#1597 記憶に無い。これが本当のいつのまにか攻略?
今日は1月8日。つまり明日は温泉なので、今日中に〈空島ダン〉攻略したいな、とは確かに思っていた。
だが、おかしいな。最奥ボスをいったいいつの間に攻略したのか、うっすらとした記憶しかない。はて?
一応言っておくと、〈空島ダン〉の最奥ボスはゴーレム系だ。
関節が明らかに未知のエネルギーで出来ていて、腕とかボディとかが浮遊しているようにしか見えない。「というかくっついてないよねその身体!?」と何度もツッコまれたボス。
その名も――〈パペットスペースゴレムドロ〉。
身長15メートルに迫り、パンチすると明らかに関節(?)が伸びて腕が飛んでくる。身体をバラバラに分離させて飛んでくる攻撃は、巨石の塊が飛んでくるのと変わらない。
しかも再度バラバラの身体を組み立てられると、いつの間にか人型だったものがUFO型になっているなど、まあ凄まじい変形の持ち主でもあってやりにくいボスなのだ。ちなみに変型中は攻撃し放題である。
これがさらに第二形態、第三形態へと進行すると、最終的にボスはペガサスとケンタウロスを合わせたような形態になってちょっとかっこよかったりもする。
そんな特徴的なボスのはずだったのだが、俺の胸にはすでに攻略者の証が着けてあったんだ。おかしい。誰と挑んだのかすらうろ覚えである。
まさか、これがあの有名ないつの間にか攻略なの、か?
俺でも気が付かないうちに攻略しているなんて、びっくり現象だぜ!?
「ゼフィルス、もしかしてようやく落ち着いたのかしら?」
「シエラ? ど、どうかしたのか?」
そんな俺に声を掛けてきたのは、シエラ。
俺は振り向くと震えた。
なんとシエラがいつもの三倍増しくらいの強烈なジト目をしていたのだ。
これは、震える。超震える! ありがとうございます!
「ラナ殿下と私の腰を掴まえて最奥ボスに挑んだこと、まさか忘れたわけじゃないでしょうね?」
そんなことありましたでしょうか?
もしそんなことを聞けば、俺の身が危ないかもしれない。なぜか『直感』さんが凄まじい警報を鳴らしているんだ。
おかしい。『直感』さん、ダンジョンの道中ではあんなに大人しかったのに!
「えっと、そう! もちろん忘れたわけじゃないさ。本当だよ、うん。それにシエラこそ俺に用があったんじゃないか?」
「…………ゼフィルス? それじゃあ私とラナ殿下以外、あと2人は誰だったか言ってみて?」
「な、なぜそんなことを?」
あかん! 話をずらそうとしたけど、ダメだったみたいだ。
シエラのジト目がとまりません!
「さあ、早く言ってゼフィルス。最奥ボスに挑んだのは私とラナ殿下と?」
思い出せ、思い出すんだ!
そうだ!
「〈古代神話の癒薬杖〉がドロップしたんだよな!」
「それは覚えているのね。それで、ボス戦をしたのは?」
誰だろう? いや、おそらく対最奥ボスに適切な人員で行ったに違いない。
俺を信じるんだ!
「えっと、確かアタッカーはメルトとルル――」
「アイギスとリーナよ?」
「そう! 俺とシエラとラナ、そしてアイギスとリーナで挑んだんだ!」
「アウト」
おふん! いっそうシエラのジト目が鋭く!?
これ以上鋭くなってしまっていったいどうなってしまうんだ!?
「あ~、見て見てラクリッテちゃん、やっぱりゼフィルス君ってばノリで攻略してたみたいなんだよ」
「み、未知のボスを記憶がないくらいはしゃいで倒しちゃったんですか!」
「ノリノリだったもんねゼフィルス君」
「うん。最奥の部屋に着いた瞬間、そのままボス部屋に入って行っちゃったしね」
「慌ててアイギスさんとリーナさんが追いかけて入っていって、攻略完了だもんね」
聞こえてくるノエルとラクリッテ、そしてサチ、エミ、ユウカの言葉を咀嚼すると。
どうやら俺、〈ダブルパーフェクトビューティフォー〉に我を忘れて、最奥80層に到着――じゃなくてノンストップで通過し、シエラとラナの腰を掴んだまま最奥部屋に突入してしまったらしい。そして後から急ぎ追いかけてくれたアイギスとリーナと共に最奥ボスを倒しちゃったみたいだ。
あかん。そりゃシエラも圧が上がるよ!
これもそれも、レアイベントボスが79層に出たのがいけないんだ!
「全くもう! 全くもうよゼフィルスは! でも強引に一緒にボス戦行こうって言って引っ張ってくれたのは、ちょっとキュンときたわ」
「怒るのかときめくのか、どっちかにしてくださいラナ様。――ゼフィルス殿も、気をつけてくださいね」
「エステル、すまんかった」
「ちょっと、私には!?」
「え、いや。なんか楽しんでそうだったし、いいかなって」
「いいわけないでしょ!? 全くもー!」
ラナが可愛くウシになられたので、なんとか宥めてアイギスとリーナを探すが、居なかった。
「あれ? アイギスとリーナは?」
「今他のメンバーと一緒に最奥部屋でボス戦中よ」
どうやらリーナとアイギスは、テンションが狂って役立たずになってしまった俺の代わりに他のメンバーに指導しつつ一緒にボス戦をこなしているらしい。
「まあ、でもゼフィルスが帰ってきてくれて良かったわ。このまま踊り続けるんじゃないかって、ちょっと心配していたのよ」
「それどんな心配!?」
しかし、微妙に覚えがある。
どうやら俺、ノエルやラクリッテたちだけじゃなく、なんかメンバーの女子全員と踊るようなテンションでずっとクルクル回っていたらしい。本当にどれくらい踊ってたんだ?
いつの間にか日がだいぶ傾いているんだけど!?
「でも、楽しかったよねラクリッテちゃん?」
「え、は、はい。一緒に踊ったの、久しぶりでしたし」
「私たちも楽しかったよー」
「また一緒に踊ってねー」
「でも記憶は飛ばさないでくれると嬉しいな」
ユウカの言葉はごもっとも!
大丈夫。後で思い出す!
なんだか概ね好評なようでなにより。
なお、この後なんとか許された俺は、やり直しの意味も込めてまだ最奥ボスにチャレンジしていないメンバーとボス周回に参加。
無事最奥ボスを撃破したのだった。
ふう。これで大丈夫だ(?)。
そして、全員の攻略者の証をゲットしたところで帰還する。
〈上上ダン〉は相変わらずの無人だが、一歩外に出ればざわめきと共に受け入れられた。
「お、おい、あの勇者氏の胸の証、まさか!」
「お、俺も見たことがないぞ!?」
「まさか、本当に?」
「ランク2まで突破しちゃったんじゃないのー!?」
「ちょっと待て! 数日前にランク1を突破したばっかりじゃなかったっけ!? なんで〈エデン〉はもうランク2を突破しているの!?」
「何言ってるの? 勇者君よ?」
「ここにセルマがいるぞ!」
「混沌!」
うむ。なんか〈空島ダン〉を攻略した実感が薄かったが、だんだんと実感を得てきたぞ! 俺はここでカッと目を見開くと、攻略者の証を胸から外して掲げ、明言した。
「刮目せよ! 〈エデン〉は上級上位ダンジョンのランク2、〈霊峰の空島ダンジョン〉から帰ってきた! そしてこれがその攻略者の証だーーーー!」
「な、なんだってー!?」
「なんだとー!?」
ざわざわざわざわざわ!?!?!?
「さらに報告書もしっかり作製中だ! 近々研究所をはじめとした施設に提出するから、楽しみにしていてくれよー!!」
「大変だ! すぐに関係各所に報告しなくっちゃ!」
「混沌祭じゃー!」
ちょっと、テンションが壊れた影響が残っていたのかもしれない。
なんかテンション高らかに往来の場で発表しちゃったよ!
すごいざわめきだ。
もちろん、大多数が「すげぇ」みたいなテンションだ。
ふっふっふ、そうだ。〈エデン〉は凄かろう? 憧れるだろ?
〈エデン〉を目指せ! ああなりたいと思うのだ学生たち!
そしてみんな上級ダンジョンにどんどん潜ってくれよ!
なお、急に発表されることになったメンバーズは、なぜか慣れたものでみんな胸を張っていたよ。みんな慣れすぎじゃない? 誰のせいだ?
ちなみに、リーナやシエラ曰く、こういう未知の上級ダンジョンを攻略したというのはこの世界ではとてつもない偉業なので、こうして発表するのはむしろ誇らしいことなのだとか。
ふう。――やって良かったな!
とりあえず目標通り今日中に〈空島ダン〉を攻略することには成功した。
なら明日からは、〈秘境ダン〉でエンジョイだ!
明日は〈幻迷ダン〉と〈空島ダン〉の攻略を祝って、温泉地で打ち上げするぞ!
はーっはっはっはっはーー!!
後書き失礼いたします。
今回カットされた最奥ボス戦について、
先行配信しているカクヨムでたくさんの要望がありましたため
カクヨムの有料コンテンツ、〈サポーター様限定近況ノート〉で限定公開させていただいております!
タイトルは「〈ダン活〉第1596.5話 カットされたボス戦――限定公開!!」です!
リミッターが外れたゼフィルスが盛大にはっちゃける。普段どれだけセーブしていたのかが分かるとんでもゼフィルスが書かれております。
もし興味がある方は見に来てください、
カットされた、ニーコのランクアップ話の限定公開もあるよ。
お待ちしております!




