#1521 ゼフィルス、猫欲が高まって暴走の危機!?
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「今、猫が来てる」
「どうしたのゼフィルス君?」
「猫が来てるんだよ」
あの楽しかった学園祭が終わってしまい、日常が戻ってきた翌朝の土曜日。
いつも通り朝食と「ゼフィルス君、起きて~」というハンナの目覚ましボイスに起こされ、俺は昨日はしゃぎすぎてしまった疲れを若干覚えながらも起床した。
朝食を食べるために席へと座る。
だが、その席にはとある2つの置物があった。
それこそが俺の今の心境になった原因。
そう、〈幸猫様〉そっくりのぬいぐるみだ。
「見てくれこの仲睦まじい感じの〈幸猫様ぬいぐるみ〉を。癒やしだ。癒やしはここに存在したんだ。〈幸猫様〉が2つもなんて、俺はこんな光景見たことがないよ。ハンナにはとても、とてもとても感謝している」
「そこまでのことじゃないと思うよ!? もう、ゼフィルス君ったら相変わらず〈幸猫様〉大好きなんだから~」
ハンナが、もうしょうがないんだから~みたいなことを言いつつもニコニコする。
この〈幸猫様ぬいぐるみ〉はクラス対抗戦の時に〈攻略先生委員会〉の出店で売っていた等身大の限定版〈幸猫様ぬいぐるみ〉だ。
売っていたのはあの時だけ、そして1人1つまで。
無論〈エデン〉〈アークアルカディア〉のメンバーは全員購入したさ。
それ以来、作り手であるフラーラ先輩にも直接頼んでみたが、なんか繁忙期で忙しいらしく、これ以上の〈幸猫様ぬいぐるみ〉量産は難しいようだった。
ハンナからも「そんなに集めてどうするの?」と言われたし、俺は涙を呑んで諦めたのだ。
しかし、そんな俺の様子を見ていたハンナが、自分用の〈幸猫様ぬいぐるみ〉を持って来てここに一緒に飾ってくれたのだ。
ハンナ曰く「私の部屋だとスラリポの時に間違って叩いちゃいそうだったから」とのこと、色々ツッコみたいが、それなら仕方ないよねで済ました。
おかげで毎日が目の保養です。
〈幸猫様〉は1体でも大変素晴らしいのだが、ツーショットとかマジやばい。
後光が見えるかのようだよ~。
「ああ、またゼフィルス君がトリップしちゃった。ご飯冷めちゃうよ?」
「はっ! ハンナのご飯を冷ますわけにはいかない! はむ――美味い!!」
「うん、ゼフィルス君に美味しく食べてもらえると私も嬉しいよ!」
色々とハンナにコントロールされているような気がしなくもない俺。
でも、そんな自分でも良いと思うんだ。
美味しくハンナのご飯をいただき終わり、一息吐く。
「それでゼフィルス君、さっきの猫が来たってどういう意味?」
「そうだった! 最近、俺の中の猫がじわじわきてるんだよ!」
「ふえ?」
しまった。ついパッションがそのまま口から飛び出してしまった。
理論的に説明せねば。
「いや、ゴホン。前に夏休みで〈幸猫様〉のお面を買っただろ? そしてクラス対抗戦では〈幸猫様ぬいぐるみ〉だ。さらにクラス対抗戦が終わればゼルレカが仲間になった。そして学園祭までほとんど俺はゼルレカたちに付きっきりで育成していたわけだ」
「う、うん。そう聞いてるよ? みんな寂しいって言ってた」
「え? それマジで? ああいやゴホン。その件については後でまた埋め合わせをするとして。ずっと俺の中である衝動が沸き立っていたんだよ。もっと猫をって」
「え? うん?」
……おかしいな。理論的に説明しようとしたんだが、理論がどこにもないぞ?
いや、ここからだ。ここから挽回だ!
「そこで俺は考えた。中級ダンジョンには〈猫ダン〉があっただろ? 上級ダンジョンにも猫が大量に出るダンジョンが存在するんだ。その名も〈禁足の大猫ダンジョン〉。通称〈猫猫ダン〉。俺は、ここへ挑もうと思っている」
「ずいぶん遠回りした気がするけれど、つまり〈幸猫様ぬいぐるみ〉とゼルレカちゃんを見て〈猫猫ダン〉に挑みたくなった、ってこと?」
「よく纏まってるな!」
まさにハンナの言うとおりである。
俺の猫欲が高まっているんだ。
ここは猫と戦ってこの昂ぶりを解消せねばならない。じゃなければもっと大きな猫欲求が爆発し、そのうちとんでもないことを引き起こすであろう。俺が。
…………そんなことないよと言えないのが厳しいところなんだぜ。
「それじゃあ今日はその猫猫なダンジョンに行くの?」
「おう。メンバーどれくらい集まるか分からないけどな。とりあえず今日もギルドハウスに行こうぜ」
「おっけー。シエラさんにも相談しないとだしね(ゼフィルス君がまた暴走しそうだし)」
「ああ。シエラにも相談しないとだからな(ランク8ダンジョンに挑むからな)」
この時、なぜかシエラへ相談する内容に食い違いのようなものを感じた気がしたが、きっと気のせいだろう。
俺とハンナは早速ギルドハウスに向かった。
そして、到着すると、ラナが〈幸猫様〉を愛でていた。
「んおあ!? ラナ、また〈幸猫様〉を勝手に攫って!?」
「あら、おはようゼフィルス。これは違うわよ、ほら、神棚を見てみなさいよ」
「お?」
またいつもの日課か! と警戒したが、なんとラナが向く神棚を見れば、そこにはなんと〈幸猫様〉がいらっしゃった!
「〈幸猫様〉! え、じゃあラナが抱っこしているそれは?」
「これはぬいぐるみよ。〈幸猫様〉成分を補充したいとき、このぬいぐるみでもできることが分かったの。とても素晴らしいことだわ」
「な、なんだと!? まさかそんな解決策が!?」
そういえば〈幸猫様〉の身代わり作戦、ボディーガード作戦はよくしてきたが、影武者作戦はしたことが無かったことに思い至る。
まさか、効果絶大だと!?
俺はすぐに神棚へ向かい〈幸猫様〉が本物かどうか確かめんとする。
「――――」
すると近くにいたヘルプニャン完全体が、これまた〈幸猫様ぬいぐるみ〉を持ちながら一礼してきた。相変わらずの全身兎の着ぐるみな格好。
お勤めご苦労様だ!
ちなみにこの〈ヘルプニャン完全体〉が持つ〈幸猫様ぬいぐるみ〉が誰のものかはちょっと分からない。サトルやソドガガ、タイチ辺りは買ったは良いがギルドに置きっぱなしにしていたし、それが巡り巡ってここに預けられている可能性がある。
あと〈ヘルプニャン完全体〉も良い感じだ。試作品の頃よりもパワーアップしたが結局ラナを抑えられず。とりあえずで〈幸猫様〉のボディーガードを継続してもらっている。
ちなみに俺にはしっかり頭を下げてくる仕様なのだが、ラナには手を広げて妨害するぞ。完全にラナのことを覚えてやがるんだぜ。
「ふう、本物だ。間違いない。俺が本物の〈幸猫様〉を見間違えるわけがない!」
「ならその〈解るクン〉を下に置きなさいよ」
はっ! 俺が〈解るクン〉を使っているのがバレた!?
疑われたラナのジトッとした目が俺を射抜き、近くではシズがなぜか武器を磨いていた。これはいけない。
「こほん。聞いてくれラナ。実は今日から上級中位ダンジョンの1つ、ランク8、〈猫猫ダン〉へ行きたいと思っているんだ」
「行くわ!!」
先程の不穏な空気も何のその、一瞬でキラッとした笑顔になったラナ。
そんなラナが俺は大好きだ。しかし、そんなキラキラのラナだったが直後に絶望することになる。
「ラナ様、とても言いにくいですが、今日と明日は公務がございますのでダンジョンにはいけませんよ。学園祭に来てくださった方々との面会の約束が山ほどあるのですから」
「な、なぁ!? キャンセル!」
「できません」
「そ、そんにゃ~」
シズのピシリとした言葉にへんにゃりするラナ。とても珍しい光景だった。
曰く、学園祭ではたくさんのお偉い方々が来園したらしく、〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉戦についてや、最近の上級中位ダンジョンの攻略状況についてなどなど、色々と学園長から話を聞きたがっているとのこと。
そして今年は帰省をしていない王族のラナにも、せっかくの機会だからと面会の申し出が多数入っているという有様で、どうしても今日明日は身動きが取れないらしい。
「だからこうして朝早くから〈幸猫様〉を愛でに来たのよ。こ、この後は忙しくなるからね!」
ん? 本物の〈幸猫様〉じゃなくてもいいならここに来る必要はないのでは?
「ラナ様、ゼフィルス殿に会えましたし、そろそろいきましょうか」
「ちょ、シズ!?」
シズが無慈悲に出発を告げると、ラナが目を見開いて慌て出す。
「え、もう時間なのか? まだ朝だが」
「はい。何しろ数が多いので。――ということで、いきますよラナ様」
「もうちょっとくらい!? それに、私もダンジョンいきたいわー!!」
ラナの抵抗は空しく空振りに終わり、シズに連れて行かれてしまった。
むむむ、今回はラナ不在か。だが公務なら仕方ない。
頑張ってほしい! 俺はラナに手を振って見送った。
すると、そこへカツカツという足音を鳴らして近づいてくる人の気配が。
「話は聞かせてもらったわ」
「シエラ! ……ハンナ?」
シエラの声に振り向けば、なぜか腕を組むシエラとハンナが一緒だったんだ。
なんだか良くない予感がするのは気のせいだろうか?
「ハンナから教えてもらったのよ」
うむ。気のせいだな。
ハンナが俺に良くないことなんてするはずがないもんな!
見ろ、シエラがなんだかジト目だ! こんなサービスしてくれるんだ。悪いことなんて欠片も無いさ!(←ゼフィルスはジト目をサービスだと思ってます)
「……またゼフィルスが暴走しかけている、ね。――早めに熱を冷まさないと」
ジト目にテンションの上がっていた俺は、シエラがボソッと呟いた言葉は耳に入ってこなかったのだった。




