#1622 フルバトル提案!?やらかしサターンの伝説の台詞
〈天下一パイレーツ〉が宣戦布告してきたことでランク戦の日取りを調整する。
基本的に受ける側は、よほどの理由がなければ日程を変更することはできないので、〈天下一パイレーツ〉の要望を受ける形だ。
その代わり、フィールドは防衛側が選んで良い形になっている。
また今回は、サターンとジーロンのやつが粋な提案をしてきたのだ。
「Sランク戦スタンダードの〈30人戦〉ではつまらん! 我らはローカルルールの適応を望むぞ! 〈50人戦〉フルバトルを提案する!」
「ふふ、それに〈敗者復活〉ルールも有りというのはいかがです?」
「おいおいサターン、ジーロン、そりゃ最高じゃねぇか! だが、人数は50人揃えられるのかよ?」
「俺様を忘れてもらっては困るぞーーー!」
「待て待て待てー! ちゃんとヘルクも頭数に入ってるから安心しろってー!?」
ヘルクが危機感を抱いてトマに取り押さえられていたが、それはともかくだ。
言うまでも無く〈天下一パイレーツ〉はついこの間までBランクギルドだった。
Bランクギルドの上限人数は30人まで。
Aランクギルドに昇格したとしても40人だ。
数が合わない。やっぱりサターンの脳は……と普通ならば考えてしまうだろう。
しかし。
「無論、この提案にはお互いに下部組織からも挑戦者を出していいものとする!」
ローカルルールで下部組織を入れられるようにすれば〈50人戦〉という人数も解決できるのだ!
ここで驚きなのが、〈天下一パイレーツ〉が下部組織を持っていたことと、そのギルドランクがDランクで20人上限まで収容し、さらに全員がSランク戦でも戦えるだけの実力があるという点だ。
「ふふ、僕たちを舐めないでくださいね。ゼフィルスに勝つという野望のため、またはSランクギルドになるために、人材を引き抜いて引き抜いて、選び抜き、強化してきたのです。まあ、人材の確保は主にモニカがやっていたのですが」
「他人任せじゃねぇか」
それは舐められても仕方のない案件なのでは?
だが、それはともかくだ。なるほど、こいつらの無駄な自信はこれだな?
―――〈50人戦〉。
それは魅力の固まり。
50人というのはギルドバトルに1つのギルドが出せる限界値であり、フルメンバーのバトル、通称フルバトルとも呼ばれている。
これならば〈エデン〉のほぼ全ての実力者をギルドバトルに出すことができる。
頷かないなんてことはない。
さらに〈敗者復活〉ルールは文字通り戦闘不能になっても〈敗者のお部屋〉で10分過ごしたのちに、本拠地で復活するというルールのことだ。
Dランク試験の時のことを思い出すなぁ。2回まで復活できるのに、なぜかギルドマスターだけ3回やられて〈敗者のお部屋〉から出られなくなってしまったのは悲しい事故だった。
これは本拠地の陥落があまり起こらず、対人戦をメインにするルールでもある。
〈エデン〉相手に対人戦を仕掛けてくるだと~?
大歓迎だ! 俺たちも張り切っちゃうぜ!
「くくく、これでゼフィルスと何度も戦えるな」
「ふふ、ええ、これでゼフィルスを3度も倒し、最後は〈敗者のお部屋〉から出られなくしてあげられますね」
「これまでの鬱憤を晴らす絶好の機会だ!」
「俺様を忘れられないようにしてやるぜ!」
「混沌!!」
そんなことを小声とニヤけヅラで話す〈天下一パイレーツ〉に、テンションの上がりまくった俺は気が付かないのだった。
日取りも提案され、俺は喜び勇んでギルドハウスに帰った。
◇
「シエラ! リーナ! シエラ! リーナ!」
「どうしたのゼフィルス、そんな呼ばなくても聞こえているわよ」
「ゼフィルスさん、話し合いはいかがでしたの?」
「聞いてくれよシエラ、リーナ! サターンたちが大変なことを言い出したんだ! なんと、ローカルルールの〈50人戦〉を提案されたんだよ! しかも〈敗者復活〉ルールも追加だ!」
俺の言葉にシエラもリーナも驚きの表情をする。
ローカルルールと言えば〈決闘戦〉。〈決闘戦〉ならば全てのローカルルールを使用可能だが、ランク戦でも一部のローカルルールは使用可能となっている。
Eランク戦でもやった人数の変更、Dランク戦でもあった〈敗者復活〉もランク戦では可能。加えて下部組織からの参戦もお互いが同意すれば可能だ。
普通は防衛側が許可しないので成立することは稀だが、俺は許可したぞ!
フルバトルなんて年に1回あるかないか。
かの〈キングアブソリュート〉VS〈千剣フラカル〉戦でも無かった、一種の一大イベントだ。
そりゃ驚きが勝るというもの。
と思ったのだが、シエラたちは別なことを思っていたようで。
「……サターンたち、やらかしたわね」
「そんなゼフィルスさんがはしゃぎそうなことを提案するだなんて、ご愁傷様ですわ」
なぜか哀れむような目をするシエラと、目を瞑り彼らを黙祷するかのような仕草をするリーナ。
だがそれもすぐに終え、俺に詳しい話を聞いてくる。
「それでゼフィルス、日取りは?」
「1月24日、土曜日の午前だ!」
「今日からほとんど1週間後ね」
うむ。〈天下一パイレーツ〉と〈新緑の里〉がぶつかったのが昨日、1月17日の土曜日だった。
学園には防衛実績やランク戦に勝利した場合、向こう1ヶ月はランク戦を挑まれないルールがあるが、自分から仕掛ける分にはこのルールは適用されない。
故に1週間後に挑むにしても問題ないわけだ。
また1週間後というのは、相手が断れない準備期間の日数でもある。
なにしろ防衛側は日程をずらすことが基本できないのだ。明日ランク戦したいです、なんて急に言われてもOKなんて普通はできない。
そのため、もし明日急にランク戦がしたいです、なんて言われた場合は防衛側はNOと断る事が出来る。その時は最長で1週間まで延長ができる、という訳だ。
〈天下一パイレーツ〉は俺たちに宣戦布告してきたその足で〈ギルド申請受付所〉に行き、最短の申請時期として1週間後を指定してきた、という形だな。
「というわけで早速みんなを集めてブリーフィングがしたい!」
「今日あなたが〈天下一パイレーツ〉に呼び出されたと聞いたときからそうなるんじゃないかと思っていたわ」
「みなさん、ダンジョンにも行かずに待っていましたわよ。〈天下一パイレーツ〉、いいえ〈天プラ〉さんたちは〈新緑の里〉の勝利に浮かれてインタビューでも言っていましたものね。次は〈エデン〉だって」
そうなのだ。なぜシエラもリーナもそんな慌てておらず、しかもギルドハウスにみんながすでに集まっているのかというと、〈天プラ〉さんたちが調子に乗って勝利者インタビューの時に言ってしまったのだ。
―――「次の我々の標的は〈エデン〉だ! 近々我々は〈エデン〉へと挑み、そして学園の真のトップが誰かを学園中に知らしめてやろう!」
あのサターンのセリフは、もはや翌日には伝説になっていた。
その言葉をみんなが正しく飲み込んだ瞬間、インタビュー中にもかかわらず大喝采が上がったからな。
「まさか、〈エデン〉に挑むものが現れただなんて、こいつは凄いぞ、祭が始まる」と。
その時のサターンたちは「学園に新たな指導者が生まれることを、みな喜んでいるのだな」とか考えていたに違いない。自分たちが負けることなんか、欠片も思っていない顔をしてたんだ。
凄まじくドヤ顔だったからなぁ。そして、大喝采にさらに調子を良くしていたんだよ。とても調子に乗っておられた。
おかげでうちにもインタビュー来ちゃったもん。
ユミキ先輩から「ついに〈エデン〉に挑戦者が現れました! Cランク戦ぶりの防衛戦ですが、〈エデン〉の心境をお聞かせください」的なことを言われ「〈天下一パイレーツ〉は真のトップを決める戦いと言っていますが、その見解を聞かせていただけますか」とか聞いてきて煽る煽る。なぜかその後ろに興奮したオスカー君まで連れていたんだ。あとついでにオスカー君の弟子なる新学年まで紹介されたよ。
これは〈天下一パイレーツ〉、やっぱやめたとか絶対に言えない雰囲気になってしまったのだ。
遅かれ早かれ、年度末までにはランク戦は行なわれるだろう、そんな雰囲気の中、今日俺が呼び出されたことでみんな察したという訳だ。
「それじゃ、みんなに声を掛けてくるわ」
「わたくしも、あ、その前にユミキ先輩に連絡した方がいいでしょうか? ――カイリさんいらっしゃいますか?」
「あ~、安心してよリーナ君。すでにその情報はユミキ姉まで伝わっているからさ」
「まぁ、耳が早いですわね」
「あそこには最近有名になったコンビがいるからねぇ。そっからの情報らしいよ」
「あの〈神出鬼没の混沌〉さん絡みですか。では、わたくしたちもメンバー招集に加わりましょう――『ギルドコネクト』ですわ!」
「私も手伝うね~」
こうして久しぶりのSランク戦の波は大きく動き出す。
ブリーフィングを重ね、俺たちも自分磨きを敢行しつつ日は過ぎていき、ついに〈巣多の樹海ダンジョン〉の最奥へと到達。攻略完了。
そのことをまだ内緒にしつつ〈空島ダン〉や〈巣多ダン〉でボス周回を開始したのだった。
装備も順調に、超順調に全員分を揃えることに成功。
そして俺たちのレベルも―――ふはは!!
そんなことをしていれば日はどんどん過ぎていき、あっという間にSランク戦の日、1月24日がやって来た。俺たちの準備も万全だ!!
―――Sランク戦、〈エデン〉VS〈天下一パイレーツ〉の戦いが始まる。




