#1616 慎重に慎重に――モンスターの陣地を蹂躙だ!
物量。
それはたとえ弱いモンスターの集団だとしても侮れない。
以前にも言ったが、ダメージが最低の1しか与えられないとしても、それが1000回、2000回もの攻撃になると、1000ダメージ、2000ダメージとなり、俺たちクラスの上級職でもやられてしまうからだ。
今回〈炎帝鳳凰〉がやられてしまったのもそういうわけである。
つまり、大量のモンスターから群がられ、たとえ1体1体からのダメージは軽微でも、大量のモンスターからの攻撃を受ければそのHPはあっという間に削られてしまい、〈炎帝鳳凰〉がやられるほどのダメージになってしまったというわけである。
今まで物量型ダンジョンは何度か経験している俺たちだが、割と何事もなく突破している。
確かに危ないは危ないが、心のどこかで大したことないと思っている可能性も否めない。
俺、初めてゲームでここに挑戦したとき、1層で全滅したんだもん。(実体験)
ダンジョンの1層で全滅とかね、もう目が丸くなったからね。
深層のボスにやられたとかならともかくだよ?
「1層の通常モンスターにやられた? は? 何がおきたー!?」ってなったからね。
あの時の衝撃は今でも覚えている。
物量を甘く見てはいけないと、俺はあの時教訓を得たのだ。
そこで敢えてこの世界で伝説と名高い〈炎帝鳳凰〉に犠牲になってもらい、みんなにここがどれほど恐ろしいダンジョンなのか実感してもらったというわけである。
結果はこの通りだ。
俺は、このタイミングでみんなに説明する。
「しかもここは1体1体が弱いモンスターの集合体ではない、強いモンスターたちの集合体だと考えるべきだろう。ダメージだって1回辺り100とか食らうかもしれない。そうなると30回食らっただけでダメージは3000を超える。うちで一番HPの高いゼルレカでギリギリだ」
ゼルレカの現在のLVは55だが、そのHPは装備の補正を加えても3000にギリ届くくらい。
集団から孤立するとどれだけ危険かが分かるだろう。
「リーナ、敵の数は?」
「はい。1つの集団で大体ですが25から40といったところです」
まだ1層でこの集団だ。階層数が進めばもっと増えていくことは想像に難くないな。
「了解だ。――みんなも聞いての通りだ。今まで1度のエンカウントで出会うモンスターは最大で8体くらいまでが限度だった。しかし、ここでは1回のエンカウントで最低25体のモンスターと戦うことになる特殊ダンジョンというわけだ!」
「「「!!」」」
俺の説明にようやくこのダンジョンの特性が掴めてきたらしいみんな。
そう、〈ダン活〉では1度エンカウントすると、1つの群でも最大で8体くらいまでしかいなかった。いや、平均は5体か6体くらいだ。物量ダンジョンでは、基本この群が数チームになって襲ってくる、という感じだった。
それがこのダンジョンの場合、群の最低が25体になり、最高で約40体になるダンジョンなのである。
もしこれがチームを成してきたらと思うと、震えるよね。
だが、ここは1層。
幸いにも、基本的に全く動かず、陣地に引きこもったままだし、手を出さなければ襲ってこないノンアクティブ系が占めている。つまり、チームを為すことはない。
しかし、深層にもなれば解禁される可能性も高い。というか解禁されて襲ってくる。
その話も、可能性としてみんなに周知しておいた。
〈炎帝鳳凰〉の犠牲のインパクトのおかげで、みんなすんなり、そしてとても良い緊張感と危機感を抱いてくれた様子だ。
「ゼフィルスの話は分かったわ。確かに、可能性はかなり高いわね」
「むしろ確実に起こると仮定して動いた方が良いですわ」
「ノンアクティブなら腕試ししない手は無いわね! 合戦――じゃなかったわ、偵察を続けましょう!」
「ラナ様? 今合戦と言いませんでした?」
「気のせいよ!」
シエラとリーナがしっかりとしているおかげで助かる。
ラナの合戦は間違っていない。ここで〈食ダン〉の合戦の経験が生きてくる……。かもしれない。あの時は蹂躙だったし……。いや、今回も蹂躙にしてしまえば経験を活かせるな!
「よし、それじゃあ、行くぞ! 偵察で調べた後、合戦だ!」
「合戦よ!!」
「全然気のせいではありませんでした」
俺とラナがえいえいおーする。エステルがあらあらと言わんばかりに頬に手を添えていた。
早速俺たちは出発、まず〈炎帝鳳凰〉が負けてしまった陣地の近くにやって来た。
「わぁ~。〈食ダン〉の時みたいにちゃんと住処になってるじゃん」
「えっと、登場するモンスターって樹系ですよね? 住処がいるんですか?」
その陣地を見てノエルが第一声。そしてラクリッテが困惑するように俺に振ってきた。
思わず苦笑する。
た、確かに。
見れば相手の陣地は樹の柵で覆われていて、住処っぽくなっている。
だが、ラクリッテの言うように、樹系が住処ぽい場所を作っているシュールな光景よ。
「まあ、分からないことをここで言っても仕方がない。リーナ、カイリ、シヅキ、カルア、敵の位置と数を」
「はい! 〈竜の箱庭〉で見る限り、相手は17体ですわ」
「〈炎帝鳳凰〉に襲撃を受けたときから数は変わっていないみたいだね」
「偵察のカイムちゃんから報告です。隠れている個体はいなさそう、とのことです」
「ん。どれがモンスターか、よく分からない」
俺の言葉に偵察組から報告が来る。
数が減っているのは確実なようだ。ちょうど良い。
カルアは樹系がよく分からない様子だ。
確かに、樹系って分かりづらいよね。
「まずはおびき出すぞ。ラナ、シズ、頼む」
「任せなさい! 『祈望の天柱』!」
「いきます。『索敵』! 『冥王の威圧』!」
まずは相手をおびき出してみるところから始める。
集団の懐に飛び込んだらボコボコにされるのは当たり前だ。
なら、集団に出てきてもらうのが肝要。
さっきの〈炎帝鳳凰〉は怪獣の蹂躙の如く相手の懐に飛び込んでいったので、おそらく樹系に絡みつかれたあげく、ダメージが蓄積してやられてしまったのだろう。
ならば遠距離攻撃で陣地を攻撃する威力偵察を決行だ。
ラナの『祈望の天柱』は陣地を攻撃するのに最適。
真上から光が降り注ぎ、陣地に直撃したのだ。
なんで【大聖女】がこんな攻撃魔法を持っているのかは不明。――不思議!
「モンスター、動き出しましたわ!」
「攻撃、来ます!」
「防御! 頼むカタリナ!」
「任せてくださいまし――『重操結界強化速展』!」
遠距離攻撃くらいは持っているだろう。じゃないと一方的にやられてしまうからな。
攻撃方法は種や樹の枝を投げ槍のようにして飛ばす物理系。
対してこちらはカタリナに結界を展開してもらう。『重操結界強化速展』は大量の長方形結界を操り、自在に組み合わせる魔法だ。
結界を縦横に組み合わせて巨大な結界を作ったり、重ね合わせて超分厚い結界を作るなど自由自在。連続攻撃や四方八方からの攻撃にも対応できる、カタリナの現最強の結界術だ。
当然のように相手の攻撃はこちらに一切届かない。
「エステル、柵を破壊」
「はい! 『インパルススラストキャノン』! 『スラストゲイルサイクロン』!」
全員で攻撃すれば早いが、まずは相手を知ることから始めなくてはいけない。
さっきあれだけ危機感を抱かせたのに全軍突入では「へ?」ってなるだろう。
ここはとても慎重くらいがちょうど良い。
「! 柵が壊れたところからモンスター出現です!」
シヅキの報告がしっかり耳に届く。
つまりは柵を壊すとそこから打って出てくるということ、柵が壊されなければあのまま遠距離攻撃合戦が続いていたのか、それも後で知ってもらわないとな。
「数は13!」
「姿形はかなり多様ですわ!」
カイリとリーナの報告が届く。
「出てきてくれるなら助かるな、遠距離攻撃で片っ端から仕留めていけ!」
偵察、これも偵察だ。ちょっと蹂躙っぽいけど偵察だ。
やっと出番と言わんばかりに遠距離攻撃持ちたちが攻撃をぶっ放し、樹系モンスターたちを光にする。
ここでポイントなのは相手がこの集団で1つの群というところだ。
先程も言ったとおり、普通ならば平均6体、多くても8体だったところが、今回は最低25体で襲い掛かってくる。
つまり、普通の群とは違う、特殊な群という位置づけ。その特性や反応も特殊扱いになるんだ。
これはどういうことかというと、普通ならば俺たちがたくさんのパーティで攻撃した場合ハンディが嵩んでいく。2パーティで攻撃すれば2ハンディ、3パーティで攻撃すれば3ハンディが加算され、その分モンスターの群が強くなるのが〈ダン活〉の仕様だが、ここだけはそれの適用外になるのだ。
なにせ、相手は最低25体の群。戦力は通常の群の3倍以上。もう十分にハンディが付いているのだから。
つまりこの〈巣多ダン〉では、複数のパーティで群を攻撃しようともハンディが付かないのである。
完全にカモン集団戦、というわけだな!
集団戦が大前提のダンジョンだ!
「本当にハンディになりませんわね! 〈食ダン〉の時と同じですわ!」
「うん。ハンディで回復もしないし、これなら全パーティを並べれば、いけるよ!」
リーナやカイリもこれには驚きと共にはしゃぐ。
俺たちもセーブしなくてもいいのだ!
まさかここで〈食ダン〉の合戦が生きてくるとは!
さっきラナが言っていた合戦という言葉がカチリとハマるな!
「さあ、どんどん行こうか!」
そして13体のモンスターは、こちらにたどり着く前に全員が光にされてしまったのだった。
うん。最初の戦闘としてはかなり良い出来だ!
結構戦力過多だったので、ここからどれくらいの戦法や戦力が効率が良いのか探っていくぞ!
次は戦力を並べて接近戦をやりたいと思う! タンクの出番だ!




