#1518 第三形態〈地獄の門番〉モード。そして最終へ
〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉、第三形態。その名も〈地獄の門番〉モード。
壁際まで下がると、戦車だった下半身がなぜか上半身から分離し、巨大な50メートル級の門に変形する。
さっきからどう頑張っても骨の数が足りない気がするが、細かいことは気にしなくていいのだ。
門は地獄へ通じる扉。
非常に禍々しい姿になっており、赤と黒の歪んだ空間を形成して中に入った者を強制的に〈敗者のお部屋〉へ招待してしまう恐ろしい環境が作られていた。
先程までの〈即死〉ではなく、強制的に〈敗者のお部屋〉に転移してしまうところがミソ。もちろん引き込まれた瞬間退場扱いだ。
怖すぎる!
門の上部には巨大なノートとドクロ。
それが、この門は〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉のものだということを示していた。
続いて上半身はというと、そのまま宙に浮いてマントで身体を隠し、続いてバサッとマントを広げた時には第一形態の時の足がそのまま生えていた。
いったいどういうからくりなのか分からない。
この辺、〈ダン活〉プレイヤーも「え、下半身分離する必要あった?」「門を召喚して下半身は組み直せばよかったのに、下半身を召喚したよこいつ!?」「合計で下半身が2つあるんだがそれは?」と困惑した、第三形態の変身方法だった。
明らかにこっちの変身方法の方が難易度が高いよね。
それはともかくだ。
その力は非常に強力。
変身終了後、〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉がノートを開くと、バンと開け放たれた門から無数の黒い手が生えてきたのだ。
「全員気をつけてください! あれに捕まったら門に攫われますよ!」
おっとどうやら過去この第三形態を見たか聞いていたか調べてきた者がいたようだ。あれはリカのお姉さん、リン先輩だな。
「わあああああああ!?」
「助けてでゴザル~~~!?」
「早速犠牲者が!?」
「早っ!? 言わんこっちゃないです!?」
だが、その忠告空しく、早速2名の尊い犠牲者が2メートルクラスの黒い手にギュッと掴まれ、そのまま門に引きずり込まれてしまった。あ、あれは、ゴザル君!?
なんという恐ろしい攻撃!
リン先輩なんか目を丸くしていたぞ。
「ゼフィ、ルス、あれはちょっとダメかもしれないわ」
「うっそ!? スケルトンの集団でも大丈夫だったのに、ここでシエラがまさかのピンチ!?」
あとこっちでも大きな影響あり! シエラが青い顔をしていた。
元々スケルトンも得意ではなかったシエラ。
〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉はなんとか大丈夫だったが、あの門は怖かったようだ。
今すぐ手を差し伸べてあげたいが、それができない訳がある。
「危ない! 『ボーンシールド』! ってあああああああああ!?」
「こ、こいつ、防御スキルごと掴んでくるぞ!」
「ぶった斬れ! そうすれば多少は攻撃の勢いが止まる!」
「ちょ、これどうやって防げば良いんだ!? 黒の手の数が、どんどん増えてるんだが!?」
盾の防御力を上げる防御スキルやバフなんかだと、それごと連れて行かれてしまうのだ。
しかも攻撃して動きを止めることはできるが、少しすると再起動してくる。
手を退けるには、それこそ五段階目ツリークラスの強力な攻撃が必要だった。
そんな手段を持っているギルドは少ない。
さらに門から出てくる手はどんどん増えてきていて次々門へ防衛者たちが連れて行かれているのだから絵面的にも相当ヤバかった。
「『火炎放射』!」
「『スーパーボルト』!」
「『氷のビーム』!」
「『旋律の序曲』!」
「ふ、止められれば十分だな。解析班!」
「はい! 解析再開します!」
「混沌!」
ああ、あっちの〈ギルバドヨッシャー〉の方はこの状況にもしっかり対応できていて素敵。
威力の低い攻撃でも腕を止めるくらいはできるので、ならば魔法攻撃で弾幕作ってやれば時間は稼げるのだ。
だが、それだといつまで経っても終わんないんだけどな。
「わ、わわわーーーー!?」
途中空を飛んでいたマシロが捕まるなんて事態も発生したが
「ぶった斬れ!」
「マシロンを返せ! 『フォトン・エルソード』!」
「ひゃあ、あ、助かりました!?」
エフィが黒の手を側面から切ると、手からマシロが解放された。
そう、もし捕まっても、五段階目ツリーで攻撃すれば門を潜るまでに救出は可能だ。
もしエフィが間に合わなかったら俺が転移して救おうと思っていたが、結果オーライだったな。でもそのお姫様抱っこは決まりすぎだぜエフィ。ちょっと羨ましくなったのは秘密。
俺はこの結果を通達する。
「もし掴まれたら門に連れて行かれる前に五段階目ツリー級の威力で腕を攻撃しろ! それで解放されるぞ!」
「情報感謝ですゼフィルスさん!」
「五段階目ツリーを持っていない人は!?」
リン先輩が感謝を言ってウインクしてくれた。
それを見てリカが「恥ずかしいのでやめてくれリン姉様」と声を上げていたな。
まだまだこちらは元気そうだ。
「よし、ここが使うタイミングだ! カルア、パメラ、例の投げナイフを黒の手に向けて投擲だ!」
「ん! 出番来た」
「了解デース!」
ここであるアイテムを使う。
俺は今こそ出番だとカルアとパメラに指示し、投擲してもらう。
それは見た目は投げナイフ。カルアは『投刃』スキルを持っているためか、こういうナイフ投げが得意なのだ。パメラも手裏剣投げが得意なので投擲はお手の物だ。
そして見事に着弾。黒い腕に当たった瞬間、大爆発を起こしたのだ。
「んにゃ!」
「うひゃあデース!? 思ったより威力高いデスよ!?」
「っしゃ成功! 黒の手が引っ込んでいったぞ! カルア、パメラどんどん投げろ! 味方を援護するんだ!」
「わかった!!」
「了解デース!」
ざわざわする会場。
それもそのはず、五段階目ツリーじゃないと追い返せない黒の手がアイテムでどんどん追い返されていくんだから。
その光景にバサリと2人と2体が俺の側に寄ってくる。
「ゼフィルス君!? そのナイフはなに!?」
「こいつはうちの錬金術師たちが作ってくれた特製の投げナイフ爆弾――その名も〈レッツ・投げナイフ爆弾(特)〉だ! 威力は見ての通り、黒の手を跳ね返せるほどだぜ」
「ハンナ様作の投げナイフ爆弾!?」
「五段階目ツリー威力並の爆弾、そんなもの量産しちゃったの?」
寄ってきたのはなんと〈集え・テイマーサモナー〉のメンバー、ギルドマスターのカリン先輩に、サブマスターのエイリン先輩だった、しかも〈ワイバーン〉に騎乗していらっしゃる。ちょうど良い!
「リンリン先輩! これを渡すから上から味方を援護してくれ!」
「ちょ、名前纏められた!?」
「了解。え、こんなに? 分かった、空は任せて――カリン、期待されてる。いくよ」
「あー待ってー!」
カリン先輩とエイリン先輩、2人合わせてリンリン先輩と、思わず纏めてしまったぜ。
俺はとある〈レッツ・投げナイフ爆弾(特)〉の入った〈空間収納鞄〉を取り出してエイリン先輩に投げ渡し、制空権を奪取してもらう。
これで被害は減るはずだ。
おお、早速あちこちで爆撃が!
さすがはうちのハンナ、アルストリアさん、シレイアさんの合作、凄まじい威力だ!
もちろん在庫はまだいっぱいあるので、色んなギルドに配ってもらう。
こういう時頼りになるのが、
「インサー先輩!」
「解説は不要! こちらは任せとけゼフィルス氏!」
もうこの爆弾について分かっていたのか、〈空間収納鞄〉を投げ渡しただけで全てを察してしまったよ。さすがはインサー先輩だ!
〈ギルバドヨッシャー〉は必要なアイテムや装備を他の味方に供給する援護をしてくれる貴重なギルド。
ハンナ特製爆弾が行き渡るのも時間の問題だな!
「くっ『ディバインシールド』!」
「シエラは無茶をするな! 下がっていてもいいぞ!」
「ダメよ。私は〈エデン〉のタンクなのだもの。これくらい、何でもないわ!」
シエラがかっこいい!
恐怖に苛まれながらも凜々しく立ち向かうその姿に、ちょっとときめく!
見ればサーシャやカグヤたちもキラキラした瞳で見つめていた。分かる!
「全員聞け! 黒の手は厄介だが五段階目ツリーで攻撃すれば跳ね返せる! 冷静に対処するんだ!」
「そうだ! 良いこと思いつきましたゼフィルス先輩。ユニークスキル発動! 『第二拠点建造』! ここに逃げ込めば安心です!」
「おおーやるねヴァン君! よし、私が補強しまくっちゃうよー! 『防壁召喚』! 『城門召喚』! 『激・射撃台』! 『クワトロ式バリスタ』!」
「ナイスよヴァン、シャロン!」
ここでヴァンとシャロンが独自に拠点を作り出す。
だが、実はこれあまりよくはない。なにしろ。
「ちょ、ちょっと待って!?」
「げぇ!!?? 拠点が、拠点が千切られて持っていかれるであります!?」
そう、ヴァンの言うとおり、びっくりなことに黒い手はそのままヴァンの拠点、そのてっぺん部分を掴んだかと思うと、そのまま千切って地獄へ持っていってしまったのだ。
そこからはまるで、ここに獲物がいるぞと言わんばかりに寄ってきた黒の手にシャロンとヴァンの合作は見事に解体されていく。
「ちょー!? そりゃ無いって! バリスタ撃てー、撃てー! ってバリスタも持ってかれたー!?」
シャロンの悲鳴なんてあまり聞けるものじゃなくて新鮮!
そう、この黒の手は別に人じゃなくても持っていってしまう。
壁を築いて防衛しても、その壁を持っていってしまうのだ。
さすがはレイドボス。
「それならあれ禁止にしちゃいましょう!」
「そうもいかない。見ろキキョウ、あの門の下を」
「へ? スケルトンがたくさん出てきてます!」
「アレを倒してもおそらく即死魔法『道連れのヘルズノート』が発動する。キキョウが今の禁止を解いたらさらに犠牲が増えるな」
「え、えええええええ!?」
さらに言えばあの門の固有スキルは3種類あって、どれか1つを禁止にしたところで数が減るだけで黒の手そのものは無くならない。さらには封印も効かないのだ。
【嫉妬】にやられまくるわけにはいかないだろうから多少の対策はしてるだろうな~。
「よし、そろそろ反撃に出るぞ!」
「待ってたわゼフィルス!」
「アイギス、〈イブキ〉を展開だ! アイギス号が攻略の要だ!」
「! わかりました! ゼニス、一旦戻しますよ!」
「クワァ!」
「これから呼ぶメンバーはアイギス号に乗り込め! それ以外はエステル号とアルテ号にそれぞれ乗車! アイギス号が先陣を切る、距離を置いてついてこい! いくぞ!」
「「「「「おおー!」」」」」
それぞれ〈イブキ〉に乗り込み〈エデン〉発進。
目指すは〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉本体だ。
やつは今門のすぐ側で片手でノートを開きながら、もう片方の手で杖を持ち、範囲攻撃の火球をばらまきまくっていた。
近づけば火魔法の猛攻を受けることになるな。
だが、そこがポイントだ。
〈エデン〉以外のみんなはなんとか本体や門に近づこうとして色々やっているが、敵の攻撃がエグすぎて今一歩近づけていない。及び腰になってる。
まあ、黒の手なんか捕まれば一撃でやられかねないんだ。そりゃ慎重にもなる。
プラス厄介なのはその火魔法。
あれも威力は第一形態の時に知るとおりだ。とんでもなく高い。
それをガンガン連打してくるのだ。
加えて〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉へも中々近づきがたく、スケルトンが守るように展開していた。
そしてスケルトンごと火魔法をぶっ放してくる親玉よ。
こいつのタゲはすでに近くに居る対象になっているので、自分に一番近い者に容赦なく火魔法をぶち込んでくる。
ちなみに遠くにいる相手には黒の手で対応してくるスタイルだな。近づかせない気だ。
だが、今回はそれを利用する。故にアイギス号が先頭だ。
エステル号とアルテ号が後方、範囲攻撃を撃たれても巻き込まれないくらい距離を取って進攻していた。
スケルトンの壁なんて〈イブキ〉で蹴散らせば問題は無い。
「カカカカカカカカカカカ!!!!!!」
「来るぞ! 衝撃に備えろ!」
「きゃあああ!」
案の定、アイギス号が他のギルドよりも前に出ると〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉はこっちに杖を向けてエグいほど火魔法を撃ちまくってきた。
おいレイドボス! そんなのLV半分くらいのやつにやったらタンクでもやられるわ!
だが、そうならないためのアイギス号である。
ズドドドドドドドン!
大きな衝撃を持ってアイギス号に着弾。
本当なら全員が深刻なダメージを受けているか、何人も退場になっていてもおかしくない攻撃が直撃した。
しかし、俺たちは――――無傷!
「カカカ!?」
笑っていた〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉もこれには驚きの表情(?)で次々火魔法をアイギス号へ撃ちまくるが、その全てを受けてなお、アイギス号は無傷だった。
それに乗る俺たち16人も無傷である。しかもこれ、実はノーガードなのだ。
〈乗り物〉に乗ると基本スキルや魔法が使えなくなるのだから当たり前だが。
「よっしゃ狙い通りだ!」
「この戦法、心臓に悪いよ!」
しかし結果はノーダメージ。
そのからくりはアイギスの装備にある。
アイギスが装備する盾は〈炎武・鳳凰盾〉。
これの効果は〈火属性ダメージ70%カット〉する。
そして鎧、〈溶岩竜マント〉は〈火属性ダメージ50%カット〉。つまり合計で120%カットしてしまうのだ! まあ20%余分だけどな!
そしてアクセ装備の〈乗り物〉は、装備にダメージが入った時、全て装備者のダメージになるというルールがある。
これ、逆に言えばアイギスが身代わりになって乗組員にはダメージが入らないのだ。
そしてアイギスは火属性ダメージを120%カットしてしまう。
イコール、アイギス号への火魔法とか全く効かない、となる。
これぞ〈乗り物〉を活かした無傷突破戦法――〈無敵アクセル戦法〉だ!
「カカカカカカ!?」
いったいどうなってんだこいつ! とばかりに狂ったように火魔法をぶっ放しまくっていた〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉。その度にゼルレカたちから悲鳴が上がる。
だが、結局懐まで突破されることになる。
懐に入り込んでしまえばこっちのもんだ。
さあ、最終決戦行くぞ!




