#1642 サクッと良い感じに〈天プラ〉があがりました
ルルが無双して活躍する場所から〈ブオール〉を挟んで反対側。
こちらではある1人の女子が〈天下一パイレーツ〉の戦線を支えていた。
「みなさん、頑張ってください! 『フェイオールヒール』!」
「がはあああああ!?」
「まだです、まだやれます! もう一度立ち上がるのです! 『フィクエクスヒール』!」
「う、うおおお! 俺はまだやれるぞーーーぎゃあああああ!?!?」
「ふぃ、『フィクションリライト』!」
それはまるで本物(?)の聖女様。
本物よりも本物らしく聖女っぽい白のシスター服装備に身を包み、タリスマンを首から提げ、手を組んで祈りのポーズを取る女子がいた。
ポリスと分断された今、彼女エリエルが〈天下一パイレーツ〉の半分近くを支えるヒーラーだった。
「いたぞ! あれがヒーラー、【偽聖女】に違いない!」
「【偽聖女】!? ここでこの私が討ち取ります!」
ゼフィルスが見つけて【偽聖女】だと看破すると、それを聞いたエステルが〈イブキ〉ごと進路を変更して砲身を向けてしまう。
―――【偽聖女】。
【偽者】の上級職、高の中である、【賊職】系唯一のヒーラーだ。
「あ、あはは、本物の聖女さんの騎士が来てワロタ。もう聖女続けられないかも」
「『レード・セーゼ・スラスト』!」
聖女ロールをしていたエリエル。
そこへエステルの容赦無い攻撃が撃ち込まれる。
それは無数の砲。
〈イブキ〉から延びる砲だけではない、その周囲からまるで亜空間から呼び出しているが如く大量の槍砲が出てきて狙いを定めてきたのだ。エリエルは笑顔のまま乾いた笑い声しかでない。
そして発射!
「エルー! 『豪吸覇強盾』!」
「モニカ!?」
しかし、ギリギリの所でモニカが割り込むことに成功。
エステルの無数の攻撃たちは全てモニカの盾に吸い込まれ、防ぐことに成功したのである。だが、そのフィードバックはマジヤバめ。
「ダメージマジでヤバいでやがりますね!?」
「た、大変! 『フィクションアウト』!」
「助かったでやがります」
だがヒーラーの【偽聖女】エリエルが、今のダメージを無しにする魔法『フィクションアウト』でHPを戻した。
モニカにとっても貴重な【賊職】ヒーラーであるエリエルは代えがたい存在だ。まず女子が少ないギルドだということもあって仲も良いし、モニカが盾、エリエルがヒーラーをして戦線をいつも支えてきたのだ。
いくらドレインシールドができるからと言って、ヒーラーが居ないとやっぱり厳しいのはモニカも同じだ。
「エリエルはあたしが守るでやがります! みんな、踏ん張りやがれです! やりたかった〈エデン〉は目の前でやがりますよ! 仕掛けろですー!」
「「「お、おおおおお!!」」」
「ほほう、なかなかいい士気じゃないか! だが、この乱戦は止められないぞ。――ヴァンとメルトで左方を抑えろ、ラクリッテは右方をかき乱せ! 接近戦を意識しろ! 魔法を使う時もなるべく引き寄せろ!」
「く、やっぱり勇者さんは厄介でやがりますね。あの指揮をなんとか止めねぇと〈エデン〉は止まらねぇでやがりますよ!」
そこそこ距離があるものの、そこに居たのは〈エデン〉のギルドマスター、ゼフィルス。指揮に徹しながらギルドメンバーを上手く配置して押し込んでくる。
モニカの【強欲】ではやりづらいような戦法を何度も指示し、メンバーは半分に分断され、さらに乱戦にもつれ込まれてしまっている。
モニカは遠距離攻撃に対して鬼強いが、接近戦の物理攻撃をドローすることができない。
バフも吸収できるユニークスキルを発動したのに吸収すらできないということもあり、【強欲】のネタが完全に割れているのだとモニカは冷や汗が伝う。
ここで自分が討ち取られれば完全に瓦解してしまうだろう。
さてどうしよう。
そう思っていたところで、横から割り込んで来た者たちがいた。
「『フレアバースト』!」
「おっと?」
こ、この技は! あの男の代名詞!
「見つけたぞ、ゼフィルスよ!」
「サターン! 生きていたのか!?」
「くくく、貴様を倒すためなら地獄の底からでも這い戻ってやるさ!!」
なんかかっこいいことを吠えているが、単純にゼフィルスにやられた後、〈敗者復活〉ルールで生き返っただけだ。
ちなみにゼフィルスは、振ったネタに面白い台詞が返ってきてちょっとご満悦の様子。
「みんな、サターンに続きやがれです! 大将首はすぐそこでやがりますよ!」
「「「「おおー!」」」」
「ふふ、僕もそちらへ、あ、待ってください、ちょ!?」
「もう~、さっさとくたばっちゃいなよ、ユー! 『神宝剣・セツナ』!」
「!! 『ダークバーンスラッシュ』!! ぐあああああ!?」
一方ゼフィルスのところに追いつけそうで、追いつけないジーロンのところには、サチが相手をしていた。もちろん彼女だけではない。
「うおおお『トマーホークスペッシャル』!」
「エミ! 『神宝弓・スピリチュアルハンディング』!」
「な、なにぃぃぃぃぃ!?」
「隙ありー! 『神宝本・終末のディストラクション』!」
「『アンガーシールド』!!」
近くではトマがエミへ攻撃を仕掛けるも、ユウカの消える魔球ならぬ、消える魔矢によって撃ち抜かれてノックバック。そこへエミがなんか恐ろしいほど高威力の魔法をぶっ放したのだ。
トマはノックバックが終わった瞬間全力で斧を盾にして逃げ、ちょっとダメージを負いながらもなんとか離脱に成功する。
「ふふふ~、ゼフィルス君のところにはいかせないよ~」
「ここで退場してもらうからね~」
「なぜか3対2だけど、もう1人のあの大きな。えっと……戦士の人はどうしたの?」
「ふふ!? ヘルクの名前が出てこないですって!?」
「いや、ヘルクのやつは知らん!」
立ち塞がる仲良しサチ、エミ、ユウカ。
なお、ユウカの不穏なセリフにジーロンが目を見開いているが、きっと些細なことだろう。ちなみにヘルクは分断された〈ブオール〉の向こう側でルルにやられている。モニカと一緒だとタンクとしての役目が全くもらえないので距離を取っていた結果だ。モニカと分断された今、きっと生き生きとしているに違いない。生きてはいないかもしれないが。
「それじゃあエミちゃん、ユウカちゃん、いっちょ本気でやっちゃおう!」
「それ乗ったよ!」
「パワーアップしたのは君たちだけではないんだよ」
「! ふふ、やらせません!」
何やら不穏な空気を感じ取ったジーロンが体勢を立て直し、エリエルに回復を貰ってサチたちに飛び込んだ。
「「「『女神化』!」」」
「な!」
それは全身に神気を纏う覚醒系スキル。
【魔装】系は武器に魔法を纏わせる。同じく【神装】も武器に神気を纏わせる。
だがこの六段階目ツリー『女神化』は、全身に神気を纏わせるスキルだ。
その姿はまるで女神。
神々しいまでの神気を放ち、それが実体に近い形を作って身体に纏い光輝き、自身のステータス能力全てを上昇させる。
この時自身が〈神装装備〉を全身に身に着けていた場合、さらに相乗効果が発動。装備の能力もあり、とんでもなくステータスが上昇するのである。
まさに【神装】系職業の奥義とも言えるスキルだ。
覚醒系のステータスアップなのでモニカのユニークスキルでも奪えない。モニカは『変身』系や『覚醒』系は奪うことができないのだ。
故に、サチ、エミ、ユウカは『神装武装』を纏うことができるし、『女神化』も可能だった。
その覚醒した姿にジーロンは目を見開き大きく警戒する。だが。
「な、なんだか分からんが、要は倒せば良いんだろ!? 食らえ! 『撃滅戦閃斧』!」
「ふふ!? トマ、いけません!」
トマが、変化中の今がチャンスだとばかりに斧を振りかぶり飛び掛かる。
スキル発動中のため、ジーロンの制止では、もはや止められない。
そして『女神化』はほとんど時間が掛からないスキルなのだ。『変身』系ではなく『覚醒』系のスキルだからである。
そして3人は合わせてトマの方を向くと、それぞれ武器を向けた。
「覚悟ーー!! 『神宝本・ダイイングユーゼロ』!」
「撃ち抜くよ! 『神宝弓・アルテミス』!」
エミとユウカの神気がアップし、威力が大上昇した攻撃が放たれた。『女神化』は――単純なステータスアップに加え、スキル威力大上昇効果を持つのだ。威力・大・上昇、である。(重要な2回)
その威力が〈六ツリ〉に乗ったりしたら。もうパナイ。
「うおおお! え? あああああああああ!?」
トマの『撃滅戦閃斧』は一瞬にしてぶっ壊され、もちろん相殺もできずにトマを襲う。
「トマさん!? 『フィクションリライト』!」
しかし、トマの命を救ったのは、エリエルだった。
『フィクションリライト』は、HPがゼロになり得る攻撃のダメージを無かったことにする、【偽聖女】の〈五ツリ〉魔法だ。効果時間は3分と短めだが、『食いしばり』系を一時的に付与できる強魔法である。
もちろん1回効果を発揮したら消えるぞ。
そしてエミの超威力氷属性魔法がトマの『撃滅戦閃斧』とぶつかったことでギリギリトマのHPはゼロにはならず、そこへユウカの個人最強スキル、アルテミスの矢が直撃。
本当ならこれでHPがゼロになるはずだったのだが、トマへの攻撃は無かったことになったのだ。
ギリセーフ?
と思うかもしれないが、もちろん続きがある。
「トドメだよ! 『神宝剣・神の一太刀』!」
「「「あ!」」」
それはトマ、ジーロン、そしてエリエルの声が重なった声だった。
完全にオーバーキル。むしろ塵1つ残らないんじゃないかなというレベルの強力な光の斬撃がトマに叩き込まれてしまったのだ。
見た目はもうラムダのユニークスキル『エクスカリバー』並である。超かっこいい光の奔流。
思わず魅入ってしまうが、もちろんトマはこれで退場だ。
「ふ、ふふふ。トマの仇です!」
これにはジーロンも動く。
今大技を使ったばかりだ。きっと3人は動けない。
トマの仇は僕が討つ、そんな覚悟と共にサチたちの下へ飛び込んだのだ。
「『闇宵世斬り』!」
なんか名前だけかっこいい【破壊道を進む剣壊】のスキルが発動。しかし、
「ふ?」
ジーロンは気が付いてしまった。
3人が大技を出したにしては涼しい顔をして自分に武器を向けているな、と。
それもそのはずだ。だってサチたちが使ったのは、確かに自分たちが使える最も強いスキルだったが、あくまで個で放つスキルでは、だ。
【神装】系の職業の真髄は、そのコンボ攻撃にある。
つまり本当の大技は――これからだ。
つまり、別に動けないわけじゃ――全然無い。
当然のようにサチ、エミ、ユウカはジーロンに武器を向けていて。
「いっくよエミちゃん、ユウカちゃん!」
「いつでもいけるよー!」
「せーの」
「「「『三柱神授神器・ジャストメイトジャッジメント』!」」」
放たれたのは【神装】系職業最強スキルコンボ攻撃!
3人居なくては失敗する、3人が神から賜った神宝の力を解放してぶっ放す、膨大な神気の一撃だ。その姿は全てを断罪し浄化する巨大な剣。
ジーロンは――直撃!
もちろんそんなのを食らったジーロンは――。
「ふじゃじゃ――」
なんか言葉にならない声を出してそのまま退場していってしまったのだった。
光の放流が収まったあと、サチたちは誰も残ってない光景を見て呟いた。
「やり過ぎちゃったかな?」
「うん。思ったより、威力あったねぇ」
「あれでも神気を数回分使った後に撃ったから、少しは威力が弱まっているはずなんだけど」
端的に言って、オーバーキルの3人だった。
あとがき失礼いたします!
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