#1542 ゼニス・ランクアップ! 成竜進化!
「クワァ!」
雄々しく翼を広げて決めポーズをアピールするゼニス。
おお、とてもかっこいいぞ! まだ進化してないけど!
「ついに進化するのね! 以前の進化から結構掛かったわね!」
「そりゃ〈竜〉だからな! だが、ついに来たって感じだな!」
隣のラナの言葉に俺は深く、それはそれは深く頷いた。
感慨深い。〈若竜〉までの進化は早いんだ。何しろ若竜じゃないと人乗せて飛行できないし。サイズ的な意味で。
だが〈竜〉というのは本来上級上位ダンジョンから出現する。〈亜竜〉だって上級中位ダンジョンの〈50エリア〉からだ。
故に、ゼニスの進化もこれくらい掛かったというわけである。
「これ以上進化したらどれほどの大きさになってしまうのかしら」
ゼニスの決めポーズにシエラが呟く。気持ちは分かる。
ただでさえ全長8メートルもあるというのに、これ以上大きくなったら、それこそ20メートル級なんかになろうものならもうギルドハウスには入れないだろう。
下手をすれば、〈モンスターカモン〉で呼べる場所がかなり限られてしまう可能性もある。しかし、心配ご無用だ。それもあとで分かるだろう。
「ええ、それにゼフィルスさんへの掴みは完璧でしたわね。これ以上ゼフィルスさんの興味を引きそうなことなんてそうそうなさそうですもの」
「クワァ!」
リーナは、俺のことをよく分かってる!
ゼニスの進化はとっても優先すべきことだ!
刮目せよ! これが、〈竜〉の進化である! なんちゃって。
「アイギス、ステータスはどうだ?」
「はい。しっかりと進化の項目が出ております。この〈聖光の成竜〉をタップすればいいんでしたね」
「おう。それがゼニスが進化するべき、聖竜の成竜ルートだからな!」
そう、幼竜、若竜とくれば、次は成竜である。あ、しゃれじゃないぞ?
あの強さでまだ大人じゃ無かったとか、信じがたい〈竜〉である。
これでまだ2回も進化を残しているんだぜ?
条件は満たしてあるからレベルさえ既定値を突破すればすぐにでも進化が可能だ。
「ゼフィルスさん、ここで進化しますか? それとも帰ってからにしますか?」
「帰ってから大勢の人に進化を見てもらうというのも確かに魅力的だ。だが、本人はどうかな」
「…………クワァ!」
「……どうだ、アイギス?」
「はい。ゼニスはすぐにでも、と」
「おう。もちろんゼニスがすぐに進化したいというのであれば尊重するさ!」
俺たちの問いかけに、ゼニスはジッと俺を見つめ、次にやる気を示すかのように両の翼と腕を広げた。やる気満々でイエスなのかノーなのかよく分からなかったが、〈竜〉と心が通じ合っている【竜騎姫】のアイギスによれば、これが「今すぐ進化させろー」みたいな意味らしい。
「みんな聞いてくれ、これからゼニスの進化を始めたいと思う! エリアボスと同時に周辺のモンスターもほとんど狩っちまって安全性が高まってるし、ここで行なうぞ!」
「「「わー!」」」
「カルアとカイリ、リーナは周囲の危険度チェックを頼む! 周囲のモンスターを排除せよ!」
「ラジャ。『エージェントアサシン』! の――『エージェント猫召喚』!」
「反応があったらすぐに知らせるね! 『索敵』! 『立体地図レーダー完備』!」
「任されましたわ! ゼニスさんの晴れ舞台、邪魔はさせませんわ!」
カルアが使用した『エージェントアサシン』は『エージェント猫召喚』とコンボで使用するアサシン猫召喚スキル。
カルアの呼び声に答えクミン、シナモン、ナツメの黒猫部隊が、何やら忍者っぽい衣装を着て召喚された。
「周囲のモンスターを狩る。よろしく」
「「「ニャー!」」」
そしてカルアが指示を出せば、黒猫たちは元気に鳴いて影の中へとぷんと消える。
『エージェントアサシン』バージョンの眷属猫は自動撃破機能付き。
つまり周囲の通常モンスターを勝手に狩ってくれる猫である。
もちろん敵性の通常モンスター限定だ。エンカウントカットとも言う。だが、驚異なのはなんとアサシン猫がモンスターを倒すと、その経験値が主であるカルアに入ってくる点だな。素晴らしい。
まあカルアのLV的に、いくら深層だからとはいえ通常モンスターではもう経験値が入ってこないのが難点。
だが、露払いならばこれほど優秀なスキルも無いだろう。
放っておけば勝手に狩ってくれるからな。召喚時間は7分くらいなので十分余裕はある。
カイリとリーナは相変わらずコンビで〈竜の箱庭〉を使ってのサーチだ。
レーダー機能まで使っているからモンスターが近くに居ないことが丸わかりだな。
一番近くにいる群れも……あ、今アサシン猫に狩られた。
狼の群れでは単体の猫には勝てんのだよ。
「良いですわね。――アイギスさん、今なら邪魔は入りませんわ!」
索敵担当リーダーのリーナからオーケーが出た。
アイギスがこっちを向くので、俺も頷く。
「いったれアイギス、ゼニス!」
「! いきますよゼニス。その姿ともお別れです。準備はいいですね?」
「クワァ!」
「では、進化です!」
アイギスはステータス画面をタップした。
パシャパシャ。
俺のスクショが光る。
瞬間、ゼニスも輝いた。
全体が白く光っていき。もう光のシルエットにしか見えない状態になると、ゆっくりその光のシルエットの形が変化、大きくなっていく。
そうして時間にして僅か10秒足らずで光が収まっていくと、そこには姿は以前に近いままに、体が成熟し成長した、ゼニスの姿があったのである。パシャパシャ。
「ゼニス、なのですね」
「クワァ!」
「あら。鳴き声は変わっていませんね。いえ、少し力強くなったでしょうか?」
「クワァ!」
「身体は、ずいぶん大きくなりましたね」
そう言って見上げるアイギスと、ずんと起き上がるようにして立ち上がり、翼をゆっくり開いていくゼニス。その全長は16メートルにもなり、体高も5メートル近くありそう。こりゃ『ハイジャンプ』が必要な訳だ。
身体の形自体は前と同じく美しさを醸し出す、細く力強い、猛禽とも精霊とも思わせる竜の姿。
四脚二翼に銀色の身体。翼はどちらかというと鳥に近くフサフサだ。身体もフサフサの毛に覆われている、どこか幻獣を思わせる竜である。
これがゼニスの成竜の姿。
――〈聖光の成竜〉である。
「クワァ!」
「ステータスも凄い上がっていますよゼフィルスさん」
「ゼニスも成竜だからな! これが本物の〈竜〉、ということだろう!」
「これが本物の〈竜〉のステータス……」
アイギスもびっくりするステータスだったようだ。
まあ、普通に〈竜〉自体上級上位ダンジョンの後半から出てくるモンスター、しかもゼニスはその中でもトップクラスの強さを持つ〈聖竜〉系列である。
きっと、この先もしかしたら本物の〈竜〉と相まみえることになるだろう、そのときこのステータスのモンスターと戦うのか、みたいなことを考えているんだと思う。
「クワァ!」
「ゼニス?」
「クワァ!」
だがアイギスの心配はゼニスの鳴き声によって遮られた。
「心配しないで、アイギスと一緒なら私は負けないよ」とでも言うような、力強い鳴き声だった。そして、どうやら俺が感じたことはあながち間違いじゃなかったようで。
「そうですね。こんなに強くなったんです。ゼニスと私なら負けはありませんね!」
「クワァ!」
アイギスの声に笑顔になるゼニス。
性格も変わっていないようだな。
「ですがこの大きさだと、もうギルドハウスには入れませんね――あれ? このスキルは……『小型化』に『大型化』?」
「クワァ!」
ゼニスのステータスを見ていたアイギスが、そのスキル項目に気が付くと、ゼニスに変化が起こる。
なんとしゅるしゅる小さくなっていき、なんと全長1メートルも無い身体になってしまったのである。
「ゼニス!? ゼニスが可愛くなってしまいました!」
「クワァ!」
「アイギス、これが今言っていた『小型化』のスキルだ」
「! つまりこれは、ゼニスが小さくなれるスキルということですか!」
「クワァ!」
そう、なんとゼニスは成竜になって『小型化』のスキルを会得していたのである。
ちいさくなり、なんとアイギスの肩に乗れるくらいの姿だ。
しかも体重も見た目通りの重さらしく、アイギスによれば全然軽いらしい。
無論『大型化』のスキルも持っているので元に戻ることも可能のようだ。
「これは素晴らしいですゼニス! これならギルドハウスの中にも入る事ができますね!」
「クワァ!」
おお、ゼニスがすっごく嬉しそうだ。
若竜になった時はギルドハウスに入れなくて、すごく悲しんでいたからな。
まさか成竜になることでまた入れるようになるとは思うまい。
よかったなゼニス。
これで癒し枠マスコットも復活だ!
そう和やかな雰囲気が流れたときのことである。
ゼニスが「クワァ?」と森の一部分を見つめると、それにリーナが反応。
「! 急に大きな気配が、これは、徘徊型です!」
「徘徊型ですか!?」
なんと徘徊型ボスが近づいてきたとのこと。
これはアサシン猫じゃ力不足。
「臨戦態勢だ!」
「クワァ!」
「ゼニス? やりたいのですね?」
「クワァ!」
そう、アイギスの問いに答えたゼニスが『大型化』し、16メートルの姿になってやる気を見せる。
「わかりました。ゼフィルスさん、是非ここは私たちの班に!」
「! 許可するぜ! アイギスの5班、いけるか!?」
「はい! ――アイギス姉さま、援護は任せてください」
「お願いしますよアルテ、『ハイジャンプ』!」
「クワァ!」
「いきますよゼニス!」
「「「「わぁ!」」」」
アイギスがゼニスの背中に跳び乗ると、ゼニスが音も無く、それこそ飛ぶと言うより浮くようにして静かに空へと飛びあがる。
その際、キラキラ銀色の光が舞ってメンバーたちから歓声が上がったのだ。
「徘徊型、接近! 接触まで10秒ほどですわ!」
「先制攻撃いきますよゼニス!」
「クワァ!」
「『人竜一体』! 『ドラゴンブレス』!」
バーン!!
ここの徘徊型ボスは〈冥府の番犬・ガルム〉。
雪と氷を使い、寒さ環境を使ってくるほか、強力なステータスから繰り出されるスピードと攻撃は、対処がなかなかに難しい。全身が黒色の冥府の番犬。
「ワン?」
そんな徘徊型ボス〈冥府の番犬・ガルム〉は、登場した瞬間、ゼニスのパワーアップした極太『ドラゴンブレス』によって吹っ飛んだ。
 




