#1625 モニカの苦労。兎を狩るにも全力の〈エデン〉
〈エデン〉と〈天下一パイレーツ〉が対面して挨拶する。
は~、なんか、すっごい豪華じゃないですこれ? とその装備や雰囲気に圧倒されるモニカ。
なお、〈天下一パイレーツ〉はその力の差を欠片も分かっていないらしい。
知らない方が幸せとは、まさにこのことだった。
「ついにこの時が来たな、ゼフィルス! あの時の再戦だ!」
「おう! 俺たちも楽しみにしてたぜ!」
そう、青春的なやり取りをするうちのサブマスターと向こうのギルドマスター。
本来はモニカがゼフィルスと相対するのだが、というか対面にいるのだが、なぜか横に居たサターンが割って入ったのだ。後で分からせないといけない。
だが、〈エデン〉のギルドマスターはそう答えた後、ちゃんとこちらにも挨拶してくれる。
「言葉を交わすのは初めてになるか。初めまして。俺が〈エデン〉のギルドマスターゼフィルスだ」
「あたしはモニカ。この〈天下一パイレーツ〉のギルマスを張ってるですよ。こちらこそよろしくですゼフィルス先輩」
舐められないためにちょっと強気の物言いをするモニカ。
あと、サターンにはゼフィルスを見習えと鋭い視線も送る。もちろん、そんな視線にサターンは気が付かない。
モニカは効果無しと分かると改めてゼフィルスを観察する。
一言で言えば強そうでかっこいい。あれ、二言しちゃったかも。そんなことを考えながら、やっぱり〈エデン〉に挑んだのはこいつらメンバーたちの僻みなんじゃないか説が真実味を帯びてきたと感じるモニカ。
どう見てもゼフィルスは悪い人には見えなかった。
モニカはサターンたちから、如何にゼフィルスが自分たちに非道をしてきたのか、その仕打ちを語って聞かされていたのだが、もちろん話半分でスルーしていた。というか話半分で聞いてもそれは非道ではないのでは? と思っていたモニカ。
本人を見て、自分の考えが間違っていないと確信した。
じゃなければここまで正道の強者オーラは出せまい。
モニカは自分たちのギルドメンバーに顔を向ける。
うん、ほとんどみんな禍々しいオーラを出している。
しかも禍々しいオーラが目の前の〈エデン〉のメンバーズに全く届いていない。
これは、本当に一方的になる予感。
いや、サターンたちに任せていたら本当に一方的になるだろう。モニカがなんとかしないと。
いや無理だろう。だってここ〈九角形〉フィールドは、個人戦が生きるフィールドである。
第一アリーナという特大の空間に九角形のフィールドが設置されており、その中央から東西に約20マスを挟んで本拠地が建っている。
巨城はそんな本拠地やバトルフィールド全体を囲むようにして全方向にあるのだ。
つまり、かなりばらけなくてはいけないということ。
さらに障害物の位置も絶妙で、かなり大回りしなくてはならないところもしばしばあり、自陣の本拠地の周りも死角だらけ。赤チームである〈天下一パイレーツ〉はフィールドの中央東側に位置し、そのすぐ東側は観客席があるため本拠地が攻められることは無いが、その代わり南北からは死角を利用した奇襲がされやすい。
というか、本拠地同士が約20マスを挟んでいるとは言え障害物無しで丸見えってマジどういうことよと思うモニカ。本拠地に人がいないことも常にモロバレであり、本拠地の警戒を怠れないフィールドなのだ。
まさに対人戦の為の聖地と言える。
さらに死角を無くすべく抑えておくべき要所が何カ所も有り、相手とぶつかりやすいのもネックだ。
部隊を多くバラけさせなければならず、個人戦になりやすい。
なによりとんでもないのは、このフィールドは力押しが可能だという点だ。
〈エデン〉がなぜ〈九角形〉フィールドを防衛戦に選んだのか。
先程も言ったとおり、本拠地は丸見えだ。中の様子が、基本丸わかりなのである。
そのため「あ、本拠地に今人が少ないぞ! 突撃ー!」ということが多分にあり得る。対人戦でまともにぶつかれば、勝つのは〈エデン〉である。
本拠地が丸見えということは、〈エデン〉がいつ本拠地に襲ってきてもおかしくないという意味であり、そのまま力押しで陥落させられてしまうことも示唆している。
あかん。マジ〈エデン〉に有利すぎるフィールドやん。
モニカの心境は、まさにそんな感じだった。
さすがはSランクギルドで1位の実力者。兎を狩るにも全力を出すらしい。
もう一度モニカはゼフィルスを見る。
うん、なんだろう。ゼフィルスの顔が、すごく輝いていた。まるで全力でギルドバトルを楽しみたいみたいに見える。
手を抜いたり、油断したり、防衛戦が怠いみたいな雰囲気は一切感じ取れず「せっかくの機会、全力を出し切って楽しみまくってやるぜ!」と言わんばかりだ。
なんだかこの笑顔、知っている気がする。というかインサー先輩たちと同じじゃない?
モニカは天を仰いだ。
「では始めるよ! 転送してから5分後に開始だ! お互い、悔いのない戦いをしな!」
そう宣言するのは審判であるラダベナ先生。
お母さんの仲間だったラダベナ先生がモニカの方を向いて口角を上げる。
まるで世界の大きさを実感してきなとでも言わんばかりの激励的な笑みだった。
モニカはその表情を正しく理解し、気を引き締め直した。
そして転移する。
総勢50人。
下部組織にいたメンバーも全員参加する、まさに一大イベント。
モニカは振り返って告げる。
「全員、地図と作戦は頭に入っているですね!? 相手は生半可な相手じゃない、それ今一度しっかり認識しやがれです!? また、重要なのは保護期間で壁を作ることでやがります! 本拠地を攻められたら負けだと思いやがれです!」
そう、モニカが真剣に告げる。しかし、
「なんだと!? 我らは負けんぞ!」
「ふふ、僕たちを侮ってもらっては困りますよ?」
「そうだ! むしろ攻めてくるとなればゼフィルスが居ることは確実。返り討ちにしてやるよ!」
「大活躍して俺様が守っていることを思い出させてやろう!!」
「シャーーラーーーップ!! お黙りやがりなさいあんたたち! いいから作戦はちゃんと覚えていやがるですね!? ワンミスも許されない試合なんでやがりますよ!」
なぜか強気に反論するサターンたちを分からせてあげたいと思うも、モニカはグッと飲み込んで作戦作戦と連呼する。
ワンミスも許されず、みんな作戦通りに動け、誰かが勝手な行動を取ればそれだけで負けるのだと言い聞かせた。
「了解です姉御!」
「俺たちをここまで導いてきてくれた姐さんだ! もちろん抜かりはないさ!」
「あんたたち!」
もちろん自分に付き従ってついてきてくれる子も多い。
みんなサターンみたいではないのだ。
その者たちが雰囲気を変えてくれたおかげで、モニカは事前の役割を、なんとか5分以内に終えることが出来た。
「それじゃあ配置に付きやがれです! ぬかるんじゃねえですよ!」
「「「「おおー!」」」」
気合いを入れ、今か今かとブザーが鳴るのを待つ〈天下一パイレーツ〉。
そして、上空にあるスクリーンがカウントダウンを始め、それがゼロになる。
ブオーーーーっと第一アリーナ全体にブザーが鳴り響いた。
――――試合開始。




