#1524 可愛い家猫? と思いきや大変身する大猫!
「あいつは〈ワイルドニャー〉の進化系、〈ワイルド茶トラ〉だ!」
「〈ワイルド茶トラ〉!? どう見ても甘えた家猫です!」
確かに、ワイルドの要素がゼロに見える。
もしここにカルアが居たら「ん、『遊んでニャーン』って言ってる」とか翻訳したかもしれない。しかし、
「油断するなよキキョウ。油断したが最後、猫の魅了にやられちまうぞ」
「そ、そんなのにやられたりしません! 『嫉妬心は黒と闇』!」
「フシャーーー!!!!」
「え、ええええ!? でっかくなっちゃった!?」
キキョウが挑発スキルを発動すると、驚くべきことが起こる。
さっきまでその辺の家猫にそっくりだった〈ワイルド茶トラ〉が豹変、否、巨大化したのだ。
全長、3メートルくらいありそうな猫に。
実はこの現象こそここが〈大猫ダンジョン〉と呼ばれている所以。猫の戦闘体型なのだ。
ここの猫たちは普段小さくて可愛い猫だが、戦闘となると一瞬で変身し、巨大なモンスターになってしまうのである。
つまりは普段は小型化していて、こっちが本来の姿だな。
ちなみに〈猫津波現象〉の時は小型猫の津波なために人気があった、という側面もある。
「あれ!? 猫の魅了の話はどこいったんですか!? 大きすぎて可愛くないです!」
「フシャ!?」
あ、キキョウの一言で割とショックを受けている様子の〈ワイルド茶トラ〉。
まあ、小さい形態の方が可愛いからね。
今からまた小さくなってもいいんだよ?
「フシャーーー!」
「『吸物封印盾』!」
ここで怒りマークの入った〈ワイルド茶トラ〉がキキョウに飛び掛かった。
これに対し、キキョウは『封印盾』の〈物理〉で対抗。スキルを封じてクールタイムを長くしてしまう。
「ゼルレカ、アリス、いくぞ!」
「おっと、あたいとしたことが、目が点になってたようだぜ!」
「アリスも驚いたの~」
可愛い猫が急に大きくなって襲い掛かってきたら最初は誰だってこうなるさ。
俺の言葉に気を引き締めたゼルレカが大剣を握ってぶった斬る。
「『堕弱の刻印』だ!」
「いくよー『雷雷サンダー』!」
まずは〈四ツリ〉で小手調べ。
ゼルレカの『堕弱』は魔防力デバフ。
これによりアリスの魔法攻撃のダメージが大きくなる。
アリスはINT特化で育成していることもあり、それなりのダメージを与えることに成功した。だが、
「フシャーー!」
「うが!?」
「ゼルレカ!?」
反撃の攻撃が偶然ゼルレカにヒットしてしまう。
ゼルレカのHPが大きく削れ、実に2割、500近くのダメージを負ってしまったのだ。まさに大ダメージ。
「ちょ、ゼルレカ、攻撃力! 攻撃力をデバフしてください! 思った以上にダメージが凄いです! これがボスではなく通常モンスターなのですか!?」
「アルテ! ゼルレカの回復を優先だ!」
「はい! 『聖乗からの辻回復』!」
「やべ! 『怠慢落とし』! 『怠慢と堕落の剣』! 『怠いだろ? 身を任せろよ』!」
思ったよりもゼルレカヘのダメージが高く、アルテに回復してもらい、ゼルレカが慌てて攻撃力デバフの『怠慢』系で削っていく。
最後の『怠いだろ? 身を任せろよ』は〈五ツリ〉の強力なスキルで、斬らなくても攻撃力と素早さをデバフする優れた効果を持つ。
攻撃とデバフが基本セットになっている【怠惰】にとって貴重なデバフオンリースキルだ。
そして【怠惰】のユニークスキル『あなたが怠惰で溶けるまで』の効果によって、三撃もの重ね掛けをされた〈ワイルド茶トラ〉の攻撃力は、相当落ち込んだ。
これなら余裕で攻撃に耐えられるな。というところで。
「ゼルレカもキキョウも虐めちゃダメー! 『雷竜アターック』!」
「「「「あ」」」」
ここでアリスが大技を発動してしまう。
これ竜の名が付いている通りかなりの高威力。ぶっちゃけ現在のアリスの最強技だ。
もちろんこんなものを受けてその辺のモンスターが耐えられるわけもなく。
「フ、フニャーーーーーー!?!?」
竜に飲み込まれて光に消えてしまうのだった。
うん。デバフをした意味、なかったなぁ~。
「ゼルレカ、キキョウ、大丈夫?」
「あ、ああ。無事だぜ?」
「えっと、うん。大丈夫だよアリス。心配してくれてありがとう」
「よかったよ~」
そんな和やかな光景が俺の目の前で繰り広げられた。
さっきの雷の竜が猫をバクンとやっちまった衝撃の映像が嘘のようだ。
さて、切り替えていこう。
今回、ちょっとした問題が浮き彫りになった。
「ゼフィルス、いいかしら?」
「シエラ」
もちろんこれに気が付いたのは俺だけではなく、むしろタンクのシエラの方が敏感に感じ取った様子。すぐに声を掛けてきた。
その理由は。
「1年生や新メンバーの装備が心許ないわ」
「やっぱそれだよな」
ゼルレカのダメージが思いのほか大きかったのが、シエラには非常に厳しく映った模様だ。装備の交換を相談してきた。
とはいえ、心許ないというほどでもない。
一応新メンバーの装備は上級下位級の〈金箱〉産以上だ。
〈金箱〉産なのだから防御力が弱いわけない。
しかし、ここの猫は一味違う。
まずは上級中位の〈ランク8〉ダンジョンというとんでもない未知の環境。
そして猫は以前も言ったが、とんでもなく強い。
恐竜より強いのが〈ダン活〉の猫だ。
そんなわけで、ゼルレカのダメージはちょっと看過しづらいほどだったのだ。何しろ2割近くもダメージを受けるということは、同じ攻撃五撃でやられてしまうのと同義。
1層、しかもボスでも無いモンスターにこれだけのダメージを受けるとなると、この先いったいどうなるの? と心配したわけである。
「まあ今日はお試しだ。攻略まではしないし、防具については今度なんとかしよう」
「お願いね。1年生たちは凄まじい勢いでここまで来てしまったのだからまだ腕前なんかに懸念があるわ。ここでミスをすれば危険なことになるかもしれないもの」
「了解」
これについてはしっかり考えないとな。
ゼルレカたちの装備はここ上級中位ダンジョンのランク後半や、今後の上級上位ダンジョンのランク前半で一度更新と思っていた。
ゲームでは大体そのくらいで装備を整えた方が最上級ダンジョンまでの時短になるのだ。
リアルだと防御力は命に関わる。
タンクには常に良い装備に身を包んでもらうことはもちろん、他のメンバーもそれなりの装備で身を固めておかないと、不意に戦闘不能になることもあるだろう。
特にゼルレカは敢えてVITを低く育成している。
理由は下級職、【ハイニャイダー】のユニークスキル『ハイニャイダーブラッドブースト』の効果だ。これはダメージを受ければ受けるほど、スキルの威力が上昇していくという効果を持つ。
これは割合ではなくダメージ数なので、500もHPが減れば相当なスキル威力上昇になるだろう。
故に、基本的にVITを低めに、代わりにHPを大きく振るのが【ハイニャイダー】の育て方だ。
【怠惰】も同じ育成の仕方をしているので、ゼルレカはタンクよりも余裕でHPが高いが、ダメージをもらいやすい。
その減ったHPの数字を見るとタンクならギョッとするかもしれないな。
シエラもそう思ったに違いない。
少し脱線したが、リアルでは安全重視でいきたいところ。
ゼルレカの装備も含め、近々装備の大更新会を開催しよう。
「よし、方針は決まったな。今はこのダンジョンを楽しもう! 今度は2班、シエラたちの班行ってみようか!」
「ええ。では次の猫を探しましょう。ゼフィルス。戦闘する前なら可愛いのよね?」
「あれ? シエラ意外と猫見たい系?」
「可愛い猫なら見たいわ」
うむ。その意見には完全に同意だな。




