#1655 ブリーフィング開始!最上級ダンジョンへの道
「みんな、聞いてほしい。卒業式まであと1ヶ月と1週間となった。そして昨日よりダンジョン週間に突入している! 今日から〈エデン〉は、最上級ダンジョン入ダンの条件クリアのため、上級上位ダンジョンの2箇所を攻略したいと思う!」
ざわざわわ。
俺の宣言に、集まったギルドメンバーが大きくざわつく。いや、それほどざわついてない? なんだかいつものことみたいな雰囲気も感じる気がする。
サターンと別れた俺とハンナは、急ぎギルドハウスへと向かい、全員集合を呼びかけてブリーフィングを開始していた。
まあ全員集合を掛けるまでもなくみんな集まって来ていたんだけどな。今日は日曜日だし。
「えっと? またゼフィルス先輩がなんか言ってるよサーシャ」
「つい昨日お披露目した六段階目ツリーが大騒ぎされているのに、まったく気にしていないですの!」
うむ。いつもながら的確なツッコミに思わずニヤけてしまいそうになる。
「てっきり昨日お披露目した六段階目ツリーのあれやこれやについて話し合うのかと思っていたのに」
「それらを完全にスルーして前しか向いてねぇぜ。いつものゼフィルス先輩だ」
クイナダもゼルレカもありがとう!
「ゼフィルス、顔がニヤけているわよ」
「ゲフンゲフン!」
「それと、六段階目ツリーの件について、研究所と〈ギルバドヨッシャー〉から調べさせてほしいと要望が届いているわ。それもこんなに」
「1通だけでこと足りるのに??」
シエラが〈空間収納鞄〉を逆さまにすれば、なぜかドサッと言う音と共に手紙が山になった。たくさん送ってきたらしい。1人1通書いたのか? まさか2通以上書いたなんてことは無いと思うが。
それだけ研究させてほしいということだろう。だが、もうちょっと待ってもらいたい。大丈夫だ。すぐに六段階目ツリー人口は増えてくれるからさ!
研究はそれからにしてもらおう!
「こほん。悪いがこれはまたの機会にしてもらおう。今は時間が惜しい。なにしろダンジョン週間だからな」
1月は冬休みが前半にあったため、ダンジョン週間が1週間ズレて昨日から開始ということになっている。今日を合わせて貴重な8日間だ。これは無駄にできない。
「分かったわ。――セレスタン、返答の手紙を書いてもらえるかしら?」
「畏まりました」
研究所の方たちはそれでいいとして。
「でもゼフィルス、なんで最上級ダンジョンをそんなに早く解放したいのよ」
「あれ? 言わなかったっけ?」
と、ここでラナから非常に大事な質問が飛びだした。
言ったような気もするが、具体的な説明はしていなかったような気もする。
ふむ。もう一度全体になぜ今の時期に最上級ダンジョンを解放したいのかも含め周知させておく必要があるな。
「最上級ダンジョン、それはこの〈迷宮学園:本校〉が所有する、まさに最高峰の5つのダンジョンのことだ。入ダン条件は上級ダンジョンの時と同様『〈ランク1からランク3〉を2つ、〈ランク4からランク6〉を2つ、〈ランク7以降〉を1つ以上攻略』すること。もちろんこれは俺たちが上級中位を突破したときのように、〈ランク7以降〉を複数攻略しても可となる。とにかく5箇所の攻略が必要だ」
大前提。
この〈迷宮学園:本校〉には全部で80のダンジョンが存在する。これは学生全員が知っていることだろう。
詳細がこちら。
初心者ダンジョンが1。
初級ダンジョンが9。
中級ダンジョンが30。
上級ダンジョンが30。
エクストラダンジョンが5。
これまで解放されているダンジョンは、この計75箇所だ。
つまり、最上級ダンジョンには残りの超難関ダンジョンが5箇所あるということを意味している。
そして未だに解放されていない最上級ダンジョン門には、その入ダン条件が表記されているのだ。非常にありがたい設計。
ちなみにアリーナもダンジョンの一種ではあるものの、あそこは探索するダンジョンと明確に区別されているためカウント外となっていることもここに添えておこう。
地上にあるこれをカウントすると、校舎の練習場などにある的などにもダンジョンシステムが使われているため、ハチャメチャな数となって探索ダンジョンがいくつあるのか分からなくなるためだ。
「そして最上級ダンジョンの解放には、俺たち以外の学園の協力も、必要不可欠だ」
なにしろ管理しているのは学園だ。上級上位ダンジョンではそれに目を瞑り、自分たちが管理出来ていないのにもかかわらず俺たちを通してしまった。
これは本来であればよろしくない。今はユーリ殿下の指示の下という王家のお墨付きを得ているがための特別扱いをされているのである。
そう、「今は」だ。
これでもし俺たち以外、誰も最上級ダンジョンにたどり着けなかったらどうなるか?
間違いなく管理も出来ていないのに解放し続ける学園に対して危険意識が芽生えるだろう。
学園はこれまで〈救護委員会〉などを組織し、もし学生がダンジョン内で遭難しても、助けにいける態勢を整えていた。
しかし、特別扱いから熱も冷めて通常扱いになったとき、〈救護委員会〉が助けに行けないダンジョンが学生に通常解放されており、条件さえ満たせばそんな危険な場所に自分たちの子が自由に入れてしまう。そんな危険な学園になってしまうのだ。
学園としては何が何でも、俺たちに多少遅れてでも最上級ダンジョンに入ダンできる実績と実力が欲しいのである。
というか無ければ最上級ダンジョンを再び封印するしかない。
それはやるせない。
学園やユーリ先輩も、できればこの波に乗り、最上級ダンジョンの謎を解き明かし、国の力としたいのが本音のようだ。
最上級ダンジョンを攻略したい俺とも利害は一致している。
しかし、この世界では年齢と共にもらえる経験値の量が下降してしまうというペナルティのようなものが存在している。
現に〈救護委員会〉や〈攻略先生委員会〉よりも、最近では若いメンバーの揃う〈ハンター委員会〉の方が攻略階層をリードしており、その差は縮まらない。
このままでは最上級ダンジョンにたどり着けるかすらも分からない。
このことから学園は――若く実力のある人材を強く欲しているのだ。
ここでようやく卒業シーズンに話が戻ってくる。
今回卒業するのは19歳という若く、100%の経験値を吸収できる人材。
学園が欲して止まない若い世代だ。これを学園は、優秀な者を吸収しようと動いている。もちろん学園公式ギルド〈救護委員会〉や〈攻略先生委員会〉、〈ハンター委員会〉に入れるためだ。
故に即戦力で最上級ダンジョンに入ダンできる年若い人材を学園が最も求めている、となる。
俺が報告書という名の攻略本を提出しまくっていたのもこれが最大の理由。
最上級ダンジョンを解放したはいいが、続く人がおらず再び閉じられてしまうことを懸念したからに他ならない。
ということで、最上級生に最上級ダンジョンへ入ダンできるほどの実力者、もしくはそれに近い人材を育て上げて、卒業した人たちに学園公式ギルドへ加入してもらいパワーアップ! 学園も最上級ダンジョンに入れるようにするのが目標だったわけだ。
そのためには報告書が必要。
俺たちが一足先にダンジョンを攻略し、報告書を作って最上級ダンジョンへの道を作ってあげなければならない。
加えて最上級生が学園に勤めるまでに最上級ダンジョンの入ダン条件を達成させるには、仲間が必要だ。同じく切磋琢磨し、成長してきた同じギルドという仲間が。
故にできれば最上級生が卒業するまでに、最上級ダンジョンの入ダン条件を達成してもらうのが理想だったんだ。
この前SSランク戦の開催を学園長に持ちかけたのもこれが理由。
サターンたちのおかげで六段階目ツリーという凄まじいものをこの学園全体にお披露目する機会を得た。学生たちは一斉に危機感を覚えたはずだ。
来たるSSランク戦では、六段階目ツリーを持っていることが優勝するための前提になるだろう、と。
これからSSランク戦に参加しようとしているギルドは、六段階目ツリーの開放を目指してくるはずだ。
これで六段階目ツリー人材が爆発的に増えるぞ!
SSランク戦の開催は卒業式の2日前――3月1日、日曜日!
この日までに、他のギルドはもう必死に六段階目ツリーを開放するため頑張ってくるはずだ! 学園の未来は明るい!
俺はこれを細かく丁寧にギルドメンバーに説明した。
「ん?」
説明したんだ!
「でもそれなら私たちよりも最上級生を優先して育てた方が良いんじゃないの?」
「もちろんそうだが、俺たち自身が最上級ダンジョンの入ダン条件を満たしていないんだぞ? 報告書を作って攻略してもらった方が効率よくないか?」
「合同で一緒に攻略するのは――いえ、それだと経験値、ボス周回ができなくなるのね」
「そういうことだ」
「ん?」
シエラが言いかけたのは、なら自分たち〈エデン〉の攻略に他のギルドも入れたら良いのではないか、ということ。攻略者の証もゲットできるし、一石で何鳥にもなる。
だが、それだと経験値のリソースは取り合いになるし、加えて俺たちの最大最強の戦術〈公式裏技戦術ボス周回〉が使えなくなってしまう。あれはまだ秘密なのだ。
故に俺は合同攻略よりも、まずは〈エデン〉での攻略を優先して、その後に報告書という名の攻略本を作ってきたわけだ。
「最上級ダンジョンの解放、そして維持管理。それを両立するには、まず俺たちが先行して攻略してしまうのが手っ取り早いんだよ」
「なるほどね。ゼフィルスの行動は理解したわ」
「ゼフィルス君、そんなことを考えて動いてたんだ」
シエラが納得の意を示して微笑み、ハンナが目を丸くしている。
ふっふっふ、みんなからの株が上がったのを実感したぞ!
なぜか思いつきでダンジョン攻略やSSランク戦の開催を計画していたと思われていたような気がしたのは、きっと気のせいのはずだ。
そう、俺が昨日六段階目ツリーを大々的にお披露目し、SSランク戦の開催を計画したのは、全て学園に六段階目ツリー人口を爆発的に増やすためだったのだ!
もちろん、俺がSSランク戦が楽しみ過ぎるという思いもある。
俺の趣味と実益も満たす、ナイスな作戦だろう? 俺と学園はまさにWinWinだ!
ふはは!! ふはははははは!!!!
「ということで、まずは俺たちの上級上位ダンジョンの攻略は急務となる! そこで今日は上級上位ダンジョンのランク8、〈天魔の教会ダンジョン〉に行きたいと思う!」
「「「「…………ええええええええ!?」」」」
いきなりランク8入ダン宣言。
だが、六段階目ツリーを開放すれば、ランク7以上に挑んでも全く問題は無い。
これくらいこなさないと、最上級ダンジョンは攻略出来ないんだぜ?




