#1532 〈金箱〉開けてゼフィルスのブレーキ大爆発!
「ニャ、ニャアア~~…………」
「そ、そんにゃばかにゃ~」とでも言うようにズドンと後ろに倒れる黒猫。
へそ天状態だ。
そして膨大なエフェクトが発生する。
〈キャットタワーツインズカイザー〉、撃破!
きっと今シエラたちが相手をしていた白猫もエフェクトに包まれていることだろう。
そうして黒猫がエフェクトに沈んで消えていった後には、〈金箱〉が残されていたのだった。
「よっしゃ〈金箱〉ゲーーーーット!! ついに〈金箱〉来たーーー!! 〈金箱〉よっしゃーーーーー!!」
「あ、相変わらずテンション高ぇなゼフィルス先輩は……」
しまった。後輩の前ではしゃぎすぎてしまったんだぜ!
でも仕方なかったんだ、ずっと〈金箱〉が出なくて俺は禁断症状が出そうだったんだよ。テンションがハイテンションにギュイーンと行ってしまったのも分かるだろ?
しかし、ゼルレカの反応が思ったよりも薄かったことでリーナが首を傾げてそれを聞く。
「なんだかゼルレカさん、慣れていませんこと?」
「いや、あたいらの面倒を見てもらっていたとき結構見たからな。なんか慣れた」
「ゼフィルスさん?」
あ、リーナが若干シエラみたいなジト目で俺を見てる!
いや、仕方なかったんだ。やっぱラナたちのいるボス戦に慣れてしまうと、〈金箱〉を中々見ることが出来ない状態が続いたら心がな? だから出ると幸せでヒャッホーしてしまうんだ。
俺は悪くない!
「やっぱりブレーキ役がいないとゼフィルスさんはどんどんコロコロ転がって行ってしまいますのね」
なにその表現!
一度転がると誰も追いつけないとかそんな意味だろうか?
「こほん。まあまあゼルレカ、リーナ、落ち着いてくれ」
「一番落ち着くべきはゼフィルス先輩じゃないか?」
ゼルレカめ、中々鋭いことを言う。
大丈夫、俺はもう落ち着いた。これから仏の心で〈金箱〉を開けるのだ!
物欲センサーなんかに負けないぞ!
「いいブレーキでしたわよゼルレカさん。そうですわ、ゼルレカさんさえよろしければゼフィルスさんのブレーキ役をやってみませんこと?」
「あたいが!? いやいや無理だってリーナ先輩、あたいが手に負える存在じゃないって」
ゼルレカよ、俺が手に負えないなにかみたいな存在にでも見えているのかね?
去年はあたいに出来ないことはない、みたいな雰囲気していたのに、丸くなったものだ。これもサテンサ先輩や俺の修業の賜物だろう。
だが、俺への認識は少し改めさせないといけないかもしれない。
「ゼフィルスさん。もしよろしければ私と共同作業などいかがでしょう?」
「あ! カタリナが抜け駆けしようとしてるよ!」
「いったいいつの間にあんなところに、許しませんよカタリナ」
「ちょっと待ってフラウ、ロゼ、話し合いましょう。私たち、わかり合えると思うわ」
「私たちがボス戦手伝ったのなんてちょっとだけだったんだから、ゼフィルス君にやらせてあげるべきだよ」
「フラウに同意します。ここでカタリナがゼフィルスさんの横を取れば、シエラさんからなんと言われるか」
「おかしいわね。私、シエラさんに逆らえる気がしないのよね……」
カタリナが共同作業を持ちかけてきた! 珍しい。というか初めての試みでは?
そう思ったが、直後にフラーミナストップが掛かって連れて行かれ、結局無しになった。
途中から参戦してきた私たちは見学に回るってさ。そんなの気にしなくていいのにな!
というわけで俺は1人〈金箱〉の前にしゃがんだ。チラッとゼルレカを見る。
「あたいはやらないぞ」
「分かってるさゼルレカ」
何か言う前にゼルレカに被せられた。
ゼルレカは照れ屋だからな。そのうちアリスとキキョウを並べて〈金箱〉を開けるところをスクショしてやろうと心に決める。
楽しみだ。
「では、いくぞ! 〈幸猫様〉〈仔猫様〉! いつも幸運をありがとうございます! どうか中も良いものお願いします!」
「良いものお願いします」
「あら、ゼルレカさんは素直にお祈りするのですね」
「え? あ、いや、なんかゼフィルス先輩に仕込まれたっつうか、逆らえなかったっつうか……」
お祈りは良いことだ。
ゼルレカよ、迷わなくていいのだ。
全ては〈幸猫様〉が見ておられる。
きっと良いものをくださるぞ!
「いざ!」
俺は心を籠めてお祈りし、なんか久しぶりに〈金箱〉を開ける気分になりながらパカリ。すると、中に入っていたのは――俺はそれを見た瞬間、自分の〈空間収納鞄〉に手を突っ込んだ。
「出番だぜ〈幼若竜〉! 『解析』!」
俺は速攻で〈幼若竜〉を取り出して『解析』する。
しなくても俺には分かるが、しないといけないのだ。うむ。
「ふははははははは!」
あ、思わず笑いが漏れた!
だが仕方ない。これはそれほどのものだったのだ!!
ここはレアイベントボス。
非常にレアで、ここでしか手に入らない装備とアイテムが手に入る。
そして俺が手にしたのは、ここで最も欲しかったアイテムだった。
「な、それは!?」
「〈幸猫様〉?」
「いや違う。この御方は――〈愛猫様〉だ!!」
その名も――〈幸運に愛された猫〉。通称〈愛猫様〉。
〈幸猫様〉〈仔猫様〉〈愛猫様〉などを含め、〈ダン活〉プレイヤーからは敬意を込めて〈幸猫様ファミリーズのご神体〉と呼ばれていた四神猫の1体。
上級ダンジョンで手に入る、超幸運アイテムの1体だったのだ。
「うおっしゃあああああ! 〈愛猫様〉が来たぞーーーーー!!」
俺は宝箱から〈愛猫様〉を取り出すと高らかに掲げた!
俺は今猛烈に叫びたい気分だ。というかすでにシャウトしている。
〈幸猫様〉はハンナが当て、〈仔猫様〉はシェリアが当てた。
なら〈愛猫様〉かもう1体こそ俺の手で、とずっと思ってきたのだ。
今、その願いが叶った。これも〈幸猫様〉の恩恵に違いない!!!!
〈幸猫様〉、ありがとうございます!!!!
改めて掲げられた〈愛猫様〉を見る。
おお、なんと神々しいお姿よ。
まるで〈幸猫様〉の番いのような愛らしい猫のぬいぐるみ。いや、実際番いなのだろう。(願望)
〈幸猫様〉と瓜二つのポーズを取っていて、〈愛猫様〉にはハートの模様がいくつも身体に点在していた。むしろハート模様しかない。
しかも、その頭には大きなピンクのリボンがあって、全力でメスだと訴えていた。
〈幸猫様〉と並べればもう夫婦にしか見えない。
そのため、〈ダン活〉プレイヤーからは〈幸猫様〉と〈愛猫様〉をセットで〈夫婦様〉と呼ばれていたほどだ。
名前も〈幸運に愛された猫〉。幸運とはつまり〈幸猫様〉のこと。
後はもう分かりみだろう。
その効果も当然のように〈幸猫様〉の効果をサポートするもので、〈幸猫様〉の『幸運』を『超幸運』にする、というものだ。
頭に『超』が付いてるーーー!! これはヤバい。
【勇者】系の『超反応』や、【英雄】系の『超反撃』などと同列と言えばどれだけヤバいのか分かるだろうか。
その幸運効果は、有志の〈ダン活〉プレイヤーたちの検証によって調べられた限り、なんと『幸運』の約2倍。
いつもよりも2倍の確率で宝箱が増え、2倍の確率で〈金箱〉がドロップしたという検証結果を発表したのだ。
もう最高だな! 〈幸猫様〉最高!! 〈幸猫様ファミリーズ〉バンザイ!!
これはもう、抑えられない!
抑えている場合じゃない!
その瞬間、俺の理性は爆発した。
ブレーキ? そんなものこうだ!
「リーナ!!」
「ゼフィルスさん!? きゃあ!」
近くに居たリーナを一瞬で捕まえ、腰に手を回し、もう1つの手は恋人繋ぎにしてクルクル回り出したのだ。もちろん〈愛猫様〉は特等席に置くのも忘れてはいない。
「そうれクルクルクルクル!!」
「わぁあ! な、なんじゃこりゃあ!?」
「きゃあああ、もう、ゼフィルスさん、いきなりすぎますわ~~!!」
リーナから悲鳴が聞こえた気がしたが、黄色っぽかったので気にも留めず、テンションが振りきって天元を突破して爆発した俺はそのままクルクルダンスにしゃれ込んだ!
「あら、あらあらあらあらあら! シエラさんが居ないところでクルクルダンスが発動してしまいましたわね」
「カタリナ、今すっごく悪そうな顔してたよ!」
「そんな顔してないわ!」
「いえ、してましたよ。私もバッチリ見ました。言葉使いは猫をかぶれていましたが、顔が剥がれていました」
「こほん。次は私が引き受けます」
「ちょ、カタリナ、それはないんじゃない? 次は私!」
「私も立候補します」
「先輩方、なんでそんな冷静!? うちらのギルマスはいったいどうしちまったんだ!?」
「ゼルレカさん落ち着いて。あれに巻き込まれてはならないわ。離れてなさい。理由は後で説明してあげるから」
「あ、カタリナが他の子の排除に掛かった」
「口調が戻ってますね」
「ひゃああああ!? ど、どうしたのゼフィルス先輩ーー!?」
「ふははははは!! 今度はマシロか!? 一緒にクルクルダンスしようぜ~! そうれクルクルクル~」
「ふわわわわ!? わかりました。これは勝利のダンスですね! ダンスします!」
「ああ!? しまったわ、マシロさんのことすっかり忘れてた!」
「マシロに2番手持ってかれた!?」
「マシロさん、素直すぎます。一瞬で馴染んでますよ!」
その後は良く覚えていない。
リーナ→マシロ→カタリナ→フラーミナ→ロゼッタ→リーナまでクルクル回った気がしたが、そこで横から見覚えのある小盾が飛んできたんだよ。続いてゼルレカへ手を伸ばそうとした俺をブロックしてみせたのだ。
「ゼフィルス? なにを、しているのかしら?」
「シエラ!!」
そしてそっちを見れば、シエラたちが居たんだ。
でもそのままシエラに向かってクルクルダンスをしようとしたんだけど、止められちゃったんだよなぁ。
 




