#1525 〈猫猫ダン〉5層ボス――〈デブニャン〉戦!
あれから全班で猫とのバトルをしつつ階層を進んでいった。
猫は基本単体なので浅層のこの辺は楽勝。ステータスだけ凄まじく強いので、後衛は改めて要注意として身を引き締めた。
猫相手だと気持ちがゆるゆるになりやすいからな。
ここで気を引き締められたのは良いことだ、としておこう。
「で、案の定5層まで来ちゃったのね」
「守護型ボスまでもうすぐだぞシエラ!」
俺のはしゃいだ声にシエラがうっすらジト目な予感。
この感覚、なんだか久しぶりに感じる!!
「…………ねえマシロン、ゼフィルス君の本命って誰なのかな?」
「ふえ!? シ、シヅキ先輩、ダンジョンでそういう話はダメです。さっきシエラ先輩から気を引き締めてと言われたばかりです! ――そういう話は帰って落ち着いてからじっくりです!」
「マシロンもノリノリだった」
「たはは~。〈エデン〉に加入した子あるあるだよね~。誰もが一度は通る道だよ」
「うんうん。そう言う話なら私も混ぜてくれないかな~」
「おいミサト、シャロン。2人ともなにをしている。もうすぐ守護型ボスだぞ!」
うむ。〈猫猫ダン〉で気を引き締めるって相当難しくない?
振り返ると、なんかゆるゆるしてた。
まあ、問題は無いだろう。
「もうすぐのはずですわ。あっちの森方向に階層門が見えましたの」
「リーナの『望遠』スキルは開けた場所だと重宝するな~」
「嬉しいですわね」
まあ、今回も俺がちょっと案内した先に階層門があったりしたこともないでもなかったが、リーナの活躍も大きかった。
〈守氷ダン〉などの障害物があるフィールドではあまり役に立たないが、〈猫猫ダン〉などのほとんど草原のようなフィールドだとリーナの『望遠』やカルアの『ピーピング』で階層門が発見できることがある。
〈猫猫ダン〉は森もあるがそこまで大きくはなく、大部分が草原地帯だ。丘はあるが山は無し。俺たちはまず丘の上へと向かい、リーナの『望遠』で階層門を発見してもらってから進んできたわけである。
ほら、今回ばかりは俺の手柄ではないだろう? まあ、提案したのは俺だけど。
うむ。だってこれがゲーム時代、まだ攻略サイトに地図が出来上がる前の攻略法だったからな。カルアの『ピーピング』なら確実だったが、今日はカルアは居ないのでリーナの『望遠』で代用だ。だが、階層門の場所は分かっているのでさり気なくリーナに色々言って階層門を見つけてもらっているのは内緒。
シエラにもきっと気付かれていないだろう。もっとジト目をプレゼントしてくれてもいいんだよ? ふはははは!!
「見えてきたけれど」
「あれが守護型ボスですか?」
「で、でっかい猫さんなのです~」
シエラとシェリアが疑問の言葉を発し、ルルがポカンとその可愛いお口を開ける。
それも分かるな。
「〈幼若竜〉の『看破』の結果、あれは〈デブルンニャフルン〉と言うそうだ」
「いや、どんなボスだよ。猫か? あれは猫か?」
「デブルン? おデブなの?」
「確かに大きな猫さんですが」
ゼルレカ、アリス、キキョウも俺の言葉に目を丸くしてる。
それもそのはずで、その猫は大きかった。主に太めな意味で。
手足は小さく、お座り姿勢。その状態で高さは6メートルに迫るだろう。
首がどこかも分からない肉付きの良い身体。座っている部分やお腹はボリューム満点で、遠くから見れば三角形体型に見える、超太め猫ボスだ。
あの〈猫ダン〉の最奥ボス、〈猫王のキングニャー〉、通称:〈猫キング〉をも超える、とんでもないデブ猫だ。むしろネコミミとネコ尻尾があるだけで種族が猫であるかも分からない。
そんなボスである。
「よーし、それじゃあ早速挑む班を決めるぞ。5層の守護型ボスだから、この〈猫猫ダン〉でも最弱のボスのはずだ。1年生にやらせてみるか?」
「1年生が多いのはゼフィルスの1班ね。でも、私は4班に戦ってもらいたいわ」
「シヅキとエフィの居るメルト班か。――シヅキたちはどうだ?」
「やらせてもらえるのなら、やる!」
「エフィはブレないな~。私は結構怖いんだけど」
「大丈夫だよシヅキちゃん。私が守ってあげるからね」
「たはは~。私も結界得意だし、援護するよ!」
やる気のエフィに震えるシヅキが対極。
だが、防御に自信のあるシャロンとミサトが豊かな胸を張って慰めてた。良い光景だな~。
なお、震えるシヅキはそんな2人の胸部装甲を見て「なにこれ?」と呟きながらさらに強く震えていたように見えたが、いったいどうしたのだろう?
「ゼフィルス、俺は賛成だ。一度この2人の実力を見たいと思っていた。こっちでフォローもできる。やらせてみよう」
「了解。それじゃあ4班に決定だ」
4班、メルト、ミサト、シャロン、シヅキ、エフィ、の班が挑むことに決定。
シヅキが若干ビビっていたが、エフィはかなりワクワク顔だ。基本表情が動きにくいエフィだが、強い者との戦闘は心躍るのか目がキラキラするんだよ。
俺たちが見守る中、4班のタンク、シャロンを先頭にして守護型ボスのパーソナルエリアへと侵入する。
「ヌォォォォォォォォォォォ!」
ここで〈デブルンニャフルン〉、通称〈デブニャン〉が吠える。
NOに聞こえるのはきっと気のせいだろう。
「いくよー! 『ライトアピール』! 『ヘイトヴァレション』!」
「ヌォォォ!!」
「わ! 『城門召喚』!」
ズドン!
シャロンの挑発スキルにピキッときたのか、〈デブニャン〉が先制攻撃、なんとその身体で体当たりを繰り出してきた。
意外に俊敏な動きにシャロンがびっくりする。しかも防御に使った城門が6割以上も砕けていた。相当な威力だ。
「ここで~『激槍ファランクス』!」
「ヌオ!?」
だが瞬間、城門が開いたと思ったら大量の槍衾が飛び出し、〈デブニャン〉に突き刺さった。なお、シャロンはタンクなので攻撃のダメージは微妙。
だが、ここで回り込んだメルトとエフィが攻撃を仕掛ける。
「『グラビティ・ボール・エクス』!」
「シッ! 『フォトン・エルソード』!」
左右からの攻撃。
魔法と物理、闇属性と光属性という強力な〈五ツリ〉の攻撃にさらされる〈デブニャン〉だが、なんとそのHPは僅かしか減っていなかった。
「なに? こいつ、防御力が異様に高いのか?」
「ならデバフだね! 『色欲の鏡』! 『攻撃力ドレイン』! 『防御力ドレイン』! 『魔法力ドレイン』! 『魔防力ドレイン』! 『素早さドレイン』!」
「ヌォォ! ヌォヌォ!!」
おっとここでミサトがデバフを繰り出した。さらに吸収したステータスをバフとしてみんなに分ける。
これだけでかなりのステータス差になったはずだ。
「『グラビティ・ロア』! よし、これならいける!」
「『グローリーバニッシュ』! 良いダメージ」
メルトもエフィも、かなりダメージが入るようになってご満悦の様子。
「私も、いくよ『悪魔召喚』! 来て――クロちゃん!」
「ズウウウン」
シヅキも【アークデーモン】から【ルシファー】に至っても変わらない基礎スキル、『悪魔召喚』を繰り出す。
すると魔法陣が現れ、その中から強そうなムキムキの悪魔が登場する。
これが『悪魔召喚』。『召喚契約』によって契約した〈悪魔〉系のモンスターを使役出来るようになる、召喚系のスキルである。
召喚盤と違うのは、この召喚獣とも言える悪魔は育成が可能というところだ。
悪魔はどんどん進化していき、最後は【ルシファー】の右腕にまで成長を遂げるだろう。そんなスキルである。テイマーとあまり変わらない。悪魔限定だけどな。
そしてこの強そうなムキムキ悪魔がシヅキが使える今一番強い悪魔。
種族名〈マッスルデビル〉。
悪魔というのは盾を持たない関係上、肉体に優れた種が多いのだが、この悪魔の見た目はもう一目で凄いとわかる。だってムキムキだもん。
腕は4本の2足歩行。2本の腕を前で組み、残り2本はグーパンチを構えている。必殺技は『4本の腕連打』だ。名前はクロちゃん。
「いっけークロちゃん、攻撃開始!」
「ドゥゥゥゥゥン!」
〈デブニャン〉の上を取ったクロちゃん。なんと猫(?)に跨がった! そのままパンチを連打し続け着実にダメージを与えていく。
クロちゃんは背中にコウモリの翼を付けているため飛ぶことができるのだ。しかし、
「ヌォォォォン!!」
「ドゥゥゥン!?」
あっとここで〈デブニャン〉がクロちゃんを後ろ頭突きで吹っ飛ばした。
だが安心。肉体に優れる悪魔にこの程度のダメージは微々たるものだ。
悪魔は肉体に優れるために召喚獣はタンクとして活躍することもある。
故にシヅキを守ることも、空へ逃がすこともできる。
〈マッスルデビル〉、見た目は少々筋肉的だが、かなり使い勝手のいいモンスターである。




