#1539 〈モチルフ〉戦――必殺天使サンドラッシュ!
―――〈モチッコ戦士ウルフライダー〉。長いので通称〈モチルフ〉と呼ばれている。
ウルフに騎乗するモチッコは小さいながらも剣と盾を持ち、あの丸いフォルムでどうやって騎乗しているのかという、とんでもない形態をしていた。
しかしその大きさはなかなか。ウルフは全長7メートル、騎乗するモチッコは4メートルほどの巨大なボスだ。
なかなかに迫力があるな。
でもあまり怖くないのはなぜだろう?
「これは、どっちが本体なの?」
「〈ウルフ〉系? それとも〈モチッコ〉系かしら?」
「あれは〈モチッコ〉なのでしょうか??」
早速〈モチルフ〉に疑問を投げるラナ、シエラ、エステル。
その疑問はもっともだな。
まあ普通はモチッコ戦士の方が本体なのだけど、どちらかというとモチッコの方が付属品って感じだ。だってモチッコまで俺たち手が届かないし。
攻撃できるのは基本ウルフの方になる。つまりプレイヤーの気分としてはウルフと戦っている気になるのである。
モチッコが騎乗しているんじゃない。ウルフがモチッコを背中に乗せているんだ。と言われた方がしっくりくる。そんなボスだ。
「よし、ここは俺がやろう! 1班、出陣だ!」
「「「「おおー(です)!」」」」
初の守護型ボスだ。ここは俺がやっておきたいところ。
一瞬ノーアのいる4班か、ニーコのいる7班に手伝ってもらおうかという考えが過ぎるが、まあまだ5層だ。1班だけで十分。
楽しみは後に取っておこう。
「ウォン!」
「モチモチ~」
「なるほど~。うちのルーちゃんたちにチーちゃんを乗せてもいけるかも?」
ボスが唸るとなぜかフラーミナから納得の声が聞こえた。
何に納得したのだろうか?
まあいい。今は戦闘に集中だ。
1班のメンバーは俺、トモヨ、シヅキ、エフィ、マシロ。
まずトモヨがヘイトを稼ぎ、バフを掛け、シヅキが悪魔のクロちゃんを召喚するところから開始する。
「ってにゅわ!? これ、結構難易度高いね!」
驚いた様子のトモヨからの声が響いた。
それもそのはずで、ウルフが突撃してきたと思ったら騎乗(?)するモチッコが腕(?)をビヨーンと鞭のように伸ばして攻撃してきたからだ。もちろんその腕(?)には剣を持っている。
ウルフの突撃を右の盾で受け止め、続いて来る鞭を左の盾で弾くトモヨ。
そう、相手は2体なのだ。攻撃も2回来るぞ。
そう考えると、なかなか厄介なボスである。
「これ、もうほとんどツインズと変わりないね! 『ガブリエルの盾壁』!」
「言い得て妙だな! 『勇者の剣』!」
人馬一体なら1つのボスだけど、ウルフとモチッコが別々で攻撃してきているからな。ツインズと言っても過言ではないかもしれない。
いや、でもコンボ攻撃というか、合体攻撃はあるぞ?
「って、ちょっと、なんかウルフがモチッコの腕を咥えてぶん回し始めたんだけど!? モチッコがハンマーみたいになって――ああ!? 今ビタンッていったよ!?」
「ぶはっ!」
シヅキの解説に思わず吹く。
今のは〈モチルフ〉の合体攻撃、『ゴールデンハンマー(餅)』だ。
騎乗していたはずのモチッコがなぜかウルフの装備品のようにハンマー扱いされ、4メートル級モチッコをぶん回してズドンしてくる大技。
見た目はギャグだが、これがかなり強いんだ。
なお、避けたりするとモチッコが地面にビタンと潰れたトマトみたいになるぞ。
ちなみにトモヨはおそらく『攻撃予測』を活かしたのだろう、ギリギリ回避していた。
「あ、トモヨ! そのモチッコに触れるな!」
「へ? ってあああ!? 〈束縛〉と〈毒〉ついた!? うっそ、耐性貫通あるよ!?」
ビタンと潰れたモチッコはトリモチ効果を有する。つまり踏んだら〈束縛〉状態になって動きにくくなってしまうのだ。
あとなんか〈毒〉もプレゼントされる。モチッコ食中毒!? いや食べてないけどさ。
あと地味にこの〈毒〉は耐性貫通付きでタンクにもたまに刺さるので注意。
「マシロ、浄化だ!」
「はい! トモヨ先輩――『天使の浄化』!」
「サンキューマシロン!」
「いえいえ~」
「なんか最近マシロがマシロンと呼ばれるところをよく見かけるな!」
「平民同士のお付き合いってやつだよ! 『簡易召喚・悪魔の腕』!」
マシロの浄化によって即でトモヨの状態異常が消えると、シヅキが〈四ツリ〉の悪魔の腕を簡易召喚した。
地面の大きな魔法陣から伸びるのはムキムキの悪魔の腕。まるでアランの右腕を見ているかのような立派さだった。大きさは実に5メートル。
悪魔の腕なんだからもっと触手っぽい感じとかないの? と思うかもしれないが、〈ダン活〉は対象年齢Bのゲームなのです!
そんな腕が手をパーにして、ビターン中のモチッコへ上からさらにビターン!!
ああっと! トリモチが発動して悪魔の腕とモチッコがセットに! くっついてはなれなーい!
「ウォン!?」
これにはウルフも驚きを顕わにしたような顔をしていたよ。
「俺の相棒が、悪魔に取られた!?」みたいな?
いや、モチッコを雑にハンマー扱いしたのはウルフの方だけどな!
「よく分からないけどチャンスってことだよね! エフィ大技いくよ! 『大天使フォーム』!」
「りょ――『大天使フォーム』!」
ここでトモヨとエフィがユニークスキルを発動。
「これが本当のくっつきだー! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』! 『エルシール』!」
「そこへ私がどーん――『星降りの光線』! 『ウリエルラッシュ』! 『ウリエルラッシュ』! 『ウリエルラッシュ』! 『ウリエルラッシュ』! 『ウリエルラッシュ』! 『ウリエルラッシュ』!」
「ウォォォォォン!?!?!?」
あ、あの技は!!
クラス対抗戦でフィナとトモヨがお披露目したというコンボ攻撃――天使サンドラッシュ!!
初めて見た!
トモヨが『エルシール』で敵の行動を疑似的に阻害し、その間に別の天使がラッシュ系を連打するという恐ろしい技だ。
ほぼダウン状態への総攻撃なんだよな!
しかも空に攫われたりするとほとんど抵抗できないらしく、対人戦では相当強力なコンボとなるらしい。ボスはさすがに持ち上げることは出来ないようだが。
しかし、くっ、天使が2体もいるとこんな攻撃が可能に……!!
ゲームでは天使は1体まで制限だったからリアルならではの必殺技だ! すげぇ。
天使と騎士なら似たようなことはできるかもしれないが、やっぱり同じスキルならクールタイム無しで連打できる天使と天使だからこそのラッシュ方法だろう。これ3分続くんだぜ?
凄まじいダメージ!?
なぜかトモヨがモチッコに対抗心燃やしてくっつきバトルしているのが面白い。
俺は邪魔が入らないようにシヅキとモチッコを抑えにいったよ。
おかげでサンドバッグ――じゃなくて天使サンドラッシュが派手に決まったな。
こんな攻撃を受け続けた〈モチルフ〉はたまったものではなく、1分50秒くらいのところでHPがゼロになった。
「ウ、ウォーン…………」
その最後の鳴き声は、とても悲しそうだったよ。
というか……速攻だったな。
これ、トモヨとエフィだけでも強いのにさらにフィナまで加わったらこの先ボスとか楽勝なんじゃ……。
ふ、とんでもないことに思い至ってしまったようだぜ。
天使5人パーティを新たに作るか?
留学生ならまだ〈エデン〉にも枠はある。天使は特性で回復魔法が使えるからヒーラーは抜いてしまって、タンク1、アタッカー4で【ガブリエル】、【ウリエル】、【ウリエル】、【ウリエル】、【ウリエル】のパーティが最強?
そこまで考えて首を横に振る。
いや、〈ハンドエル〉のように20メートル級の本体、眷属召喚、攻撃方法が特殊なボスなどもいる。
天使サンドラッシュが有効なのは一部のボスのみだろう。
それでも強いが。まあ、やめておこうか。育成の時間が無いしな。
この構想は、今度俺の授業の時にでも語ろうと思う。
……本当にとんでもないパーティが出来たりしてな!
――これが切っ掛けとなり、【悪魔】系の需要が高かった世論は反転し、【天使】の需要が高まっていくのだが、それは別の話。
そしてエフェクトに沈んでいった〈モチルフ〉は――2つの〈金箱〉を落としていったんだ!




