#1547 ダンジョン週間の終わり。ニーコ逝くな!
日が過ぎるのは早いもので、今日はダンジョン週間9日目。
俺たちは毎日〈上級の狼ダン〉に来て狩りまくっていた。
「ねえ勇者君。ぼくはもうダメなようだ。後は任せたよ……」
「ニーコ! 逝くな! くっ、いったいなぜこんなことにっ!! 起きろ、寝ちゃダメだ!」
仰向けで手をお腹に重ねて安らかに眠らんとするニーコを俺は必死にゆすり起こす。
ここで寝られてはドロップが滞ってしまう!
「ニーコ先輩、もう今日でラストですわよ。さぁ、一緒に頑張ろうではありませんの!」
「ノーア君と一緒にしないでくれたまへ!? ぼくはか弱いんだよ!?」
あ、起きた。
しかしそれも一瞬。ハッとしたニーコは再び眠りの世界へ旅立とうとしたので待ったを掛ける。
「ニーコ、今日だけ、今日だけだから。明日は休んでいいから!」
「明日は授業があるんだが??」
むぅ。手強い。
俺たちは現在、ニーコのやる気を引き出すために奮闘していた。
この4日間、ニーコとノーアの組み合わせは超が付くほど最高の結果を叩き出しまくっていた。
もう楽しくって楽しくって、周回がすごく捗ってしまったよ。
少し、周回しすぎてしまった気がしなくもない。
今日なんか朝から〈バトルウルフ〉の尻尾が心なしか垂れていた。震えているようにも見える。鳴き声にも力が入っていない気がするのは、気のせいかな?
しかし、今日でダンジョン週間も終わり。つまり〈バトルウルフ〉周回も一区切りしなければならない。
すでにほぼ全員がLV50に届いているしな。
レアボスは〈バトルウルフ(第六形態)〉。
なんと頭が更に増え、頭4つ横一列になって俺たちを襲ってくるのだ。
属性は新たに雷が増えていたよ。
ユニークスキルはその4つの頭を生かし切った『バトルウルフ流・狼超分裂』。
今までは4体のウルフが合体した姿だったのだよ、と言わんばかりに4体に分裂した〈バトルウルフ〉たちが襲い来るユニークスキルだ。
恐ろしいのが、全ての個体がボス級のステータスをしているということ。
つまりボスが4体になるスキルだな。マジ狂ってるぜ。
だが全個体同じに見えて実はステータスには差があり、一番高いステータスを持っているのを本体として、残り3体はあくまで分体扱い。その本体へ集中攻撃して倒そうとすると、慌てたように全員が本体に戻るという弱点があったので、2回目からは超が付くほど余裕になった。
時間経過でも元に戻るのだが、結構継続時間が長いので、分裂したら即本体をぶっ倒すで切り抜けたよ。
慣れれば楽だった。
ニーコやノーアもだいぶ慣れたもので、本体を即見つけ出して集中攻撃し、どれだけ短時間でユニークを解除できるか、みたいなタイムアタックみたいなことまでしていたからな。まあ、ニーコは超必死な顔をしていたような気がしなくもないが。
「勇者君、重ね重ねになるが、ぼくはもうダメだ。少し寝かせてもらうよ」
「ニーコぉぉぉぉぉぉ!」
「では〈イブキ〉のベッドに寝かせましょう。運びますね」
「あ、助かるよエステル君」
嘆いてみたが華麗にスルーされた。
どうやらニーコは体力切れで本気で寝るっぽいので、仕方ないがノーアだけでなんとか〈金箱〉をドロップしてもらうことにしよう。
ニーコには4日間頑張ってもらったからな、まだちょっと元気そうに見えなくもないが、ゆっくり休んでほしい。
エステルになぜかお姫様抱っこされて〈イブキ〉の船内に運ばれていくニーコを見送り、俺はクルリとノーアに向きなおる。
「ノーア。もうノーアだけが頼りだ!」
「お任せくださいな! ゼフィルス様のお役に立ちますわ!」
とても頼もしい!
ノーアの『ドロップ革命』には本当にお世話になっている。
なにしろ通常ボスのドロップがレアボスドロップ級になるのだから!
もうたまんないよな!
おかげでニーコとノーアの組み合わせで最奥ボスに突撃させまくりすぎた気がしなくもない。
しかし、そのおかげでランク7の上級中位ダンジョン、レアボスドロップが大量だ。もう、本当に大量なんだ。
レシピなんかすでに100枚以上がドロップしている。もちろんレアボス産カウントでだ。
聞いて驚け。我が〈エデン〉の〈幸猫様ファミリーズ〉がパワーアップしたおかげで、なんと〈パーフェクトビューティフォー現象〉まで出たのである!
しかも1日1回以上のペースで、計5回も出たんだ!
もう俺は毎日特大の感謝を込めてお供えをする毎日さ!
今度神棚をバージョンアップさせることも視野に入れているぞ!
レアボス〈金箱〉産レシピ100個! どれからアルルとマリー先輩に取りかかってもらおうか、凄まじく悩むレベル!
また、他のギルドへも依頼を回し色々作製してもらっている。
ギルド〈彫金ノ技工士〉のタネテちゃんにはアクセ装備の作製を依頼。タネテちゃんはなぜか「これでLVも逆転できるです! ありがとうございますゼフィルス先輩!」と気合いを入れていたよ。
なんの逆転だろう?
ちなみにケンタロウは学園からの依頼である〈マッシュン〉作製がまだまだあるためそっちを優先してもらっているぞ!
ギルド〈青空と女神〉のソフィ先輩にはアイテム関係の依頼に加え、素材の加工の依頼も出した。
今までは素材もアルルたちが加工していたのだが、それを一部委託する感じだな。
〈青空と女神〉は学園でも最高峰のSランク生産ギルド。すでに五段階目ツリーを開放した生産職も多く、加工だけならアルルやマリー先輩と比べても遜色ないくらいだ。
これも、学園公式ギルドや他のSランクやAランクギルドが〈聖ダン〉まで攻略したおかげだな。全体的にかなりレベルアップしてる。
〈青空と女神〉で加工されて返ってきたインゴットなどはハンナが〈真素材〉にグレードアップし、アルルやマリー先輩によって装備が作製される仕組みだ。
何しろ〈エデン〉のダンジョン攻略班もだいぶ膨れ上がり現在49名いるからな。
装備枠だけでも49人×9装備で計441もあるんだ。手分けして作らなければ間に合わない!
「ゼフィルス! すぐに行けるエリアボスや守護型ボスは全部倒しちゃったわよ!」
「お、ラナたちもおかえり」
最奥ボスは担当がほぼ決まっていたため、49人全員でこの最奥に留まるのは悪手。というか勿体ないので、〈バトルウルフ〉担当以外は他のボスや他のダンジョンに行っていたりする。
今エステルが帰ってきたからな。ラナたちも、無事に帰還したようだ。
ラナは〈バトルウルフ〉戦をやりまくって大満足したためエリアボス担当。
その様子から誰かがやられたなどの悲壮感は感じられない。
成果もたんまりな様子でラナが凄まじくドヤッてた。ちょっと可愛い。
「あ、ノーアもこれからバルフを狩るのね。次は私も参加していいかしら?」
「もちろんですわラナ殿下。一緒に狩りましょう!」
大満足してもまだ狩られる〈バトルウルフ〉です。
そしてすでに〈バトルウルフ〉は1年生にも狩られる対象と認識されてしまったようだ。
良い傾向だな!
「最初は先輩方の軽い『狩りに行こう』や『物足りない』発言に戸惑ったけど」
「もうすでに慣れてしまった自分が、ちょっと恐ろしいですの」
うむうむ。良い傾向だな!
今日でダンジョン週間も終了だ。
俺はみんなが頑張って狩っていた間に作製した報告書をまとめて、そのまま学園長室へと乗り込ん――じゃなくてお邪魔した。
「学園長! お待たせいたしました。上級中位ランク7〈大狼の深森ダンジョン〉、通称〈上級の狼ダン〉の報告書をお届けに来ました! あとこれお土産の大剣と大斧です!」
「……ふう。ゼフィルス君はいつも元気じゃのう」
「授業が休みだからと寝ている暇はありませんとも!」
うむ。寝ている暇があったらダンジョン行きたいからな。
まあ、睡眠は大事なので夜にきちんと取るけど!
だが、学園長の目は心なしかどこか遠くを見ているような気がした。
もしかしたら、若かりし頃を思い出して「わしももう◯十年若ければゼフィルス君に付いていったのに」とか考えているのかもしれない。
この世界20歳を過ぎたら経験値が少しずつ貰う量が少なくなっていくと言うからな。無理しないでくれ。(←無理させてる本人)
「あ、それと次は上級中位ダンジョン、ランク9、〈爬翔の火山ダンジョン〉を攻略しに行きます! それが終われば上級上位ダンジョンに入ダンできるようになるので、〈ダンジョン門・上級上伝〉の解放、お願いいたしますね!」
「……ほ、ほほほほほほ」
「あ、学園長。こちら熱~いお茶です。元気になれますよ」
上級上位ダンジョンの入ダン条件達成が目前に迫ってきたので、前からお願いしていた件を再度学園長にお願いすると、なぜか乾いた笑いが帰ってきた。
すぐにクール秘書さんが熱~いお茶を出してフォロー(?)している。
だが学園長、湯飲みに触れただけで「あっつぁ!?」って言って飲んでないけど良いのかな?
クール秘書さんからボソッと「少し熱くしすぎましたか……反省です」と聞こえた気がしたが。
「ああ、こほん。ゼフィルス君」
「はい!」
真剣な学園長の言葉に俺も背筋を伸ばす。
「上級上位ダンジョンの解放だが、承知した。できれば学園公式ギルドと足並みを揃えてほしいとも思うが、上級中位ダンジョンの活躍を見るに、〈エデン〉の枷になりかねないと感じている。情けないが、上級上位ダンジョンの調査も含め、頼める、かのう?」
「もちろんです学園長! その期待に最大限応えてみせますよ!」
「いや、あまり力を入れすぎないように頼むぞい」
よっし! これで上級上位ダンジョンの解放は確実だ!
 




