#1639 〈エデン〉半数VS〈天下一パイレーツ〉全軍!
―――『ジェネシス・ヘクサ・アポカリプス』。
六芒星の魔法陣が空中に6つ描かれると、そこから【賢者】のユニークスキル『アポカリプス』に近い破壊の魔法を6つ放つという六段階目ツリーの魔法だ。
その迫力はこれまで見た中で最高峰。これには思わずモニカも叫んだ。
「とんでもねぇもん撃ってきやがりますね!? ――『豪吸覇強盾』!」
「防御は全て姉御に任せろー! 俺たちは攻撃だけに集中するんだ! 『エクセレント・リジェネ』!」
これに迎え撃つのはモニカ。
最初はこの攻撃を奪い、相手にぶつけようとも思ったが、攻撃が6つの時点で断念。今のモニカは1つしか制御を奪えないのだ。受けるに専念する。
強力で巨大な盾とそれを支えるような大きな2つの巨大腕が、真正面から来る攻撃を受け止めにかかる。
6つの光線はバラバラに扇のような形で〈天下一パイレーツ〉を襲わんとしたが、『豪吸覇強盾』の効果でモニカに集められ受け止められる。
「ぬあああ! 持ちやがれです『豪吸覇強盾』! さっきの汚名を返上するでやがりますよ! て、なあああ!?」
アポカリプス1発1発が命中する度にギシギシ言いながらどこかしら壊れていくモニカの『豪吸覇強盾』。
ズドーンズドーンと衝撃が来る度にモニカのHPがフィードバックで2%くらい削れていき、それをリジェネとドレインシールドで戻していく。
恐ろしい、だってこれ、モニカは遠距離攻撃ダメージを50%近くカット出来るのだ。それで2%のダメージを受ける? 防御スキルを発動してるのに?
つまり普通なら防御スキルを発動していても6発で24%もダメージを食らう攻撃ということだ。HPのほぼ4分の1が吹っ飛ぶ? 防御スキル使ってるのに?(2回目)
タンクでこれ? いやいや、普通のアタッカーが生身で直撃したらマジどうなるの?
そんなことを思いながらもついに最後のアポカリプスを受け止め、ガシャンと大きな音を立ててモニカの盾も壊れる。
「ギリギリ、耐えきりやがりましたか……! たった1人であたしの盾をぶっ壊すだなんてとんでもねぇですよ」
つまり2人以上が同時に攻撃しただけでモニカが崩れかねないということだ。
たった1つの魔法で冷や汗が流れるモニカ。
だが、そんなモニカとは裏腹に〈天下一パイレーツ〉にほぼ動揺は無かった。
ポリスの言う通り、全ての防御はモニカが受け持ち、自分たちは攻撃に専念するからである。ポリスだけはモニカを継続回復魔法で援護。
他のメンバーは攻撃に集中した。
「撃てー! 撃てー! 『ジャイアントフレアストリーム』!」
「『ダークビッグオーラスラッシュ』!」
「『グラスアンガークラッシャー』!」
どんな防御スキルにも効果時間はあり、さらに攻撃をいつまでも受け続けられるほど耐久値が高いというわけではない。
数十人からの攻撃を受け止めていたラクリッテの狸王様とヴァンのオリハルコンの城は、さすがに耐えきれずに消えてしまう。
「今だ! 総攻撃を叩き込めーーー!!」
気合いを入れて攻撃を叩き込もうとする〈天下一パイレーツ〉。
だが、タンクはもう1人いるのだ。
「『シールド・テラ・クワトロ』!」
もちろん、〈エデン〉のサブマスター、最強のタンク――シエラである。
それは小盾の巨大化防御スキル。
シエラの4つの自在盾が5メートル級に大型化し、シエラ、メルト、ラクリッテ、ヴァンを守ったのだ。もちろんこれはシエラが自在に操れる盾だ。
「な!」
「デカい4つの盾!」
「壊せ壊せ! 全ての盾を吹き飛ばすぞ! 『アイアンロックシューター』!」
「無駄よ」
大量の攻撃が降り注ぐ、しかし、シエラの盾は壊れない。
突破されない。
「壊せない? なんだあの盾、突破出来ないぞ! 『アイシクルドリームスペード』!」
「数十人の攻撃だぞ!? なぜ壊れない!? というかなんで全部防げる!?」
「こっちは1人の攻撃で盾がぶっ壊されたでやがりますのに……!?」
この防御力には騒然の〈天下一パイレーツ〉。
狸王様もオリハルコン城もぶっ壊せた。でも、4つの巨大自在盾は、壊れない。
吹き飛んでも戻ってくる。
これにはモニカも驚愕に目を見開いた。
「おいおい、俺の『ジェネシス・ヘクサ・アポカリプス』を五段階目ツリーでその程度の被害に収めるとか、あのギルドマスター、本物だぞ」
「さすがは〈新緑の里〉の攻撃を一身に受け止めきった強者でありますな」
「あう。狸王様が、シエラ様アレ全部受け止めるとか凄すぎですよ~」
〈天下一パイレーツ〉、〈エデン〉、双方が驚きに目を見張る。
「くっ、これまずいでやがりますよ。勇者さん用に取っておきたかったですが、早々に切るでやがります――『妨げられぬ強欲の盗』!」
「圧力をあげろー! まずはここを突破しないと白本拠地にすらたどり着けないぞ! 相手は4人だ! ユニークスキルを打ち込めー!」
モニカ、何やら切り札を切る。
まるで〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉戦で見た、黒の手のようなものが多数、シエラたちに延びたのだ。
それはステータス強奪スキル。
相手のステータスに強烈な弱体化を掛けて自分は反対に強力な強化を得る、強欲スキルだ。【色欲】に近い。
強欲の黒の手は相手のステータスを奪い我が物にし、相手が強ければ強いほど自分がパワーアップできるという、とんでもないスキルなのだ。デバフなので防御スキルすら貫通する。
加えてポリスの指示で〈天下一パイレーツ〉もユニークスキルなどを使い攻撃の圧をさらに高めた。
「全て防いであげるわ――『守陣形四聖盾』! 『エンプレス・オブ・カバー』!」
だが悲しいかな、〈エデン〉にはシエラがいるのだ。
巨大になった自在盾が、見た目に反して俊敏な動作で味方をかばい、なんと貫通する黒の手を弾き返したのである。
「な!」
「このカバーは特別よ。この数でも防ぎきるわ」
シエラの六段階目ツリーの『エンプレス・オブ・カバー』は最上級のカバースキルだ。『破壊無効』、『貫通無効』、『衝撃無効』という、とんでもない効果が付与されているカバー系である。
さらに『シールド・テラ・クワトロ』や『守陣形四聖盾』と組み合わせることで、とんでもない巨大な盾で永続にカバーし続けることができるのだ。
「このスキルを、見抜いていやがりましたか!」
「……見抜いていたのはゼフィルスだけどね」
モニカの言葉にシエラは小さく嘆息する。
【強欲】のスキルをなぜか熟知しているゼフィルスによって、シエラには教えられていた。というかシエラが聞き出したと言うのが正しいか。
ゼフィルス的には【賊職】や【大罪】職を含め、相手の職業の攻略法は基本教えないようにしている。ギルドバトルの楽しさが半減しちゃうから。あとギルドメンバーに自力で乗り越えてほしいから。
【強欲】のワンマンギルド、というわけではないが、〈天下一パイレーツ〉が【強欲】在りきの戦術を組んでいるのは自明の理、ならば【強欲】について知るのは当然とばかりにシエラが聞き出し、むしろモニカよりもシエラの方が【強欲】のことを把握していた。
モニカからすれば「何それ」である。
そして、ここで〈天下一パイレーツ〉にとってよくない知らせが届くことになった。
「姉御、来ました! 〈エデン〉の本隊と思われる部隊が! 数は20人! 先頭に勇者がいます!!」
「え? ――なにびびってやがりますか! 試合前の威勢はどうしやがりました! 気合いを入れるですよ!」
―――ゼフィルス接近。
試合前はあれだけイキッて打倒ゼフィルスを掲げていたメンバーたちも、〈エデン〉が集団で駆けてくる様子にはさすがにびびったようだ。
ちょっと素が出た気がしたモニカだが、すぐにクワッとして発破を掛ける。
しかし、そんな中に〈エデン〉に全く圧倒されていない存在もいた。
「うおおおおお! ゼフィルスめーーー!」
「ふふ、先程の恨み、晴らさずおくべきか、です!」
「今度は負けん! フルパワーアックスをお見舞いしてやるぜ!」
「俺様を忘れられないようにしてやる!」
もちろん〈天プラ〉たちだ。
とはいえ打って出るような無謀な真似はしない。
こちらにはモニカがいるのだ。モニカが守りサターンたちが攻撃する作戦は継続中。
ゼフィルスたちが駆けつけてくるというのなら迎え撃つまでという姿勢だった。
そんな〈天プラ〉たちの背中に勇気(?)を貰ったのか、徐々に威勢を取り戻していく〈天下一パイレーツ〉メンバーたち。
それを見てモニカも「ここが正念場でやがりますね」と気合いを入れ直す。
〈エデン〉の増援20人。
これは実際聞いたときは動揺したが、モニカのほぼ予想通りだった。
先程も言ったとおり、このフィールドは本拠地が各方面から狙われやすい。
防衛を整えておかなければ不意を打たれてやられかねないのだ。
故に、半数ほどを防衛と対策に取るだろうと考えていた。
え? それなら〈天下一パイレーツ〉は? って?
〈天下一パイレーツ〉は―――ノーガード戦法である。
というか、守りに入ったら負けるのだ。〈天下一パイレーツ〉は今は全力で攻めなくてはならない場面。たとえ別働隊が赤本拠地を狙ってきていたとしても別にいい、落とされても移動するのは1城だけなので、そんなのまた後で取り返せばいいのだ。
ここは数の有利を武器に相手に脅威だと分からせる場面。
びびっている場合じゃないのだ!
◇ ◇ ◇
「よーし、相手は固まっている! まずはアレを崩すぞ!」
「おおーなのです!」
「うでがなるよー」
「アリスの腕が鳴るなんて聞いたこと無いです!」
ゼフィルスの言葉にロリ組のルル、アリス、キキョウが叫ぶ。
目的は非常にシンプル。
各個撃破である。
〈天下一パイレーツ〉が人数的にほとんどノーガードで〈前線〉である天王山へ向かってきているのはリーナのナビですでに知れている。
あそこまで固まられると逆に手強いため、まずはかき乱して崩し、分断し、バラけさせ、乱戦や個人戦に持ち込むのだ。
個人戦なら、〈エデン〉は負けない。1人1人が強いから。
故に〈エデン〉が選んだのは、まず分断である。
「エステル、ロゼッタ、準備はいいな?」
「はい!」
「いつでもいけます!」
「よし、各人攻撃開始!」
ゼフィルスが引き連れてきたメンバーに指示を出す。
それは、〈天下一パイレーツ〉のメンバーが固まっている隣接マスに入ったときのことだ。
「うなれ第二のお父様? 『雷神父アターック』!」
「こっちは氷のドラゴンですの! いっけー『氷龍』ですの!」
「新しい銃は強いですよ――『バースト・フォース・ガン・メイデン』! 『ドラゴンファング』!」
「ゆくぞオリヒメ」
「はい、レグラム様とならどこまでも」
「「『天海星・ウラヌスネプチューン・キャリバー』!」」
「私たちも負けていられないよ!」
「そうだそうだー!」
「一気に撃ち込みかき乱そう!」
「「「『神気個三波装砲撃』!!」」」
〈エデン〉から飛ぶのは――〈六ツリ〉の嵐。
腕が鳴っちゃうよーみたいな気合いを入れたアリスが竜よりおっかない父(?)を召喚し、なんかよく分からないがとってもダメージを負いそうな雷攻撃を放った。
サーシャは、これはパナイと言わせる氷の龍だ。
巨大龍の形をした氷が〈天下一パイレーツ〉を襲う、こんなのに狙われたら悲鳴ものだろう。
シズの『バースト・フォース・ガン・メイデン』は、浮遊する銃の召喚だ。シズの意思で自在に動く自在銃と言って過言ではないものを二丁呼び寄せ、さらにこれまた〈六ツリ〉の『ドラゴンファング』をブッ放つ。
シズの両手で持つ銃と合わせて3つの銃弾はドラゴンの口となって相手を襲うのだ。
レグラムとオリヒメはコンボ攻撃。どう見ても星降り。
隕石どころか惑星落とし? と勘違いするような、地球のような球体が降ってくる攻撃だ。鬼強い。
最後はサチ、エミ、ユウカの新コンボ攻撃。3人の代名詞でもある『神気開砲撃』の上位ツリー技だ。今まで3人で1発しか出せなかったそれを、3人がそれぞれ放てるスキルである。つまり単純に3倍だ。はい? なにそれ? である。
とはいえさすがに1発1発の威力は『神気開砲撃』よりも3割ほど落ちるので、70%の火力。3つで210%? 1人で全部食らったら確実に退場するね。
「来た! お前たち下がりやがれですよ!!」
だが、これに対し〈天下一パイレーツ〉のモニカも冷静だった。
その位置がポイント。なんと、マスの境目の、すぐ向こう側に逃げ込んだのである。
これだと遠距離攻撃はマス超えの減退効果を受けてしまう。
そう、モニカはこの減退効果と自分のスキルを使い、上手く攻撃の威力を抑えていたのだ。
そして〈天下一パイレーツ〉のメンバーが攻撃するときはマスの境目を超えて攻撃し、すぐに戻るというヒットアンドアウェイにも似た戦法で攻撃する。
それがモニカたちの攻撃方法だ。
だが、元々が強すぎる威力の攻撃が相手では、たとえ半減しても強いものは強い。
あの『神気個三波装砲撃』だって威力減退で半分になろうが、105%になるだけで『神気開砲撃』よりも総合威力が高い。アカン。
「姉御!」
「全部防ぎきって差し上げやがりますよ!! 『我、強欲の化身、全てを我に奪われよ』!」
ここでモニカが『強欲』のユニークスキルを発動した。




