#1638 〈天下一パイレーツ〉全員復活!侵攻白本拠地
「あは、あはははは!」
「おい笑ってないで足を進めろ! 小城で200上回られたらマジ負けだって!」
「西に斬り込んだ『俺らは天下一トップスターさ、捕まりはしないよ』とか意味不明なことを言って〈北巨城〉を取り損なった奴らはどこにいった!」
「あいつらは、すでに退場したらしい……!」
「何が捕まりはしないだし!?」
「口ほどにもなさ過ぎるぞ!?」
こちらは〈天下一パイレーツ〉のメンバーたち。
ギルドメンバー全員、50人というとんでもない数字が上級職と成り、こんな強豪ギルドはSランクギルドにもいるかどうか。そんな優越感が増長を促した結果が、なぜか〈エデン〉へのランク戦だった。
しかし蓋を開けてみればどうだろう?
〈エデン〉と〈天下一パイレーツ〉には、やっぱり超えられない壁が高々にそびえ立っていたのだ。
うん、分かってた。そんなの分かりきったことだったよ。
現在試合から20分近くが経過し、〈天下一パイレーツ〉のメンバーが必死に小城マス取りに精を出しまくっていた。
なにしろ、巨城が1城しか取れなかったのだ。
2000ポイント、小城を200マス多く取られれば巨城1個分換算となり、赤チームがもし白本拠地を落として8城を奪ったとしても逆転ができなくなる。
そうすれば負け確定。
故に、小城マス取りにマジ全力で走らなければならなかった。
まあ、人数的に〈天下一パイレーツ〉のメンバーが現在の時点で15人以上退場しているし、あと〈エデン〉のメンバーが50人全員生存しているし、そもそも小城マス取りをいくら頑張っても〈天下一パイレーツ〉はこのままでは負けは確実だった。
「あのサターンや姉御はまだ復活しないのか!?」
「もうすぐのはずだ!」
こうなったら頼みの綱は対人戦。
相手を退場させまくったり、小城マス取りをしている暇がないくらい戦闘を繰り返すしかない。
だが、問題多数。
なにしろ、今回のルールは〈敗者復活〉。
もし〈敗者のお部屋〉に送られても、10分もすれば試合に復帰してしまうのだ。
倒しても戻って来てしまうとか、人数減らないじゃん! となる。
一応スリーアウト制なので、3回退場すれば戻って来られないし、1回退場する毎にステータスが10%下がっていくペナルティーを食らう。倒し続けることには意味はあると言えるが、〈エデン〉メンバーを3回退場させるとか無理。
故に〈天下一パイレーツ〉の主な狙いは〈小城マス取りができないほど戦闘に集中させること〉だった。
それはすでにみんなの共通認識。
伊達にAランクギルドまで上がってきていない。それなりに〈天下一パイレーツ〉の面々はギルドバトルの認識が深かった。
「姉御とサターンたちが復活次第白本拠地に仕掛けるぞ!」
「「「「「おおーー!!」」」」」
声を張るこの男は、名をポリス。【ホーリー】の上級職、高の下である【回復マスター】に就く、元〈天下一大星〉の古参メンバーだ。
結構印象が違うのは、Aランクギルドとしての自信と貫禄を得た結果なのかもしれない。
古参メンバーとしての指示だしもこなし、ギルドメンバーをまとめ上げていたのだ。
「ポリス、姉御が帰ってきた! 打って出るってこっち向かってる!」
「! 了解!! ――全員集まれー!!!! 打って出るぞー! 〈新緑の里〉にやったあの作戦だ!」
一足先に聞いた伝令の言葉に今後の作戦を察したポリスが散っていたメンバーを集めていると、モニカ一行が到着する。
「ポリス、ご苦労でやがります!」
「姉御!」
「サターンたちも帰ってきたぞー!」
「ゼフィルスめ! 我らの真の力をぶつけてやる!」
ここでモニカとサターンたちが復活。
サターンはさすがのプライドだ。普通はあんな強大な力で瞬殺されれば、ほけったり、ぷえったりするものだが、サターンは震えない。否、別の意味で震えている。
「ふふ、あの時は巨城攻略で多くのスキルがクールタイムに入っていました」
「今なら万全だ! 俺の新スキルを食らわしまくってやるよ! ユニークスキルもな!」
「ま、また例の作戦をす、するのか!? 俺様を忘れてしまっては困るぞ!?」
サターンたちが負けたのはスキルがクールタイムに入っていたからだ、という認識だ。あの時巨城にユニークスキルなど、強力なスキルを使っていなければ負けなかったのだ、と心を震わせ、今度こそ全力をゼフィルスにぶつけ勝ってやるという考え。
なお、クールタイムに入っていたのはゼフィルスも同じのはずなのだが、彼らはそこまで思い至らない。今度こそ勝てると本気で思っているのが、この〈天プラ〉の良いところである。
「全員、配置に付きやがれです! 相手は強大です! ですがいつものように気合い入れろでやがります! 怖じ気づいたり逃げたやつは、あたしが後でぶっ飛ばすですからね!」
「「「「おおおおおおおお!!」」」」
モニカもここでキッと目の端を釣り上げて士気を高める。
さすがのモニカも、パメラにあそこまでいいようにやられたのは悔しかったらしく、〈天下一パイレーツ〉の雰囲気もあって、今度こそという気になっていた。
加えて〈新緑の里〉戦でAランクギルドを圧倒してみせた自分たちの戦法は、まだ試していない。
これが〈エデン〉にどこまで通じるのかモニカは見てみたかった。
モニカの気分は挑戦者。
せめてこれを叩き込まないと、〈敗者のお部屋〉には行っていられない。
「最前線、観客席を上手く使いやがるですよ! 囲まれないように! 別働隊は意味がないでやがります! 赤本拠地は一度捨ててでもまずは私たちの力を見せつけ、警戒させるでやがりますよ!」
「「「「おおおおお!!」」」」
ここ〈九角形〉フィールドの本拠地は全方向に巨城がある通り、かなり狙われやすい地形をしている。
西方向、白本拠地との間の天王山には遮るものはなく、人員を常に送って白マスを踏んだり、赤マスを踏まれたりしながら攻防を繰り返している。そこを抜かれたら次は赤本拠地が狙われるのだ。この天王山付近を通称〈前線〉と呼び、〈エデン〉との本格的なバトルが繰り広げられている。(図Y―25辺り)
また、その北側には東西に延びる観客席があり、北側は壁となっていて北側から包囲、奇襲、攻撃される心配は無い。
だが、その観客席のさらに北側から回り込んで赤本拠地を狙うルートも存在する。(図T―19からAE―19)
これが最も警戒しなくちゃいけない迂回ルートだ。
なにせ〈前線〉から北へは観客席が邪魔で進めない。
赤本拠地の北西側から奇襲されてしまうのだから、普通ならここに人員を置いて迎え撃つか、こっちからも奇襲するか、第二の攻防が繰り広げられるエリアだ。
続いて第三ルートこれは南側から仕掛けるもので、本拠地の南側には大きな観客席がドスンと居座っていて、視界を遮り南側からの奇襲を可能にしている。
しかもこれは白本拠地の南と赤本拠地の南、それぞれに別の観客席があるために、間に南側へ抜けることのできるルートが存在している。(図U―35やAD―35)
〈前線〉から南へ下って本拠地に回り込むこともできるし、逆に〈前線〉に側面から奇襲を仕掛けることもできるということで、非常に警戒しなくちゃいけないエリアだ。
この南側の観客席を使い、西側から回り込むか、東側から回り込んで本拠地を狙うこともできるため、実質本拠地を狙うには4つのルートが存在することになる。
だが、モニカは迷わず〈前線〉に全メンバーで突っ走った。
白本拠地へ向かうのならば、最短距離を走るのが最もプレッシャーを掛けられる。
もちろん〈エデン〉もそれに素早く反応して人員を集め始めた。
ゼフィルスが想定していたとおりの展開、だが、さすがに〈前線〉一点集中攻撃は思い切ったなぁと思うところ。人数を集めるのに少しばかり時間が掛かってしまう。
とはいえ心配はあまりしていない。
〈前線〉のマスを取り合っていたメンバーは、とても優秀だからだ。
まずモニカたちの前に現れたのは、否、待ち構えていたのは、ラクリッテ、ヴァン、メルト、そして――シエラである。
「撃ちやがれですーーー!!」
「うおおおお! 『フレアストーム』!」
「『ギガントフリズドクリスタル』!」
「『漆黒の闇投刃』!」
「『アサシンナイフハープーン』!」
まだ先頭集団が少ないところを強襲。一気に数の暴力を当てて各個撃破で相手を屠る作戦だ。
普通のギルドなら間違いなくクリティカルヒットしていたことであろう。
数の波に飲み込まれて一瞬でやられていたはずだ。
だが、〈エデン〉は普通じゃないのだ。
「ポン! 今こそ現れるは最強無敵の盾狸王――『幻獣霊最強・狸王様完全盾』!」
まず動いたのはラクリッテだ。
そして、メルトも余裕の表情でヴァンに視線を向ける。
「ヴァン、カマしてやれ」
「はい! これぞ黄金に輝く難攻不落の城――『オリハルコン城』!」
そこに現れたのは超巨体で巨大な盾をお腹で持つ狸王様、その大きさは30メートルに迫る。見事な六段階目ツリー。
そしてそこに並ぶのは黄金に光るオリハルコンの城。狸王様よりちょっとちっちゃくて25メートル級。狸王様の勝ち。
「「「「「んなぁ!?!?」」」」」
そして当然のように〈天下一パイレーツ〉の攻撃群を全て受け止めきったのである。
ここで、メルトがパワーアップした〈竜杖〉を向ける。
「『ジェネシス・ヘクサ・アポカリプス』!」




