#1618 無慈悲なおすすめ撃破方法と学園長のお悩み。
結果から言おう。
さすがはスタンピードダンジョンと呼ばれているだけのことはある。
エリアボスだけを誘いだそうとしても無理だった。たとえ『完全魅了盾』を使ってもだ。
その理由は、この〈巣多ダン〉のエリアボスは、漏れなく『操生樹』という、『合流』スキルにも似た能力を持っているからである。
『操生樹』はエリアボス自らが動けば、自分の近くに居るその他大勢のモンスターも一緒に動くというスキル。
同じ群でも眷属でもないのにモンスターを操ってしまうという、とんでもない能力を持っているのだ。
これのせいで、シエラが『攻陣形四聖盾』と『完全魅了盾』のコンボで、遠距離から盾を飛ばしてエリアボスのタゲを取ったのだが。
結果として、全てのモンスターがシエラへ向かって突き進む事になったのだ。
「シエラの下に行かせるな! ボスへの攻撃はシエラ班以外しないよう気をつけろ!」
「とう! 今度はルルがシエラを守るのです! 『ヒーロー・バスター』!」
「中々に難易度が高いですね。〈イグニッションローラー〉全開で行きます――『ドライブ全開』! 『戦槍乱舞』!」
「左側は全部私たちがもらうね!」
「オッケー、エリアボスが大きいから、掠らないようにして!」
「狙いは任せて、行くよ――3、2、1」
「「「『神気開砲撃』!」」」
もちろんそれを読んでいたこともあってしっかり対処。
さすがのシエラでもここまで大量のモンスターが一度に来てはマズいかもしれない。
故に、シエラに届く前に多くの通常モンスターを排除することにした。
超強力なスキルすぎて練習にならない『神気開砲撃』はやっぱりパナかった。
左翼のほとんどは根こそぎサチたちによって撃破されて、しかもエリアボスには掠りもしない精密さ。
『神気開砲撃』は弓使いのユウカが狙いを決めてくれたようで、とっても正確だった。
これでモンスターの4分の1くらいが減り、残りもルルやエステルなどの物理アタッカーが直接相手にしたことで数を減らすことに成功する。
「名前が出たよ! エリアボスは〈風切り・ハイオニキ〉。鳥の羽のような形の双剣を持っている――〈オニキ〉系統みたい!」
「了解だカイリ!」
カイリが〈幼若竜〉で看破してくれた通り、こいつは鬼みたいな樹、〈オニキ〉系のボスだな。腕っぽいのが4本生えていて、双剣を2つずつ持ってる。
まさにボスといった出で立ちだ。
モンスターたちに守られるように、いや、どちらかというとモンスターに混ざって突撃する様は、まさにモンスターのスタンピードを思わせる。
メンバーたちの奮闘で数は2分の1に減ったが、ついにシエラの下にたどり着かれてしまう。しかし。
「そこまでよ――『アジャスト・フル・フォートレス』!」
バーンっと突如出現した白き要塞の壁のようなスキル、『アジャスト・フル・フォートレス』によって勢いは止まってしまう。
シエラのこのスキル、未だに破られたとこ見たことがないからな。
モンスターたちもただでは止められてやらぬとでも言うようにガンガン要塞を攻撃。あらゆるスキルを使って破壊しようとするも、シエラのスキルは壊れない。
それはエリアボスの〈風切り・ハイオニキ〉のスキルでも同様だ。
フィードバックは多少受けるものの、それはシエラの『盾姫ヒーリング』で回復してしまうので、完全に止められた形。
「そこにルルがとう! なのです!」
「みなさん今です! 『援護兵砲・タクティカルキャノン』!」
「回復なら任せなさい! 『楽園の雨』!」
そこへ後ろからルルたちが強襲し、樹系モンスターたちは次々と討ち取られていく。
反撃は多少受けるが、大したことはない。なにせうちのラナが全体に継続回復を付与しているからな。
ラナの攻撃は基本とんでもなく大きい上にランダム攻撃なので今回は攻撃は無し、支援回復に回ってもらった。
いや、回ってもらったというかこっちが本来の姿な!
でもラナが回復を重点的にしている光景が珍しいと思ってしまうのはなぜだろう?
「道は開けたわ。行くわよ!」
「おっしゃ! 久しぶりにシエラと一緒にボス戦だぜ!」
取り巻きっぽいモンスター共が消えればシエラが果敢に前に出る。
俺も今回シエラと同じパーティだ! 覚悟しろよ〈風切り・ハイオニキ〉!
「キキキキ!?」
植物のくせに全力で駆けてくる俺たちを見て「あれ? なんかヤバくね!? ヤバくね!?」と言わんばかりのおののきをしていた気がしたが、きっと気のせいだろう。その後美味しくいただいた。
「やっぱり、ボスだけ呼び込むのは無理そうね」
「どうしても集団戦になってしまいますわ。一度ボスが4ハンディになった時はちょっと危なかったですわね」
シエラが呟き、リーナが困ったように溜め息を吐く。こんなダンジョンは初めてすぎて、どうアプローチをするべきか悩んでいるのだろう。
あれから色んな方向からエリアボス戦を試した。
通常モンスターだけ少しずつヘイトを稼いだり、敢えて〈フルート〉を吹いてエリアボスを呼び出したりな。
そして1つの答えを得た。
あれらはスタンピードであり、ボスと取り巻き共を分けることができないのだと。
まあ、俺が色んな実験を提案してそうみんなに浸透させたんだけどな。
そう、ここのダンジョンって、マジでエリアボスと通常モンスターを分断させることができないのだ。ボスが移動する先、そこに通常モンスター共も進む。ヘイトなんて関係無いと言わんばかり。
まあ、前々から『合流』の方がヘイトより強かったからな。『操生樹』もヘイトより強いスキルなのだと考えれば納得もいく。
さすがは上級上位ダンジョンだ。
そしてその対処法だが。
「最も成果を出した大成功は例のアレだが、あれはあれでちょっともの悲しいというか、なんか相手に悪い気がするしなぁ」
「本来はそんなこと考えなくても良いのですけどね」
俺の呟きにエステルが苦笑しながら答えてくれる。
ラナ? ラナは今元気良く宝箱を開けているよ。〈銀箱〉だったから譲ったんだ。
ちなみに例のアレとは、〈イブキ〉を使った通常モンスター一掃作戦だ。
〈乗り物〉は本来特性として〈攻撃できない〉というものがある。それをエステルたちは『乗物攻撃の心得』で解禁して攻撃可能にしているが、これはボスにダメージを与えることができない。それを逆手に取り、4台の〈イブキ〉でボス以外を一掃するという戦法だ。
下手をしてボスに激突してしまっても、ノーダメージ及び攻撃判定にもならないためハンディが加算されないのである。
安全性バッチリで通常モンスターだけを仕留められる、まさに最高の戦法だ。
ゲーム時代もこれが最もおすすめされていた殲滅方法だったからな。
ちなみにエリサの〈良い夢をごちそう様〉戦法だとボスにも攻撃判定になってしまうのでハンディが付いてしまうのだ。まあ、エリサを含むパーティのみでエリアボスに挑めばいいのだが、それ集団戦の概念ぶっ壊れちゃう! 故に却下。やるのは時々だけだぞ?(やらないとは言ってない)
まあそれはともかくだ、うん。〈イブキ〉で一掃するのもなぁ。
〈乗り物〉で轢くのって戦闘ですらないから、ちょっと心境的に複雑。
これほどの難易度のボスだぞ? 真っ正面から打ち破りたくね? と思ってしまうのだ。通常モンスターの群に突っ込んで〈イブキ〉で一掃するの、すごく楽しいけど。
「うん。やはり〈イブキ〉を使わない方向でいこうぜ?」
「却下よ」
「ゼフィルスさん、やっぱりエリアボスだけでもその戦法を採用しましょう。他の陣地では使わないことにしますから」
残念ながらシエラたちに却下された。
さすがに〈イブキ〉で押し入って蹂躙は強すぎると思うんだ。あれだ、禁じ手みたいなレベルで強かった。しかし結局エリアボスと戦う時は、〈イブキ〉で取り巻き共を跳ね飛ばし、残ったボスを殲滅することに決まったのだった。
数体だけだが真っ正面から撃破出来たので良しとしよう。
そんな感じで本日は10層まで進み、帰還したのだった。
◇
翌日からは授業も本格的に再開だ。3学期突入だな! そうだ、3学期と言えば。
「こほん。それでゼフィルス君、3学期の選択授業の教師も考えてくれたかの?」
「はい! 俺でよければ引き続き〈上級ダンジョン攻略術〉を教えていきますよ!」
そう、選択授業の切り替えだ! 最後のシーズン。
俺はまた学園長から〈上級ダンジョン攻略術〉を教えてくれないかと打診されていた。もちろん二つ返事で返すんだ。
「そ、そう言ってくれると嬉し――ありがたいのう。うむ。すごくありがたいのじゃ」
うん? 学園長がありがたいと言ってくれるが、なぜか自分に言い聞かせているように感じるのは気のせいかな? うん、きっと気のせいだろう。
〈上級ダンジョン攻略術〉は大変大好評で、2学期の最後なんて「もっと、もっと授業を!」「勇者君の授業が無くなるなんて耐えられない!」「お願いします! 続けてください!」「学園長先生にはいっぱいお願いしておきますから!」そんな言葉をもらったんだ。
どこまで本気か分からなかったのだが、学園長はどこからか突き上げを食らって〈上級ダンジョン攻略術〉が3学期も行なえるよう尽力したらしい。なお、セレスタン情報である。
そこまで期待されていては断るわけにはいかない! 最初から断るつもりもないけど!
それにである、今回は俺もお願いをしていたのだ。貸しも大きくなってきたし、ここでドーンと返してもらおうという判断だ!
「それで学園長、例の話ですが」
「ああ……うむ。そうじゃの、もちろん協力したいのはやまやまじゃが」
「本当ですか! いやぁありがたいです! 俺、今まで以上に頑張りますよ!」
「いや、ゼフィルス君はもうちょっと落ち着いてくれるとわしもありがたい」
「わかりました! 持ち帰って協議の末、検討させていただきます!」
「そこまでしなくてはならんのか!?」
ふっふっふ、楽しみだなぁ。
学園長には最上級ダンジョンの解放、とは別にとあるドデカいイベントの開催を頼んでおいたんだ。
今年度は〈学園出世対戦〉も無かったし、ちょっと代わりになるものが欲しかったんだよね。
最上級生さんたちが卒業する前に派手に盛り上げなくては。
ふふふ、ふはははははは!
俺は心の中で高笑いしながら学園長室から退出した。
◇
一方残された学園長は、天井を見ながら深く深く息を吐いた。
「ゼフィルス君の要望、学園一のギルドを決める、〈SSランクギルドカップ〉か。また、忙しくなるんじゃのう……」
学園長はこの前80歳を迎えた。
だが、まだまだ引退できそうにない。




