#1633 初撃で決まる、サクッとあげて美味しい天プラ
「カルア、行くぞ!」
「ん!」
俺の言葉にカルアも気合いを入れて力強く頷いた。
そう、対人戦の時間だ!
もうここから南側の巨城全てには人員を向かわせているため、俺とカルアの巨城確保はここまでだ。
ここは赤本拠地から一番近い〈東2巨城〉だ。赤本拠地に進路を変更し、プレッシャーを掛けつつこの付近の小城マス確保に走るのが最善。
それが俺たちの担当だな。
「セレスタンたちは〈東3巨城〉へ!」
「承りました」
「2人ともがんばってね~! 『エールベストパフォーマンス』! 『コングラチュレーション』! 『音速リズム』!」
「サンキューノエル!!」
まだ〈東3巨城〉は陥落していない。差し込みチャンスはあるかとセレスタンとノエルにはそっち方面に向かってもらう。これは別の狙いもある一手だ。
また、同時にノエルから新たなバフを3つも貰った。まだ3倍バフが付きっぱなしだというのに。
これらは全て六段階目ツリーで開放された新たなスキル。
『エールベストパフォーマンス』は今までのエール系の集大成。攻撃力、防御力、魔法力、魔防力、素早さ、の全てが大上昇するスキルだ。
さらに『コングラチュレーション』は、なんとクールタイムを軽減してくれるスキルである。最大LV10の時で全てのクールタイムが3割減するんだ。意味が分からん。いいぞもっとやれー!
まあ、俺の『クールタイム軽減』と重複しないのが難点だ。くっ!
最後の『音速リズム』は素早さ上昇となんと――スキルと魔法の回転率上昇。
ルルのように2回攻撃出来るレベルまで回転率が上がるわけではないが、これもLV10の時1.3倍速くらいの速度でスキルを使うことができるようになるのである。
とんでもヤバい!
しかもエール系と効果が重複するため素早く動くことができるというおまけ付きで、接近戦アタッカーと相性抜群だ!
もちろん全てパーティ用なので俺とカルア、両方ともバフが付く。
それを終えると、ノエルはさらにエール系の効果が延長する『ボルテージアップ』を唱えながら走って行った。
俺たちもサターンたちに向き直る。
ちょうどその時、保護期間が消えたのだ。
「お、おのれゼフィルスー!! かくなる上は、ここで引導を渡してやる!」
「はーっははー! サターンたちが俺に勝とうなんて億年単位で早すぎるぜ! 受けて立つ!」
「ふふ!? 億年!?」
「生涯不可能だとでも言うのか!?」
「パワーアップした俺様たちの力を、見せつけてやるぞ!」
保護期間は相互に攻撃をブロックしてしまう。
それが無くなったからには攻撃はすでに解禁されているし、サターンたちもこちらのマスに入れるようになった。というか怒りの表情のままこっちのマスに飛び込んで来た。
おお、サターンたちだけじゃなく、後方の5人も一緒に!? 結果9人が相手である。
「喰らうがいい! 『闇色の特炎』!」
先手はサターンたち。一斉に俺たちに向かって攻撃し、飛び掛かってきたのだ。
「カルア、本気出しちゃっていいぞ!」
「ん! ――『エージェント・レイド・クロネコ』!」
瞬間――猫が溢れた。
「「「「「ニャー!!」」」」」
「は?」
―――『エージェント・レイド・クロネコ』。
レイドの名の通り、エージェント猫が大量のレイドになって襲い掛かる猫津波。広範囲攻撃だ。
あの〈猫ダン〉や〈猫猫ダン〉を思わせる猫津波を、個人でできるスキル。
大量に現れた猫たちの津波は、ノエルのバフのおかげで超強化されており、威力は3倍。サターンの闇色の炎やその他諸々を飲み込んで奴らに強襲した。
「猫、猫が!」
「うおおおおお! 『英傑の運命』! 『最強戦士・超ボディガード』! のあああああああ!?!?」
「ヘルクーーーーー!?」
最初にその身に全ての猫を集め飲み込まれたのは、ヘルクだった。
「ふふ!? ヘルクが一瞬で猫の津波に呑まれた!? ええい! 『方位八回破壊剣』!」
「やらせるかー! 『撃滅・大斧剛都落ち』!」
「「「「「うおおおおおおおお!?!?」」」」」
ほほう、あれらのスキルは五段階目ツリー。
サターンたち、なかなかやるじゃないか!
だが、惜しむらくは、おそらく五段階目ツリーになったばかりくらいのLVだというところだ。
猫による強力なレイド攻撃は、五段階目ツリーになったばかりというスキルたちを飲み込み、次々と〈天下一パイレーツ〉の面々に襲い掛かっていったのだ。
あまりに強すぎるぜ! さすがバフ増し増し、3倍増し!
この光景、見覚えがある。主に〈猫猫ダン〉とかで。
プレイヤーがわざと禁足地に踏み込んで猫津波の餌食になった動画と瓜二つなんだよ。
なお、猫津波に猫津波をぶつけてみたとかいう動画もあって、あれは見ごたえあった。和み動画だったな。
あのギミックが今リアルで目の前にあると思うと、ちょっと感慨深くなる。
しかし、いくら六段階目ツリーと言えど、あれほどの攻撃で反撃されては相当威力が落ちたようで、全員戦闘不能までいかなかった。あのヘルクも耐えてやがる。
だが、サターンたちは猫たちに手一杯になってしまい、次の俺の攻撃に対処する余裕はなさそうだ。
――よし、今だ。
「ゼフィルス!」
「おうよ! 光に還れ、これぞ勇者の斬撃―――『インフィニティ・バニッシュセイバー』だーーーー!」
「しまっ―――」
瞬間、俺の剣から大量の光の奔流が生まれ、それら全てが相手を斬り滅する光の刃となってサターンたちに襲い掛かった。
全体攻撃。これが全てを光に還す勇者の斬撃だ!
俺の盾を一時的に剣へ重ね合わせると膨大な光を放ちながら1本の巨大な剣となる、普段片手持ちの剣を両手で持って、思いっきり振るった。
この『インフィニティ・バニッシュセイバー』は、LV10だ!
「バ、バカなーーーーーーーーーー!!!!」
「ふうううううううううううううう!?!?」
「あああああああああああああああ!???」
「俺様を忘れないでーーーーーーー!!!!」
ズドドドドドドドドドオオオオオンッという凄まじい、ちょっと斬撃の音とは思えない衝撃音が炸裂。観客席からは大歓声が聞こえた気がした。
そして猫の津波と光の斬撃が消えた後、光が晴れた場所には―――サターンたちは残って居なかったのだった。
〈敗者のお部屋〉への移送完了。
3倍、強すぎ!!
◇ ◇ ◇
所変わり、こちらはノエルとセレスタン。
最近のギルドバトルの初動では、大体コンビを組むようになった2人である。
前回のクラス対抗戦ではノエルを守ることが出来なかったセレスタンだったが、あれからさらに修業を積み、六段階目ツリーを開放したことでもうあの頃のようなことは起こさせないと誓っていた。
ノエルはノエルで、自分はサポート職なのだから戦闘職に挑まれたらひとたまりもないとは分かってはいるが、六段階目ツリーとなり、新たなスキルを開放したことで、そう簡単にやられないんだからねという意欲を全身から発している。
2人はゼフィルスと分かれた後、指示通り〈東3巨城〉の差し込みに向かっていた。
「ここを過ぎれば、〈東3巨城〉が見えてきます」
「〈東3巨城〉を取っちゃったらほぼ勝ち確定だよね!」
そう。すでに〈天下一パイレーツ〉は〈東1巨城〉と〈東2巨城〉、さらに〈北巨城〉まで奪われているのだ。
また、〈東4巨城〉もクイナダとゼルレカのツーマンセルが先に隣接を確保し、後続のレグラムやオリヒメたちと共に巨城攻略中。
ここで〈東3巨城〉まで奪われたら、本格的に負けが確定する。
〈東2巨城〉から〈東3巨城〉へ向かうルートには、途中大きな観客席が有り直線で進めない。故に、一度大きく迂回しなければならない。
赤本拠地にかなり近づくこともあり、普通は通るのも困難な道ではあるが、現在は初動。
ギルドメンバーが各地に散っていて人員不足ということもあり、ノエルとセレスタンの侵攻をブロックできるだけの人員が居なかった。
よって、すでに保護期間が無くなり、普通の赤マスになっているマスを踏んでノエルとセレスタンは〈東3巨城〉に向かう。そこにあったのは、
「む、これは」
「わ! 道止められているし! ――パメラちゃん!」
「ノエルさん! セレスタンもいるデース!」
「セレスタン先輩?」
「ミジュさんもいましたか。ここで足止めを食っているのですね」
「ギリギリ入れなかったデース! 悔すぃーデース!」
そう、そこには〈東3巨城〉への道にマス線を敷かれ、保護期間によって通せんぼうされているパメラとミジュのツーマンセルがいたのだった。
そしてその奥では、〈天下一パイレーツ〉のリーダー、モニカが険しい顔をしながら巨城への攻撃を指示し、計6人で巨城攻略をしていたのだった。
そして無事、〈天下一パイレーツ〉は〈東3巨城〉をゲットできたのである。




