#1515 各ギルドの動き。レイドボス第一形態の最後。
「よーし凄まじいダメージが入ったな! 下がれ! 下がれ! 退避だ!」
「「「「おおおおおおおおお!!」」」」
「混・沌!」
「震える!」
「俺も今のマージ脳汁ドバッと出た!」
こちら、大変盛り上がっているのは〈ギルバドヨッシャー〉のギルド。
火力などでは他のギルドには劣るものの、巧みに敵の動きを看破して未だ退場者無しで行動していた。
「観測班、分析班、解析できたか?」
「イエスマスター! 〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉は『リッチ特性』を有していると見て間違いありません」
「『リッチ特性』を〈百鬼夜行〉の〈吸星〉が禁止したのを確認!」
「〈光属性〉と〈聖属性〉の有効を確認」
「逆に〈闇属性〉はダメージゼロでした。100%カットされてます」
「物理には『刺突耐性』あり、弱点は打撃系です」
「今の所、王女殿下の『レクイエム』なる魔法のダメージが最も出てます!」
「また、後方への攻撃皆無。それと右斜め後ろには攻撃が来てないようです。安全地帯発見!」
「よーしよしよし。去年と同じ通りに行動だ! 光と聖属性の武器を放出するぞ! 周りの人たちに配り歩け! 〈マッシュン〉の使用を許可する! 情報を拡散するのだ!」
こちらは相変わらずの分析、そして有効な攻撃手段の模索から入っていた。
だがそこへオスカーが危険を知らせる。
「混沌!!」
「!! この混沌野郎の混沌は警告!? 防御ーー!!!!」
「『重奏の守護曲』!」
シンジが退避を呼びかけそれから約2秒後に広範囲の範囲魔法が〈ギルバドヨッシャー〉の居たところに着弾した。
しかし彼らは無事だった。〈旋律のエドガー〉が防御スキルを集めて攻撃を受け止めたからである。
「さすがはオスカーだ! あの攻撃の嵐の中でも的確な警戒。頼りになるぜ!」
「エドガーも最高の旋律だぞ!」
「混沌!」
「震えましたね」
「マージそれな。混沌さんが気付かなかったと思ったら超怖ぇから!」
「私、最近オスカーがなにを言っているのか理解できるようになってきたのよ」
「はっはっは! 君も順調に混沌済みになってるな!」
「臨時でうちに来たシンジ君も良い仕事しているぞ」
「い、いやだぁ! 俺は混沌野郎になんて染まりたくなーい!?」
そう、彼らには〈調査課2年1組〉、学年トップの実力者オスカーがいる。
オスカーの混沌察知能力はおそらく学年どころか学園トップ。
いち早い速報が鳴れば一目散に緊急脱出するのが〈ギルバドヨッシャー〉の最近の日常になりつつあった。
また、今回の大戦でオスカーが臨時で連れてきた後輩(?)のシンジもなかなかに良い働きをしており、〈ギルバドヨッシャー〉は超余裕いっぱいだ。
「よし、まずは周りに接触だ! バフの足りていないギルドにはエドガーよ、バフを掛けてやれ! 動くぞ!」
「「「「おおおおおおお!!」」」」
「震えましょう、この戦慄を」
今回も〈ギルバドヨッシャー〉は支援役。
ギルドマスターのインサーの指示で各ギルドの援護に向かっていくのだった。
「混沌!」
◇ ◇ ◇
こちらは〈ミーティア〉。
「マナエラさん! 第四波行くわよ! 横腹!」
「了解なのだわ。――3、2、1――『魔眼光線』!」
「『小隕石流星群』!」
「「「「「『プロミネンスバースト』!」」」」」
「オオオオオオオオオオオオオン!!」
「効いてるわ!」
「良いダメージよ!!」
こちらは相変わらず超強力な魔法アタッカー。
しかも、〈エデン〉のゼルレカが掛けてくれた魔防力デバフ4回重ね掛けと、誰かが付与し、今も上書きされ続けている1回の、計5回分デバフを掛けられた〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉には、相当なダメージが突き刺さっていた。
マントにはかなり強力な防御が付与されているのか、マントに当たった攻撃はほとんど効かず、マントが開いている正面からの攻撃しかダメージが通らない。
しかし、正面には〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉のエグい火魔法がぶっ放されまくっていた。
〈ミーティア〉にとって正面に出るのはかなり賭けになる行為だが、ここに登場した〈エデン〉がまたやらかしていった。
その正体は【怠惰】。あと【嫉妬】も。
〈ミーティア〉にとってはちょっと苦々しい、【大罪】職の活躍により、〈即死〉に怯えることもなくなり、魔防力や魔法力も低下して攻撃がどんどん入りやすくなった。
しかも1度ダウンを捥ぎ取り、そこから防衛者全員の総攻撃を与えた時は鬼凄かった。
一気に1本目のHPバーが半分も吹き飛んだのだ。残り20%。
また、そこから〈ミーティア〉も反撃の狼煙を上げる。
今の位置は〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉が向いている右斜め後ろ。
この位置は〈ギルバドヨッシャー〉に教えてもらった安全地帯だ。
〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉は左手に杖を持っているため、右斜め後ろに攻撃が来ない。右手からは炎弾を飛ばしているが、それは横、もしくは前だけということを突き止めた〈ギルバドヨッシャー〉が〈ミーティア〉に教えたのだ。
本来ならば『浮遊』によってクルリと突然回転して攻撃してくるときがあり、安全地帯は存在しないのだが、〈吸星のホシ〉が『羨ましいからそれ禁止』で『浮遊』を封じ、結果安全地帯ができていた。
おかげで、かなり安全に攻撃することができている。さらに。
「右腕、横へ向くわ! 身体狙って! 第五波!」
「行くわよ。―――3、2、1――『プロミネンス・アイズン』!」
「『流星神槍』!」
「「「「「『アイシクルジャベリン』!」」」」」
〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉は横に手を向けて攻撃するとき、マントが捲れてボディが露出することも分かった。
ここに一斉攻撃を食らわせることでマントに阻まれずにダメージを与えられるのだ。
「!! 着弾よし! 1つ目のHPバー、消えたわ!」
―――――わあああああああ!!
そしてこれが決め手になり、〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉は第二形態へ変化する。
◇ ◇ ◇
「いたんだね。あそこなんだねガロウザス」
「おうさ! 黒衣は全員〈敗者のお部屋〉へ直行だ!」
こちらは――なんと〈カオスアビス〉&〈世界の熊〉。
〈世界の熊〉のギルドマスター、ガロウザスの騎乗するクマには、なんと〈カオスアビス〉のギルドマスター、ロデンも乗っていた。
そして逃げる3人の黒衣を発見すると、その前に回り込む。
「げぇ!? Aランクギルドのギルドマスターたちだと!?」
「なんで組んでんの!?」
「ちょっと、退きなさいよ!」
「ダメなんだね、断るんだね、君たちはここで退場するんだね。『暴食のうたかた』!」
「やっべ、触れるな!」
「『忍法・巨大手裏剣の術』! ってああああああ!?」
「飲み込まれた!? 逃げ、きゃあああ!?」
速攻でクマから飛び降りたロデンが【暴食】のスキルを使用する。
最近【嫉妬】や【傲慢】の活躍が顕著になり、【色欲】や【憤怒】の活躍、果ては今まで無名だった【怠惰】まで台頭してきて一気に肩身が狭くなってきていた【暴食】の名を上げたい思いのあるロデン。
〈獣王ガルタイガ〉や〈エデン〉に惨敗して、すっかり名が落ちてしまったのだ。
おかげで何度もランク戦を挑まれた〈カオスアビス〉である。まあ、そこは【大罪】職なので全て撃退して防衛に成功していたりするが。
最近では〈世界の熊〉と合同で上級ダンジョン攻略もするようになり、連携を深めているのだ。これは中々の話題性を生んでいたりする。
〈世界の熊〉と〈カオスアビス〉は元々1つだったギルド。
今、あの頃の約束を叶え、今度は2ギルドで切磋琢磨しているのだ。
ロデンのスキルは黒い津波となって【上忍】の巨大な手裏剣を飲み込み、そのまま止まらずに3人の黒衣に襲い掛かる。
そうして2人が巻き込まれ、1人が辛うじて逃れた、しかし。
「やばい! 逃げ――」
「おっと逃がすと思ってんのか?」
「――ぐあ!? ガロウザスだと!? こんの、『フルメタルアクロバティックアクション』!」
「『正義のクマさん正拳』!」
最後の抵抗とばかりに黒衣の男子が全身メタル化してアクロバティックな奇怪な回転を見せた。なぜわざわざメタル化したかは分からない。
だがそこにクマの正拳が突き刺さる。あ、正拳そっちが放つんだ!? そんな表情を浮かべたまま、メタル化男子にクマさんの正拳がヒットした。
「ぐびゃあああああ!?」
「貴様はクマには勝てん。クマが正義だからだ」
ガロウザスの職業は【正義の熊】。クマが正義なら、仕方ない。
吹っ飛んだ黒衣の男子はロデンのスキルに飲み込まれ、そのままうたかたの如く消えてしまうのだった。
黒衣は全滅してしまった。ロデンのたった1つのスキルによって。
「片づいたんだね」
「よし、次に行こう。……それにしても、ロデンのスキルは相変わらず凶悪だな。生半可なスキルや魔法は飲み込み、黒いオーラに触れてしまえば捕まって飲み込まれてそのまま退場してしまう。なぜこれで知名度が低いんだ?」
「学園は不思議だらけなんだね」
◇ ◇ ◇
一方、非常に危険と言わざるを得ない〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉の正面に構えていた2つのギルドがあった。
片方は〈獣王ガルタイガ〉。
危険地帯だからと怯まずに突っ込んでいき、黒衣は30人を撃破。
危険を察知すれば素早く距離を取り、危険地帯にもかかわらずずっと活躍し続けていた。
「はっ! ゼルレカのやつ、しっかりしごかれてんじゃねぇか!」
「はい。やはり〈エデン〉に預けたのは正解だったようですね」
そして、ここからだと|たまにボスへ襲いに来る《ヒットアンドアウェイ》〈エデン〉もよく見える。
その中で、ゼフィルスの側に付き、守られるようにしてヤケクソ気味に大剣を振るっている女の子が見えていた。
間違いなく獣王子ガルゼの妹、ゼルレカだ。
クラス対抗戦では凹んでいたが、〈エデン〉に預けたことで覚醒したのだろう。
ゼフィルスという男は一級品。その能力の神髄は味方を導き、とんでもない実力者に育ててしまう教育者なところにある。
1年生の1学期から臨時教師になっていた実力は申し分なく、ゼフィルスの教えを受けた者はのきなみパワーアップできると囁かれているのだから凄まじい。
獣王子ガルゼに任された妹を自分たちの力だけで導けなかったのは悔しいが、〈エデン〉に預けた成果を見る限り、間違った選択じゃなかったと確信出来た。
〈獣王ガルタイガ〉の面々がそれを見てニヤニヤする。
「こりゃ、あたいらも怠けているわけにはいかないね! あんたたち! 本気をだしな!」
「「「「「おおおおおおおおお!!」」」」」
「【憤怒】の力、見せましょう! 『ラース・ド・ドラゴン』!」
「全員あたいに付いてきな! 『覇者の歩む道』!」
やる気120%になった〈獣王ガルタイガ〉の猛攻は凄まじかった。
一方、こちらは同じく正面で構える〈千剣フラカル〉のギルドマスター、リンカ。
〈エデン〉の女侍、リカの3番目の姉だ。
「うひゃあ~。もうリカちゃんったらますますキリエ姉さまに似てきちゃってます! 姉としての面子が危ないです!」
「Sランクギルドなんですから、大丈夫、なのでは!?」
「そ、そのとおりで、ゴザル!」
「セーダン君、とゴザル君はあの光景を見てまだそんなこと言えますか??」
「このレイドボスを前にそんなことを気にできる余裕があれば、十分だと思います!」
「口よりも腕を動かしてほしいでゴザル!」
「君たちも口が上手くなっりました、ね! 『炎閃』!」
こちらは別の意味でピンチ。末っ子がとんでもなく強くなっていてどうしよう問題だ。
セーダンやゴザルことアビドスが宥めることでなんとか落ち着きを取り戻すが、レイドボスという一手でもミスれば一瞬で退場するような相手を前にこの余裕を見せている姿だけで、この人も姉妹だと感じるセーダンとアビドスである。
リンカはカノンに師事していて、その戦い方が結構似ている。
度胸もずば抜けていて、敵へ単騎で突っ込み、潰して生還するなんてことをダンジョンではしょっちゅうしているのだ。
さすが、昨年カノン、キリエ、リンカの3人で〈ミーティア〉を崩しただけはある。十分過ぎるほどの実力者であるとセーダンはしみじみ思った。
と、ここでついに〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉のHPバーが1本消失する。
「おおー!? 第二形態です! みんな警戒して、距離をとってくださいね!」
「って速っ!? なんで俺より速いんですかリンカ先輩!」
「ま、待って、置いてかないででゴザルーー!?」
ギルドメンバーに指示を出しながら距離を離していくリンカを慌てて追いかけるセーダンとアビドス。
最近の彼らは、リンカに振り回されているようだ。
リンカのお気に入りでもあるので仕方なし。
あ、道中で黒衣を2人見つけてついでと言わんばかりにリンカが屠った。
ちなみにこの2人が黒衣の最後の生き残りだった模様。
リンカは向こう側だと、再三思うセーダンとアビドスなのだった。




