#1569 新し過ぎるボス登場、〈トラ・時々・オニ〉!
複数のコンソールがあることや、このダンジョンのギミックについて、俺たちはそう時間も掛からず全てのコンソールを発見していた。
「これは、パーティごとに探索させた方が良いダンジョンのようですわね」
「いや、そうかもしれないがそうじゃないかもしれない。決めつけるのは早計だぞリーナ。10人単位が必要な場面もあるかもしれない」
「確かにそうですわ。意識しておきますわね」
現在オペレーターリーナのすぐ近くで、俺たちは〈竜の箱庭〉を見つめながら会議していた。
「『それで、どのコンソールを動かすか決めたの?』とシエラさんから連絡ですわ」
『ギルドコネクト』を繋ぎ、コンソールの前にいるみんなと連絡も取っている。
やり取りできるのはオペレーターでもあるリーナだけなのがネックだけどな。
「リーナはどう考える?」
「はい。残りは赤が1つ、黄が2つ、青が2つですわね。コンソールの色を見るに〈謎ダン〉と共通点も多く、おそらくコンソールの示す赤、黄、青のランプを点灯させれば次の階層へ進めるものと推察いたします」
おう、その認識で合っているぞリーナ。
実に分かりやすい作りだよな。さすがはチュートリアルなランク1ダンジョン、その低階層だ。
そこに俺が一石を投じる。
「問題はハズレを出した場合だな。〈謎ダン〉では、大不正解を出すとエリアボスが出てくる仕様だった。それを今回に当てはめると、すでに点灯している色をさらに点けるとハズレ判定になるんじゃないか?」
「! つまりゼフィルスさんは赤のコンソールをさらに起動するとエリアボスが登場するかもしれない、と予想されているのですね」
「見渡す限り、それっぽいエリアボスはいないからな。おそらく〈謎ダン〉の時同様、どこかで待機していてハズレの時に放たれる、みたいなギミックなんじゃないか?」
「なるほど、前例がある以上、確かにその可能性は高いですわね。――今、ゼフィルスさんからいただいた話ですが――」
「『…………』」
俺は誰が聞いてももっともだ、と思うセリフで誘導する!
すると可能性が高いと感じたリーナがそれを通信で広めてくれた。
ふはははははは!
ついでにエリアボスも倒してみよう!
「赤のコンソールは、ちょうどシエラさんのところでしたか――はい。伝えますわね。――ゼフィルスさん、シエラさんから『……私たちは起動するに否はないわ』とのことです」
「いやちょっと待て、初のエリアボスの可能性もある。俺がそっちに行くまでシエラに待っていてもらってくれ!」
「―――とゼフィルスさんは言っています」
「『そう……エリアボスはここに出るのね』」
「おそらくは……」
よし。リーナがシエラに連絡しているうちに俺たちのパーティもシエラのところに合流しよう!
今回の俺のパーティは、俺、ルル、シェリア、フィナ、エリサ。
ちょっと幼女率が高い構成になっております!
「というわけで、これからシエラのところへ向かうぞ!」
「にゅ!? シエラがピンチなのです!?」
「いや、ピンチでは無いが、助けが必要かもしれない。俺たちが華麗に援軍に駆けつけてあげよう!」
「あい! 助けるのはいつだってヒーローの役目なのです! ルル頑張るのです!」
「私たちだってやったるわ! 道中は私に任せなさい! 全モンスターに永眠をプレゼントしてあげるわ!」
「今回のタンク役、任せてください。教官と久しぶりにパーティを組めて、とても嬉しいです。私も頑張らせていただきます」
俺の言葉に気合いを入れる幼女たち。そして、
「可愛いが勇ましい。素晴らしい気合いです。――ゼフィルス様」
「お、おう。なんだねシェリア?」
「私、気付いてしまったんです。ゼフィルス様が一緒のパーティであれば、たくさんの思い出を残すことができることに」
「気付かなくてもいいことに気付いちゃったのか……」
おかしいな。とても良い感じのセリフのはずなのに、シェリアが言うとどうしてか違う意味に聞こえてしまうぞ?
俺の手にはスクショがある。つまり一緒のパーティの方が撮りやすいということ。
シェリアは言外に、もっとルルたちとパーティを組めと言っていた。
うん、ルルたちと道中パーティを組むのも久しぶりだからな。
少々脱線はあったものの、すぐに正してシエラの下へと向かう。
道中のモンスターは宣言通りエリサが〈良い夢をごちそう様〉戦法で残らず光に還していたよ。このパーティだと、エリサはヒーラーのはずなんだけどね!
「ゼフィルス来たわね」
「悪い、遅くなったか?」
「シエラ! ルルが今助けに来たのです!」
「そう。ありがとうルル。――大丈夫よゼフィルス。リーナから指示もあって休んでいたところよ。どうやらこのコンソールの前はモンスターが寄りつかないみたいね」
シエラの視線が向かう先、そこには赤のコンソールが鎮座していた。
最初に見つけたコンソールと同じものだな。ちゃんと信号機のように赤、黄、青のランプもあり、内さっきエステルが起動させた赤だけが点灯している。1層では赤のボタンはすでに押されているということだ。
後は追加でここの赤のコンソールも起動すればエリアボスが登場するだろう。
「それじゃ、ゼフィルスたちさえよければ起動するわ」
「おう。念のために俺たちも参加して10人掛かりの2パーティで倒すぞ」
何しろ初の上級上位ダンジョンボスだ。用心に用心を重ねてマズいことなんてない。
それが分かっているからシエラも待っていてくれたんだろうしな。
ちなみにシエラのパーティは、シエラ、ゼルレカ、シヅキ、エフィ、マシロ、だ。
LVだけで見ればパーティで最も低いため、俺が応援に駆けつけた形。
「起動するわ」
シエラがコンソールのボタンを押して起動する。
すると〈謎ダン〉でも出たウィンドウが立ち上がり、『大不正解!』の文字が!
そしてガコンという音と共に、それまで壁であったはずの場所が、まるでラクリッテの巨塔のように幻想となり、ぬっとエリアボスが這いだしてきたのである。
「トラ?」
「いや、オニじゃ、あれ? トラ!? 今オニじゃなかった!?」
「えっと私にはトラしか見えなかったです」
「あたいはオニにもトラにも見えた。どうなってんだいこいつは」
エリアボスを見て混乱するエフィ、シヅキ、マシロ、ゼルレカ。
それもそうだろう。俺は『看破』の付いたアイテムでそいつを見破る。
「『看破』! 出たぞ、こいつは――〈トラ・時々・オニ〉だ!」
「どっちなのそれ!?」
―――〈トラ・時々・オニ〉。
そのネーミングに思わずエリサの目が丸くなる。
うん、まあそうだよね。
「トラさんなのです? それともオニさんなのです?」
ルルも混乱中。
何しろ〈トラ・時々・オニ〉は一見トラに見えるのだが、時々オニに見えるときがあるのだ。体格も顔もなにもかも違うのに、まるでそこにトラとオニが居て、時々入れ替わっているような、曖昧な存在のボス。
どっちが本体なのか分からない!
「トラオニーーーーーーーー!!」
「トラオニって言った!?」
ほら、鳴き声すら曖昧!
「トラでもオニでもなんでもいいわ。私がタンクをする、攻めてくるわよ! 『オーラポイント』! 『シールドフォース』!」
「トラオニーーーー!!」
「『鉄壁』!」
「トラが接近したかと思ったら、オニにチェンジして棍棒で殴る? なにそのスイッチ!?」
「オニさんトラ柄のパンツなのです!」
「機動力のトラとパワーのオニを上手く使い分けている? 大変結構。ネタボスかと思ったけど、手応え十分ありそうでワクワクしてきた」
「エフィ、喜んでいる場合じゃないぞ! どおりゃあ! 『怠慢と堕落の剣』!」
ここは〈幻惑の迷路ダンジョン〉。幻惑的な要素が含まれているダンジョンだ。
そして〈幻惑の迷路ダンジョン〉第1層のエリアボスは、〈トラ・時々・オニ〉。
思わず「ん?」と思う名前だ。むしろそれ名前か? というボス。
しかしネタボスかと思いきや、割と強い。
トラなのに、時々オニに変身(?)するボスなのである。
意味が分からないだろう。まさに幻惑。
〈幻惑の迷路ダンジョン〉の本当の幻惑担当は――モンスターなのだ。
正面から戦っていた時はトラだったのに、後ろに回り込んだらオニだった時の意味不明さよ。体格がごろっと一瞬で変わるものだから攻撃が当たったり当たんなかったりと、みんな混乱するレベルだ。
なのにシエラはトラの攻撃だろうがオニの攻撃だろうがじゃんじゃん受け止めていた。
「あれが真のタンク。道は遠そうですね『グローリー・バニッシュ』!」
「なに、フィナにはフィナの戦い方がある。シエラになる必要は無いさ――『聖剣』!」
「トラオニーーーーー!!」
「『星降りの光線』! やっぱり、こいつは物理特化。遠距離攻撃には弱い――『エクストリーム・エルフォース』!」
「えっと、あっちに『ライトハイヒール』! こっちに『ラファエルヒール』! そして敵さんに『フォトンノヴァ』です!」
「マシロンはなんで回復と攻撃を両立出来てんのかね――クロちゃん、やっておしまい!」
「―――――!」
「とう! オニさんこちらなのです! あれ? 今はトラさんなのです!? 『クレセントスラッシュ』なのです!」
「時々と言いつつ結構コロコロ変わりますねこのボスは。イグニス様――『イグニス・バースト』です!」
「――――!」
だが、さすがは〈エデン〉のメンバーたち。慣れるのは早い。
トラだろうがオニだろうが、そういうものだと思えば対応は早く、かなりの勢いで相手のHPを削っていったのだ。
あとマシロはラナの影響を受けてきたのか、なんか攻撃するようになってきているんだが……! 良い傾向だということにしておこう。
よし、そろそろいいか。
「マシロ、『シークレットアウト』だ!」
「あ、なるほどです! 『シークレットアウト』!」
マシロってほんと素直。『シークレットアウト』は秘密を暴く五段階目ツリーの魔法。
インビジブルやハイド系の効果を消し去り、罠や隠している物を見つけてしまう。
そしてこれは、このダンジョンでも超有効なのだ。
「トラトラ―――トラ?」
「見ろ、あいつオニになれなくなったぞ! トラトラしか言ってない!」
「え、ええええ!? そんなのあり!?」
「大チャンスなのです! 『ヒーロー・バスター』!」
実はこの幻惑。幻惑系なのでマシロの『シークレットアウト』が超有効なのだ。
曖昧な存在をしっかり現世に映し出す。
まさに天使の所業だな。
マシロの純粋さの前には、全ての虚実は明るみに出てしまうのだ!
とはいえ、これはボスに使うと大体数秒から十数秒で切れるので、ここぞというときに使うのが吉だ。
「オニになれなくなったボスなんてただのトラだ! 一気に行くぞー! 『フィニッシュ・セイバー』!」
「撃破なのです! 『フォースバーストブレイカー』! 『デュプレックスソード』!」
「トラトラ~~~!?!?」
「ダウンゲットーーー!! 総攻撃だーーーー!」
結局オニになれなくなったトラは俺とルルの攻撃でダウンしてしまい、総攻撃を受けて、HPがゼロになってしまう。
こうして初の上級上位ダンジョンのボス戦は、特に被害も無く終わったのだった。
 




