#1652 試合終了!モニカギブアップで学園長さらば!
サターンたちを分からせた後は早かった。
相手の復活を待って俺たちは再び赤本拠地に侵攻。
再編成し、今度は攻めたい人たちだけが攻めよう、ということになったのだが、実に30人くらいが攻めに出た。
「あたし、なんでここに居るんでやがるですかね」
なぜか赤本拠地で盾を構えるモニカからそんな声がボソッと聞こえてきた気がしたが、きっと気のせいだろう。
「道を空けなさい。『天変地異・エレメントヘヴン』!」
「ええい! 受け止めてやるですよ! 『豪吸覇強盾』!」
「ではその盾ごといただきます『あなたは囚われの籠の鳥』!」
「は?」
〈天下一パイレーツ〉のギルドマスター、モニカ。
彼女は凄い。なにせ〈エデン〉で最もINTが高いシェリアの大精霊6体による一斉攻撃を防御できるのだから。まあ防御スキルを使っているにもかかわらずHPをガリガリ半分近くまで削られまくったので、シェリアの攻撃がどれだけとんでもないかが分かるだろう。シェリアのINTは実に4000超え。〈エデン〉でもっともINTが高いのだ。さすがは最強を目指すエルフ。
だが、シェリアは囮だ。本命はカタリナの結界。
カタリナのユニークスキル『あなたは囚われの籠の鳥』は相手を閉じ込める結界魔法。中でスキルや魔法を使い結界を破壊しようとしても、生半可な攻撃は反射されて自爆するというとんでもない結界だ。さらに、
「では、さようならです――『ノアの方舟大脱出』!」
「あああああああ! 出すでやがれですーーーー!?」
「モ、モニカーーーーー!?」
「「「「姉御ーーーー!?!?!?」」」」
もちろんカタリナの結界は動く。ユニークスキルの鳥の籠結界は船となり、そのままびゅーんと本拠地から遠ざかっていったのだった。今度はロゼッタの牽引も必要無い。見事な誘拐である。
これ、防御スキルとか意味ないからなぁ。うむ。
「反撃だーーー! 反撃しろーーー!」
「「「「「『ザ・四天王オブはかいこうせん』!」」」」」
「出た! 【四天王】5人によるはかいこうせんだ!!」
「【四天王】なのになんで5人いるの!?」
「きっと【四天王の中で最弱】も混ざっているに違いない」
当然のように反撃してくる〈天下一パイレーツ〉。【四天王】の中に最弱が混ざっているか否かは不明だ。
そこに飛び出るのはトモヨ。
「私の防御を見よ! 『天使波動の守り球結界』!」
それは球状の9つの巨大結界。トモヨは9つの自在に動く球を巧みに動かし、はかいこうせんを全て防御、あるいは弾き、その他の攻撃もじゃんじゃん球で弾きまくった。完全な球体なのでこれがなかなか壊れない。
当然のように六段階目ツリーだ。
今度は〈エデン〉の番ということで攻撃開始。
「私も参加です! 『天光』!」
「あれ? マシロンもこっちなの? 回復は?」
「そうなんですよエフィ先輩。回復って今回あまり出番がなかったので、こういう時は攻撃するのよってラナ殿下が言ってました!」
「そうなんだ。それじゃあ一緒にやろう!」
「はい!」
順調にラナ化が進んでいる気がするマシロ。
『天光』は六段階目ツリーである立派な攻撃魔法である。
ヒーラーとはとても思えない非常に強力な光属性魔法の光線を杖から放つ。
あ、1名がマシロによって浄化された……!
こんな感じで2回目の復活を遂げた面々が次々と討ち取られていき、そして。
「よーし! 城は私に任せてくれっす! いくっすよーーー『ドワーフ大噴火』! からのーー『破壊王の鉄槌』っす!」
ナキキも張り切ってるな。
初動では〈西3巨城〉の陥落をナキキを含むたったの4人に任され、見事にその任を果たした腕前は伊達ではない。〈城〉特効持ちの【破壊王】の六段階目ツリー、『ドワーフ大噴火』は怒髪天。一度だけ破壊系スキルの威力を最大5倍にするというとんでもない自己バフだ。
ほぼなんでも破壊できる。
そこに〈アイテム〉や〈城〉特効持ちの六段階目ツリー『破壊王の鉄槌』が赤本拠地に叩き込まれ、赤本拠地はそれまで蓄積していたダメージもあり、残り7割のHPが一瞬で吹き飛んで陥落した。
その瞬間。
「俺様を忘れてもらっては困るぞーーーーー!!」
最後にヘルクが復活したように見えたが、瞬間俺たちも仕切り直しのために白本拠地に転移してしまったので詳細は分からなかったのだった。
◇
一方こちら実況席では、やはり実況が熱を帯びまくっていた。
「ああああああっっとおおおおおお!! ついに赤本拠地が陥落したーーー!!」
「とうとう陥落ですか! もはや言葉も出ません。なんという圧倒的な勝負でしょうか! これがSランクギルドを超え、もはやSSランクギルドとも囁かれているギルド〈エデン〉の実力! ユミキさんはこれを見てどう思いましたか?」
「予想を遥かに超えていたわ。まさか50人全員が六段階目ツリーに至っているとはね……少し前に〈エデン〉は上級上位ダンジョンのランク4へ挑んでいたけれど、ヒントはそこね。間違いないわ」
「な、なんと! ユミキさんの目がキラリと光る!? 上級上位ダンジョン、それもランク4に挑めば上級職のさらなるスキルが開放されるというのかーーー!?!?」
「五段階目ツリーが発現するLVが発見されたのがつい先日のように感じていましたが、まさかその上がこんなに早く現れるとは思いませんでした。観客席は凄まじい大熱狂に包まれております」
「これは便宜上、六段階目ツリーと呼称しましょう。〈天下一パイレーツ〉はそのメンバー全員が上級職、しかもほぼ全ての人員がLV30に至って五段階目ツリーを開放していたわ。これは驚くべきことだし、かなり仕上げてきたことが伺えるわね。でもそれも六段階目ツリーには歯も立たなかったわ」
「かなり一方的でしたからね。まともにやり合えていたのはモニカギルドマスターと、ヒーラーのエリエル選手だけでしょうか?」
「ええ。あの子は本当に別格ね。あの強力な六段階目ツリーに何度も耐えていたし、2回退場はしたものの、かなり目立っていたわ」
「というか〈エデン〉のあの強さってなに!? 上級上位ダンジョンでは、ここまでの強さが求められるというのかーーー!?」
「というより、これほど強いから先駆者になれるのだと思うわ」
「確かに! 今回〈エデン〉はその力を見せつけたーーー!! 〈天下一パイレーツ〉もかなり強かったはず、というか50人全員を五段階目ツリーで揃えられるギルドが他にどれだけいるのかーー! そういう意味で、そんな強豪ギルドをまるで赤子のように捻ってしまった〈エデン〉が、これぞ上級上位ダンジョンの入ダン者だと、この観客席に座る全員に分からせてきたーーーーー!!」
「これは大荒れの予感がするわね。現在、上級上位ダンジョンに入ダンしているのは〈エデン〉を除けば公式ギルドだけだったけど、これからは他のギルドも必死に六段階目ツリーの獲得を目指しにいくわね。ギルドバトルの常識が変わるわ」
「ギルドバトル激動の時代ですか! 一昨年まで上級職が何人在籍しているかがそのギルドのステータスでした。ですが去年くらいから五段階目ツリー所持者が増えてきた時も激動の時代を迎え、五段階目ツリーの所持者を増やすことに各ギルド、心血を注いできました」
「それが今年からは、六段階目ツリーの所持者がステータスになってくるのか~~~!?」
「そして、すでに六段階目ツリー所持者50人を揃えている〈エデン〉が優勝ね」
「だから優勝を先に言っちゃダメだってーーーーーーー!?」
「あ、2分経ったわ。試合再開よ。……あら?」
「ああっとここで〈天下一パイレーツ〉側ギブアップ!! ギブアップ宣言が出ましたーーーー!!」
「審判が確認を急ぎます。時間は、まだ1時間10分以上残っていますが、再試合はあるのでしょうか?」
「再試合!! 〈天下一パイレーツ〉に再試合に耐えられる猛者はいるのか~~!?」
「〈エデン〉の六段階目ツリーお披露目が50分足らずで終わってしまったのは惜しいわね。せめてもう1試合、いえ、もう2試合くらいしてほしいくらいだけど……」
観客席の人たちも実況席の人たちも固唾を呑んで見守った。
みんな見たがったのは〈エデン〉のお披露目、初めて見る六段階目ツリー。
え? 〈天下一パイレーツ〉はって?
……〈天下一パイレーツ〉には是非頑張ってもらいたいとだけ。
そして結果は。
「あああっと!!!! ここで試合終了! 試合終了宣言が為されましたーーー!!」
「再試合はありません。繰り返します。再試合はありません!」
「まあ、そうよね。ランク戦に再試合は普通は無いはずだから。〈エデン〉ならあるいは、と思ったけれど、例外は無かったわね」
結果は試合終了。
再試合無しの結果だった。
審判のラダベナ先生もモニカに聞いたところ。
「あたし抜きならオッケーです!」
と、ハッキリ言いきったとか。
◇ ◇ ◇
ここは第一アリーナの特別な観客席。
そこにさっきから笑いの止まらない、1人のおじいちゃんが居た。
「ほっほっほっほっほ」
「あらあらまたですか? もう仕方ありませんね。少しお待ちください。殺じ――いえ、とっても熱いお茶をお入れしますね」
「ほっほっほっほっほ」
まあ、学園長である。
あと横にはクール秘書さんであるコレットの姿も。
六段階目ツリー。
職業には下級職と上級職があり、それぞれ1つずつユニークスキルを授かる。
それが五段階目ツリーが開放されてもなお、上級職のユニークスキルが開放されないことからみて、上級職には、まだこれ以上のスキルがあると思われていた。
それが今実証された。
六段階目ツリー。上級職には、さらに上のスキルがあったのだ。
一昨年までは五段階目ツリーが最高だった。それも、四段階目ツリーなどのいくつかのスキル条件を満たした場合のみ五段階目ツリーの一部のツリーを獲得出来るという、限定的な取得だ。
人類は長年の研究によって、どのスキルを獲得すれば五段階目ツリーの一部のツリーが開放されるのか、それも少しだが分かっており、五段階目ツリーを1つだけ使えるだけでも相当な強者に分類されていた。
故に五段階目ツリーが全開放されるLV30に至ったとき、常識は一変した。
次は条件を満たせば六段階目ツリーも開放出来るのではなかろうか? そう考える研究者も多かった。
だが、それが研究される前に六段階目ツリーを全開放した集団が現れてしまったのである。
うん。もうちょっとゆっくりいこうよ。
学園長はきっとこんなことを考えたに違いない。
予想されていた六段階目ツリーは、強かった。
強すぎた。
え? なにこれ? こんなに強いの? へ?
そんなことを思い茫然とするくらい強かった。いや、学園長は茫然を軽く飛び越えてしまっているが。
まあ仕方ない。だってこれは〈ダン活〉でも最強クラスのスキルたちだもん。
最上級ダンジョンのレイドボス、件の〈ヘカトンケイル〉や〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉に使われるようなスキルだもん。そりゃ強いよ。
普通はもっと段階を経て、1回戦から見なくちゃいけないものをいきなり決勝戦を見せられたようなものだ。
しかも10分前のあの白本拠地での総攻撃。あれがトドメになってしまった。
あまりの迫力に魂が飛んで行ってしまったとしても仕方ない。
そして、それを呼び戻すのは優秀な気付け人として最近噂になりつつある、コレットだ。
「はい。どうぞ」
「ズズズ――熱っつぁああ!?」
こうして学園長は現実に戻ってきてしまった。
「ひぃ、ひぃ、コレット君、さっき見たものは現実なのかのう?」
「各方面に確認してみますか? ミストン所長など、先程から狂喜乱舞していますよ。あそこです」
コレットの指さす観客席では、白衣に身を包んだ研究者たちがなぜか筋肉たちと一緒に神輿を担いでわっしょいしていた。まさに狂喜乱舞である。
研究員と一般生徒(?)があんなことになってしまったのだ。
学園長はこれが現実なのか、余計分からなくなった。
「…………ガフッ」
「あ! 学園長気をしっかり! まだこれから仕事が山ほどくるんですよ!?」
「ガフンッ!?」(ビクンビクン)
コレット、トドメ刺すな。
こうして学園長は再び気付け人に起こされ、急ぎ学園長室に戻っていったのだった。




