#1621 新Aランクギルド爆誕!正式な宣戦布告!
新Aランクギルド爆誕! その名も〈天下一パイレーツ〉。
今まで無名。
新進気鋭(?)の1年生が率いるギルドということもあって話題を呼び、インタビューまでされて一躍学園で最もホットな話題として一気にその名が広がった。
うん。実際凄い。
〈新緑の里〉は決して弱いギルドでは無い。
その正体はオール「エルフ」カテゴリーという超強豪ギルドだ。
ここ半年以上、防衛戦では負け無しだった実績を見てもその実力の高さが分かるというもの。
そんなところにいきなりのし上がってきた〈天下一パイレーツ〉なる無名のギルドが勝ったのである。これがあまりにも衝撃的過ぎたのだ。
実際は〈天下一パイレーツ〉は、〈天下一大星〉と〈カッターオブパイレーツ〉という、そこそこ有名なギルドが合併したギルドなのだが、そんな話はすでに過去に忘れ去られ知名度は無いに等しい。
さらには半年以上にわたり変動しなかったAランクギルドが、ついに変動したのだ。
話題性は十分だった。
そしてなにが起きたかというと、学園で一躍有名になっちまって鼻が伸びきった例の方々が、調子に乗ってしまったのだ。
「ふは、ふはははははははは! どうだゼフィルスよ! 俺たちの活躍は!!」
「ふふ、ふふふふ。笑いが止まらないとはこの事です」
「俺の活躍を見たか? あの――」
「俺様を忘れてもらっては困るぞーーーーーーーー!!」
「ちょ、このヘルク! まだ俺が喋っている最中だぞ!?」
俺の前で高笑いするサターンと超自慢げに含み笑いするジーロン。
なお、トマが喋っている最中に何やらヘルクの魂の叫びが割り込んだが、特に気にならない。
ギルドバトルが終わった翌日。
俺はこの4人に呼び出されていた。
場所はとある丘の上。
この学園都市で、唯一建物以外で高い位置に聳える場所だ。
丘の下を見れば、この場所に繋がる唯一の道である坂道で筋肉が兎跳びをしている。
その坂道は、通称筋肉ロードとも呼ばれている近寄りがたいエリアだ。
その天辺であり、頂上であり、行き止まりの場所。あるのは奥に1つの小さな祠だけで、それ以外は小さなちょっとした広場、憩いの場となっているエリアだ。
そこに、俺はこいつら4人から呼び出されてきたわけだ。
完全に調子に乗っておられる。ヘルク以外。
「ふはははははは! 驚きすぎて声も出ないか? 我は鍛えに鍛え上げ、時にはギルドマスターの座も譲り、強くなったのだ!」
サターン、ギルドマスターの座を譲ったのではなく乗っ取られたのではないか?
正直に言ってみ?
「ふふ、ふふふふふ。こうしてゼフィルスに自慢出来る日が来るとは。追い越されるかもしれないと恐怖におののく気分はどうです?」
追い越される……。はて?
なんのことだろう?
「震えて声も出ないか? 俺たちは―――」
「俺様を忘れてもらっては困るぞーーーーーー!!」
「だからヘルクは落ち着きやがれ!! 俺がまだ喋ってるっていってんだろうが!!」
どうやらヘルクが負った傷は深かった模様だ。
トマが先程から喋ろうとする度に被せられてらぁ。
「ゲフンゲフン。ともかくだ。我らの〈天下一パイレーツ〉は成り上がった。だが、まだ我らの先には1つ高みがある!」
「ゼフィルスならば分かるでしょう。あなたが持っているものです」
「それを――」
「俺様を忘れてもらっては困るぞーーーーー!!」
「ええい! トマ、ヘルクを抑えてそっちで休んでろ!」
「ふふ、思ったよりもヘルクの傷は深かったようですね」
なんだか決めようと言葉を繋いでいる最中だったようだが、またもヘルクが割り込んだ。ヘルクのやつ、どうなっちまったんだ。
「ヘルクのやつは残念だったな」
「いや、いやいや、まだダメになったわけじゃない!」
「ふふ、そうです。僕らは4人でギルドを立ち上げ、そして共に歩んできたのです。ヘルクはきっと帰ってきますよ!」
おお? 意外にもサターンたちには仲間意識が芽生えていた。
去年サターンがセーダンにぶっ飛ばされて1発で退場したときなんか、結構言いたい放題言っていた気もするが、本当に成長が見られるな。
「それで、話の腰がバキバキに折られちまっているが、どうする? まだ続ける気か?」
「む、無論だゼフィルス! 我らはまだ用件を伝えていない!」
「ふふ、覚悟するのですよゼフィルス、そうやって上から目線で居られるのも今のうちだけです」
「俺様を忘れてもらっては困るぞー!」
「だから忘れてないから、大丈夫だから安心しろヘルク!」
やっぱりヘルクの主張が激しすぎるぜ。全く忘れることができない。
なんというアピール力なんだ。
「…………先にヘルクのことを聞いて良いか? なんであんなことに?」
「あ、ああ。それは聞くも涙、語るも涙の物語だ」
俺がヘルクに視線を投げて疑問をぶつけると、サターンもそれを話さないと始まらないと思ったのだろう。
素直に語ってくれた。涙無しには語れない話ということか。いったいどんな不幸が。
でもなんとなく予想が付くのはどうしてだろう?
「ふふ、あれは5月だったか6月だったか、7月だったかのときです」
「記憶曖昧じゃねぇか」
「我らが〈天下一パイレーツ〉に道場破りならぬ、ギルド破りが現れたのだ」
「ギルド破り!?」
初めて聞く言葉だ。
道場破り、それは乗っ取りを意味する。それがギルド破りということは、ギルドを乗っ取ろうとする輩、という意味だろうか?
「我らももちろん抵抗した。だが、だが!」
ドキドキ!
「そのギルド破りとの戦いで1年生にヘルクが負けたのです」
ドキド――――んん?
「どういう意味だ? ギルド破りが1年生で、成功させてしまったのか?」
「いや、そう言う意味ではない。実は4月の上旬、我らが〈天下一パイレーツ〉が心機一転、新たな歩みを踏み出そうというとき、今のギルドマスターがたずねて来てな。ギルドに加入してきたのだ」
「ふふ。名をモニカといいます。その1年生は、元〈カッターオブパイレーツ〉のメンバーを使った効率的な育成、レベル上げの計画を作りあげ、実行したのです」
「そしてヘルクが負けたギルド破りを、モニカが抑えて勝利したのだ」
「それを先に言おうぜ?」
ヘルク弱!!
つまり、1年生のモニカに守られちゃったのか。
「モニカのやつはどんどん急成長してな。我らもそれに呼応し、強くなっていったのだ!」
「ふふ、ゼフィルス、あなたを凌ぐ勢いで、僕たちはギルド戦で多くの勝利を収めていったのです!」
あ、なんか2人に元気と気力が漲ってきちゃった!
「時にはギルドマスターを交代する事もあった。しかし、それも作戦のうち。我らが強くなるためには、必要なことだった!」
いや、きっとモニカに諭されて交代したんだろう。
もしくは実力が逆転してしまったんだと思われる。
俺には分かるんだ!
「そして先日のAランク戦だ! 我らはついに〈新緑の里〉を倒すまでに強くなったのだ!」
「ふふ、ですが、ヘルクは出場自体できませんでしたから。あの通り『俺様を忘れないで病』に冒されてしまって」
「いや、そんな症例聞いたことも無いが……」
「俺様を忘れてしまっては困るぞーーー!!」
あんな自己主張が強い病気とかある?
「……それで?」
「? それで終わりだが?」
「涙要素はどこいったんだし!?」
聞くも涙と語るも涙はどこ行ったんだよ。全然涙要素ないじゃん!
「だが、まあいい。サターンたちよ! まずはAランク昇格、おめでとう!」
「ふははははははははは! ゼフィルスに祝われてしまったぞ!」
「ふふふふふふふふふふ! これは笑いが止まるはずがありませんね!」
おう! これで準備は調った!
宣戦布告の時間だーーーーー!(←される側です)
ふはははははは!
「ゼフィルス!」
「おう!」
来たな!
サターンがズビシッと俺を指さしてきた。
「我ら〈天下一パイレーツ〉は、〈エデン〉にSランク戦を申し込む!!」
呼び出された時から予想していたが、予想通りだった。
素晴らしい! 完璧だ! 俺はその言葉を待っていた!
Sランク戦。
それは今までの防衛実績がないと格上のギルドにランク戦を仕掛ける事が出来ない、という制限も無く、ランク戦代さえ払えばSランク戦を仕掛けるのは自由。
サターンたち〈天下一パイレーツ〉は、Aランクギルドに昇格したばかりなのに、もうSランク戦を仕掛けようとしていた。
ちなみに昇格して1ヶ月は〈防衛実績〉期間みたいなもので、そのランクに慣れるためにギルドバトルをしなくても良いルールだが、べつにするのは自由なのだ。
「ふふ、ついにゼフィルスを下に見ることができるなんて、僕たちはこの時を待っていました」
見ろ、調子に乗りすぎて、もう勝った気でいるぞ?
ならばその伸びきった鼻、へし折らなければならない。(使命感)
もちろん、俺の返答は決まっている。
「〈天下一パイレーツ〉よ! Sランク戦の宣戦布告、確かに受け取った! 全力で相手をさせてもらうぞ!」
「ふははははははは!! それでこそゼフィルスだ! 全力のゼフィルスを倒して、グゥの音も出ないようにしてやろう!」
「ふふ、ふふふふふ!! ゼフィルスが負けて悔しがる姿を、しっかりこの目に焼き付けてあげましょう!」
「俺の強くなった斧で――」
「俺様を忘れてもらっては困るぞーーーーー!!」
「ヘルクーーーーーーー!!」
なんだか締まらない感じにはなってしまったが、無事〈天下一パイレーツ〉から宣戦布告されちゃった。
もうこれはアレだね。
本気でやるしかないよね!! 楽しみだ!!
ふはははははははは!
さあ! ランク戦の手続きをしに行こう!




