#1591 〈空島ダン〉は空の旅。転移陣は安心と危険?
結論から言おう。
お宝はあった。しかも大量だったんだ!!
「ひょー! お宝いっぱいだよ勇者君!」
「はーっはっはっは!!」
建物の中はいくつも部屋のある、どこか研究所みたいな雰囲気の施設。
大きな部屋に入る度に大型モンスターに襲われたが、まあ大したことはない。
俺たちはニーコの『お宝レーダー』の示すとおりに突き進んだんだ。
そして部屋を全部暴き、部屋に隠されたお宝〈木箱〉32個、〈銀箱〉16個、〈金箱〉8個をゲットするに至ったのだ! 合計56個! 素晴らしい。素晴らしいよ!
しかもまだ1層だ! これがこの先続くと想像したら……ふはは!
笑いが止まらないとはこのことだ!
「わー、ゼフィルス君が笑ってるよ~」
「テンションアゲアゲだね~。戻ってくるかな?」
「戻って来なければ私たちも一緒してもいいかもしれないね」
サチ、エミ、ユウカが近くでキャッキャ言っている気配!
一緒にはしゃぐか!?
「はぁ。――ゼフィルス」
「な、なんだいシエラ?」
おかしいな。シエラに一言名前を呼ばれただけで一瞬でテンションが戻ってきてしまったぞ? おかえりテンション君。
「それで、どうするの? ここに乗るのか、乗らないのか」
そう言ってシエラが指し示すところには、淡く青光りする転移陣が存在していた。
ボス部屋に出る見慣れた転移陣と、瓜二つだ。
しかし、ここは最奥のボス部屋ではない。エリアボスが居た部屋なのだ。
「エリアボスも楽勝だったよね」
「うん。というか宝箱がドロップするまで気が付かなかったしね」
「大型モンスターとボスって分かりづらいね」
うむ。サチたちの言う通り。
部屋を開けたら警備兵、もといモンスターが襲ってくる仕様のこのダンジョン。
襲ってくるのは大型モンスターのみで、普通のモンスターより強く、手応えがある。
故に今回も大型モンスターかなと思っていたら、実はエリアボスで、気が付かずに「お、今回の大型モンスターは手応えがあるじゃないか!」→「あれ? こいつ宝箱ドロップしたぞ?」となって「もしかしてさっきのってエリアボスだったんじゃ?」と発覚したのがついさっきのことだ。
もちろん俺は知ってたが、ちょうどお宝の発掘に夢中になっているときでな。俺もあとから知ったのだ。うむ。
エリアボス南無。
まあ1層のエリアボスとか、大型モンスターよりは強いね、くらいの強さなので仕方ない部分もある。階層が上がっていけばエリアボスの強さも上がっていくから気が付くだろう。きっと。
ゲームではBGMでボスか否かすぐに分かるのだが、リアルではBGM流れないからね。仕方ないね。
ちなみに宝箱は〈金箱〉。
中身は〈門番ゴーレムロボ〉レシピ。
ゴーレムロボレシピ!! つまりはハンナ行き!
一部鍛冶も必要なのでアルルとの合作になりそうだが、これは面白い!
また良いお土産が出来たぞ!
おっと、今は転移陣のことだったな。
「もちろん乗るぞ! この建物を隅々まで調べたが階層門は無かったし、この島中も探してみたがやっぱり階層門は無かった。となれば、この転移陣の先が怪しい、となる」
「それは分かるわ。でも危ないわ」
「シエラの言わんとすることも分かる」
何しろ、転移陣だ。どこに繋がっているか分からないからな。
転移した場所が罠でした、というのは定番だし、向かう先が不明という状況ほど危ない転移陣は無い。そう考えるとショートカット転移陣や最奥の転移陣に最初に乗った人は偉大だよな~。
もちろん、俺はこの先の場所のことを知っているのでなんの問題もない。
というか〈ダン活〉の転移にそんな凶悪な仕様はないので安心してほしい。
言えないけど。
まあ、後は安全を証明するだけだ。
「リーナ、〈竜の箱庭〉を出してくれ。カイリはクロちゃんに『発見自動マーキング』を掛けるんだ。シヅキ、準備が終わったらクロちゃんを転移陣に向かわせてくれ」
「承知いたしましたわ!」
「なるほど! 『発見自動マーキング』!」
「クロちゃん、君のことは忘れないよ!」
「!?」
「いや、大丈夫だから。俺の『直感』がこの先は大丈夫だって言っているから安心してくれ」
「…………」
召喚獣なら消えても時間経過で復活できるし安心。なら召喚獣をマーキングしてどこに向かったか探そうという作戦。
この『発見自動マーキング』は敵味方、どちらでもマーキングしておけるスキル。リーナが〈竜の箱庭〉を展開すると、カイリがマーキングしたクロちゃんが、建物内に居るはずなのにしっかり光って印されていた。
なんどもシヅキの方に振り返るクロちゃんが急かされながら転移陣の上に乗り、転移していく。
うむ。召喚獣も転移できることは最奥のボス部屋などで証明されている。故の作戦だ。
「いましたわ! クロちゃんさんは、現在もう1つの空島、その建物内に反応がありますわ!」
「……なるほど、そっちの島に行く方法は飛行ではなく、転移だったというわけね」
「そしてここの島には階層門は無かった。ということは、向こうの島に階層門があるということだな」
「このダンジョンの仕組みが分かってきたわね」
ようやくダンジョンが解明。
そう、お察しの通りこの〈空島ダン〉は空島から空島に移りながら階層門を探すことがコンセプトのダンジョンなんだ。まさに空島冒険というにふさわしい。
1層はそれをプレイヤーに教えるため、かなり小さい空島を採用しており、すぐに探索も完了できる形になっている。
そして建物の中には大量の宝箱があり、ここでランク2の装備を調えるべし、みたいな親切設計(?)になっている。
さすがはランク2。
その宝箱は俺たちがありがたく頂戴しよう!
ふはははははは!
加えて別の空島に行く方法もいくつか種類とギミックがあり、それをすると固形雲と呼ばれる乗れる雲が橋になったり、虹の橋が島と島に架かったりと、なかなかファンタジーな移動方法も示してくれるのだ。
今回は1層なので見慣れた転移陣方式だったけどな。
「報告、クロちゃんに戦闘突入の気配無しです。HPが減った様子も状態異常やデバフのようなものも確認できませんでした。転移陣の向こう側は安全だと推測いたします」
そうシヅキの報告を聞いて1つ頷く。
「よーし、この先に危険は無いって分かったし、まずは1班から行くぞ!」
「トップバッターですの!?」
「ゼフィルス先輩が行く気満々なんだよ!?」
「わ、我々もでありますか!?」
「ぼくは行くよ! まだこの先にぼくの『お宝レーダー』が反応している気がするんだ!」
「…………確かに、クロちゃん、は消えてもいないしダメージを受けた様子もないようだから、危険は無さそうではあるけれど……」
「大丈夫だシエラ! たとえこの転移陣が一方通行でも、俺たちには〈転移水晶〉や〈テレポ〉がある! たとえ何かあってもすぐに離脱出来るさ!」
「……分かったわ。くれぐれも、気をつけてねゼフィルス」
「おう! 任せておけ! ――それじゃあ1班、行くぞー!」
「ちょ、心の準備がまだですの!?」
「軽い! とっても軽く進んでいくよ!?」
「大丈夫だ! 心の準備なんて待たなくてもこの先は安全だ! それじゃあ、転移!」
「「あー!?」」
「ゼフィルスさん、せめて通信繋ぎますわよ!? 『ギルドコネクト』!」
サーシャとカグヤの手を掴んで引き、転移陣に入る。
すると俺たちは、どこかドーム状の建物の中にいた。
そしてその中には、なんと1体の筋肉マッチョ悪魔が!
「!! 敵でありますか!!」
「「ひゃあああああ!?」」
「!?」
「いや落ち着け。あれ敵じゃないから。クロちゃんだから」
「!? 確かによく見れば……!」
あぶねぇ。
危うくヴァンがクロちゃんに攻撃を仕掛けるところだったぜ。
「『ゼフィルスさん! ゼフィルスさん聞こえますの!? そちらの状況は!?」
「おっと――こっちは大丈夫だリーナ。ここは建物の中、敵性モンスターも今の所見えないし、視界も良好。それに『直感』さんの反応も良好だ」
そういえばリーナから『ギルドコネクト』を繋ぎっぱなしだったな。
俺はしっかり安全を報告する。
俺の『直感』さんはダンジョンでは大人しいことが多いけど、きっと良好だ!
「『はぁ。そうですのね、無事で良かったですわ』」
無事リーナに安心してもらえたようだ。
何も問題はない!
「はぁ、心臓がまだバクバク言っていますの」
「何が有るか分からないところに転移して、いきなり悪魔がこんにちはとか心臓に悪いんだよ~」
何も問題はない! でもクロちゃんは送還してもらおうと思う。
俺たちをお出迎えしてくれたクロちゃんは、ちょっと迫力ありすぎたね。
「感じる、感じるよ勇者君! この建物にもお宝がたくさんあるよ!」
「おう! だがまだ待てだぞニーコ、みんなが来るまで待てだ! 待て!」
「わん! って何やらすんだい! それくらいぼくだって分かってるよ!?」
テンションが上がりすぎてノリがよくなったニーコに和みつつ、まずドーム状の建物から出て安全確認。扉は開けっぱなしになっていたので空気の流れを感じるね。
「『直感』に反応無し。安全だな!」
「『わかりましたわ。ではこちらからどんどん送りますわ』」
そう通信が来た途端、転移陣から2班、シエラの班が出てきたのだ。
いや、むしろシエラだけが出てきた。
「ゼフィルス、大丈夫なの!?」
「シエラ?」
すでに『四聖操盾』を使っていて戦闘態勢のシエラが小走りで俺の所までやって来たんだ。
はて? 俺何かしたっけ?
「……大丈夫そうね」
「どうしたんだ?」
「いえ、リーナが最初とても慌てていたから、駆けつけたのよ」
「いや、それは誤解だぞ?」
「…………そうなの?」
なぜか酷く慌てた風だったシエラ。しかし、今はその顔は若干赤く染まっている。
どうやらさっきのリーナの慌てっぷりを見てシエラが助けに来てくれたらしい。しかも1人でだ。
なんか、ジーンと来た。
「…………大丈夫そうだから、一度戻るわ」
「え?」
そんなことを言うと、シエラは転移陣に再び乗り、戻っていった。
これはショートカット転移陣。これで相互通行可能だと証明されたが、シエラ、もしかして照れていたのだろうか?
ちなみにその後、全員がこっちの島に転移した。
シエラの2班は、なぜか最後だった。
オリヒメさんがなぜかシエラを見て笑顔になっているのが気になる。
だが、それもすぐに別のところに気を持っていかれてしまう。
建物からは大量の宝箱が見つかり、向こうの島と合わせたら100個を超えるほど。
ニーコが狂喜乱舞していたよ。俺も一緒にクルクルダンスしようかと思ったら、静かにシエラに窘められたので断念した。
中身はほとんどが上級上位級の装備か装備レシピだったよ。
とはいえ、上級中位の時の〈アダマンタイトシリーズ〉みたいな、〈金箱〉産でも最下級の上級上位級の装備、という感じのものが大量に入っていた。
つまりは〈エデン〉には必要無いので〈エデン店〉で売ろう!
学園長へのお土産にしてもいいな!
続いて島を探索し、秒で階層門を発見。
やっぱりここにあったんだとみんなで語り合い、この島には他に何も無いことが探索で分かったため、俺たちは続いて2層へと突入した。




