#1560 リベンジ〈マラガ〉戦。基本攻撃がラッシュ系
起き上がり、獰猛な視線でこちらに向き直る〈マラガ〉(亜竜)。
小型からビッグサイズになるゼニス(竜)。
一瞬うちのゼニスを見てピタッとボスが止まったような気がしたのは、きっと気のせいだろう。
そして、次の瞬間にはゲームの時のように、大きく息を吸い込む動作をし始める。
「! 咆哮来るぞ!」
「うん! 合わせるよ、アルテちゃんも――『敵対予告』! 『終わりの予告』! 『始まりの予告』!」
「了解です! 『リカバリーオール』!」
「ギュオアアアアアアアアア!!!!」
〈黒現迅亜竜・マラガストル〉通称〈マラガ〉の初手は咆哮だった。
ここ〈火山ダン〉の深層に来て〈亜竜〉系のボスが幾度もやってきた技だ。
相手を竦ませ〈恐怖〉状態を付与してくるなかなか強力なスキル。これが〈竜〉になると〈気絶〉まで起こることがあるため、ヒーラーは要注意だ。
しかし、咆哮をしている間は隙だらけ。
状態異常に高い耐性を持っていれば無視できる。その場合相手の隙を突くことが可能になるのだ。
トモヨはこれを使い、ヘイト稼ぎ、デバフ、バフを掛けて味方を優位にした。
アルテも全体に状態異常を回復する光を照らす〈五ツリ〉の『リカバリーオール』を発動。
これ光っている間は状態異常にならないという副次効果まで持っているので非常に優秀な魔法だ。
大体7秒ほど続くので、対抗魔法として使用することもできる。
「ゼニス! 『ドラゴンブレス』!」
「クワァ!!」
「先制――『フルライトニング・スプライト』! 『サンダーボルト』だ!」
「『投擲必中』ですわ!」
「ギュアアアアアア!!」
もちろん俺たちもこの隙に攻撃。
咆哮が止まり、良いダメージが入ったな。
「『ハイジャンプ』!」
「クワァ!」
「よし、ノーアはトモヨの右側面から接近!」
「承知いたしましたわ!」
「『ライトニングバースト』!」
「『竜祝投天槍』!」
ノーアに指示を出しながら攻撃。
空からはアイギスがゼニスに乗って接近し、竜に祝福された投げ槍スキル『竜祝投天槍』を叩き込んだ。
まずは様子見も兼ねた遠距離攻撃。
相手が何をしてくるか、普通は分からないからな。
ちょっと突いて反応を見るのは正しい選択だ。
「『これから革命しますわ』!」
ノーアが〈三ツリ〉のパーティ攻撃力バフで底上げし、待ち構えると、咆哮を終えた〈マラガ〉が突然と猛ダッシュした。
「速い! 『ガブリエルの盾壁』!」
ガツンとぶつかる〈マラガ〉とトモヨ。
〈マラガ〉は正確にトモヨへタゲを向け、猛然と突っ込んで来たのだ。
だが、ここからが〈亜竜〉、4足歩行ではあるが前の脚は爪や拳として使用してくる。
加えて、ボボボと炎が前脚に灯ったのだ。
「ギュアアアアアア!!」
「ラッシュ!? この姿で!?」
フィナなども覚えているラッシュ系。
つまり息も吐かせぬ連続攻撃だ。
〈マラガ〉が両前脚に炎が灯ると、後ろ脚で器用に半身を起こし、凄まじいラッシュを繰り出したのである。
「トモヨ先輩!?」
「――これくらいだったら大丈夫! でも回復は頂戴!」
「はい! 『聖乗の癒し』!」
アルテの能力は味方の回収。
もし味方が抜けられないような攻撃を受けたとき、速やかに回収し撤収することができる。
だが、タンクを背負い込むことはヒーラーとしてリスクも背負ってしまうということ。そのため普段は使わず、タンク回収は切り札として温存してもらっているのだ。
トモヨもそれが分かっているためアルテには回復だけを頼んで自分はこのまま攻撃を受け持つために踏ん張る。
「ラッシュ系じゃ攻撃が速すぎてカウンターを取れませんわね! 『アグニ』!」
ラッシュ系はカウンターを取るのがかなり厳しい。何しろ高速の連続攻撃だ。
カウンターを取れたとしても、続く攻撃を防げないことが多く、痛み分けになってしまうのである。
カウンターが無効化してくれるのは、あくまでカウンターを取った攻撃のみ。続く攻撃は普通にダメージを負うのである。
「ノーア、尻尾に気をつけろ! 『ライトニングバニッシュ』!」
「尻尾? あ!」
そう〈マラガ〉のあまりの速度にうっかり気から逸れてしまうが、こいつは身体と同じくらい長い尻尾を持つ。
もちろんその使い方はお察しの通りだ。
ラッシュが終わった瞬間、尻尾の薙ぎ払いが俺たちを襲う。
しかもいつの間にか尻尾まで炎が灯り、強烈な威力を誇る攻撃となってアタッカーたちを屠り去るのだ。タンクへの攻撃中に側面へ張り付いたアタッカーたちにとってこれは痛烈となる。しかし。
「ナイスですわ! 『カウンターバスター』!」
そんな攻撃もノーアにとってはナイス扱いだ。
ラッシュよりかよっぽど見切りやすかったのだろう。尻尾の薙ぎ払いに合わせた特大のバスター系がぶち込まれ、尻尾は大きく弾かれた。
「ギャアアアアアア!?」
マジか! ノーアも初見からカウンターを当てて来たー!?
ノーアには『革命勘』というカウンターを取れるタイミングを教えてくれるスキルがあるとはいえ、びっくりだわ!
「ナイス! ここだー『スターオブソード』!」
「今です! 『ドラゴンクロー・セイバーランス』!
〈マラガ〉の尻尾が弾かれてくれたおかげで俺も準備時間の長い大技を決めることが出来た。
アイギスの攻撃も決まり、中々良いダメージが入ったな!
「うひゃ~。ノーアさんったらよくアレに付いていけますね。私、乗り遅れてしまいましたよ」
「グア!」
ヒナに騎乗するアルテはこの攻撃の機会を逃してしまったようだ。
まあ、これは仕方ない。
初めての敵だしな! ノーアがパナいんだよ!
「このボス、攻撃が正面と後方で2つあるよ! みんな注意して!」
「前と後ろ、両方に注意していないとダメということですか!」
トモヨの注意が飛び、アイギスが神妙に頷く。
非常に強力な前脚の攻撃を使ってきたかと思えば尻尾の薙ぎ払いが来たからな。
ノーアも凄まじいラッシュからどうやってカウンターを取ろうかと気が逸れていた。
中々に一筋縄ではいかないボスだ。さらに
「ギュアアアアア!」
「え、ちょ、えええ!? そんな動きもするの!? 『ガブリエルの瞬盾』!」
「わわぁ!? 『ブラストドライブ』! あっぶな、超あっぶないです!」
今度は〈マラガ〉が大ジャンプ。
翼を一度羽ばたかせたのち、なんとトモヨの後方に着地して、さらにはダッシュしたのだ。
トモヨの後方とはつまり本来後衛が居る場所。
アルテだから『ブラストドライブ』で離脱してセーフだったが、本来のヒーラーだったらボスが目の前に降ってくるのである。その後はお察しだ。マジとんでもない。
これに即反応したトモヨはブリッツ系の防御スキルで一瞬で接近。
突撃系を発動し、後衛ごと轢き倒してやろうとする攻撃パターンをしてきた〈マラガ〉を出だしで止める。
攻撃が止められたらまたラッシュ系でトモヨをぶん殴りまくった。
「ちょちょちょ、本当に動きが俊敏過ぎるんですけど!」
「アルテは気をつけろ! 今みたいに大ジャンプで移動し、突進でなぎ倒してくるのがこいつのやり方らしいぞ!」
「わ、分かりました! 〈モンスターカモン〉! ワダラン! 『乗り換え』!」
「ギャアアアアアアアス!」
まさかの後衛への攻撃パターンにビビるアルテ、空なら大丈夫かと〈ワイバーン〉のワダランを呼び出して『乗り換え』を発動、瞬間移動みたいにヒナからワダランの背中へパッと乗り換えた。空に居ればとりあえず安心だろう。
だが、アルテはヒーラー。逃げてばかりもしていられず、絶対にタンクのトモヨからは離れられない。そこへアイギスがカバーに入った。
「アルテはトモヨさんから目を離さないようにしてください。――ゼニス、アルテを守るように展開しますよ!」
「クワァ!」
「お願いしますアイギス姉さま! 私を守ってくださいね!」
「今度自力でできるよう、特訓でもしましょうね」
「ええ!?」
「そこです――『エアリアル・アクロバット』!」
「ギュアアアアアア!!」
アイギスの空からの攻撃に、うっとうしそうに尻尾を槍に見立てて迎撃する〈マラガ〉。
尻尾はそういう使い方も可能なのかと全員が尻尾の柔軟さを理解する。
「その尻尾、いただきですわ! 『カバーカウンターインパクト』ですわ!」
そして理解したら利用する。
ノーアがカバー系のカウンターとかいう、とんでもスキルを発動して大ジャンプして尻尾攻撃からアイギスをかばい、そのままカウンターをズドンと決めた。
両手の大剣と大槍をぶん回して巨大な尻尾を弾く光景はマジロマン。
「ギャアアア!?」
「うおっしゃーーー!! 『聖剣』! 『勇者の剣』! 『フィニッシュ・セイバー』!」
ふっふっふ、安易に迎撃に尻尾を使えば、ノーアがまさかのカウンターを取ってくるぜ?
前をトモヨ、後方をノーアが担当してくれるなら俺はフリーだ。
アイギスも空からの攻撃をしつつも尻尾を引きつけてくれるため、やりやすいったらないぜ。
さっきから大技の連打が決まりまくる!
相手は攻撃手段が2つ、確かに脅威だろう。
だが、こっちは5人いるのだ。手数、足りてないよね?
加えて尻尾攻撃はノーアがカウンターを取ってくれるのでいちいち乱れて良い具合に隙ができる。
ようやく安定してきたかな? というところでついに〈マラガ〉のHPバーが1本消え、第二形態に移行した。




