#1588 新年明けましてゼフィルスは今日から動く模様
盛大な年明け、年載せを経験して俺も18歳となり、そろそろ年度末が見えてきた。
目指すは最上級ダンジョンの解放。
改めてそのことを心に刻みつつ、予定を組む。
まずは後続のチェックからだ。これが上手くいっていないと急いで最上級ダンジョンに突入しても意味がない。
「だいぶ後続が良い感じになってきたな。見てくれよシエラ」
「見てるわよ。誰かのおかげで一瞬でニュースが塗り替えられてしまって……」
「でもシエラも当事者よね?」
「…………」
俺が見せたのは1月2日のニュースサイト。そこには、
「〈ハンター委員会〉がついに上級上位ダンジョンに進出!?」
の文字がデカデカと躍っていたのだが、その上には、
「また〈エデン〉がやらかした! 上級上位ダンジョンを初攻略!!!! 人類初の偉業達成!!!!」
の文字がさらにデカデカと光っていたのである。
そう、なんと学園公式ギルドの1つ、〈ハンター委員会〉が上級上位ダンジョンの入ダン条件を満たしたのである!
え? なんか妙なものがそれよりも目立ってるって?
細かいことはいいんだよ! それより重要なのは、上級上位ダンジョンの入ダン条件を満たした人が〈エデン〉以外にも現れた、という点だ!
「〈ハンター委員会〉は凄いわよね。私たちが翌日に上級上位ダンジョンの攻略を達成しなければもっと注目度が上がっていたはずなのだけど」
「タイミングが、ちょっとだけ悪かったわね」
そう言って目を逸らすのはシエラとラナ。
ここは〈エデン〉のギルドハウス。
朝、ちょっと早く来たらすでに2人が居たのだ。
どうやら新年2日目の朝に、女子みんなで温泉に入りに来たらしい。
2人とも見事にホカホカだったんだよ。少し、いやかなり色っぽい。
もちろん俺はそんな2人と会話するためにニュースネタを話題にしたのだ。
いや、相談したかったのもあるよ?
「これも俺が上級中位ダンジョンの攻略情報を渡したお陰だな。〈ハンター委員会〉が〈救護委員会〉や〈攻略先生委員会〉よりも早く上級上位ダンジョンに進出できたのは、この差が大きいらしい」
「でしょうね。確か〈救護委員会〉と〈攻略先生委員会〉は上級中位ランク5の〈地下の魔界ダンジョン〉の攻略に手間取っ――いえ、時間が掛かったから」
「〈ハンター委員会〉は私たちが通ってきた道をなぞってきたから早かったわね!」
シエラとラナの言うとおり。
真っ先にランク4の〈聖ダン〉を突破した〈救護委員会〉と〈攻略先生委員会〉だったが、その後は未知のランク5の〈地下の魔界ダンジョン〉やランク6〈登坂の豪雨ダンジョン〉に挑んだ。しかし、攻略情報無しでは攻略は難航を極めた。
特にランク6の〈豪雨ダン〉は厳しく、結局諦めてランク5の〈魔界ダン〉一本に絞り、お互い情報を共有してほとんど合同で攻略したのがついこの間の話だ。
「いえ、未踏破のダンジョンを攻略したことに学園は大きく沸いたわ。この短期間で未踏破ダンジョンを攻略するなんて偉業だって。確かに、確かに偉業なのよ」
「〈エデン〉がいつもやってるけどね」
「…………」
そう、なんと〈救護委員会〉と〈攻略先生委員会〉は攻略情報無しに〈魔界ダン〉を攻略してみせたのである。
これには学園も大きく沸いたし、盛大に祝った。パレードまで行なった。
まさに偉業である!
問題は、その偉業は〈エデン〉ではすでに日常茶飯事だということだ。
ラナの言葉に改めて自分たちがやっていることを思いだしてしまったのだろう。
シエラが無言になっちゃったぞ。
「そして、〈ハンター委員会〉は攻略情報のあった〈上級の狼ダン〉と〈火山ダン〉を攻略して、ついに上級上位ダンジョンの条件を満たしたということだ」
「〈ハンター委員会〉は〈救護委員会〉と〈攻略先生委員会〉から1歩遅れているイメージがあったけど、あの〈マラガ〉を倒すなんてやるじゃないの。まさか最初に上級上位ダンジョンに進出するのが〈ハンター委員会〉とは思わなかったわ」
そんな大きなニュースになり得る話を〈エデン〉が盛大に攫ってしまいました。
「こほん。もちろん公式ギルドも凄いが、学生のギルドも凄いんだぜ?」
「知っているわ。〈千剣フラカル〉に〈獣王ガルタイガ〉、それに〈百鬼夜行〉や〈集え・テイマーサモナー〉はすでに〈上級の狼ダン〉も攻略して〈火山ダン〉に潜っているとのことだし、一歩遅れているとはいえ、〈ミーティア〉や〈ギルバドヨッシャー〉、〈カオスアビス〉に〈世界の熊〉が上級中位ダンジョンに進出して、攻略ダンジョンを増やしているわね」
「こう見ると上級中位ダンジョンに入ダンしているギルド、だいぶ増えたわね~。Aランクは7割方入って来てるじゃないの」
もちろんこれらのギルドも〈エデン〉の後追い。
俺が渡した報告書を見ているからこその攻略速度である。
さすがに未熟なギルドには渡せないが、俺の報告書はすでにAランクギルドなどの上級中位ダンジョン進出ギルドには渡されていたりするのだ。
上級下位を自力で攻略して来たが故に地力もバッチリ。
おかげで上級下位の時より上級中位の方が攻略速度が早い、なんて現象がおきていたりするほどだ。
みんな大絶賛してくれたよ。
「この結果を踏まえ、俺がやらなくちゃいけないことも分かったな」
「……いいえゼフィルス。あなたがしなくちゃいけないのは相談よ。また何をしようとしているの? 全部言いなさい」
あれ? なんかシエラの言葉から妙な圧が。
いやきっと気のせいだろう。でも俺はちゃんとシエラに話すのだ。
「上級中位ダンジョンは今、攻略しているギルドの総数は少ないものの、その攻略速度は非常に早い。これは俺の報告書のおかげだ。つまり、俺はこの報告書をたくさん作製することが義務となる」
「そんな義務なんてないわよ。……でも、一理あるわね」
「ゼフィルスが全体の攻略の一翼を担うどころか、九割翼くらい担っているのは認めるわ」
九割翼ってなんだろう? だが言いたいことは分かる不思議。
俺はスッとそれを差し出した。
「ここに〈幻迷ダン〉の報告書がある」
「なんでよ」
一瞬でシエラがジト目になった。
ふはははははは!!
シエラのジト目、ありがとうございます! 俺はこれが見たかった!
「頑張って作ったのさ!」
「ゼフィルスはどこにそんな分厚い本を作る時間があるのよ!?」
「そりゃ夜さ! みんなでダンジョンから帰って来た後、その報告を纏めているんだよ!」
「勉強は!?」
「すでに3年生の授業すら終わっている」
「えぇ」
ラナがなんかすごく微妙な顔をしていた。
うむ。3年生までの勉強とか1年生のうちにほぼ終わってる。
なので夜はほぼ自由なのだ! 大体は大図書館に行って新たな〈ダン活〉情報を補給したり、こうやって報告書を作っている。
この上級上位ダンジョンのランク1、〈幻迷ダン〉の報告書も実は記憶を頼りにだいぶ前には完成していたのだが、それに直接行ったことで撮った画像なんかも組み込んで出来た最新版がこちらである。
ふふふ、画像を入れることで最近作ったものだと誤認させるのだ。
ちゃんと俺たちの記念撮影も載せたよ!
ペラペラ捲るシエラとラナの様子が栄養源。
微妙な顔を浮かべる2人の表情を見ていると、何か栄養的なものが補給される気がするのはなぜだろう?
「これは、提出するのかしら?」
「もちろんだ! 〈ハンター委員会〉も今日から〈幻迷ダン〉に入ダンするみたいだし、急がないとな!」
「…………そうね」
よっし! 相談の結果、同意を貰えたぞ! やったね!
報告書を増やすことは正義!
それはつまり、〈エデン〉には、もっと攻略を求められているということだ!
「それじゃあ続いては新たな上級上位ダンジョンの攻略を――」
「2つ目の攻略ね!」
「しようと思ったんだが、ちょっと気が変わった」
「なんでよ!?」
うむ、ここまでの話からてっきりランク2辺りの攻略に入るのかと思っていたのだろう。ラナがプンスコ状態だった。いや、もちろん行くよ?
しかし、俺はラナとシエラを見て――というかギルドハウスを改めて見渡してその前に決めておくことがある気がしたのだ。
ギルドハウスは現在湯上がり女子で溢れていたからである。
年明け2日目は朝風呂。特に温泉風呂は非常に良き。
そのため、女子は大勢で朝風呂にしゃれ込んでいたのである。
湯上がり女子、素晴らしい。実に素晴らしい。
それを見て俺は一度冷静になったのだ。(興奮状態です)
「そういえば去年は冬休みに〈秘境ダン〉に行ったよな?」
「そうね。あの〈温泉結晶〉もその時のものだしね」
「その時は、力不足で満足に攻略もできなかった」
「え? あ~、確かにそうね。20層を攻略して帰って来ちゃったものね」
「〈秘境ダン〉も、未攻略ダンジョンなんだ」
「……なんだか不穏な流れになってきたわ」
上級上位ダンジョンの攻略ももちろん良き。
だが、冬休みは11日の日曜日までなので、寄り道しても攻略は間に合いそうな予感。というか両方攻略してもいいんじゃない?
そこで俺は提案してみることにした。
「よし、またみんなで慰安旅行だ! 温泉へ入りに行こうぜ! ついでに〈秘境ダン〉も攻略しよう!」
「なんか後ろについででつけちゃいけないものが混ざってるわ!!」
あとがき失礼いたします。
先日、〈ダン活〉コミックスの17話が公開されました!
今回は、カルアが初登場!
「TOブックス コロナ コミックス 〈ダン活〉」で検索してみてください!




