#1513 〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉戦――開始!!
「〈迷宮防衛大戦〉―――試合開始です!!」
司会のお姉さんの声と同時にブザーが鳴り響き、同時に3000人の出場者が一斉に攻撃を撃ちまくる。
「まずはバフいくぞーーー! リーナ、ノエル、オリヒメさん、ルキア、マシロ!」
「承りましたわ! 『全軍一斉攻撃ですわ』!」
「今回もオリヒメちゃんとデュエットだよー! 『プリンセスアイドルライブ』♪ エールいっくよー!」
「久しぶりのデュエットですね♪ 狙いは黒衣です――『テノール』! 『バリトン』! 『バス』! 『呪歌』!」
「今回は私も参加だよー! 『時奪取』! 『移動タイムブースト』!」
「はい! 重ねちゃいます! 『愛と希望のエンジェルハート』! 『大天使の希望』! 『天使の浄化聖域』!」
レイドボスと戦う時はバフ基本。
できればデバフも与えて戦況を有利にすることが大事だ。
ここではお馴染みのバフ、プラスマシロにも重ね掛けの防御力・魔防力バフ『愛と希望のエンジェルハート』と『大天使の希望』を掛けてもらう。防御はこれで万全だ。さらに状態異常防止・状態異常自然回復速度アップ・状態異常回復の効果を持つ『天使の浄化聖域』が〈エデン〉全体を包み込む。
続いて厄介な黒衣どもを狙って一斉射撃。
これについては共通認識だったようで、ほとんどのギルドは黒衣を狙って攻撃を繰り出していた。
俺たちも同じ。何しろ黒衣は謎の集団。
〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉のパターンは把握している。
なら、謎の集団から先に退場させるのは道理だよね。
何かされる前にご退場願おう!
また、それ以外にも俺たちが黒衣を倒さなければならない理由があったりする。
「本気でいくわ! 『大聖光の十宝剣』!」
「〈イブキ〉、召喚! 『スラストゲイルサイクロン』!」
「――――『大精霊様二大降臨』! 『イグニス』! 『テネブレア』!」
「撃ち抜きます――『フェニックスショット』!
「『必殺忍法・分身の術』! いっくデース分身たち! 『忍法・影分身爆裂丸』デース!」
「『グラビティ・ボール・エクス』! 『アポカリプス』!」
「ゼニス、召喚! いきますよ『ドラゴンブレス』!」
「いっくよーエミちゃん、ユウカちゃん!」
「準備万端!」
「誰も逃がさないようにね」
「「「『神気開砲撃』!」」」
「『千聖操剣』! いきます―――『天覆千斬風』!」
「アリスもいっくのー『雷竜アターック』!」
「いきなり大技ですの――! 『アブソリュートゼロ』!」
遠距離からの特大攻撃連打。
おうおう、黒衣さん方が慌てる様子が見えるようだ。
だが、〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉はこれに対し、マントで再び体を隠すことで対処。同時に足下に居た黒衣の人たちも隠してしまう。
「うわ! あのマント、強っ!」
「硬った!? なんじゃあのマントは!?」
「ダメージひっくいなー!?」
「全然効いてないぞ!?」
そんな声がそこら中から聞こえてくる。
そう、俺たちの〈五ツリ〉の攻撃すらもマントで防ぎやがったのだ。
あのマントは盾にもなる。黒衣を庇われた形だな。
あ、様子を見ようとしたのか黒衣の1人がマントから顔出した。
「『魔弾』!」
「『神弓・ピンポイントボルト』!」
「『ハードシューティング』!」
「へ? あひゅーーーーーん!?」
あ。
それはもうあっという間の出来事で、シズや隣に居たユウカ、ミューの狙撃などに一瞬で狙われ、その顔だけ出した男子は一瞬で光にされてしまった。
なんてアホなやられ方だ!
しかし、それでも意味はあった。
〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉がおもむろにマントから本を取り出したのだ。
そして本から黒い呪いみたいなものをぶっ放す。
狙いは、今うっかりな黒衣にトドメを刺した、ミューだった。
「にゅ!?」
「ミュー!?」
「ダンカン!?」
「うおりゃああ『バトルシャッター』! ってなに!?」
「にゅあー!?」
「ミュー! ダンカン!」
素早く〈ハンター委員会〉の副隊長、タンクのダンカン先輩が割り込んだのだが、なんとその黒の呪いはダンカン先輩を貫通。そのままミューを飲み込んで消えてしまった。
ダンカン先輩とミューのHPをゼロにして。
そう、最初の犠牲者はなんと〈ハンター委員会〉だったのだ。
「2人退場!」
「あれが、〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉の『道連れのヘルズノート』!」
誰かの呟きが聞こえてくる。
もう名前から推察できるかもしれないが、〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉の真骨頂。なんと黒衣を1人滅ぼすごとに即死の呪いを発射する特性を持っている。
当たれば確殺の〈即死〉に加え、防御スキルも無関係とばかりに突破し、トドメを刺した者へ直撃するというのだから半端ない。
ざわめく会場。なにしろ〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉を見たのが初めてという学生がほとんどだ。どう攻撃するか分かんなくなってしまって止まってしまうというのはよくあること。
そこへ黒衣から反撃と言わんばかりに遠距離攻撃が飛んでくる。
『道連れのヘルズノート』の噂以上のインパクトに攻撃を躊躇する防衛者たち。
このままだと黒衣から一方的に攻撃を受けるな。
ここは俺の出番だ!
あの攻撃への対処法はあまり多くはない。だが、いくつかはある!
「〈エデン〉全員は予定通り黒衣を狙え! マントを開いたぞ! 『フルライトニング・スプライト』!」
俺は指示を出しながらついでに魔法もぶっ放す。もちろん狙いは黒衣の人たちだ。
周りから「うわ!? あの勇者マジか!?」という声と視線を感じる!
これに対し〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉はまたマントを閉じた。
まるで黒衣を庇うように。
だが、マントの外に2人の黒衣が。
あ、あの黒衣の人たちすっげぇ慌ててる。
守ってもらえると思ったら自分の後ろで打ち切られた感じ。しかもマントが硬くなったのか外からではびくともしない様子。
そこに俺の魔法が迫って―――あっ。花火が弾けたわ。
「「ギャアアアアアアア!?」」
「い、一撃だ!」
「おいおい、2人もいっぺんに倒しちゃったぞ!?」
「道連れが来るぞ!?」
「まさかここで勇者退場か!?」
「オオオオオオオオンンンンン!!!!」
2人も黒衣がやられた哀しみなのか再び〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉がマントの外へ本を出す。いや、あの2人がやられたのはあなたがマントに入れなかったせいだけどね。
そして黒い呪いが発射される。
それは俺へ真っ直ぐに向かってきた。そして直撃。
「キャーーー!?」
「ゆ、勇者クーン!!??」
「勇者君即死!?」
轟く悲鳴。主に女子から。
しかし、〈エデン〉のメンバーからは何も聞こえないのはどうしてだろう。
もっと心配してもいいんだよ?
「だが、効かーん!!」
「うわあああ!?」
「勇者生きてた!?」
「効いてないぞ!?」
「勇者クーン!!」
だが俺には効かなかった。
理由は〈身代わりのペンダント〉の『即死無効』効果だ。
うむ、『即死耐性』ですら貫通して確殺してくる凶悪な〈即死〉も『即死無効』には敵わない。だって無効だからな。即死する可能性が1%も無いんじゃさすがに〈即死〉させることは不可能なのだ。
『耐性』に有効なのは『貫通』。
『無効』に有効なのは『封印』。
これが〈ダン活〉の常識。
『貫通』では『無効』を貫けない。
これが〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉の対策の1つ。
そして2つ目。
「ほら第二波が来た! キキョウ!」
「はい! 『羨ましいからそれ禁止』!」
瞬間、第二波の黒い呪いが一瞬で消えてしまう。
これが対策の2つ目。というかこれで対策終了?
「ちょ、ありゃもしかして!?」
「【嫉妬】だ! 〈吸星のホシ〉さんと双璧を為す【大罪】職持ちの!」
「あのとんでもねぇ職業かよ!?」
「みんな聞けーー! これで〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉の厄介な攻撃、『道連れのヘルズノート』は禁止にしたぞ! もういくらでも黒衣を倒して大丈夫だ!」
「「「「「うおおおおおおお!!」」」」」
「さっすがゼフィルスだ!」
「いくぞお前らー! 後輩にばっかりやらせて恥ずかしくないのかーー!!」
「俺たちもぶっ込むぞーーーー!」
「混沌!」
俺が拡声器を使って高らかに攻撃を封じた宣言をすると、歓声が上がって次々と〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉へ向かっていく出場者たち。
あ、でも警戒も忘れずに。
〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉のスキルは、まだ1つしか使ってないんだからな。
だが、テンションが上がった出場者には聞こえていない様子。
「うおおりゃあああ!」
「黒衣をだせーーー!」
「マントを剥けーー!!」
「服を剥げ!!」
どうしよう、ちょっと追い剥ぎっぽく見えてきたのは秘密にしておこう。
なんだか、今の光景に少し覚えがあるのも、きっと気のせいだ。
「よし、〈エデン〉は〈イブキ〉へ騎乗! 側面に回り込むぞ!」
「「「「おおー!!」」」」
この隙にエステル号、アイギス号、アルテ号に全員で乗り込み側面に回り込む。
黒衣はマントによって守られていたが、〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉は攻撃するときマントをバサッとオープンにするので、いきなり目の前に出場者たちがこんにちはするんだ。
おかげで良い悲鳴と共に黒衣の人たちが討ち取られていく光景と映像が目に入ってくる。
「オオオオオオオオオオン!!」
「やっべ、攻撃来るぞ!」
まあそんなことを足下でやられてたら攻撃が来ないはずもなくて、一瞬で足下が爆発して何十人もの出場者が吹っ飛んだ。黒衣も一緒に。
やっぱり〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉って黒衣に対して慈愛とかそういうの一切ないな!! まあリッチだしな!!
「ちょ、強っ!?」
「タンクが一瞬で溶けたんだけど!?」
「げぇ!? 〈毒〉や〈盲目〉、〈呪い〉や〈恐怖〉のオンパレードだ!?」
「この威力で状態異常攻撃!? って〈混乱〉はダメだって! すぐに回復させるんだ!」
「黒衣は!?」
「あと70人くらい! 守ってもらえないと知ってから逃げまくってる!」
「〈カオスアビス〉と〈世界の熊〉が向かったぞ!」
「私たちは〈ヘルズノート・バベルガリッチ〉を潰すわよ、マナエラさん!」
「東側の側面から行くのだわ!」
リッチの反撃が始まると、もう色々パナイ。
ホネの手からガンガン巨大火の球を発射しては広範囲攻撃を連打してくるので、狙われた人たちはたまったものじゃないだろうな。
しかもタンクが一撃は耐えられても二撃や三撃は耐えられないところも多く、次々退場していく。
「正面に立つな! 側面に回り込め!」
「黒衣に気をつけろ! あと50人くらい残ってるぞ!」
「って早っ! 〈カオスアビス〉の面々、気合い入りまくりだぞ!」
「熊騎兵と連携、騎乗してやがる!? もう20人討ち取ったのか!?」
一気に騒がしくなる会場。
黒衣は半分が退場し、出場選手も200人が退場。
盛り上がってきたな!
「そろそろ突っ込むぞ!」
「「「おおー!」」」
「相手はレイドボス。直接攻撃を食らわせてもダメージはあんまり出ていない。故に、ゼルレカ! 君が頼りだ!」
「ま、任せろ!! アリスやキキョウにも、良いところ見せてやんよ!!」
「頑張れゼルレカ~!」
「修行の成果、見せてもらいます!」
反撃の時間だな。
今回の要はなんと言っても【怠惰】のゼルレカだ。
ふふふ、ちょっと育成しすぎて1ヶ月で〈五ツリ〉になってしまったゼルレカたちの力、見せてやるぜ!!




