#1576 超強ボス〈ツインズ・時々・シングル騎士〉!
10人で部屋に入る俺たちに、今まで不動だった〈分身騎士〉が反応する。
「―――――キッシ」
「おい、こいつって騎士だったよな確か? キッシって聞こえたんだが?」
「知らないのかゼルレカ? 騎士型モンスターはキッシって鳴くんだぞ?」
「そんなわけあるか! いや、ないよな!?」
おっといきなり精神攻撃か!
たった一言でゼルレカが混乱に陥ったぞ。なかなか渋い声するじゃないか。
さすがは上級上位のレアイベントボス。これが格の違いってやつか。(違います)
「ゼフィルス、ゼルレカに嘘教えないの」
「いやいや冗談とかじゃないんだって!」
「――――キッシ」
「ほら今キッシって鳴いた! 目の前のあれがなによりの証拠だ!」
「…………いえ、鳴き声1つに反応している場合ではないわ」
本当に騎士はキッシと鳴く? 今までの騎士型モンスターはどう鳴いてたか、シエラは思考を巡らせて、今の状況を思い出したのかキリッとし直していた。
まさにシエラの言う通り。
「あいつの言うことに惑わされるな! 全員気を引き締めろ!」
「惑わしてたのは主にご主人様だったような」
「しっ、姉さま、それは言わないのがお約束です」
「まずは私がヘイトを稼ぐわ。フィナ」
「はい。後方に備えます!」
「『四聖操盾』! 『オーラポイント』! 『シールドフォース』!」
シエラが最初に前へ出てヘイトを稼ぐ。フィナもそれに続いて走り、想定外の動きに2タンクで対処する構えだ。対して〈分身騎士〉は、まず単騎で突っ込んで来た。
「キッシ」
「はぁ!」
ハルバードを力強く横薙ぎした通常攻撃。しかし、シエラは難なくそれを受け止めた。
「多少は重いけど、通常攻撃ならスキル無しで十分行けるわ」
2、3度攻撃されても盾で受け止めるシエラ。
業を煮やしたのか、スキルエフェクトを纏わせて〈分身騎士〉が再びハルバードを振るう。
「『鉄壁』!」
ガツンと衝撃。だが、シエラは微動だにせず受け止めきった。さすがだ!
もちろん俺たちはその間に自分の戦いやすいポジションにバラけており、攻撃を開始する。
「『グローリーバニッシュ』!」
最初の攻撃は近くに居たフィナ。
必殺級、相手をぶっ飛ばす強力な攻撃がズドンと叩き込まれるが、それは巨大な盾で防がれる。
なんと五段階目ツリーの攻撃だったのにほんの少ししかダメージを受けていなかった。
「硬いです!」
「『フォトン・エルソード』!」
「とう――『デュプレックスソード』! 『クレセントスラッシュ』なのです!」
続いて後方と側面からエフィとルルの攻撃。これは盾で防がれずにボディに直撃した。
しかしそのダメージは、今までの上級中位ボスや〈幻迷ダン〉のエリアボス、守護型ボスと比べて――かなり少ない。
「物理に強い? なら『エルスター・フラッシュ』!」
エフィが物理攻撃に強い耐性があると睨んで銃の形をした杖を向け、魔法攻撃を発射。しかし、これもダメージはかなり少なかった。
それどころか怯みもしていない。
「とんでもなく硬い」
エフィもこれには少し動揺した様子だ。
まあ、さもありなん。ここのボスは俺たちが経験した中で最強格のボスだ。
上級上位ダンジョンのレアイベントボス。それは今までのボスとは格が違う。
あまりの硬さに撤退を選ぶこともあるほどなのだ。
しかも、硬いだけではない、攻撃力も高い。
「『城塞盾』! くっ、このボス、強いわ」
ガツンとシエラの小盾4枚が吹き飛び、シエラの大盾にもかなりの衝撃が襲う。
今のは〈四ツリ〉や〈五ツリ〉の防御スキルで防ぐような攻撃だった。
にもかかわらずシエラが選択したのは〈三ツリ〉の『城塞盾』。
理由は、敵が接近戦で、しかも回転が速く力強い攻撃をしてくるから。
これではシエラの『ディバインシールド』や最強の防御スキル『アジャスト・フル・フォートレス』が使えない。あれらは少し距離が必要なのだ。
つまり、間合いが近すぎる。
そう、この〈分身騎士〉は最近の上級ボスにしては珍しく、裏表の無い物理特化型の騎士なのだ。
上級ボスって言うのは範囲攻撃や全体攻撃を使ってきたり、体格が大きかったりと規模が大きくなる。だが、この〈分身騎士〉はそんなことはあまり無く、純粋な格闘技のような技で正々堂々とタンクを下してくるのである。
さすがは〈騎士〉系のモンスターだ。
しかし、〈四ツリ〉や〈五ツリ〉の防御スキルが使えなくたって、シエラは崩れない。
「『カウンターノヴァ』!」
「!?」
シエラの持ち味はもう1つある。カウンターだ。
騎士のスキルエフェクトを纏った凄まじい迫力のある攻撃が迫る中、シエラは冷静にカウンターをキメてきたのである。
ここで初めて〈分身騎士〉の攻撃が止まり、一歩ノックバックした。
「ナイス! 『勇者の剣』!」
「うおおりゃあ! 『怠慢と堕落の剣』! 『惰性と堕弱の一撃』!」
「とう! 『インフィニティソード』! 『ヒーロー・バスター』!」
「『エクストリーム・エルフォース』!」
「『ミカエルラッシュ』です!」
その隙を逃すアタッカー陣ではなく、ズドドドドンと攻撃。
最初に俺とゼルレカのデバフが入ったおかげでかなりのダメージが入ったように見える。
「ゼルレカ、あいつの防御力は高い! ガンガン堕落と堕弱デバフで防御と魔防を落としてくれ!」
「任せてくれよ! 『堕落の剣』! 『堕弱の刻印』!」
「だがあんまり突出するなよ!」
硬い相手には防御デバフの重ね掛けだ!
ゼルレカが一気にデバフを付与するために大剣で叩っ切る。
それが癪に障ったのか、ついに〈分身騎士〉がその本領を発揮する。
なんといつの間にか2体目の騎士がゼルレカの真横でハルバードを振りかぶっていたからだ。
「! ゼルレカ下がれ!」
「『怠慢落とし』! ってああ!?」
しかもタイミングが悪く攻撃スキルを使った瞬間だったため、スキルアクションが終わり、硬直が解けるまで動けない。その隙だらけなゼルレカに勢いよくハルバードを振ってくる。
「『極翼盾』! おりゃあ!」
「ゼフィルス先輩!?」
「キッシ!」
あぶな! ギリギリの所でゼルレカの前に滑り込むことに成功。ガキンっと盾スキルでハルバードを弾き返したのだ。
サンキュー『直感』さん! なんだか戦闘中に『直感』さんに感謝したことが、すごく久しぶりに感じる不思議!
騎士のやつ、なんか「見事!」とか言っていた気がするぜ。
「2体目!?」
「イグニス様、抑えてくださいませ! ――『大精霊様二大降臨』! 『トニトルス』! トニトルス様、お願いいたします!」
ここで今まで温存していたシェリアの火大精霊が2体目にぶつかり攻撃開始。
「『簡易召喚・悪魔の上半身』!」
さらにシヅキの悪魔召喚。ずんと空間から肩幅が10メートルを超えそうなマッスル悪魔の上半身が出てきて、その拳が2体目の頭上からズドンと落とされる。
しかし、2体目騎士はこれを盾で防御した。なにこの絵面、すげぇ!!
「今だよクロちゃん! 〈アリドレン〉は拘束を!」
「今ですイグニス様、トニトルス様!」
シヅキの持ち味は召喚。
魔法攻撃も使えるが、メインはこっちだ。
悪魔の上半身の拳を受け止めるために盾を上げてしまったところへ、〈グレーターデーモン〉のクロちゃんが飛び掛かり、召喚盤から召喚していたレアボス〈アリドレン〉が木の根を使って2体目を拘束。そこへ大精霊2体も飛び掛かるという盤石な対応をしてみせた。
だが、瞬間2体目が突如その場から消える。
「消えた!?」
「どこに!?」
「! 姉さま! 後ろです!」
「ほえ?」
なんと2体目がいつの間にかエリサの後方に出現したのである。
もちろんエリサはついていけずにポカンと騎士を見上げるだけだ。
そして2体目騎士は、問答無用でハルバードを振り下ろすが。
「ダ、ダメです! 『エンジェルリングライト』!」
ここでマシロのドーム型ドレインシールドが発動。騎士の攻撃を受け止めたのだ。
「セーフ!」
「ナイスマシロン!」
「姉さま!」
「こ、こんのお化け騎士! びっくりしたじゃないの! 『反転ヒール』! 『ダーククイーンヒール』!」
「!?」
ギリギリ助かったエリサ。
そしてさすがはエリサ、ここでビビることなく反撃に転じて見せた。
反転したダークヒールが2体目騎士を直撃。がっつりとHPを削る。
これ、固定ダメージなので防御関係無く削れるところがグッド。
「『ダークヘルヒール』! 『ダークエクスヒール』! 『ダークエリアハイヒール』! って消えた!?」
連打するエリサだったがまたも騎士は消え、そして2体目が出現したのは、なんと俺の横だった。
「キッシ!」
「はっ甘い! 俺にはエリサみたいに不意打ちは効かないぞ! 『瞬翼回避』! からの――『聖剣』! 叩き込めー!」
振られるハルバードの攻撃を、俺はもう1つの盾スキル『瞬翼回避』で後ろに回り込むように回避、これは『極翼盾』と同じように、すぐに攻撃出来るのが強みだ――よって直後に反撃の『聖剣』をぶっ放す。
ヒット! ここでたたみ掛け、なかなかのダメージを与えることに成功したところで2体目が消える。
そして今度は――出現しない。1体の時に戻ったのだ。
「こいつは、基本1体ですが、分身を作ることができるのですか!」
「それだけじゃない、こいつはツインズだ! 攻撃すればHPが減る! 分身も本体だ!」
「このツインズはどこでももう1体を出すことができるってこと!?」
シェリアの驚愕に俺が追加を添えると、シヅキがどひゃっと驚いた声を上げた。
まあ、どこからかいきなりこの騎士が襲ってくるとか怖いよな。騎士がそんな不意打ち連打しちゃっていいの!?
ルルやゼルレカ、エフィやシエラは1体目に集中して立ち回り、俺たちは2体目を警戒する。
「マシロ! ヒーラーを頼む! それと自分への防御スキルの重ね掛けも切らさないように! 後衛は固まれ! 『雷属聖剣化』!」
「はい! 『ライトハイヒール』! 『愛と希望のエンジェルハート』!」
「すごい、ゼフィルス君はあの猛攻の中で周りに指示までしてるの!?」
ふふふ、シヅキの驚愕の声が心地良い。張り切っちゃうぜ!
ここで2体目が出現したので、斬りかかる。
「早く倒すわよ!」
「ルル、2体目に注意しつつ1体目を集中攻撃です!」
「はいなのです! 『ヒーロー・バスター』! 『ヒーロー・バスター』!」
「2体目が消えて、再出現する能力が厄介ですが、1体目なら!」
「ゼフィルス、消えたら教えて」
シエラのところから戦闘中に様々な情報交換をしているのが聞こえてくる。
だが、少し勘違いが生まれているな。これは良くない傾向だ。
「大丈夫です、2体目に注意しておけば問題は――――え!?」
シェリアの言葉が途中で途切れる。
瞬間、俺は叫んだ。
「シエラ、カバー!」
「! 『クイーンオブカバー』!」
瞬間、俺の受け持つ2体目の他に、なんとシェリアの真横に1体目が再出現していた。そして続いて起こるガキンという金属音。
豪速で振られたハルバードをシエラの小盾が防いでいたのだ。
「これは!?」
混乱した声が響き、俺は口にする。
「どうやら、消えて再出現するのは2体目だけじゃないみたいだな!」




