#1550 タネテちゃん、新ギルドマスター爆誕!!
続いてやってきたのは、〈B街〉に建つ生産ギルドの1つ、〈彫金ノ技工士〉だ。こちらにもアクセサリーのレシピと鉱石類、牙や爪などを納品する予定だ。しかし、ここで予想外が起こる。
「タネテちゃん居るか~い」
タネテちゃん。
今だ1年生にもかかわらず物作りの才能と溢れんばかりのやる気でメキメキ実力を伸ばしている女の子だ。
最近はギルドマスターのケンタロウよりも、むしろ最初からタネテちゃんを目的にして訪問することが増えてきているな。
「ゼ、ゼフィルスさん~!」
「おお!? どうしたんだケンタロウ!?」
タネテちゃんを呼んだのにケンタロウがフィッシュした。リリースしてもいいだろうか?
でもなんか目に熱い汗を流しているので話だけは聞くことにする。
「聞いてくださいゼフィルスさん! タネテちゃんが、タネテちゃんが!」
「! タネテちゃんがどうかしたのか!?」
いつもと様子が違うケンタロウに俺は詰め寄った。
いつもなら「タネテちゃんにまた怒られたっすー」とか言っているケンタロウが、今回は様子が違ったのだ。
もしかしたら、タネテちゃんに何かあったのかもしれないと思うのも仕方がない。
だが、俺の悪い予想は良い意味で覆されることになる。
「タネテちゃんがギルドマスターになったんっす!!」
「…………ん?」
聞き間違いかな?
確か、数日前へここに来たときはまだケンタロウがギルドマスターだったはずだが。
「タネテちゃんが、ギルドマスターになった?」
「そうなんす! タネテちゃんったら凄いんっす! 1年生なのにメキメキ実力を上げていって……ついにLVが僕よりも上にいっちゃったんっす! なので、僕はタネテちゃんにギルドマスターの座を譲って、新ギルドマスターが爆誕したんっす!」
「…………その涙は嬉し泣きかよ!?」
びっくりである。
なにを目から熱い汁を流しているのかと思ったら、感動でむせび泣いてるだけか!
〈ダン活〉ではギルドマスターの決め方はその多くが実力主義。
実力があれば年齢関係無く、たとえ1年生でもギルドマスターになれるのだ。
ケンタロウが今までギルドマスターの地位に居た理由でもある。
詳しく聞いてみると、タネテちゃんは上級職になってからもギルド内をかなりまとめ上げており、最近はケンタロウに代わってビシバシ指揮を執っていたらしい。
ケンタロウもタネテちゃんに言われて任された仕事をしていたようだ。
うむ。それは前からそうだったな。いやむしろタネテちゃんが加入した直後からかもしれない? あの頃からケンタロウはタネテちゃんの指示に従って動いていたような気がする。
「というか、ケンタロウはいいのかそれで?」
「もちろんっす! ギルドのみんなもタネテちゃんの方がギルドマスターにぴったりって言ってるっす!」
それはそれで本当にいいのかケンタロウ?
「それにっす、僕は〈マッシュン〉作るのに忙しいっすし、ギルドマスターはタネテちゃんに任せるっす! 世代交代ってやつっす!」
「世代交代早くね??」
ケンタロウ、まだ2年生じゃん。
だが、ケンタロウが〈マッシュン〉作りで忙しいというのは知っている。
マリア曰く、最終的に全てのダンジョンに専用の〈マッシュン〉を作製したいらしい。
学園のダンジョンは全部で80ある。
週1台ペースで作るにしても、年間の生産数は52台だ。
実際はもっと作れるようだが、卒業までに終わるかな? という量だというのが分かるだろう。
どうやらケンタロウは、こっちに集中していたいらしく、ギルドマスターの座をさっさと後輩に渡してしまったらしい。
「あ~、なんかケンタロウらしいな」
「うっす!」
〈マッシュン〉の作製は今のところ限られた人材しかできない仕事。まさにギルドマスタークラスの案件とも言っていい重要な仕事だ。
ケンタロウがここまでやる気なら学園としても助かるだろうし、無理にギルドマスターと掛け持ちさせておくよりもどっちかに集中させた方がいいのかもしれないな。
そう納得していたら、ギルド店の中から見知った顔が現れた。
「ゼフィルス先輩! いらしていたんですね!」
もちろんタネテちゃんだ。
「タネテちゃん! ギルドマスターに就任したんだって? おめでとう!」
「あ、もう聞いていたですか。耳が早いですね~。お祝いの言葉ありがとうです! ちょうど今就任祝いをしていたところだったんですよ」
「ああ、それでケンタロウがむせび泣いてたのか。出直そうか?」
「そんな、気にしないでくださいです。むしろゼフィルス先輩のお相手以上に重要なことなんてありませんです!」
そんなことを言ってタネテちゃんがフンスする。
どうやら本気でそうタネテちゃんは判断しているっぽいので、お言葉に甘えるとする。すぐに済むしな。
「それじゃあお言葉に甘えようか。――ケンタロウ、少しタネテちゃんを借りるな」
「どうぞどうぞっす! 僕はこれにて失礼するっす!」
「あ、それならタロウ先輩、みなさんにゼフィルス先輩が来たと説明をお願いするです」
「了解っす!」
そう言ってギルドハウスに入って行くケンタロウを見送る。
なんとなく、なるべき形に収まった、という感じがするなぁ。
どうやらギルドマスター交代は円満に行なわれた様子だ。
「そうだタネテちゃん、先日の〈イブキ〉、良い出来だったぜ」
「いえいえ~。私の方も経験値大量でありがたかったです。それにその後の色々も。おかげで一番のネックだったLVも無事タロウ先輩を追い抜くことができたです」
やっぱり。あの時タネテちゃんが言っていたのは、これのことだったんだなぁ。
「それでギルドマスター交代か~」
「はい! 前々から思っていましたが、タロウ先輩にはギルドを任せておけません! 私が引っ張っていくです!」
おお! タネテちゃんがかっこいい。
タネテちゃんにはギルドマスターになってみんなを引っ張って行くという強い意思があった。
確かに、ケンタロウはザ・技術者って感じだからなぁ。
ギルドマスター交代は〈彫金ノ技工士〉にとって良いことだったようだ。
改めてタネテちゃんのギルドマスター就任を祝った。
「それでゼフィルス先輩、今日はどんな依頼ですか!? 最優先で仕上げるですよ!」
「そう言ってくれると助かるぜ! それじゃあまずは素材を納品しよう、これだ!」
素材の山をダーンと出して納品だ! ついでにレシピもドーン!
「ひゃー! やっぱりゼフィルス先輩は凄いです! こんな素材、まだどこからも……それにこのレシピの数値だって見たこと無いです! 腕が鳴るです!」
「はーっはははー! そりゃ良かった! やっぱやる気がある人に任せられるとこっちも安心出来るよ」
タネテちゃんの「ひゃー」もいただきましたー!
さすがはギルドマスター、お客さんへのサービスも完璧だぜ!(サービスではありません)
「タロウ先輩は忙しいですから、今後も私が〈エデン〉の仕事を全部引き受けるです! 任せてくださいです!」
「おう。任せたぜタネテちゃん」
タネテちゃんへの交渉というか、依頼と納品はつつがなく完了した。
うーむ、ケンタロウよりも10倍くらいスムーズな気がするのは、きっと気のせいではないだろう。
俺はタネテちゃんに手を振って店を出て、続いてギルド〈青空と女神〉や、〈私と一緒に爆師しよう〉にも向かい、〈上級ミシン〉の納品やそれを使った加工依頼、使った〈フルート〉や〈笛〉の回復を済ましたのだった。
ソフィ先輩からはとっても褒められてしまったよ!
俺はとても気分良くギルドハウスへ帰ったのだった。
◇
「ただいま!」
「おかえりゼフィルス。〈上級ミシン〉、マリー先輩は喜んでくれたかしら?」
「そりゃあもう! マリー先輩からは特大の――あ」
帰ったらシエラからにこやかに、とても自然に訊かれたのでうっかり口がチュルンと滑る。それ内緒にして出てきたのに!? 誘導された!?
「やっぱり! そうじゃないかと思ったのよ! もー! ゼフィルス!!」
そこへ腰に手を当てたラナも出てきちゃった!
「ゼフィルス?」
「え? いや、俺は何もしてないよ? 本当さ」
「何も無かったのなら何があったか聞かせてくれるわよね?」
「怪しい匂いがするわ! 私の勘は、良く当たるのよ!」
やめて! ラナは勘に頼らないで!?
だが大丈夫、マリー先輩とクルクルした時、部屋は他に人は居なかった。
俺が喋らなければきっとセーフなはず!
『直感』さんだってほんのちょっと鳴っているだけだしな!
「ごほんごほん! 実はそれだけじゃなくてタネテちゃんのところと、ソフィ先輩のところにも寄ってな。さらにレンカ先輩のところにも回数の回復に――」
そう、俺はたくさんの店をはしごして、ギルドのために行動したのだと強調して説明した。俺になんらやましいことはない! 多分!
「むむむ、怪しいわ。すごく怪しいわよ。女の子の名前ばっかりだわ!」
「ラナ殿下もそう思うわよね。ゼフィルスが何かを隠しているのは明白だわ」
しかし、なぜかラナもシエラもごまかせなかった。
しまった! ギルド名を出せば良かった。俺はなぜ女の子の名前を出してしまったんだ?
だが、なんとか俺はボロを出す前に逃げ切り、追求を躱すことに成功したのだった。
その代わり次に黙ってマリー先輩の店に1人で行ったら、今度こそ大変な事になると『直感』さんが警報を鳴らす。
ごくり、俺は『直感』さんに従います!




