#1608 2日目裏、タバサ先生と2人でお土産屋さん!
時間は遡り、それは〈秘境ダン〉慰安旅行、その2日目のことだった。
「ゼフィルスさん」
「タバサ先生?」
「ふふ、約束通りお土産屋さんを回りましょう? もちろん、2人きりで、ね?」
「あの時のあれ、正式な約束だったのか!」
スノボやってたら突然ピトッと背中に寄りかかってきたタバサ先生。
非常に魅力的な提案をしてくる。背中にぐいぐいタバサ先生が寄りかかってくるんだよ。頼られている感じがヒシヒシ伝わってくる!
「今なら2人で抜け出せるから。こっち来て? ね?」
「あい」
俺はタバサ先生に連れて行かれてしまった。
◇
「あれ、ゼフィルスはどこいったのよ?」
それに最初に気が付いたのはラナだった。
いつもつい目で追ってしまうゼフィルスが居なかったのだ。
もしかしたらリフトか、それとも別のコースに行ってしまったのか?
だが、ラナの冴え渡る勘が違うと言っている。
ちょうどそこに通りかかるリーナ。
「ちょっといいかしらリーナ? ゼフィルスを知らない?」
「ゼフィルスさんですか? さっきまでいましたけど……」
そう言ってリーナもキョロキョロする。ゼフィルスはすぐにあっち行ったりこっち行ったりと忙しなく動く。それがギルドメンバー全員を見に行っているからだと知っているリーナは、ゼフィルスがいなくても特に気にならなかったのだ。
「確か、雪合戦に参加しているところは見たのですが、それ以降は見ていませんわね」
「怪しいわ。なんだか怪しい匂いがプンプンするのよ」
「どういうことですの?」
ラナが怪しい匂いがするという。
リーナだってもちろん知っている――ラナの勘は、良く当たるのだと。
これは「へぇ」で済ませてはならない案件だとすぐに感じたリーナの顔が真剣味を帯びる。
ゼフィルス捜索秘話の幕開けだった。
「リーナ、『ギルドコネクト』でゼフィルスに通信よ!」
そして一瞬で閉幕しそうな案が提出された。
「承知ですわ! 『ギルドコネクト』、ゼフィルスさん? ゼフィルスさん今どこにいらっしゃいますの?」
「『リーナか? おう、俺は今お土産屋さんに――え? ダメ? ああ~、うん、ちょっと色々ぶらぶら回っているところさ~。リーナも楽しめ、それじゃあな!』」
「ゼフィルスさん!? 今近くに誰か居ますの!? ゼフィルスさん!?」
リーナが声を張るも、通話はゼフィルスの方から切られた。
これはリアル効果だが、『ギルドコネクト』の通信は、不要ならば拒否したり、切ることができると発見されている。
ギルドバトル中やダンジョン活動中は基本的にリーナが主導することがほとんどだが、プライベートなら話は別だ。
まさか切られるとは思っていなかったリーナの表情に深刻度が増す。
「ゼフィルスさんは、どなたかと一緒に居るみたいですわ……!」
「なんですって!」
これは非常事態だ。一瞬でラナの警戒心も天元突破する。
いったい誰が抜け駆けを?
ライバルが多すぎて分からない。
「〈竜の箱庭〉は?」
「宿ですわ。まさか使う事態になるとは思いませんでしたの。不覚ですわ」
2日目は遊ぶ日。みんな嵩張るカバンなどは宿に置きっぱなしである。
「こうなったら応援を呼ぶわ!」
「お供しますわ!」
こういう時は応援だ。
中立側からゼフィルスを探してもらうのだ。
「セレスタン、いるかしら?」
「はい。ここに」
まず頼ったのは万能執事のセレスタン。
セレスタンは珍しくラウと雪合戦で遊――いや、真剣勝負をしているところだった。というかさっきから激しくやり合っている。
この周りでは、もはやセレスタンとラウの勝負の見学会になりつつあった。
「対戦の最中に悪いわね。ゼフィルスが消えたわ! どこにもいないのよ」
「な、なんだってー!?」
「そ、それは大変だよ!?」
「迷子、はゼフィルス君だし考えにくいよね? えっとどういうこと!?」
セレスタンVSラウ戦を観戦していたサチ、エミ、ユウカがラナの言葉を聞いて思わず立ち上がる。
そして一瞬のうちに話は伝播していった。
「ゼフィルス君がいない! 宿へ向かう道はずっと見ていたけど、ゼフィルス君は通らなかったよ」
「私はスキー滑ってた。でもついさっきからゼフィルスを見なくなった」
「えっと、空から探しますか?」
シヅキ、エフィ、マシロも話を聞いて駆けつけた。
色々な情報が入ってくるが、有力な手がかり無し。
リーナはゼフィルスがお土産屋さんにいるなるセリフも聞いたようだが、ここは観光地。お土産屋さんなんてそこら中にある。
となれば、次に誰と一緒に居るか、これが重要だ。
「かまくら城の方にはノエルさんとラクリッテさんがいましたわ、ですがシエラさん、ハンナさん、タバサ先生、アイギスさんの姿が見えませんわ」
「むむむ! まさか、私たちを差し置いて5人で!?」
かまくら城へ情報収集に行っていたリーナが大人数を連れて戻って来た。
しかし、重要人物が何人か足りない。
これは怪しい。とても怪しすぎる。ラナはむむむとなった。
「エステル、パメラ!」
「ここに」
「いるのデース!」
「ゼフィルスを探すのよ! 〈イグニッションローラー〉の使用を許可するわ!」
「いえ、私はラナ様の護衛ですのでどこにも行きませんよ?」
「これが油断を誘うなにがしかだったら大変デース!」
「なあああああ!?」
ラナ、かっこよく指示を出すも2人からはまさかのノー。もちろんシズからも同じ答えが返ってきた。ここはダンジョン。3人がラナから離れるわけにはいかない。
だが、その時ヒーロー来たる。
「とう!」
「どー」
「ルル、見参なのです!」
「アリスもけんざんなのー!」
そうルルたちだ。アリスがすっかりルル先輩のまねっこをしていた。無敵級に可愛い。そこへキキョウ、ゼルレカ、シェリア、クイナダも到着する。
「ゼ、ゼフィルス先輩が消えたって本当ですか!?」
「まさか攫われたんじゃ!?」
「ゼフィルス殿ですからね、否定はできません」
「ひ、否定できないんだ!?」
なぜかゼフィルスの評価が微妙な件。
「ラナ殿下! ルルたちにお任せなのです! ゼフィルスお兄様をしっかり取り返してくるのです!」
「成敗してくるのー!」
「頼んだわルル、アリス、他のみんなもね! これよりゼフィルス捜索を始めるわ!」
捜索なのか、取り返すのか、成敗するのか、とりあえずゼフィルスをどうにかする寸法でラナからお触れが出される。
「ゼフィルスは誰かと一緒の可能性が高いわ! 誰か突き止めるの! 後は私が直接やるわ!」
「「「おおー!」」」
なんだか大変なことになってきた。
そこへ。
「シエラ様、ハンナ様、アイギス様をお連れいたしました」
優秀過ぎる執事が探し求めていた3人を連れてきた。
ゼフィルスを攫った人物の正体が分かった瞬間である。
「…………」
「な、なんだか大変なことになっているんだよ」
「ゼフィルスさんと2人きりで……。しかもこんなに堂々と誘うなんて。油断しました」
シエラが凄まじいジト目をしながら登場。そのあまりの迫力に、こんなのをジト目耐性がぶっ壊れているゼフィルスが食らえば一瞬で狂ってしまうだろう。
ハンナがはわわしながらやってきて、危機感を滲ませる。
アイギスはもう誰がゼフィルスと一緒なのかを察した。まさに一瞬の隙を突くこの手腕。まず間違い無い。
「残りはタバサ先生のみ! ――みんな、タバサ先生を探すのよ! あとゼフィルスも! 全員散開よ!」
「「「「おおー!」」」」
こうして1層観光地で、大規模なゼフィルス捜索隊が組まれたのだった。
◇
「ぬおお!?」
「あら、どうしたのゼフィルスさん?」
「い、いや、なんだか今寒気が。なんかこうしていて良いのかな~って」
「いいのよ。私が許すわ」
「なら、いっか~」
一瞬ぶるっときたゼフィルス。
誰かから何か念じられているのかもしれない。
しかし『直感』さんは――あれ? 無反応じゃない? 「おい、やべぇ、やべぇって! 気付け! というか分かれ!」といった感じにビシビシ言ってきているような気がしたが、ゼフィルスはそっちよりも気になっていることがある。
「ほらゼフィルスさん、これ見て? 面白いわね、パクパク~」
「あ~れ~」
それはクマのハンドパペット。
ぬいぐるみのお尻のところから片手をずっぽり突っ込んだタバサが口をパクパクさせて、カプッとゼフィルスの手を食べてきたのだ。ゼフィルスはデレデレである。
これは反撃しなければいかんとゼフィルスも適当なお土産のハンドパペット、バトルウルフ第一形態のお尻からズプンと片手を突っ込み、対抗する。
「やあやあクマさんや、教えてくれ~」
「ほうほう? いったいなにが教えてほしいのかな~?」
そして唐突に始まった人形劇風の会話。もちろんタバサもノリノリだ。
「どうしてクマさんはそんなにたくさんボスをしているの?」
なお、ゼフィルスはある種〈ダン活〉最大の謎を投げかけている模様。
「それはね、ボスをしていれば向こうから美味しい美味しい挑戦者さんがやってくるからさ。私はそれをパクッと食べてしまいたいのだよ~」
しかしタバサは先生らしくのらりくらりだ。なんてお姉さんな回答。
これは子どもになりきるしかない、とゼフィルスは幼児化する。
「美味しく食べてしまうとは、なんて恐ろしいんだ」
それを、タバサは見逃さない。
「うふふ。私は今、とってもお腹が空いているものだから――えい」
「あ~れ~」
ゼフィルスのバトルウルフ、パクパクと食べられてしまう。
とても楽しそうだった。
「何をしているのかしら?」
「はっ!? シエラ!?」
気が付けば『直感』さんがとても大きな警報をならしていた。
やっべ、忘れてた!? とハッとするゼフィルス。もう手遅れかもしれない。
「あら?」
「あら? じゃないわよタバサ先生、何をしていたの?」
「なにって、ゼフィルスさんとお買い物よ。もちろん、2人でね?」
「…………」
シエラが最大級のジト目でゼフィルスを見る。
なんだかヒャッホーしたかったけど、しちゃうと大変なことになりそうな気配を感じてゼフィルスは神妙に頷いた。多分、ここで頷いたのがダメだったのだろう。
『直感』さんの警報がまた大きくなったのだ。
「リーナ、見つけたわ◯◯屋さんの1階よ」
シエラは無慈悲にそう答えた。
「あ。ゼフィルスさん逃げないとマズいわ、行きましょう」
「ゼフィルスは連れて行かせないわ」
瞬間、左の手をタバサががっしり。右の手をガッチリシエラが掴んだのだ。
「シエラさん、その手を離して。ゼフィルスさんを連れていけないわ」
「連れていかないでといっているでしょう。ゼフィルスは返してもらうわ」
「お、おお、なんだこのシチュは!?」
そして美女2人から引っ張られる構図が完成。
何これ、男のロマンじゃないの? ゼフィルスはどんな徳を積んできたというのか。
でもなぜか右と左からバチバチ激しいなにかがゼフィルスを挟む。
これ、どうしたら良いんだろう? 『直感』さん、ヘルプ! とゼフィルスは頼りになる『直感』さんに助けを求るも、『直感』さんからは「早くその場から離れろ!」との指示が。
もちろんタバサとシエラからガッチリ捕まえられているのでできません。
そして。
「見つけたわ、ゼフィルス! それにタバサ先生も!」
「見つけたよゼフィルス君!」
「どこに行ったのかと思ったら、こんなに堂々としていたなんて」
「本当にいったいいつの間に。たとえタバサ先生でもゼフィルスさんを勝手に連れて行くのはダメです!」
ラナ、ハンナ、リーナ、アイギスを筆頭に後ろからも続々到着。
あっという間に〈エデン〉のみんながお土産屋さんに集まってしまったのだ。
でも男子が1人も居ないのはどうしてだろう?
セレスタン! セレスタンはいるか!?
しーん。おっふ、なんだかピンチな予感なゼフィルス!
『直感』さんなんか「あとは任せた」的なことを囁いたかと思ったら止まっちゃった模様。ついに『直感』さんもギブアップ!?
「タバサ先生? ゼフィルスを勝手に連れていった件で物申すことはあるかしら?」
「うふふ、みんなもたもたしていたら、私がとっていっちゃうんだからね?」
「な! じょ、上等だわ!」
「ま、負けませんよ!」
「こんなに堂々とそうそうたるメンバーに宣言するなんて……! 逆に尊敬させていただきます」
「タバサ先生の言葉を胸に刻み込みましょう。でもこれはこれです!」
「ゼフィルス、みんなを心配させたのだから、後で反省よ」
「うっそ」
ほんの少しいなくなっただけで、この騒ぎ。
ほとんどのギルドメンバーが駆けつけた〈ゼフィルスいなくなった騒ぎ〉はこうして一応の決着――いや、バチバチになって終わったのだった。今回はタバサの勝利である。
その後ゼフィルスはルルたちからユキダルマの刑に処されて雪玉の核になった。
でもちっちゃい子たちに雪をペタペタされるのは、結構楽しかったみたいである。
あとがき失礼いたします。カウントダウン0!
〈ダン活〉小説12巻、本日発売です!
巻末に収録されている漫画には、〈幸猫様〉も登場してますよ!
お手にとっていただけると大変嬉しいです!
よろしくお願いいたします!
 




