#1599 〈秘境ダン〉最初の温泉は高級宿で雪景色!
「ゼフィルス、どこに泊まるの? 今年は高級宿なの!?」
去年は高級宿は予約が取れず、学生宿を借りたんだったな。
あそこの温泉も良いものだったが、高級宿はさらにパワーが段違いらしい。
そして俺はラナの言葉に鷹揚に頷いた。
「実はな、訊いて驚いてくれ、セレスタンのおかげでなんと、高級宿の予約が取れているんだー!」
「「「おおー!!」」」
そう、去年セレスタンとは「来年も〈秘境ダン〉に来よう」的な約束をしていたのだが、セレスタンはそのために前々から高級宿に予約を入れてくれていたのだ。
びっくりしたよ。俺は冬休み、それも年が明けてからようやく〈秘境ダン〉に行こう! と言い出したはずなのに予約が取れていたのだ。
セレスタン、どんだけ前から準備していたんだ!? というか、声かけて!?
「恐縮です」
恐縮ですで済ます、このセレスタンよ。
「というわけで、高級宿に向かうぞ! まずはチェックインを済ます! そして高級宿の温泉で一汗流して―――ダンジョンに出発だ!」
「あれ? 途中まで分かっていたはずなのに、最後だけよく分からなかったよ?」
「大丈夫ですよミーア先輩、道中の秘境も楽しいですから~」
「ハンナちゃん!?」
おっとそういえばゲストのミリアス先輩には詳細を話していなかったっけ。
「やっぱりあれが普通の反応だよね」
「そうですの。私たちもうっかり返事してしまいましたけど、やっぱり〈エデン〉はおかしいですの!」
「生産職も採集職もみんな出発に含まれているもんね。〈イブキ〉があるから分かるけど、ここの難易度ってたしか高いんだよね?」
ゲフンゲフン!
おっと、いけないいけない。俺はミリアス先輩にも説明する。
「ミリアス先輩、聞いたとおりだ! まずはこのダンジョンのどこかにあるという秘境を目指す! 貸し切りの秘湯に浸かりに行くぞ!」
「全然聞いてなかったよ!? 今知ったよ!?」
うっ、ミリアス先輩、良いツッコミ力しているじゃないか。
俺はそのツッコミに惹かれる心をなんとか制御して言葉を続けた。
「だが、秘湯にはなんと洗い場がない。そのため、まずは温泉宿でかけ湯や『湯着』スキルの付与、そして一度身体を清める必要がある! そしてダンジョンへゴーだ!」
「え? ちょっと待って待ってお願い、どういうこと!?」
「ミ、ミーア先輩が、混乱しているです」
「まあ、いきなりゼフィルスさんと話せばそうなりますわよね」
今言った通り、〈秘境〉とは秘湯。
もちろん洗い場どころかかけ湯の桶さえ置いていない、そのまま入るのはマナー違反。
故に、温泉宿でひとっ風呂浴びるのだ。ついでに中に水着を着用して行くもよし。
まあ、一番の理由は『湯着』スキルを得ることだな。向こうは完全露天風呂、無茶苦茶寒いので『湯着』スキル必須だ。
「理屈はわか――いいえ、やっぱり分からないよ!」
「なぬ!?」
おかしいな、ちゃんと説明したはずだが。
「まあまあ、とりあえずミーア先輩には後で私たちから説明しておきますわ!」
「ま、まずは高級宿、です!」
「おっとそうだったな! それじゃあ、あの一番目立つ宿まで行こう!」
「とう! これがローリング回避なのです!」
「あ、当たらん! なにこのルル先輩、全然雪玉当たらないんだが!?」
「えーい!」
「さ、3人掛かりでも全然だめです!?」
なお、俺の話が長引いてしまったせいか、ルルを的にしてゼルレカ、アリス、キキョウが3人掛かりで雪玉当てにチャレンジしていた。まあ、ルルには掠りもしていなかったが。さすがはルルなんだぜ。
なお、雪玉回避にでんぐり返しとかしていたので、ルルの装備は雪だらけだ。
「ゼフィルス様」
「分かってる、分かってるからシェリア(パシャパシャ)」
そして相変わらず俺の背後に忍び寄るシェリア。
マジでいきなりでびっくりするからなシェリア? だが、そんなシェリアにエステルが近づく。
「そうじゃないでしょうシェリア、もういきますよ」
「でもエステル」
「でも、ではありません」
おっと珍しい光景! エステルがシェリアに物申したぞ!
俺が止まると全員が遅れてしまうからな。シェリアにはルルたちを回収してきてもらって。
「助かったよエステル。今度からシェリアを頼んでもいいか?」
シェリアとエステルは幼馴染み。
それこそエステルがラナ付きになる前からのお付き合いがある。
なんてこった、シェリアブロックの人材がこんなところにいただなんて! これからは是非エステルにシェリアをブロックしてもらわないと。
そう思ったのだが。
「いえ、私はラナ様優先ですから。シェリアのことは基本ゼフィルス殿にお任せします」
「そこをなんとか!?」
残念ながらシェリア対策にはならなかった模様。エステルはラナメインだし、仕方ない。
とそこへタバサ先生がスッと近づいてきた。
「ここも懐かしいわね。ゼフィルスさん、時間があったら一緒にお土産屋さんを回らない? もちろん、2人きりで」
「タバサ先生と2人きり……?」
な、なんて魅力的な提案。
時間を工面しなければ。
「何言ってるのタバサ先生? ゼフィルスは私と回るのよ!」
「……抜け駆けなんてさせないわ。――ゼフィルスも、みんなのことを忘れないように」
「お、おお? も、もちろんなんだぜ?」
「あら。ラナ殿下、シエラさん、いつのまに?」
ラナとシエラの声に思わずビクッとするのはなぜだろう?
俺がタバサ先生と話していると、良く起こる現象なんだ。
でも話の内容、俺、もしかしてラナからもお誘い受けてる?
あ、はい。シエラの言う通りです! 俺の身体はみんなのものです!
シエラに鋭い視線を向けられて改めて身が引き締まる! ジト目もプリーズ!
そんなやり取りをしながら進んでいれば、俺たち一行は高級宿に到着していた。
「「「おお~」」」
「ロビーおっきい~」
見事にミリアス先輩は流され、感動しているように見えるんだぜ。
「ええ、高級なウッドデッキ! 大きなガラス張りの壁に映る雪景色! 良い雰囲気ですわ!」
「はわわ! こんな高そうな宿、泊まってしまっていいのでしょうか!?」
「ゼフィルス君が良いって言うならオッケーなんだよ~」
もちろんだ! これは慰安だからな!
というか、〈エデン店〉の売り上げがとんでもないことになっているので、ここで俺たちがいくら豪遊しても2泊じゃ全然問題無かったりする。
全く遠慮しなくていいぞ!
いつの間にか消えていたセレスタンがチェックインを済ませてくれ、鍵を受け取って室内へ。
今回は7人部屋で、参加者は男子が10人だったため2部屋で分ける。
男子は5人ずつだな。しかも高級旅館の仕様なのか、部屋がコネクティングルーム式で2部屋繋がっているので、実際は男子全員部屋みたくなってるな。
女子は7人部屋が2部屋、大部屋が2部屋らしい。
大部屋は20人が寝られるとか、すげぇな。そんな部屋があるのか。
とは思うも、ここは学園のダンジョンなので、20人部屋というのはデフォでいくつもあるみたいだ。7人部屋からももちろん繋がっていて、というか20人部屋同士も繋がるので54人まではグループで騒げるらしい。何それ凄い。
〈空間収納鞄〉に全部仕舞ってあるので荷物を置く必要も無いが、一応部屋は一度確認して、風呂の用意をして部屋を出る。
「それじゃあ、1時間後にホテルのロビーに装備姿で集合な!」
「「「はーい」」」
「「りょうかーい」」
「後でねゼフィルス君!」
女子と別れ俺たちも温泉へと向かう。
高級宿の温泉は、一味も二味も違った。
「おお~、絶景! すっげぇ絶景だな!」
「雪景色がすげぇ! 銀世界すげぇ!」
俺が絶景に歓喜の声を出せば、サトルもそれに乗ってくれたよ。
でっかいガラス張りの壁の向こうには銀世界。
葉を落とした落葉樹が雪化粧をしている光景がそこら中に見られ、なんか本当に別世界に迷い込んだような景色が一面に広がっていた。
ガラス張りの壁の下を覗けば、谷に湯気がもくもくと出る川が流れているのが見えて風流。あれ温泉の川だな。
そしてなにより凄いのが、でっかい、それこそ200人入ろうと余裕のありそうな岩の露天風呂だ。
学生宿の様々な温泉施設で学生を楽しませるような風呂形態も面白かったが、こっちは雅というか、贅沢な雪見温泉という風景だったのだ。
「はぁ、これは、良いものだな」
「ああ、雪を見ながら温泉に入るというのは、去年も経験しているはずだが、なぜかこっちの方が豪華に思える」
「分かるな。なんというか、贅沢な心地だ。ここでゆっくり浸かっている。それだけで満足してしまいそうだぞ」
できる男3人。メルト、レグラム、ラウが大絶賛していた。
この3人を唸らせるとは、やるな高級宿!
「あまり時間も無いから満足しすぎるなよ~。この後まだまだあるんだからな?」
「確か、未だ誰も到達したことのない、未知の秘境へ向かうんですよねゼフィルスさん?」
「そうだぞ。〈採集無双〉の面々にも、期待しているからな!」
「任せてください!」
「……ところでモナ。なんでバスタオルなんて身体に巻いているんだ? タイチ、ソドガガもなんでモナを見ない?」
「い、いやぁ。なんかモナを見ていると開けちゃダメそうな扉を開けてしまいそうなので」
「…………」
そう、なぜかモナが上も下も隠したバスタオル姿で湯に入っていたのだ。
「もちろん〈スッキリン〉しているので大丈夫です」とはモナの言葉だ。いや、そこまでして身体を隠す意味とは? モナが本当に男なのか気になってきたんだぜ。
タイチとソドガガは全力で外の景色を見ていたよ。
話しかけてもこっち向かない徹底さである。ちなみにバスタオルはタイチたちに厳命されて巻いているらしい。
「こほん、セレスタンは楽しんでいるか?」
「それはもう。無事約束が叶って嬉しい限りです。是非来年も来たいですね」
「おいおい気が早いなセレスタン! だが、俺も同じく、来年も来たいなぁこれは」
そんなたわいない話に花を咲かせながら贅沢な雪景色を鑑賞し、温泉を堪能したのだった。




