離攻撃だ。
「遠距離攻撃でガンガン削れ! タンクは再びラクリッテだ!」
「ポン! 心を奪え、幻で魅せよ――『マインド・ハード・プロテクション』!」
あの槍の攻撃範囲はかなり広いので要注意。
「「「「ヒュラアアアアアアア」」」」
「ゆけーヒーちゃん! どんどん倒していけー!」
「『重操結界強化速展』! 『絶対免疫爆結界』!」
フラーミナとカタリナの方を見れば――さすがだ。
〈オロチ〉のヒーちゃんを召喚して、その長い身体でガンガン通常モンスターを倒しまくっているフラーミナに、結界を操りこちら側に一切来させないカタリナ。結界を爆弾にして反撃までこなしている。
足止めも十分。しっかり〈アビスエル〉を孤立化させることが出来ている。
これなら勝てるな。
このままいけば勝ちパターンだろう。
だが、このままいかないのがレアイベントボスである。
そしてこのタイミングで―――普段は大人しい俺の『直感』さんが警報を鳴らしたのである。
続いてリーナから通信。
「『ゼフィルスさん、エリアボスと、加えて徘徊型ボスと思われるボスが出現しましたわ!』」
「なんだってー!(歓喜)」
それは〈徘徊型ボス参戦現象〉と〈エリアボス参戦現象〉のお知らせだった。
うん〈アビスエル〉が引き寄せるのは通常モンスターだけではない。ボスも引きつけてしまうのだ。
さあ、ここからが第二ラウンドだ。(金箱!)