#165 ハンナのお悩み相談。今後も付いて行くには
「ゼフィルス君、相談があるんだけどいいかな?」
「おう。どうした?」
〈陰陽次太郎〉戦が終わり、その素材を全てガント先輩に納品した翌日の金曜日。
今日はハンナが部屋に訪ねてきた。
ハンナが相談とは珍しいが、とても思い当たる節がある。おそらく〈魔石〉の話だろう。
あの山というかプールというか、あそこまで生産(?)しまくったのはいいがその後の保管場所に困ったとかそういう相談に違いない。
「次からの中級ダンジョンについてなんだけどね」
違った。
おかしいな。とても重要事項の高い分類だと思うんだが…。その話ではないらしい。
まあ、とりあえず話を聞いてしまったのだから最後まで聞く事にしよう。
「私の〈魔法〉って中級魔法と下級魔法だからラナ様にも全然敵わないし、昨日のボスにも少ししかダメージを与えられなかった。あれって中級下位クラスのボスなんだよね? それにね、ずっとシエラさんに守ってもらってばかりで———」
「ああ〜、うんうん。まあそうだな——」
ハンナにしては珍しい怒濤とも言えるハンナトークに相づちを打ちながら話を聞いていく。随分と言いたい事が溜まっていた模様だ。
要約すると。
「つまりこのままじゃ中級ダンジョンに付いていくのが厳しいって話か?」
「そうなの。なんとかならないかなゼフィルス君」
どうやら昨日の〈陰陽次太郎〉戦でほとんど活躍出来なかった事を気に病んでいるらしかった。
確かにハンナは先の戦闘では牽制くらいしか出来なかったからな。
原因は分かっている。俺を含む戦闘職組が強くなりすぎたから相対的にハンナが弱くなってしまったのだ。つまり、戦闘の足並みに付いてこられていない。
ハンナは生産職。【錬金術師】だ。
そもそもの話、戦闘職と足並みを揃えられるわけが無い。それでも〈マザーマッシュ〉までは〈マナライトの杖〉と〈マホリタンR〉の力でなんとかなってきたが、3段階目ツリー解放でその差が凄まじい開きを見せてしまった。
戦闘職と生産職、この差が明確になるのはやはりツリー解放時。
それまでは、ステータスに多少の〈制限〉が入っていようと〈ダン活〉は比較的自由にSUPを振る事が出来るのであまり差は出にくいのだが、2段階目ツリー解放、そして3段階目ツリー解放で明確にその職業の専門分野へと分かれていく。
ハンナはすでに3段階目ツリーを終え、職業が【錬金術師】として覚醒している。俺たち戦闘職もそうだ。
生産職がだましだましで付いてくるには、俺たちのメンバーの職業が優秀すぎた。
俺たちは高位職でも高の上ランク。SUP20以上を誇る最高峰の職業たち。
これが【錬金術師】と同じくらいの中位の職業ならばまだなんとかなったかもしれないが、ハンナはこの差に付いてこられなくなってしまった。そして今後はもっと差が開き続けるだろう。
俺は首をひねって考えを纏める。
「選択はいくつかあるが、多分ハンナが思ってるものじゃないんだよなぁ」
ハンナを付いてこられるようにするには、まず一番手っ取り早いのは〈転職〉だろう。
戦闘職になってしまえば今後も俺たちと一緒にダンジョンへ行ける。ハンナは「村人」なので高位職の高の下クラスまでしか就く事は出来ないが、ハンナなら気にならない。
ただLVはリセットされ0からやり直しになるのでここまでの努力は水の泡だ。できれば止めてほしい。
次の選択は〈『ゲスト』の腕輪〉を使っての採取担当。付いてくる事自体は出来るが戦闘には参加出来なくなる。
そこまで話したが、ハンナは浮かない顔だ。
「やっぱり、難しいかなぁ」
「ま、普通はダンジョン攻略したいなら戦闘職に就くしな」
「そ、そうだよね。そっかぁ」
「だが、諦めるには早いぞ」
「…ふぇ?」
選択肢はまだある。というかこっちが本命。
最後の方法は、また装備をバージョンアップ、アイテムガン積みにして付いてくるというもの。
ずっと思っていたんだが、ハンナは〈マナライトの杖〉がドロップしたからこそ今の魔女っぽいスタイルになっただけであって本来は魔法職ですらない。無理矢理、魔法職のフリしてやっているだけだ。そりゃあ本職には敵わない。
だからこそ、【錬金術師】としての戦い方を模索していく必要があったわけだ。
その準備も、【錬金術師】が3段階目ツリーを解放して〈ユニークスキル〉を身につけた事で整いつつある。
問題は素材の採取だが、それももう結構な量が揃いつつあった。ずっと売らずにハンナ行きにと貯めていた素材群を今こそ活用する。
ハンナ大改造計画は、ようやく最終段階に移るのだ。まだまだ続くかもしれないが。
「ハンナにはこのレシピのアイテムを大量に作ってもらうぞ」
俺はそう言ってバサリと分厚いレシピの束をハンナに渡す。
このレシピ群。〈爆弾〉系アイテムこそが【錬金術師】の真骨頂だ。