#179 リカとカルアを連れて、幽霊の洞窟ダンジョン
「シェリアもばっちり決まってんなぁ」
「ありがとうございます。これでもエルフの里の最高の一品なんですよ」
知ってる。
続々とメンバーもやってくる中、シェリアもしっかりとした装備を準備していた。
ゲーム〈ダン活〉では「エルフ」が正式に加入できるのは中級中位ダンジョンからだった。
運がよければ中位でスカウト可能だが、大体の場合「妖怪、後一個足りない」に取り憑かれて上位ダンジョン以降でスカウトすることになるキャラクターだった。
物欲妖怪を退けられた者にのみ与えられる強キャラだな。妖怪怖い。
そんな背景もあって、「エルフ」の初期装備はかなり強い。
〈姫職〉と並ぶレベルである。
エルフらしく自然を思わせる緑を基調とした民族衣装のような装備。和服寄りで防御力はあまり無いが、魔防力はかなりのものだ。スラリとした細身のシェリアによく似合っている。
武器は【精霊術師】なので両手杖だ。ハンナの〈マナライトの杖〉ほどではないが、1m半はありそうな大きな杖だ。淡く青に光っており神秘的なイメージを抱かせる。
一応「エルフ」は弓も扱えるが、魔法の方が圧倒的に強いのであまり使わない。
ゲームでも弓を使いたければ人間の【弓士】や【レンジャー】を使っていたしな。あっちの方が特化職なので強い。
弓エルフはロマンだけど、「エルフ」ならやっぱり魔法特化で育てたい。
「ルル、シェリア。ステータスは振り終えたか?」
「あい!」
「準備ばっちりです」
2人ともやる気は十分なのでしっかりステ振りを伝授した。もちろんセレスタンにもだ。
「さて本日の予定だが、シエラ」
「分かっているわ。私が新メンバーに付けばいいのね?」
「頼む」
さすがシエラだ。俺の言いたいこともすべて分かっていた様子。
今回新メンバーのパメラとシズが来られなくなったので予定変更。
9人なのでパーティは2つ作る。
「割り振りだが、4人パーティの方は新メンバー3人に加えシエラだ。5人パーティの方は後続組の2人に俺、ハンナ、ラナで行く」
「どうしてその配置なの? 新メンバー組に多くつけたほうが良いんじゃないの?」
ハンナから意見が出る。確かに上辺だけ見たらそうかもしれないが、
「いや、新メンバーは装備がすんごい強いからむしろ俺たちはいらんさ。シエラを万が一のために付かせておけば大丈夫だろう。問題はカルアとリカだ」
俺はハンナにその理由を説明する。どちらかというと今日は新メンバー組よりカルアとリカの方がメインなんだ。
俺だって本当は新メンバーの回復役が足りないから、俺かラナも新メンバーに入れたかったんだが、そう出来ない訳がある。
「今日は初級中位の難関〈デブブ〉を突破しに行くから、魔法アタッカーが必要なんだ。俺、ハンナ、ラナがいれば〈デブブ〉も問題ないだろう」
〈デブブ〉は〈幽霊〉特性のせいで物理の効き目が薄い。魔法メンバーが必要だ。それにシエラもまだ〈ゴースト〉は怖いらしく、あまり行きたくなさそうだったからの人選だな。
「他に意見のある者は? ――良し、無ければ各自準備して出発だ」
「「「おー!」」」
「なんか幽霊ダンジョンって久しぶりな気がするわ! まだクリアしてからそんなに経ってないはずなのにね。『光の刃』!」
「ケケケケ~!?」
初ダンで分かれた俺たちはその足で〈幽霊の洞窟ダンジョン〉に来ていた。
ラナから放たれた中級魔法で道中のモンスターがどんどん消えていく。
「ラナ、あんまりリカとカルアの分取るなよ」
「分かってるわ。分かってるけど。なんか幽霊を倒すのってわくわくするのよ!」
わくわくするのか、そりゃ仕方ないな。
シューティングゲームなんかでもアンデッドを倒せというのは定番だ、ハマる人も多い。ラナもじゃんじゃん撃ちまくっていてすごく楽しそうだ。
ふむ。楽しむのは良い事だ。ならもう少し楽しませておこう。
目的はあくまでも〈幽霊の洞窟ダンジョン〉クリアだからな。道中は適度に楽しむのも重要だ。
「『ファイヤーボール』!」
「クケケケケ!?」
ハンナまで撃ち始めちゃったよ。
「ゼフィルス君! これすっごく楽しいよ!」
わざわざ〈マホリタンR〉まで飲んでゴーストを燃やし尽くすハンナ。
そんなに撃ちたかったのだろうか?
「私らの出番はなさそうだな」
「ん。楽ちん」
一方俺と並んで歩いているリカは苦笑していた。
カルアは気楽だな。
だが、それだと色々困るのでしばらくしたらチェンジな。
たまに2人に〈ゴースト〉と戦闘させて効率的な戦い方を探らせながらダンジョンを進む。
〈デブブ〉戦はスピードが命だ。物理で〈ゴースト〉を倒すには時間が掛かるが、どうすればそれを短縮できるのか、少し探ってほしい。
「むむむ。むずい」
「本当に全然効かないな。まず手応えが非常に薄い」
カルアとリカが〈ゴースト〉を相手にした感想を言う。
そう、俺も普通のショートソードを使って何度か斬ってみたが、まるで暖簾に腕押しだった。
全然感触がないのでやりづらいんだよな。これが属性武器で斬ると途端に物を斬った感触が手に来るので〈ゴースト〉とは不思議なモンスターよ。
〈天空の剣〉で斬るとズバンっと手に感触が残る不思議。
カルアもリカもやりにくそうに〈ゴースト〉と戦っている。大体スキル4回で〈ゴースト〉一体撃破の様子だ。割に合わないな。
そんな調子で慣らしていき午後3時、一行は最深部の救済場所にたどり着いたのだった。