#1572 早々に極まるボスの幻惑〈クマ・時々・クマ〉
初めて上級上位ダンジョンに入ダンした翌日。
今日も〈転移水晶〉を使い、4層の続きから開始する。
「『フルマッピング』ですわ!」
「この角度がいいかな(パシャ)」
昨日の作戦で効率的に進めるぜ。
もちろんスクショの回数は昨日のうちに回復済みだ。
加えて、今日は新しいアイテムも持ってきてある。
「これは?」
「一時的に複写ができるアイテム。〈簡易複写紙〉だな。またはお絵描きアイテムとも言う」
「そのまんまなネーミングね!?」
〈簡易複写紙〉とは、文字通り絵を複写、つまりコピーする紙とペンだ。
〈竜の箱庭〉は絵ではなく立体模型なので、一度現像する手間はかかるものの、現像した写真でも絵として複写できるのが〈簡易複写紙〉の素晴らしいところだ。
ペンで数秒もあれば描ける上にカラーもお手の物である。すげぇわ。
これ、ハンナが作れたので今朝一番に作ってもらったんだ。
さらにこれの凄いところは、一度写し取った絵をリセットできるところ。
紙なのに、まるでホワイトボードやマグネットシートのように消せてしまうのだ。
どんな仕掛けなんだろうね?
以前〈謎ダン〉の調査団に参加したときにも活躍したお絵描きアイテム。
昨日の学園長との話でこれを思いついた自分を褒めてあげたい。
おかげでスクショの回数問題を解決することができた。
スクショは上級産のアイテムなので回数回復代が結構お高いのだ。
シェリアがとても喜んでいたのが印象的だったよ。
「うん。本当に瓜二つだな。それじゃあパーティは各自これを1枚持って、無くさないようにしてくれよ」
「「「「はーい」」」」
〈簡易複写紙〉に今スクショで撮り現像した写真がしっかりカラーで複写されていることを確認して各自に渡す。
使い回し可能な紙なので無くさないでくれよ? まあ、無くしても予備はいっぱいあるのだが。
なんでハンナは20枚ほど作ってほしいと頼んだら200枚出来ちゃうんだ? 一桁間違ってるんだが……。まあ、これは今後も使うし、時間があるときに追加で作ってもらうつもりだったから別にいいけど!
そこからの展開はかなり早かった。
4層、5層とトントン拍子にテンポ良く進んでいったんだよ。
そして5層では扉が現れると、一本の通路が現れ、その先の大きな空間の中には階層門と、守護型ボスが鎮座していたのだった。
「あれは守護型ボスですわね。なるほど。守護型ボスが現れる時は迷路ではない別の部屋が用意されるのですね」
「またクマさんなのです! おっきいクマさんなのです!」
「見た感じからして、本当の守護者という感じね。避けては通れなさそうだわ」
「上級上位ダンジョンからは、守護型ボスとの戦闘は回避できない、ということか。確かにあの階層門、普段のものとは違う。上級中位ダンジョンの先に進めない状態の階層門に酷似しているように見える」
「え? ということはだよメルト様、あのボスを倒せば階層門が起動する、みたいな感じってこと?」
そう、シエラが言う通り上級上位ダンジョンからは守護型ボスは回避不可のボスになる。
今まで守護型ボスというのは回避可能だった。
タイミングを見計らったり、1パーティが引き受けて囮になったところで他のパーティが階層門を通過する、なんて方法で戦闘を回避することもできた。
だが、上級上位ダンジョンからはそれができなくなる。なにしろ階層門が閉まっているからな。開けるには、守護型ボスの撃破が条件となる。
守護型ボスを撃破しないままでは通れない、ということだ。
ちなみに6層の入り口にも同じ守護型ボスが出現していて、5層への階層門はこのボスを倒すことで通行できるようになる。そして5層か6層、どちらかの守護型ボスを倒せばもう一方も消え、その1日は相互通行が可能になるという仕掛けだ。
なんとも、RPGっぽい仕掛けになってきたぜ。
「今度こそ〈金箱〉をゲットする! 3班、行けるか!?」
「もちろんよ! 私が倒してあげるわ!」
「おーっほっほっほ! 相手に取って不足はありませんわ!」
「お嬢様はもうちょっと気を引き締めてくださいませ」
3班のメンバーはラナ、エステル、シャロン、ノーア、クラリス。
ラナとノーアという最強ドロップを生む布陣が2名も揃っているパーティだ。
「ちなみに1班も参加して2パーティで狩るぞ!」
「それを聞いて安心しました」
「うん。タンクにも自信あるけど、2タンク居ると安心感が違うしね」
俺の宣言にエステルとシャロンが胸をなで下ろす。
ハンディを加算しても2パーティにする最大のメリットは、シャロンの言う通り2タンク制という部分だ。
万が一、片方のタンクが崩れてももう片方がフォローできるというのは安心感が違う。なら毎回2タンクにすればいいじゃないか、と思うかもしれないし。それももっともなのだが。まあ、その辺はプレイヤーの好みだな。
俺的には受けタンク1とサブタンク役が居れば十分だと考えている。
そりゃ不安定な避けタンクが1しかいないパーティは俺も安全面を考慮して作ったりはしない。
崩れないパーティを作れれば1タンクでも可。
残りはアタッカーに回してタンクの受ける回数をできる限り減らすと同時に、ボス周回しまくるためになるべくタイムを縮める努力をする、というのが俺の方針だ。
だが今回はドロップも狙うと同時に安全面にも考慮。
なにしろ、最初の守護型ボスだ。しかも今までとは毛色が違う雰囲気ともなれば、安全を考慮する俺のスタイルは間違っていないだろう。
1班と3班が最初の守護型ボスをすることになり、異論は出なかった。
「祝福を掛けるわよ! 『プレイア・ゴッドブレス』!」
「『看破』します! 出ました、守護型ボスは――〈ヒグマ・時々・ヒエグマ〉です!」
「「どっちもクマじゃん!?」」
「ぶはっ!?」
どっちもクマ、これは油断できない。
思わずエリサとシャロンのツッコミがハモってしまうほどの衝撃。
俺も吹いちまったじゃねぇか!
「ヒグマグマーーー!!」
「ヒグマって鳴いているのか、マグマと言っているのか!?」
前へ出た俺たちにまず〈ヒグマ・時々・ヒエグマ〉、通称〈ニヒグマ〉が口から火の粉を吐きながら吠えてきた。
だが、これは痛恨の一撃。思わず笑いをこらえて隙ができてしまったぞ!
さすがは最初の守護型ボス。おのれ開発陣め!
「ブレス来る!? 『ランパート』!」
「ヒグマグマーー!」
最初にスキルを使ったのはシャロンだ。あのセリフを素で耐えきった模様。やるな!
要塞の壁のようなものを生み出す防御スキルで〈ニヒグマ〉の火ブレスを完全に抑える。だが瞬間ヒグマがヒエグマに入れ替わった。
「ヒエグマーーー!」
「そこは普通にヒエグマって鳴くのか!?」
ちなみにこっちは氷使いのクマ。
腕が3メートル級の氷の熊掌に変化しシャロンの『ランパード』をぶん殴って破壊してきたのだ。
「うわ、すっごい威力!? 『警報』! 『防壁召喚』! 『誘導路』! 『キャッスルオーラ』!」
「ヒグマグマーー!」
「このクマさん、燃えたり冷えたり忙しいのです! とう! 『フォースバーストブレイカー』!」
シャロンがヘイトを取りながら壁を作り、〈ニヒグマ〉を誘導。
そこへルルを初めとしたアタッカー陣が飛び込んで攻撃を開始する。
「ヒエグマ! ヒグマグマ! ヒエグマ!」
「ええいコロコロ変わりやがって! クマはクマだろうがーーー『ディス・キャンセル・ブレイカー』!」
「ヒエ――――ヒグマグマ!」
なんか氷――と見せかけて実は火でした! みたいな入れ替わりを見せて火炎のブレスを吐いてくる〈ニヒグマ〉。
くっ、熱いと冷たいを交互に使いこなすとか、なぜか昨日の学園長が思い浮かんでしまった!
だが火炎は俺のブレイク系で相殺され、そこをシェリアのイグニスとグラキエースにボコボコにされる。
「ちょ、これ、思ったよりもフェイント多めでカウンターが取りづらいですわ!」
なお、ノーアはこのクマフェイントがかなりやりづらそうだった。
通常、ボスはあまりフェイントを使ってこない。しかし、ここのボスはかなりフェイントを混ぜてくるのである。むしろ存在自体がフェイントかもしれない。
ボスの幻惑が5層ですでに極まってる!
「お嬢様一旦下がってください! カウンターは動きに慣れてきてからですよ! 『二剣・流閃』!」
「上級上位ダンジョンのボス、厄介ですわー! 今までは慣れる前でもカウンター取れましたのにー! 『十全武器展開』ですわ!」
ノーアの場合、『カバーカウンターインパクト』や『わたくし、輝け』などで相手の攻撃に割り込んだり、相手の攻撃を誘う手段が多く、今まではスキルに頼ってカウンターを決めることができていた。
しかし、それが使えない相手というのも居る。そういうボスも居るというのもマジ上級上位。
5層の守護型でクマ、その辺、ランク1のダンジョンではある。つまりはネタボスだ。
しかしランクが低くてもネタボスであってもここは上級上位ダンジョン。
なかなかいつもと同じようにはいかないようだな。
だが、いつもと同じようにハジけるメンバーもいる。
「くらいなさい! 『大聖光の十宝剣』!」
「ヒグマグマ~~~~~!?!?」
ズドドドドドドドンと強力な光の剣が降り注ぎ〈ニヒグマ〉に大ダメージを負わせる。
さすがはラナ!
おお、すげぇダメージだ! これが新しい〈ドラゴンタリスマン〉の威力か!
確かにパワーアップしてらっしゃるよ!!
「いけそうですね――『大天使フォーム』!」
「お、援護するねフィナちゃん! 『氷の牢獄』! 『ダークバインド』!」
「――はあ! 『ミカエルラッシュ』! 『ミカエルラッシュ』! 『ミカエルラッシュ』! 『ミカエルラッシュ』! 『ミカエルラッシュ』! 『ミカエルラッシュ』!」
「ヒエグマーーー!!」
「ルルも続くのです! 『変身・プリンセスメイクアップ』なのですー!」
冷えたり熱くなったり、氷で鎧を作ったりブレスを吐いたり、かと思えば身体が燃えさかったり氷のハンマーを担ぎ出したりと、まあ様々な攻撃を繰り出して翻弄してきた〈ニヒグマ〉だったが、その動きにメンバーが慣れてくると、どんどんこちら側の有利になってきた。
「見切りましたわ! 『超カウンターブラスター』! それいただきますわーーー!」
「ヒグマグマ!?」
ズドンと、ついにノーアの強力なカウンターが突き刺さり、〈ニヒグマ〉がひっくり返ってダウンしてしまう。
するとフィナやルルがすかさずボコボコに。
う~ん、幼女にボコられるクマさん。逆に新鮮かも!
俺は、うん。参加しなくても良さそうだパシャパシャ。
隣に控えるシェリアもにっこりだ。
これが決め手になり、ついに〈ニヒグマ〉のHPがゼロになる。
「グ、グマ~~~」
あ、最後は普通(?)に鳴いた。
怒り状態となり、身体を半分ヒグマ形態、半分をヒエグマ形態にしたまま、〈ニヒグマ〉は膨大なエフェクトの海に沈んで消えていったのだった。
「『ドロップ革命』ですわ!」
そしてラナとノーアの奮闘もあり、エフェクトの後には〈金箱〉が残されていたのだった。




