#1546 〈金箱〉回!マリー先輩に良いお土産ゲット!
「イエス! ありがとう〈幸猫様〉〈仔猫様〉〈愛猫様〉! ついでに〈バトルウルフ〉! 〈金箱〉2つドロップだーーーーー!!」
「…………振り返ってみても、ほとんど苦戦らしい苦戦はしなかったわね。攻撃は強力だったけれど」
「眷属も強かったですよね。あまり苦戦はしませんでしたが」
「私たちも強くなっているってことね!」
「ルルもとっても強くなったのです!」
俺が〈金箱〉にバンザイして感謝を届けていると、4つの小盾を再び装着するシエラと、槍を〈空間収納鞄〉に収納するエステルが微妙な顔をし、ラナとルルがハイタッチしていた。
うむうむ。楽勝だったな!
視界の端で感謝を告げられた〈バトルウルフ〉が「クゥーン」と尻尾を垂らしながら嬉しくなさそうな反応をしている光景を幻視したが、きっと気のせいだろう。
そこで扉から良いリアクションの声が聞こえてきた。
「わわ! 勝っちゃってるし!」
「さすが〈エデン〉。上級中位ダンジョン、未知のボスも一発突破という噂は本当だった。私、驚きを禁じ得ない」
「すごいです! わ、わ、サインとかもらったりしても良いのでしょうか!?」
正体はシヅキ、エフィ、マシロだ。
特にマシロはこの偉業にとっても興奮している様子! なんて純粋な反応なんだ!
俺でよければサインを書こうじゃないか。ふはははははは!
まあ、すぐにマシロもこちら側になるだろうけどな!
「たははは~。新メンバーちゃんたちは公式ギルドにも所属してるから、反応がいいね!」
「ああ。信じられない気持ちもよく理解できる。俺でも未だに初めてのボスに敗北はおろか、過去一度すら戦闘不能になった光景も見たことがない」
ミサトがそんな新メンバーの反応を面白がり、メルトが諭すように真実を告げる。
メルトなんて〈エデン〉結成から1ヶ月もしない間に仲間に加わった古参だ。
そんなメルトが一度も見たことが無いと言い切ったことに、マシロは輝く瞳をし、シヅキはやべぇという顔をしていた。なお、エフィは無表情だが、俺たちから目だけは離さなかった。……なんだか狙いを定めてない?
「そういえばシヅキ君やエフィ君は〈エデン〉が新たな偉業(?)を達成するところに居合わせるの初めてだったね。うん、最初は別世界に迷い込んだかのような感覚になるかもしれないけど、いつも〈エデン〉はこんな感じだから。まあ、すぐに慣れるよ」
「カ、カイリさんは達観してるね~」
「私も〈救護委員会〉で活動することが多かったからね、〈エデン〉の偉業(?)には最初戸惑ったものさ」
公式ギルド経験者(?)は語る。
カイリ曰く、長く公式ギルドを経験していると、〈エデン〉とのギャップに戸惑うを通り越して別世界に感じるのだそうだ。
別世界、なぜか言い得て妙ではなかろうか?
なんちゃって。
「よーしみんな集まれー! 〈金箱〉の時間だぞー!」
「私はこれよ!」
「あ! ラナ、それはなんか良い感じな反応のするやつ!?」
〈金箱〉の時間。
なんて素晴らしい言葉なんだ。
だが、久しぶりにラナと組んだからすっかり忘れてた。
『直感』スキル持ちでもないのにしっかり俺が狙っていた方の宝箱をラナが確保してしまったのだ。
――しまった!! 先を越された! 残りの〈金箱〉は1個!
「くっ、ならば俺はこっちだ。こっちも悪くないと思う反応だ!」
「ゼフィルス、後輩の前よ。シャキっとしなさい」
「はっ!? ――ふ、ならばこちらの宝箱は俺がいただこうじゃないか」
「ストレートから離れようと言葉を変えたのに、ストレートでしたね」
シエラの言葉にキリッと表情と姿勢を改めたのだが、エステル的にはダメだった模様だ。
あれ?
「えっと?」
「慣れるよシヅキ君」
「う、うん?」
カイリ、新メンバーのことは任せたぞ!
俺は改めて咳払いして空気をリセットしつつ、宝箱を開けるための姿勢となった。
「それじゃあまずはギルドマスターの俺から開けようと思う! 久しぶりの〈バトルウルフ〉だ! 〈バトルウルフ〉からは軽装備などを始め、剣や槍など物理系の装備がドロップしやすい! さ~て、なにが当たるかなぁ~」
俺はそう言って注目を集める。
〈バトルウルフ〉から防具関係がドロップしやすいというのはよく知られた話だ。
まあボス素材が毛皮とかだからな。もちろん毛皮を活かした軽装備系の防具がよくドロップするんだ!
また、牙を活かした……なぜか盾や、剣、槍なんかもドロップしやすいぞ。絶対牙の大きさ足りないと思うのだが、そこは気にしてはいけない。
「〈幸猫様〉〈仔猫様〉〈愛猫様〉、改めて重ね重ねありがとうございます! 良いものください! よろしくお願いいたします!」
「あ、この独特なお祈りは慣れたよ」
「それじゃあシヅキ君も半分こちら側だね」
なんだか話し声が聞こえなくもないが、集中している俺には聞こえず、そのままパカリと〈金箱〉を開けた。
すると中には〈真風刃のマント〉という、体装備では珍しい『移動速度上昇』が付いた防具が入っていた。
「ああ~。こほん。エステル、『解析』頼む」
「ゼフィルス、今一瞬『あ、これか』みたいな顔しなかった?」
「気のせいだシエラ!」
「…………」
「ではいきますね――『解析』! これは〈真風刃のマント〉と言うそうです」
危ない危ない、つい初ドロを知っている風なリアクションをしかけてしまったが、なんとかセーフに持ち込んだ。きっとセーフのはずだ!
―――〈真風刃のマント〉。
これはかなり使えた装備の1つで、身体装備なのに『移動速度上昇』を持つのに加え、一定時間速度をさらに上昇させるアクティブスキル『疾風』と『AGI+50』を持つ、ギルドバトル〈城取り〉でかなり有用な防具だ。
マントを靡かせて走る様子が非常にかっこよく、プレイヤーの心を鷲掴みにしたこともあったな。
まあ、この先でドロップする別の防具が完全に上位互換で一瞬の栄光だった悲しい装備である。
とはいえ体防具で『移動速度上昇』をカバーできるというのは素晴らしく、足装備に『移動速度上昇』が無くて困っているという装備と組み合わせることが可能で大変有用だった。
今の時代もあの頃と近いし、これを売り出せば〈城取り〉はさらに白熱するかもしれないな。レシピの方はレアボスを周回すればきっと出るだろう。
絶対ゲットして売り出そうと心に決める! レアボスが撃破されることが決まった瞬間だ。
「性能を見るに、俺たちは使わないが、売るには良いな」
「使わないのですか?」
「わざわざシリーズスキルを崩してまで装備するかと言われれば、微妙な感じだな」
「なるほど」
というわけで〈真風刃のマント〉は他の学生がパワーアップしてもらうのに尽力してもらうこととなった。要は売りだ。
「次は私ね! 良いのを当ててあげるわ!」
そう言ってラナがお祈りを開始。
ラナがお祈りしている様子は聖女と見間違うかのような神々しい姿だ。
ラナは【大聖女】だけど。
そして、宝箱の蓋を掴み、一気に開ける。
「あ! なにこれ、加工台?」
「なんだってー!!」
やっぱりラナはやり遂げた!
なんかそんな気がしたんだよ! 俺はラナを信じてた!
「お、おおお!! こいつは間違いない。上級服装備の生産用アイテムだ! エステル、すぐに『解析』を!」
「はい! これは――〈上級ミシン仕立てメーカー〉です!」
そう、これは加工台は加工台でも、ミシンが乗っている加工台。
【上級服飾師】系が使う〈上級ミシン〉だったのである!
なんとなく、学園の工房のものよりも凄まじいオーラが出ている気がする!
―――おお~~!
みんなが食いつくようにそれを見る。
間違いなく服系の装備の作製に一役どころじゃなく買ってくれそうなアイテムだった。
もちろん俺はこれを知っている。
学園最高峰の工房にあるミシンよりも高性能であり、これを使えばあらゆる防具のステータスが上昇することを!
ふは、ふはははははは!
これは、マリー先輩に、良いお土産が手に入ったぜ!
気が付けば手の中には頭3つの狼の図が描かれた攻略者の証が握られていたし、これで〈上級の狼ダン〉は攻略完了!
よし、続いて周回の時間だな!
残りのダンジョン週間中、全日を掛けて周回してやるぜ!!
そう内心で決意を燃やしていると、視界の端に尻尾が垂れ下がって「ク、クゥーン」と鳴く〈バトルウルフ(第五形態)〉の姿を幻視した気がしたが、きっと気のせいだろう。
「よし、周回の時間だ!」
「待ってたわ! ちょっと物足りなかったのよ! ゼフィルス、笛を出しなさい!」
「いっぱい出しちゃうぜー!」
この後〈バトルウルフ(第六形態)〉も「クゥ~ン」した。




