#1634 実況席から絶叫――六段階目ツリーお披露目!?
「さああああああやって参りましたーーーーーーー!! なんとこの学園、否、世界で最も強いと言われている集団、〈エデン〉のギルドバトル防衛戦の時間がやってきたぞーーーーーーーー!!」
「いやぁ、凄い大歓声ですね。ですがここまで盛り上がるのも分かります。〈エデン〉が防衛戦をするのは久しぶりのことですから」
「またあの熱き戦いが見られるのかと思うと拳に力が入るよね! ではここで実況席のご案内! 多数の選抜を潜り抜け、実況を勝ち取ったのはこのキャスと」
「実況相方であるスティーブンでお送りさせていただきます」
「そしてゲストはこの方! なんか〈エデン〉がギルドバトルする時にはちゃっかり実況席に座っている、〈学園の鳥〉所属――ユミキさんです!」
「はーぁい。みんな元気してたかしら? 実況ゲストのユミキよ。またこの席に潜り込めたわ」
「潜り込めたとか謎めいたこと言ってるけど!? とういうかゲストの応募者はユミキさんしかいなかったよね!?」
「ええ。根回しはすでに済んでいるわ」
「どんな根回ししちゃったのかな!?」
「え、ええ。このギルド〈エデン〉のギルドバトルはもはや世界中が注目しております。プロのギルドバトル選手たちすら、一目どころか全目を置いて信仰すら抱いているとも聞きます。そんな注目試合のゲストなんてそれはそれは取り合いが起きそうなものですが、というか、我々も選ばれるのにとても苦労しました」
「そうだよ!? 今までの〈エデン〉実況の実績とゲストがユミキさんじゃなかったらこんなにスムーズに決まらなかったくらいなんだからね!? ――あれ? となると、もしかしてユミキさん? なんかした?」
「キャスさんをここに入れるか抜くか、少し考えたわ」
「私の進退が掌握されてるーーーーー!?!?」
「こ、こほん。これは聞かなかったことにしましょう。聞いてはいけないことのような気がします。はい」
「安心してキャスさん。ちゃんとこうして呼んだじゃないの。実況は任せたわよ?」
「ひぇぇぇぇ!? 誠心誠意頑張らせてもらいますよ!!!!」
「あのキャスさんが敬語を、もう完全にどちらが上かハッキリしてしまいましたね」
「ふふ。それでは実況席も温まったことだし、ギルドバトルの話に移りましょうか。キャスさん、普通にしていいからね?」
「はい! え、ええーっと! こほん! 気を取り直してギルドバトルの解説に移るよ! 今日の試合はさっきも言ったとおり、防衛戦だーーーーーーー!! どこかの誰かがあの〈エデン〉にSランク戦をしかけたという。いったいどこのギルドだーーーーーー!!」
「それがほぼ全くの無名ギルド、〈天下一パイレーツ〉というギルドらしいです。ユミキさん、このギルドご存じでしょうか?」
「ええ。よく知っているわ」
「よく知ってるんだ!?」
「ここは今年、2つのDランクギルドが合併したところでね、その前身は〈天下一大星〉と〈カッターオブパイレーツ〉なのよ」
「おっとここで聞き覚えのある名前が出てきたーーー!! 〈カッターオブパイレーツ〉と言えば去年までBランクギルドのトップ3に入っていた強豪ギルドの名前! あれ? でもいつの間にか聞かなくなったね?」
「〈エデン〉にランク戦で敗れ、Cランク落ちしたところは知っておりますが、その後はまったくと言っていいほど聞かなくなりましたね」
「ええ。その認識で合っているわ。そしていつの間にかDランク落ちしていたのよ。内部分裂でギルド内がむちゃくちゃになっちゃったらしくてね」
「え、えええ!? それヤバいじゃん!? 解散の危機じゃん!」
「そうなの、さらに卒業シーズンも間に入ってきたことで主立ったメンバーも卒業しちゃったし、そこで〈天下一大星〉との合併を持ち込んで立て直そうとしたのね」
「思い出しました。〈天下一大星〉。去年の1年生ギルドで〈エデン〉、〈マッチョーズ〉と共に3強ギルドと数えられていたところではないでしょうか?」
「スティーブン君正解よ。今でこそ〈エデン〉1強になっちゃったけど、1年生の最初の頃は3強だったのよ、その1つね。こちらも〈エデン〉に〈決闘戦〉を挑んで返り討ちにあって以来、縮小の一途を辿っていたのだけど、年度末に立て直しを図るべく〈カッターオブパイレーツ〉と合併し、〈天下一パイレーツ〉が生まれたのね」
「起死回生の一手ってわけだ、それで今ではSランク戦が挑めるようになったとか、相当凄いんじゃないの!?」
「ええ。私もびっくりしたわよ。そしてその功労者なのが、今年から入学した新1年生よ。現在の〈天下一パイレーツ〉のギルドマスターをしている子で、名をモニカ選手と言うの」
「注目の選手ですね。ボロボロの2つのギルドをその身に背負い、まとめ上げてSランク戦を挑めるほどに強くしたとは。ユミキさんがこうも持ち上げるのも分かります」
「盛り上がってきたねー! というか元のギルドって両方とも〈エデン〉に少なからず因縁があるんだ!? もしかしてSランク戦に〈エデン〉を選んだのってそういうこと!?」
「ええ。大当たりだわ。モニカ選手ですら抑えつけられなかった衝動を胸に、〈天下一パイレーツ〉が暴走した結果が、このSランク戦と聞いているわね」
「ええええええええ!? 意外な理由が判明したーーーーー!!」
「因縁の対決ですか。〈エデン〉に負けた者同士が合併した〈天下一パイレーツ〉。これは注目度がアップしましたね」
◇ ◇ ◇
「さああああああああ試合開始です!!」
「〈エデン〉〈天下一パイレーツ〉、共に初動で全方向に散らばりました。ユミキさん、これは?」
「ここ〈九角形〉フィールドではメジャーな戦法ね。去年ここのフィールドでギルドバトルを繰り広げた〈キングアブソリュート〉VS〈千剣フラカル〉戦でも初動は同じ感じ、全方向に散らばってマス取りをしていたわ」
「あの時のことは僕も覚えております。中央の天王山確保、それにその先の本拠地の牽制が壮絶でした」
「ええ。本拠地同士が丸見えなものだから油断が全くできないのよ。故にフィールドの中央付近は壮絶な争いでマス取り合戦が為されていたわね。〈エデン〉も同じ、というわけでは無さそうね」
「今回はあの時とは違い、障害物が設置されております。そのせいかおかげか、戦略的な動きが強くなっているように感じますね」
「ああーーーっと! 〈北巨城〉攻略組にゼフィルス選手の姿を発見! 速い速い! それになんだあの装備は!?」
「あれは、新装備? にしては弱そうだけれど。いえ、AGI特化装備? 移動速度を中心に上げてきている、のかしら?」
「それでは対人戦で不利なのでは? ギルドバトル〈城取り〉では前半の巨城取り、中盤のマス取り、後半の対人戦と大体のステップが分かれております。たとえ前半の巨城取りを制したとしても後半の対人戦で全てを奪われるということも多く、装備は対人戦のものになりがちなものですが」
「ええ。私も同じ認識よ。つまり、〈エデン〉には何かあるわ。1年生の時は足装備だけは『移動速度上昇』が付いたものをつけていたくらいだもの。今回はそれの全装備版ね」
「さあああああ! 〈北巨城〉にばかり注目したいところですがそうもいきません!? 中央の天王山付近では壮絶なマス取り合戦が始まってるぞーーーー!!」
「まるで〈キングアブソリュート〉VS〈千剣フラカル〉の焼き直しだわ。いえ、でも〈エデン〉がぐいぐい押しているわね」
「スピードが違います。みんな移動特化型の装備でしょうか? それにLVもだいぶ離れているように見えます」
「ああ!? 〈天下一パイレーツ〉の2名がマスを取ろうとする瞬間吹っ飛んでいったーーーーーー!!」
「〈キングアブソリュート〉VS〈千剣フラカル〉戦ではお互いのレベルに差はほとんど無く、上級職の有無とユーリ王太子の凄まじい殲滅力が勝負の決め手だったけど、こっちはもうなんというか、〈エデン〉のレベルが高すぎるように見えるわね」
「確か〈エデン〉は上級上位ダンジョン攻略中と聞きます」
「ええ。この前も攻略していたわね。それに対し〈天下一パイレーツ〉はようやく上級下位の後半。上級中位ダンジョンに入れるようになったか否かくらいだったと認識しているわ。LV差が20以上はあるのではないかしら?」
「20!?」
「待ってください、北側のゼフィルス選手、進路を東に変更しました!」
「ええ!? 〈北巨城〉はどうするの!?」
「後続が向かうみたい。ゼフィルス君は――〈東1巨城〉狙いみたいよ」
「そっちかーーーーー!?」
「誰もが〈北巨城〉の先取が誰になるかを注目していたところに〈東1巨城〉狙い! これは〈世界の熊〉戦で見た戦法、〈エデン流・救済東西ぶった切り〉戦法に似ています!」
「南側も〈東4巨城〉を狙っているわ、いえ、もしかして〈東3巨城〉も?」
「えええええええええ!? ちょ、〈九角形〉フィールドって東西の巨城はほぼ〈救済巨城〉じゃなかったっけ!? どっちの本拠地からも同じ距離にある〈北巨城〉の確保が重要だって聞いたんだけど!?」
「ええ。キャスさんの認識で間違っていないわ。でも〈エデン〉にとっては、〈北巨城〉は手に入れて当然、むしろこれを見ると……東側にある巨城を何個取れるかということが重要みたいね」
「どういうことーーーーーー!?」
「〈東1巨城〉に、ついにゼフィルス選手がたどり着きました! ―――は?」
「え!? 何今の!? ゼフィルス君の装備が一瞬で変わって、なんだあのかっこいい装備はーーーー!?!?」
「これは魅せますね。どんな原理かは分かりませんが、ゼフィルス選手は一瞬で装備を換装しました。この立ち上るオーラ、間違い無く上級、それもかなり高位の装備では?」
「上級上位級装備……もしかして〈六ツリ〉?」
「え? 今ユミキさんなんて――?」
「あああああああああああ!? なに!? なにあの竜はーーーー!?!?」
「雷の竜? ゼフィルス君の技? こんなの見たことが無いわ」
「〈東1巨城〉大ダメーーーーーージ!!」
「ユミキさん、今の技は?」
「…………この私でも知らない、初めてみる魔法だったわ。やっぱり、伝説の六段階目ツリー?」
「ろ、六段階目ツリーーーーーーーー!?!?!?!?」
「六段階目ツリーですか!? 本当なのですかユミキさん」
「音を拾うわ。ゼフィルス君を中心に情報を――これは?」
「あ、あああ!? なんか各地で見たことの無いスキルや魔法が撃ちまくられているよーーーー!?」
「ユミキさんこれは!?」
「…………この私としたことが、見誤ったわね。六段階目ツリーはゼフィルス君だけの技じゃない。もう、〈エデン〉全員が六段階目ツリーを使えるみたいよ」
「ええ、えええええええええええええええええええええ!?!?!?!?!?」
「観客席でも大絶叫が轟いています!」
◇ ◇ ◇
「ああ、ああああ、これはーーーーー!? 〈東2巨城〉、〈東4巨城〉も〈エデン〉の手に落ちたーーーーーーーーー!!」
「残りは〈東3巨城〉のみ。ですが、これはまだセーフ! 〈天下一パイレーツ〉が確保! 確保しました!」
「あれがモニカ選手ね。現〈天下一パイレーツ〉のギルドマスターよ。でも、上空モニターを見て固まっちゃったわ……」
「こ、この〈九角形〉フィールドで8城取るってマジどういうことだーーーーー! 私、今ならモニカ選手の心境が分かる気がするーーー!!」
「むしろ確保しなかった方が良かったまであるかもね。私なら、全巨城を〈エデン〉に差し出してギブアップしていたかもしれないわ」
「モニカ選手の次の行動や如何にーーーーーーーー!!??」




