#1662 忍び寄る足音。レアイベント全面戦争発生!!
深層61層に突入するとモンスター層もがらりと変わり、さらには徘徊型が出る可能性も高まる。
また、〈空島ダン〉で遭遇したような移動するレアイベントボスと当たるかも分からない。
慎重に慎重を期すべきだろう。
「ここまで来たのに未だにレアイベントボスとは会いませんわね」
「どこかの教会か大聖堂に部屋があって見逃しちゃったかな?」
やっぱりリーナやカイリ的にもレアイベントボスの所在は気になるところの様子。なにせ徘徊型とは違い、ダンジョンのどこにあってもおかしくはないからだ。
プラス〈空島ダン〉のような移動する個体を見たらなおさらだろう。
だが、そんなことを考えていたからだろうか? なんとレアイベントボスがきちゃったのだ。
それはいきなりのことだった。
唐突にフィールド全体に地響きのような音が鳴り響いたのである。
「な、これは!?」
「ちょ、『危険感知』に凄い反応があるんだけど、ここ!」
そう言ってカイリが〈竜の箱庭〉の一点を指さした瞬間、そこに巨大な大聖堂が建ったのである。地面から、いきなりだった。
「な! 巨大建築物!?」
「これはさっきまで確かに無かったものですわ! ――まさか!?」
そして大聖堂の大扉がひとりでに開くと、中から1体の巨大な堕天使が姿を現したのだ。
「あれは――『敵性発見』! ボスです! ボスを確認しましたわ! え、レアイベントボス――〈堕天魔族天帝・アビスエル〉!?」
「『安全ルート探知』! あ、こりゃダメだよゼフィルス君! 周りの教会も変な動きしてる!」
「レアイベントボスが襲来してくるタイプだったか。しかもフィールドの天使や悪魔にも影響を与えている――リーナ、全員戻してくれ! 説明は後だ!」
「はい! 全員、一度戻します! 『本拠地を守りなさい。全員集合ですわ』!」
レアイベントボスが現れた瞬間、リーナの行動は早かった。
六段階目ツリーの〈系統進化スキル〉『ストラテジー・アトラス』。
これによって『モンスターウォッチング』が進化したスキル『敵性発見』を発動、見事にレアイベントボスと見抜き、さらに簡易的な『看破』効果で名前も見抜いたのだ。
続いてカイリが『安全ルート探知』でレアイベントボスとギルドメンバーが当たらずに戻って来られる安全ルートを探すが、堕天使が出たタイミングと場所が悪く、このままだとどう頑張ってもどこかしらの4パーティがぶつかってしまうという、3個以上のハンディが確定した未来が待っていた。
そこで輝いたのがリーナのユニークスキル。
〈天下一パイレーツ〉戦でも輝いた、仲間全員を本拠地に、この場合は〈本教会〉に転移させるスキルだ。
ダンジョンでこのユニークスキルを発動する場合、その階層の入り口にみんなを集めるのである。
36の教会を相手にドンパチやったり、防衛したり、攻め込んだりしていたメンバーは、全部一旦置いといて一度本拠地に帰還した。
「わ、な、なに!?」
「いきなり転移したです!」
帰還を優先しすぎてノエルやラクリッテのようにびっくりするメンバーもいる中、俺が声を張る。
「みんな聞いてくれ! レアイベントボスが出た! しかも間が悪く、戦力分断の上にハンディの累積は危険と判断したためここに一度退避させてもらった! レアイベントボスは〈本教会〉に向かってきている! 今からレアイベントボス戦のメンバーを募るぞ!」
俺がそう言いながら指を向ける。そこには大きな堕天使がこっちへ向かっている様子が映っていた。
しかも天使と悪魔、両方を従えているように見える。その数も、どんどん増えてきていた。
「げぇ! なんだありゃ!?」
「全面戦争ですか!?」
新メンバー組のゼルレカとマシロも思わずびっくりして叫ぶ。
気持ちは分かるぜ。俺も最初ゲームで見たときは驚いたものだ。
〈空島ダン〉のレアイベントボスは、実は宝箱がトリガーだった。開ければ開けるほどレアイベントボス襲来の確率が高まるんだ。
そして〈教会ダン〉では天使と悪魔を撃破した分だけ出現確率が高まるというトリガーをしている。故にどちらも深層の方が出る確率が高まっていくのだ。
まさか61層、深層に入った途端出てくるとは。
そして〈アビスエル〉の特徴として、その階層全ての天使と悪魔を従えるというものがある。
こうなると「君たちさっきまで戦争してましたよね!?」と言いたくなるくらい天使と悪魔が結託して、仲良く攻めてくるのだ。
パーティを分散させて攻略していると各個撃破されるので、こうなったら一度パーティを集めるのがセオリーだ。
マシロの言う通り、見た目は全面戦争である。
こうなったら勝つか逃げるかしかない。〈転移水晶〉で一旦帰還すればレアイベントは終わり、戻って来てもレアイベントボスはどこにもいないという状態になるので逃げるのもありなんだが。
もちろん今回は一当てはする! いけそうならそのまま倒してやるぜ!
「レアイベントボスは3パーティで倒すぞ! 1班は確定! 今回も相手は空を飛んでいるからな。飛行部隊の多い4班と5班を連れていく! 他のメンバーは後ろからくるモンスターたちの迎撃を頼む!」
ちなみに1班は俺、フィナ、エリサ、クイナダ、ゼルレカ、
4班はトモヨ、フラーミナ、カタリナ、エフィ、マシロ、
5班はアイギス、アルテ、ラクリッテ、ノエル、シェリアだ。
「任せておけ――俺たちは右側面に出る。6班ついてこい!」
「たはは~、6班のみんなーメルト様に続けー!」
「空を飛んでいく――『グラビディ・レビテーション』! 『重力加速』!」
「「「「ひゃわーーーーー!?」」」」
「レグラムたち7班は左側面から頼む」
「任せるがいい!」
「行ってきますわ! ――クラリス、乗り物を!」
「今が使うときなのですね――『零千』! 『千剣の翼モード』!」
「クラリス、ゴーですわー!」
俺の指示にメンバーが次々と自分の役割についていく。
メルトたちの6班は足止めや迎撃に最適な人員だ。是非横っ腹を抉り込むように攻めてくるモンスターを迎撃してほしい。
7班ではクラリスが今回お披露目となる〈六ツリ〉『千剣の翼モード』を発動していた。
『零千』は〈五ツリ〉で、剣が集まり、まるで飛行機のような姿になるスキルだが、『千剣の翼モード』はこれに加え人を乗せられるようになった形態だ。
今までも剣の飛行機の上に乗れたが、継続ダメージを受ける仕様だった。ラナのエグい継続回復を付与してもなおガンガン減っていく、やべぇ継続ダメージだ。しかし、『千剣の翼モード』ではその心配はご無用。ダメージはゼロになる。
クラリスは飛行機に乗りながら千剣を飛ばして戦える剣士(?)になったのだ。
そして武器を飛ばせるのはノーアも同じ。
クラリスの千剣の飛行機に跳び乗ったお嬢様がここでスキルを発動する。
「いきますわよ――『ウェポン革命オールマスター』!」
瞬間、にゅんっとノーアの周りに波紋が現れ、そこから武器が顔を覗かせる。
その数、約100本。
そのほとんどが〈ヒヒイロカネ武器〉か〈アダマンタイト武器〉で、非常に強そう。そんな武器100本が、異次元から顔を覗かせていたのだ。
『ウェポン革命オールマスター』は、実はノーアのユニークスキルと深い繋がりを持つ。
ノーアの上級ユニークスキルはパッシブ、『革命女王・武器は2つまでと誰が決めたんですの』だ。名前もすごいが、効果もすごい。
異次元収納が解禁され100本までの武器をそこに収納装備可能になり、収納されている武器の性能の2%を、自分の装備している2本の武器にプラスするという能力を得るのだ。
こうしてノーアが装備しているのは、計102本の武器。
本命はノーアの手にしている2つの大剣と大槍だが、収納されている武器も装備状態となり、シエラのユニークスキルのように、その武器の性能の2%が本命武器に加算。100本武器があれば200%とほぼ同じなので、ノーアの武器は自分の性能と合わせて実に300%の性能を行使できるようになる。
つまりはノーアの本命武器の攻撃力が例えば100、収納の武器たちも攻撃力100として。
収納武器たちの数×2、本命武器の攻撃力が上がっていく計算。
100本収納武器があったら200攻撃力が加算されるのだ。
計300値の攻撃力武器が2本である。
このユニークスキルがまあまあヤバいことがお分かりいただけただろう。
もちろんそれだけでは終わらない。
このユニークスキルが前提のスキルももちろんあるからだ。
それが『ウェポン革命オールマスター』で、収納された武器を展開して操ることが可能。何それ凄い。
まあ、100本を個別に操るなんてことはさすがにできなかったので、数本操るのが限界だがそれでも凄まじい性能だ。練習すればもっと個数は増えていくと思われる。
LV10の時、『ウェポン革命オールマスター』で操れる武器が最大で100本になるのである。今度宝剣や宝槍などを用意しよう。いつか100本の宝剣や宝槍が踊る姿が見たいぜ。
クラリスのような武器を分身させるスタイルでは無いので、全ての武器を用意しなくてはいけないのがネック。だが超強い。
「射出ですわ!」
そうノーアが言った瞬間、顔を出していた〈ヒヒイロカネの大剣〉が勢いよく飛び出し、天使を強襲した。
「どんどんいきますわよ! 射出ですわ!」
〈ヒヒイロカネの大槍〉〈ヒヒイロカネの両手斧〉〈アダマンタイトの大剣〉〈アダマンタイトの大槍〉などがどんどん射出していき、レアイベントボスの後方にいる天使と悪魔を襲う。
その威力はさすがは〈六ツリ〉スキル。中々のものだ。
加えて、〈ダン活〉では槍投げなどで放った武器は戻って来るルール。射出された武器もいつの間にか収納に戻り、再びにゅるっと顔を出していた。
「クラリスも参加しなさいな!」
「では『千剣の翼・シャインセイバーミレニウム』!」
「ちょ、それは突っ込むやつですわ!?」
瞬間、『零千』の形がさらに変化。翼の形をしていた剣たちが光のオーラを放ち、巨大な2枚の光のブレードとなったのだ。翼の大きさはざっと5倍になっている――そしてクラリスは零千を操り、そのまま悪魔の群に突っ込んだ。
「「「「――――!?!?!?」」」」
突然突っ込んで来た光の翼の飛行機にぶった切られ、なすすべも無く光にされていく悪魔たち。
突っ込んだ時もしっかりノーアが武器を射出しまくっていたので戦果は上々だ。
「クラリス、それは私が乗っている時は使わないって言っていませんでした!?」
「はい。お嬢様が乗っている時には特に危険なので使いません」
「今堂々と使っていましたわよね!?」
「はい。お嬢様なら大丈夫かと思ったので」
「言っていることが矛盾していますわよ!?」
うーむ、さすがはノーアとクラリス。
なにあの『零千』による光の翼突撃。超かっこいいんだけど。
ノーアもガンガン武器射出で屠りまくっているし……あのコンビ、六段階目ツリーが開放されてマジ開花したな。
「さーて、これで後方は大丈夫だ! 俺たちはレアイベントボスに集中するぞ!」
「「「はい!」」」
「オオーーーー!」
後方の通常モンスターとレアイベントボスはまず分断から始めるのがセオリーだ。
さあ、始めようか! そして〈金箱〉確定だ!