#1609 〈マイセット早着替え〉で変身!最奥ボス戦!
エクストラダンジョンの1つ、〈秘境ダン〉最奥ボス。
その強さは、実に上級上位ダンジョンのボスに匹敵する。
ただ、エクストラダンジョンのボスは形態変化をしない。そのためランク1の〈幻迷ダン〉の最奥ボスと比べても一歩劣るくらいの実力と評価されている。
つまり上級上位ダンジョンの最奥ボスに勝てるのなら、ここも勝てるよ、という評価だな。
「40層が、最奥なのね」
「ああ。たどり着けてよかったぜ!」
「……あなたはまるで40層が終点だと知っていたように動いていた気がするけど?」
「……気のせいだ!」
「…………」
いかん。せっかく知らぬフリをしてここまで来たのに!
そういえば40層が終点だという情報も無かったんだったね。
ええい、ここは勢いで押し切る!
「今日は最奥ボスを倒して締めにしよう! まずは俺が行く! ボスに挑戦してみたい人ー!」
「「「「はーい!」」」」
「…………」
勢いで手を上げてもらい、最奥ボスに挑むメンバーを集う。
みんな温泉で英気を養いまくったためか、すごくやる気だ!
39層、楽しかったもんな~。
「よし、決めたぜ。ここはタンクをラクリッテ、ヒーラーをラナとし、俺、ノエル、シズでいくことにする!」
「やったわー!」
「久しぶりの一番だよ~!」
「はわ! 着替えないといけませんね!」
「それならあれを使いましょう!」
なお、みんな水着姿なので、ボス戦のために着替えなくてはならない!
ここで1つアイテムをお披露目したいと思う。
シズが装備の入った〈空間収納鞄〉を持ってやってくると、中から5つのアイテムを取りだした。
「あ! 〈マイセット早着替え〉だ!」
ハンナの声に生産組が湧く。
これはハンナたちが作ってくれたアイテムなのだ。
見た目は懐中時計みたいだが、上にあるダイアルを回してカチッと押すと、前もって登録してある装備に一瞬で着替えることができるのだ。全部で10マイセットまで登録できる。
ただし、5メートル以内に登録した装備があることが条件だ、欠けている場合は失敗する。
「これを使えば水着から一瞬でいつもの装備に早着替えだ!」
ということでカチッと押す。
すると瞬間、俺はいつもの〈勇銀装備シリーズ〉を着た姿になっていた。
「着替え早っ!」
「だろう?」
ノエルの驚愕に胸を張る。その着替えはまさに一瞬! 本当に着替えかよと思うレベルで一瞬で水着から装備に換装していたのだ。
早着替えというのがポイントだな。時短大事。
このアイテム、ほんと優秀なんよ。
ちなみに着替えた水着は〈空間収納鞄〉に直送なのでポロッたりしないぞ? しないからな?(←ここ重要)
早速みんなにも使ってもらうと、初日に〈秘境ダン〉に入ダンしたときの装備にみんな一瞬で着替えていた。
着替えと言うにはあまりにも早業すぎて、まるで変身のようだ。
パワーアップしているから間違ってはないしな。
「あ、俺たちがボス戦している間、みんなは39層で自由にしていていいぞ」
「立ち会いいらず宣言!?」
「これがゼフィルス君ですよミーア先輩」
もちろん戦闘職以外への配慮も忘れない。
ボス戦中、他のメンバーは暇になってしまうし、『湯着』スキルの効果時間が過ぎても大変だ。
よって39層の温泉で遊んでいてください。順番になったらお呼びしますスタイル!
「なんだろうこのお手軽さ。未だに〈エデン〉の雰囲気に慣れる気がしないんだけど!」
ミリアス先輩がおののく姿になぜかハンナがドヤッている。おお、ハンナのちょっとドヤ顔なんて珍しい!
「よし、それじゃあ行くぞ!」
「「「「おおー!」」」」
多くはいらない。レッツゴーである!
もちろんラナに『プレイア・ゴッドブレス』を掛けてもらうのは忘れないぞ。
こうして俺、ラナ、シズ、ノエル、ラクリッテは最奥ボスのボス部屋に入った。
ボスは、あそこだな。
「ここは、温泉に囲まれたフィールドかしら?」
いや、まるで闘技場だ。ドーナツ型にドデカい温泉の輪に囲まれた、雪の大地。
そこに俺たち5人が入ると、出入り口が消える。
倒すか倒されるまで、出ることはできないというわけだ。
「温泉が凄まじく大きいですね。私たちが乗っているのが、まるで小島のようです」
シズが的確に周囲の状況を教えてくれるな。ここはボス部屋というよりもオープンフィールド。
しかし、温泉が大きすぎて闘技場が完全に孤立している。
まあ、〈イブキ〉を使えば脱出はできるんだが、このメンバーに〈乗り物〉使いはいないし、空を飛べる人もいない。
「ボスはどこです?」
「温泉に潜っているのかな?」
ラクリッテがキョロキョロ見渡すが、ボスの姿は見えない。ノエルの言うように完全に温泉に潜っているのだ。
「ということは、魚系かしら?」
「! 来るぞ! 1時の方角!」
ラナが疑問を口にした途端、『直感』に反応。
俺の言葉に瞬間全員が警戒する。
そして直後にザバーンという音と共に、まるでイルカショーの如く水面から飛び出したのは――〈温泉イルカグマ〉。
もう名前からしてツッコミどころが溢れているボスで。体長4メートル。
巨大なクマの背中にイルカのリュックが背負われているというとんでもない姿のボスである。
このリュックが温泉でも泳ぎます。
―――温泉に生息する、クマ型ボスだ!!
またクマがボスしてるーーーーー!!
「グマアアアアア!!」
「クマ!?」
「な、なんのこれしきです! ポン! お守りくださるは盾を持つ狸の幻獣! ――『幻獣霊・盾狸様』!」
ラクリッテが繰り出すのはいきなりの防御スキル。
水面ジャンプからそのまま俺たちに向けてフライングボディプレスを仕掛けてきた〈温泉イルカグマ〉、通称〈イルカグマ〉だったが、瞬間出てきた盾狸様の腹盾に激突。
そのまま防御勝ちされてしまい、思いっきり弾かれた。
「ちょ! 『テンペストセイバー』!」
「『フェニックスショット』!」
「ノエル、バフを!」
「うわびっくりしたよ! ――『プリンセスアイドルライブ』!」
そこへ俺とシズが攻撃。『ソニック』系の『テンペストセイバー』を使った俺が先に突っ込み、ギリギリのタイミングだったが、なんとかノックバック中に攻撃を叩き込むことに成功。シズの攻撃も突き刺さり、なんと初っぱなからダウンしてしまう。
「総攻撃だーー!!」
ノエルの歌でガンガン攻撃力と魔法力、威力、ステータスを上昇してもらい、総攻撃を叩き込む。
「グ、グマアアア!?!?」
ボスがダウンから復帰するまでになんと15%ほどもダメージを稼いでしまった。
〈イルカグマ〉がすぐに踵を返して温泉にドボン。
そのまま背びれを出してスイスイ泳ぐ。
「泳いでるです!」
「なによこのボス、ちょっと弱いじゃないの!」
「いや、今のは上手く嵌まっただけかと思いますが」
「そんなことないわ! ノエル、『リ・エール』頂戴!」
「はいはーい! 歌って轟け2連発――『リ・エール』!」
「『大聖光の十宝剣』!」
「グマ?」
俺がようやく〈幼若竜〉を出したところで、なんかラナが温泉に追撃を放っていた。それ、ランダム攻撃だけどほぼ回避不可能なやつ!
ザバンと顔だけ出した〈イルカグマ〉には降ってくる光剣がどのように見えたことだろう?
「グマアアアアア!?!?!?」
瞬間、温泉に降り注ぐ光の剣とクマの悲鳴が鳴り響いた。
「もういっちょ行くよ~『アンコール』! の~『リ・エール』♪!」
「追撃よ! 『大聖光の十宝剣』!」
「グマママママ~~~~~!?!?!?」
「続きましょう――『優雅に的確に速やかに制圧』! 『連射』! 『ハートスナイプ』! 『徹甲弾』! 『グレネード』! 『貫通弾』! 『魔弾』! 『ジャッジメントショット』!」
ああ、なんか温泉でクマがメッタメタにされてるやん。
「もう一回追加よ! 『大聖光の十宝剣』!」
「マ~~~~~~~!?!?!?」
「あ~、こほん。こいつは〈温泉イルカグマ〉というボスだそうだ」
なんかいつものボス戦とあべこべになってしまったが、ようやく名前判明!
「えっと、クマさんでいいんですよね?」
「普通に反応してくれるのはラクリッテだけだ~」
実は〈温泉イルカグマ〉の反応を期待していた俺。〈イルカグマ〉があまりに不甲斐なくて反応楽しめなかったじゃん! こいつはもう用なしだ!
「ええいそのまま沈め! 『ライトニングバースト』! 『サンダーボルト』! 『フルライトニング・スプライト』!」
とりあえず全弾撃ち尽くす。
総攻撃時間長ーい!
「えっと、えっと??」
「ラクリッテはヘイトをじゃんじゃん稼いでくれ! 多分このままだとラナが狙われるから!」
「は、はい! ポン! 『カチカチ』! 『ぽんぽこぽん』! 『たぬたぬポン』! 『たぬきだまし』! 『ピンポン』!」
さっきからスキルや魔法の連打しかしてない俺たち、なんかボスさんハメ食らってない? というかなんか沈んだまま浮いてこないんだけど?
ゲームの時は温泉にいたときここまでノックバックは入らず、ガンガン襲ってきていたはずなのだが、リアルではちゃんと温泉の中でもノックバックしてくれる模様。
おかげでクマさんが上陸できない!? まさかリアルではそんなハメ技が!?
「グマアアアア!!」
しかし、ようやくクールタイムに入り攻撃が終わったタイミングで〈イルカグマ〉復活! クマがバタフライ泳ぎで推進力を得て突っ込んで来る。温泉も巻き込んだスキル『タイダル温泉スプラッシュ』だ!
なお、キャラは不思議な力で温泉には水没しません。闘技場内に弾かれます。
これは全体攻撃。避けられない。
「ラクリッテ、ユニーク発動!」
「ポン! ユニークスキルは夢幻の巨塔――『夢幻四塔盾』!」
即でラクリッテに巨大な塔壁を召喚してもらい、温泉の津波を防ぐ。
出してもらったのは、図らずも岸部分。そして。
「グマン!?」
温泉と一緒に突っ込んで来ていた〈イルカグマ〉も四塔盾に激突して、弾かれてしまう。
もちろん温泉へだ。リリース!
それでコツを掴んじゃったのがいけなかったかもしれない。
〈イルカグマ〉は何度も温泉から飛び出そうと奮闘した。
その都度ラクリッテやラナ、俺、シズが叩き落とす。
まるで池に落ちた者を棒で突つくがごとく。
あれ? こんなハメ技知らないぞ俺?
というか〈イルカグマ〉よ、背中のイルカのリュックが壊れてない?
さっきからバタフライで迫ってくるようになったんだが?
それ破損しちゃうの!?
後の検証で、イルカのリュックは破壊可能であると分かり、しかも〈イルカグマ〉が温泉に入っている時にぶっ壊すと、〈イルカグマ〉がなんとか上陸しようとバタフライで泳いでくるパターンになると分かった。
そこを弾いて棒で突つくだけで、ハメ技になってしまうのである。
もちろん、ゲームの時に部位破壊なんて無かった。リアルならではの大発見だ!
「うっそだろ?」
そのまま〈イルカグマ〉のHPはゼロになってしまい。膨大なエフェクトを発生させて消えた後、闘技場のど真ん中に〈金箱〉が湧いていたのだった。
もう一度言おう。こんな現象初めて見たぞ!?




