#1636 〈東3巨城〉の戦い、ギルドマスター戦決着!
「分身が寝返ったデース!? 戻ってくるデース!」
「断るデース! さあ下剋上の時間デース!」
ちょっとカオス。
パメラが分身パメラに宣戦布告を受けていた。
「〈新緑の里〉戦の時に使っていましたね。精霊を心変わりさせていました」
「なんと、デス!?」
「なお、対処法は簡単で、消せばよろしいとか」
「あ、そうデスね! 消えるデス分身!」
「そ、それは卑怯デース~~~~~」
セレスタンの助言でボフンと消え去る分身パメラ。
分身の悲しい運命なのだ。
「くっ、知ってやがりましたか! あんたたち、もっと頑張るでやがります!」
「そう言っても姐さん! 〈エデン〉強ぇっす!!」
「こんな強いなんて聞いてないぞ!?」
そりゃあ六段階目ツリーに至ったなんて公言してないもん。
ゼフィルスは、完全にお披露目の日をワクワクしながらこのために準備をしていたのだ。
一応〈天下一パイレーツ〉の多くはすでに五段階目ツリーを開放している。
なのに差がありすぎて〈天下一パイレーツ〉メンバーは激しくどよめいていた。
アタッカー担当の〈天下一パイレーツ〉5人がミジュ、セレスタン、ノエルを相手に戦っていたが、相手はこっちよりも少ないのに抜けない。下せない。
バフを慎重になったノエルも、バフだけでは〈上級姫職〉とは名乗れないんだよ、と言わんばかりに攻撃スキルや防御スキル、回復の歌まで歌ってきて援護していたのだ。そりゃノーカテゴリー系でも上位に分類される【賊職】とはいえそう簡単には抜けはしない。
「そろそろ、仕留める」
ここでミジュが飛び出した。
放出系だとモニカに吸われる可能性があり、どこまでなら大丈夫なのかセレスタン共々計りながら相手をしていたが、大体分かったのだ。
ここからはマジ本気である。
「くそう! 俺は上級高位職、【煉獄のアウトロー】だぞ!」
「俺だって【秘密結社首領】だぞ!」
「俺なんて【盗賊王】だぞ! 俺の活躍でみんな上級職に成れたんだ!」
なぜか職業自慢を始める〈天下一パイレーツ〉たち。
あと意外にも功労者の1人を発見。
せっせと〈芳醇な100%リンゴジュース〉を集め、〈リンゴとチケット交換屋〉で〈上級転職チケット〉を交換していた人物の1人だったようだ。
だが、そんな上級職自慢は。
「私は――【森界の熊掌者】。必殺――『森界・ヴィクトリーストロング・ベアード』!」
「くっ! 『ヘル・アウトロースラッシャー』!! ―――がはぁああああ!?!?」
「「「「アウトローーーーーーー!!」」」」
ミジュによるさらに強大な職業によって打ち破られた。
【煉獄のアウトロー】君がなんかちょっとかっこいい技名を唱えながら斧を振るうが、ミジュはそれに真っ向からストレートパンチを叩き込む。
それは勝利を掴む栄光の熊掌。森界をこのパンチで制してきたのだと言わんばかりの熊掌が、アウトローの斧をスキルごと弾き飛ばし、そのままアウトローのボディに直撃。アウトローも吹っ飛んだのだ。
そのままビクンビクンしながらダウンするアウトロー。
そのお腹にはクマの熊掌の跡がくっきりと残っていた。
「あのアウトローの自慢の斧がガチ負けしたぞ!?」
「うっそだろ!? なんだあの衝撃波!?」
「ってカバーカバー! アウトローがやられちまうぞ!」
「おっと、そうはいかせませんね」
「あ」
あまりの出来事に動きが止まるほどの衝撃を受けたが、なんとか再起動。
しかし、動きが止まるほどの隙をセレスタンが逃すはずもなく、いつの間にか良い微笑みを浮かべた執事が近くで拳を構えていた。
「あなたからいきましょう――『闘神拳』!」
「そんぐはあああああああああああ!?!?!?」
ズドンと叩き込まれる執事の拳。
その拳は、炎のように明るく、金色に輝いていた。
超近距離攻撃だが、その威力は絶大。セレスタン、最強技である。
そしてそれを受けたメンバーは僅か一撃でそのHPをゼロにし、〈敗者のお部屋〉へ飛んで行ってしまう。
「な、なあああああああ!?」
「一撃、だと!?」
「ば、バカな!」
「あれ? もしかしてヒーラー不在? だったら『滅びのメロディ』!」
「ってああああああ!? カウントダウン付いたーーーー!?!?!?」
ここでノエルも追撃。
〈六ツリ〉の〈カウントダウン即死〉スキル、『滅びのメロディ』である。
ただの〈即死〉ではなく、デメリットありの〈20秒カウントダウン即死〉にすることで付与率が大きく上昇した歌だ。
エリサもそうだが、最初っから〈即死〉を発動したりせず、何かワンクッション挟んだり、デメリットのようなものがあった方が〈即死〉は刺さりやすいのである。
モニカ以外の4人には、見事に『即死耐性』を貫通して〈20秒カウントダウン即死〉が付与していた。だが。
「ええい、それもよこすですよ! 『状態強奪』!」
「ええ!? そんなのありなの!?」
これはモニカが回収。
治すのではなく、奪う。4人の〈20秒カウントダウン即死〉が消えて、モニカに付く。しかし。
「『呪いなんかにびびっていられるか』!」
そうモニカがスキルを言った瞬間、ぽいっと〈20秒カウントダウン即死〉がどっかいく。
「ええええ!?」
強奪したものが悪いものでも効果を及ばさなくなる。奪ったデバフや状態異常は【強欲】には効かないのだ。なんて罪深い。
なお『呪いなんかにびびっていられるか』はパッシブスキルなのでそもそも唱える必要は無かったりするのだが、これは置いておこう。これもはったりきかせて大きく見せる戦略の1つだ。
また、これは回復とは違う系統なので、『回復妨害』系のスキルも効かない、非常に優秀な対状態異常&デバフスキルだったりする。
さすがは【強欲】。とても強い。
「ではこれはどうでしょう? 『雷拳』!」
「! 防ぎやがれです――『強欲の結界』!」
ここでセレスタンがモニカを狙う。六段階目ツリーの『雷拳』は、その言葉通り拳に雷を纏わせて突き刺す神速の一撃だ。
だが、これをモニカは結界を張って防いでみせる。
これはドレインシールド系。ダメージをHP回復に変換して自己回復するスキルだ。
これによりモニカのHPが回復するのだが。
「『執事の極みで結界は全て破壊です』!」
「なん、ですっ!?」
なんかとんでもないことを言い始めた執事の拳によって結界は破壊されてしまう。
六段階目ツリーを得た執事にとって結界は取るに足らないようだ。
【結界師】系が大泣きするぞ。
「パメラさん」
「小手調べはここまでデース!」
「なぬ!?」
その声は、モニカの後ろから聞こえて来た。
これはパメラの六段階目ツリー『大忍法・影渡り』。
影から影に瞬間移動するスキルである。そして。
「『くノ一流・氷雨』!」
瞬間、大量の斬撃がモニカの背中を襲う。
「ぐっ!? 体勢がっ!?」
「まだまだデース! 『大忍法・激炎龍爆楼』!」
竜の名のスキルは一味違う。
モニカが未だに体勢を立て直しきれないところへ追撃。
幻想の龍を出して突撃させる、噛みつけば大爆発を起こす。相手は〈敗者のお部屋〉に送られるだろう。
モニカもそうはさせないと踏ん張る。
「『強欲は、どんなものでも奪ってやる』!」
「―――――!」
それは遠距離攻撃スキル乗っ取りだ。
相手の攻撃をも奪おうとする【強欲】の化身。だが、さすがに〈六ツリ〉の龍をこの中距離で全てコントロール下に置くことはできず、進路を少し変更することしかできなかった。
しかし、これでなんとか攻撃を回避。とはいえホッと息を吐く暇も無く、パメラはさらなる攻撃を繰り出した。
「これも防がれるとか、今年の1年生もすごくやるデス!」
「どうでやがります! どんな攻撃が来てもへっちゃらでやがります! 全て防ぐでやがります!」
そう言ってモニカが両手盾を地面にドスンと叩き付ける。威嚇だ。
しかし内心は結構慌てている。どんな攻撃が来ても全て防ぐというのはハッタリだ。だが、ハッタリを使ってでもここを切り抜けなくてはいけないのである。
警戒して手を出しにくい状態になってくれれば良しだ。モニカは遠距離攻撃にはめっぽう強いが、近距離攻撃に対してはそこまで強いというわけではないのである。
だが、これが裏目に出た。
そんなモニカの力強いセリフに、パメラがニッと微笑んだ。
「良い啖呵デス! ならば受けてみるが良いデス! 私の最強スキルを!」
「最強スキル、です!?」
「いっくデース! 新ユニークスキル、発動デース! 『究極忍法・多重分身の術』デース!」
「分身!?」
ポポポポン!
パメラが唱えたのはユニークスキル。パメラの2つ目のユニークスキル、これもまた分身召喚だ。
だが、下級職とは違う部分がある。それが数。
実に16体の忍者が召喚されていたのである。さらに質も上がっている。
この16体の分身。
なんと独自に動き、独自にスキルを使ってくるのだ。つまり。
「いっくデース!」
「「「「いっくデース!」」」」
「『忍法・影分身雷竜落とし』デース!」「『忍法・炎・爆裂丸』デース!」「『忍法・影分身爆裂丸』デース!」「『巨大手裏剣の術』デース!」「『毒手裏剣』デース!」「『三属性手裏剣乱舞』デース!」「『豪炎斬波』デース!」「『氷結斬躯』デース!」「『雷斬り』デース!」「『大忍法・竜撃滅波』デース!」「『大忍法・彗星弾の術』デース!」「『大忍法・超巨大手裏剣の術』デース!」
そう、独自にスキルが使えるということは――全員が全員、別々のスキルを使いながら襲い掛かってくるも同義なのだ。
これは分身というよりも16キャラの飽和攻撃に等しい。
「な、なな!? ええい――『豪吸覇強盾』!」
これにはさすがのモニカも『心身強奪』を使っている余裕なんかなかった。
あれは1体のみにしか奪えない。さっきパメラの分身が2体いたはずなのに1体しか心変わりできなかったのはそういうことだ。なお『接触吸生』は未だクールタイム中。厳しい。
モニカはヤケクソ気味に防御スキルを発動。これもドレインシールド系。【強欲】の防御スキルは基本ドレインシールド系だ。
だが、いくら【大罪】の防御スキルとはいえ五段階目ツリーではこの規模のスキルの連打は防げず、砕けてしまう。そしてそこにさらなるスキルが突き刺さったのだ。
「きゃあああああ!?!?」
そしてモニカのHPは一瞬で削られていってしまったのだった。
「姉御? 姉御ーーー!? この『悪の首領バスター』!」
それを見た【秘密結社首領】が助けに入ろうとするも。
「邪魔デース! 『忍法・身代わり反撃の術』デース!」「『忍法・影縫い』デース!」「『真・お命頂戴』デース!」
「へ? あげぎゅるばっしゅ―――!?」
と、反撃されてしまい。瞬間移動してきた分身パメラに切られて失敗。影縫いで〈束縛〉されてしまい、そこへ分身パメラがやってきて『真・お命頂戴』でチュドンだ。
いっちょあがりである。
「トドメデース! 『くノ一流・桜雨』デース!」
「「「「「トドメデース!」」」」」
パメラはここで六段階目ツリー唯一にして最強の雨スキルを発動。
パッシブスキル『忍法分身・連動雨体術』の効果を受け、分身パメラ16人も本物パメラに続いて刀を抜く、そしてまるで桜の花びらが舞い散るような数の斬撃を四方八方からモニカに食らわせたのである。
「くうううううう! もう、無理でやがりますかーーーっ!?」
さすがのモニカも至近距離による飽和攻撃には対抗できず、そのHPもついにゼロとなり、1回目の退場をしてしまうのだった。
「おお~! パメラちゃんが勝ったー!」
「ふう。ヤバいクールタイムの数デース。これ超強いデスが、しばらく何も出来ないデスよ!」
このユニークスキルはあまりにも強いが、分身のクールタイムを共有しているため、同じスキルは発動できないのが難点。
ゼフィルスがパメラにやたらとアクティベートだけさせた攻撃スキルを取らせていたのはこういう理由だ。
パメラのユニークスキルは手数が命であり、保有するスキルの数で強さが変わるのである。
「あ、姉御ーー!?!?」
「そんな!? 我らがモニカ姉御が負けるなん――」
「これでデカいのが使える――『ビッグクマン・ギガデストロイフィスト』!」
「――ぎゃああああああああああ!?」
セリフの途中だったモニカの手下だったが、そこにミジュがこれまでの鬱憤を晴らすようにデカい〈六ツリ〉をぶっ放した。
それはミジュの背景に伝説級のクマンの親玉、ビッグクマンの幻影が立ち、超デカいクマパンチをお見舞いするスキル。対象のバフを無視し、『ダメージ減少』系を無視し、『物理耐性』系も無視する親玉ビッグクマンの特大熊掌が思いっきり男子をぶっ飛ばしたのだ。
一瞬で【盗賊王】と名乗っていた男子が転移陣の向こうに逝った。
さらには他にもいた〈天下一パイレーツ〉のメンバーたちも次々退場させられてしまい、結局この場を抜けられた者は皆無で、〈天下一パイレーツ〉のみんなはやられてしまったのだった。




