#1552 ここが上級中位のチェーン――〈火山ダン〉!
「〈火山ダン〉を攻略したいかーーー!!」
「「「「おおー!」」」」
その日、俺はギルドメンバーに気合いを促していた。
〈エデン〉参加率、ハンナを抜いて100%(?)。
+ニーコと〈採集無双〉だ。計54人。
ブリーフィングでスケジュールを練り上げた翌日の火曜日。
昨日は〈火山ダン〉の入ダン準備ということで1日使い、準備を進め、今日から放課後を使ってコツコツ進めることになったのだ。
何を進めるって? そんなもの決まっている、〈火山ダン〉の2週間攻略だ!
リミットはテスト期間でダンジョンが封鎖されるまで。
それまでに〈火山ダン〉を攻略し、テスト期間が明け、2学期の終業式の日、上級上位ダンジョンの解放に合わせて上級上位に入ダンする!
気合い入れて攻略するぞ!!
間に合わないと思ったら巻きでやると密かに予定を立てる、確実に間に合わせてやんよ!
「気合いが入りすぎているわね。また何かしでかさなければいいけれど……」
「前人未踏のランク9に入ダンするというのにゼフィルスさんは変わりないですわね」
俺がみんなの気合いを高めている横でシエラとリーナが何やらこそこそ喋っている。
おそらく、作戦会議だろう。
シエラとリーナが協力すれば怖い物なしだ!
「よし、準備は出来たな? 行くぞ〈エデン〉! 出発だ!」
「「「「「おおおー!」」」」」
全員が装備に換装し、持ち物持って準備完了したため出発だ。
ギルドハウスから〈火山ダン〉まで真っ直ぐ向かう。
49人+〈採集無双〉5人の大進行だ。俺を先頭に三列縦隊で突き進む。
「エ、〈エデン〉の進行だ!!」
「いったいどこへ行こうというのだ!? つい先週〈上級の狼ダン〉を攻略したばかりだろ!?」
「俺、この光景、先週も見た」
「アカン! また〈エデン〉がどこかの攻略に入る気だぞ!!」
「ちょっと前まで落ち着いていたのに!?」
「次はいったいどこへ向かおうというのかしら?」
〈エデン〉が歩けば、道は開く。
とでも言うようにズザザザザと人が左右に分かれて〈エデン〉の進行を妨げない。
いつもの光景だ。
いや、いつもこれって相当やべぇな。深く考えないようにしないと。
そして〈エデン〉の後を追うように人が付いてくるんだ。
いや、ダンジョンに入ダンするだけだから付いてきても楽しいことないよ?
しかし、進めば進むほど付いてくる人が増えていく不思議。
これも深く考えないようにしないと。
そんなことを考えていたら到着。
すでにケルばあさんが待ち構えていた。いや、出迎えてくれたんだ。
よく見ればケルばあさんの隣にセレスタンが控えていた。
あれ、セレスタン? なんでそこにいるの? さっきまで一緒に付いてきてたよね? え? 手続きを終えておきました?
どういうこと!?
セレスタンのマジ有能執事ぶりに目を白黒させていると、俺たちのことを順に見ていたケルばあさんが話しかけてきた。
「相変わらず全く陰りが見えないねぇ。みんな綺麗なもんさ」
「ありがとうございますケル様」
「かしこまらないでいいよセレスタン。これも仕事さ。〈火山ダン〉の攻略、頑張ってきな」
一言二言セレスタンと話したかと思うとケルばあさんは受付に戻って行ってしまう。セレスタンが綺麗なお辞儀でそれを見送って、俺に報告してくれた。
「受付はつつがなく完了いたしました。ケル様ストップも無し。このまま入ダンしても良いそうです」
ケル様ストップ!?
なにそれ初めて聞いたんだけど? ドクターストップ的な意味だろうか?
「ご苦労様。セレスタン、疲れはないか?」
「ちっともございません。いつでも行けます」
あ、ないんだ。
出発の時一緒に居たはずだから全力疾走していると思ったのに。
「よし、それじゃあこのまま〈火山ダン〉に入ダンするぞ!」
まあいい。問題がないのなら即入ダンだ!
あんまりここでもたもたしていると俺たちに付いてきた人たちが道の妨げになってしまうのだ。
すぐに入ダンするが吉だな。
「げぇ!? ありゃ、ランク9ダンジョンだぞ!?」
「まさか、〈エデン〉はランク9ダンジョンに挑むっていうのかよ!」
「そして数日したらまた攻略して戻ってくるんだー!」
「〈エデン〉頑張れー!」
「キャー! 勇者君素敵ー!」
「負けないでねー!」
俺たちがどこのダンジョンに潜るかを知り、驚愕半分、応援半分と言ったところか。
なぜ応援が半分しかないんだろうね? でもこれでも結構増えてきたんだよ?
最初の頃はなぜか嘆きの声が100%を占めていたからなぁ。
俺もそれに手を振り返し、そのまま気負うことなく〈火山ダン〉へと入ダンした。
◇
「ここが、〈火山ダン〉……というか暑いわ!」
「みんな、〈ヒエヒエドリンク〉を摂取!」
「はーい」
開口一番、ラナの最初の感想は暑いだった。さもありなん。
だって〈火山ダン〉は火山活動が活発な火山の中腹から山頂までの道がメインになるからな。
ここはチェーンダンジョンとも言われており、上級下位のランク9〈火口ダン〉の続きでもある。
〈火口ダン〉は山の麓がメインのダンジョンだったが、そこでも溶岩が流れていて暑かったのだ。ならその中腹ともなれば推して知るべしだろう。
名前に〈火〉が入っているところからみんなに〈ヒエヒエドリンク〉をしっかり携帯するよう呼びかけていたが、忘れた子はいなかった様子だ。
俺も〈ヒエヒエドリンク〉をゴクリ。瞬間サウナのように暑かったのが、一瞬で涼しく快適な環境に様変わりしたのを感じた。
他のメンバーも一息吐いた様子で、改めて〈火山ダン〉を見渡す。
「話には聞いていたけれど、山の中腹とは思えないくらいの平坦な道ね」
「これでも少し傾斜が付いているんだけどな。確か調査に入った〈ハンター委員会〉の測量では勾配が30‰から50‰あったとか」
「パーミルって言われても、ピンと来ないのよね。角度で表してほしいわ」
ちなみにパーミルというのは勾配、つまり上り坂や下り坂を表す単位で、30‰というのは1キロメートル先が30メートル上る、もしくは下る、という意味だ。
〈50‰の上り坂〉と言えば、1キロメートル進めば50メートル上れるよ。という意味になる。
角度に直すと3度くらいだった気がする。確か、鉄道用語のはずだ。
確かに分かりづらい。しかし、敢えてパーミルを採用したのだとすると。
「〈ハンター委員会〉も〈馬車〉や〈ブオール〉みたいな車両系の〈乗り物〉を確保出来たのかもしれないな」
「なるほどね」
俺の呟きにシエラも納得の反応を見せていた。
あまり勾配がキツいと列車が登りきれず、逆にずるずるとバックしてしまうというのはこの世界でもあることらしい。
ラナの話では王都には都市を走る鉄道があるらしいからな。
〈ブオール〉もここでは下がってしまうのだろうか? ゲームではそんな話、欠片も聞いたことがなかったんだが、ちょっと後で実験してみよう。
「でも、〈火口ダン〉の時は麓をぐるーっと一周していた、というイメージだったのですが、〈火山ダン〉では山頂に向けて真っ直ぐ登る(?)という形なのですね」
エステルの言うとおりだ。てっきり上級下位と同じく中腹を周りながら、らせん状に山頂を目指すと思っていたのだろう。多くのメンバーが意外そうな顔をしていた。
とはいえ、それも間違いでは無い。上級中位のルートには分岐があるからだ。それに真っ直ぐとも限らない。結構迂回することもあるぞ。
「中腹だからかしら、大きな石や岩がゴロゴロしているわね。それと、所々溶岩が流れているようだわ。ゼフィルス、あの〈火口ダン〉でも使っていた救済アイテムってここでは使えないのかしら?」
「それも〈ハンター委員会〉が先に調べておいてくれたぜ。びっくりなことに使えるそうだ」
これには俺も驚いたよ。
ゲームでは上級下位のランク9でしか使えなかった救済アイテム〈鎮火の秘薬〉が、なんとここでも使えてしまったのである。
その報告書を見たとき、俺はアーロン先輩に問い詰めてしまったほどだよ。
てっきりゲームと同じで、ここでは職業の力を使い突破するものだと思っていたんだ。
さらにである。
ここで〈鎮火の秘薬〉が使えたと言うことは、他の救済アイテムも色んなダンジョンで使えるのではないか? と思ってしまうのも自然なことだろう。〈トラン・プリン〉とか。
しかし、実験の結果。なぜか他の救済アイテムは機能しなかったのである。
……まあ、霧を払ったり、氷で滑るのを抑制したり、雷を止めたり、月を光らせたり、岩の中にある階層門を見つけたり、亀をおとなしくさせる、などの救済アイテムはそもそも使いどころが無かったりするのだが、それはさておき。
ちなみに〈トラン・プリン〉は大きくならずに普通のプリンサイズに、そしてもっとも期待されていた〈風除けの指輪〉と〈海塗りのベール傘〉は発動出来なかったりして、惨敗の結果となったらしい。
そして唯一使えたのがこの〈鎮火の秘薬〉だった、とのことだ。
これは、おそらくここが〈火口ダン〉と繋がるチェーンダンジョンだからではないか? と予想している。非常に興味深い。
まあ、俺たちにとっては朗報だ!
早速進もう!
今日の目標は5層だ!




