#1508 今度は〈格闘大会〉警邏。こりゃ毎年大変だ!
〈剣刀大会〉がとんでもないことになってしまった。
なぜか「勇者氏が〈剣刀大会〉に参加している」なんて話が広まって人が集まって来たあと、「今乱入すれば勇者氏と戦える」なんて噂が流れたせいで乱入者が続出したんだ。
〈秩序風紀委員会〉から応援がたくさん入って来たのはもちろん、俺たちには「今すぐ帰還してください」という帰還指示が来てしまったほどだ。
即で再び『明るい変装』を使って本部へと帰還した。
「なんであんたがいると問題が解決するどころか大きくなるんだい?」
「いやぁ、はっはっは!」
カンナ先輩の言葉に、俺は笑うしかなかったんだぜ。
いやぁ有名なのも困ったもんだな~。(切実)
「カンナ先輩、〈剣刀大会〉はあの後どうなりましたの?」
「ゼフィルスたちが引き上げたという事実を周知して混乱を収めたよ。また、乱入者については3日間の個室軟禁か、学園都市からお帰りいただくかの2択で対応済みさ。〈剣刀大会〉はなぜか途中でストップせずにそのまま続行してたね。相当図太いよありゃ」
〈剣刀大会〉が〈秩序風紀委員会〉に警備の全てを委ねて普通に試合続行していたと聞いて複雑そうな顔をするリーナとアイギス。
いや、俺たちのおかげで中断せずに済んだんだから喜ぶべきことのはず!
でもカンナ先輩が図太いと言った思いも分かるな。
「こほん。カンナ先輩、次の場所はどこですか?」
「なぜかあたいには大きな問題になる場所を選べと聞こえる気がするよ」
「気のせいですって」
それではまるで俺が行くところで大きな問題が発生するみたいじゃないですか。
あながち、間違いとは言い切れないところが辛い。
「今度問題が起こったら、解決後すぐに引き上げるんだよ? 長居は無用で即ここへ帰還すること。わかったね?」
「はい!」
問題を解決しているはずなのに、その場でジッとしているとさらに大きな問題が起こるというアンビリーバボー。
持ち場の意味よ。
「それじゃあ次は〈格闘大会〉の方を頼むよ。こっちも毎年大変なんだ。詳細はオペレーターがまとめをメッセージで送るから、確認しておくれ」
「はい!」
「承知いたしましたわ」
「そんな大変なところにゼフィルスさんを向かわせて、大丈夫なのでしょうか?」
「まあ、あそこはちょっと特殊でね。警邏の配置数も多いし問題が起こっても逆に安心なんさね」
「なるほど?」
ということで、〈剣刀大会〉の次は〈格闘大会〉の警邏に繰り出された俺たち。当然なにもないわけもなく……。いや、問題なんてなにも起こらなくていいよ?
だが、勇者は自分の意思とは関係無くイベントを引き寄せてしまうもの。
アイギスの呟きが、とても耳に残ったのだった。
「ピピー! はいそこ! 装備を脱がないでください! 服を着てください!」
「筋肉を魅せるポージングはほどほどにしてください!」
「だからここは〈格闘大会〉だって言ってんだろうが!! 筋肉をアピールする大会じゃねぇんだよ!! 戦えよ!!」
〈格闘大会〉の会場、今の留学生の通う〈戦闘2号館〉に着いた俺たちの目に飛び込んできたのは、様々なポージングをして対戦相手を威嚇する、上半身裸の筋肉たちだった。
無論、対戦相手も同じことをしていた。
ヤバすぎるところに来てしまったんだぜ。
「フン!!」
「だから『フン!!』じゃねぇ! 筋肉盛り上げてないで戦えよこのアホ!」
さらに審判の罵声(?)も飛んでる。
タキシードっぽい服を着た女性が両者に向かって叫んでいるのだ。
しかも対戦する石畳エリアの外側からは、審判とは別の〈秩序風紀委員会〉の人たちが笛を吹いて注意している。
カンナ先輩が「毎年大変なんだ」と言っていた意味が分かったんだぜ。
ちなみにこの〈格闘大会〉では上半身でも裸になることは、別に反則とされてはいない。しかし風紀的にはアウトなのでやっぱりダメなのだ。マナー的な問題。
しかし、〈格闘大会〉はその名の通り、自分の肉体で戦う、ノーウェポンバトル。
結果的に筋肉自慢が押し寄せ、たまにこうして筋肉を膨らませて威嚇しあい、膠着状態になることがあるらしい。
そして去年から〈転職制度〉で【筋肉戦士】になる学生が大量に増えたことから、〈格闘大会〉は別名〈筋肉大会〉と呼ばれているほど、筋肉の出場者が増えてしまったのだ。
「やるな」
「お前こそ」
「意味が分からんから!! なあ、早く戦ってくれよ! これ時間切れで勝者の判定を下すの私なんだぞ! もうちょっと私のことを考えろよ!!」
審判さんは大変そうだ。
筋肉さんたちは真剣に筋肉を膨らませて相手を威嚇しあっているからな。
しかし、試合は時間方式。KOするまでバトルするのではなく、ちゃんと時間切れの〈判定〉も存在する。
その場合は審判が勝者を判定しなくてはいけないのだが、普通ならHPの減り具合で決めればいいのに、筋肉同士が膠着状態だと勝者は審判に委ねられることになる。
もちろんここは〈格闘大会〉なので、そんな筋肉判定なんて審判はできない。
観客から文句も出ずに勝者を決めることがどれだけ難しいか。
残り時間を見れば10秒を切ったところだ。
なお、筋肉たちはHPマックス状態。
審判は涙目だった。
だが、ここで片方の筋肉の目がクワッと見開かれると、一気にダッシュしてもう1人の筋肉に突っ込んだ。
「「「「キャー!!」」」」
これにはなぜか悲鳴発生。
なお、一部審判の歓喜も含まれていた。ようやく戦いが!
そう思ったのも束の間、ここで「ブオーーーーーン」と試合終了のブザーが鳴る。
審判はその音が信じられないといったきょとんとした顔だ。
なお、筋肉たちはなぜか抱き合ってお互いの健闘を称え合っていた。
当然筋肉たちのHPはマックスだ。
自由すぎる!
「もうやだーー! 2人とも失格にしてーーー!?」
「うおお!? 審判がキレた!」
「そうだわ、どっちか1人を私が殴ればHPが減るわ。勝者は私よ!」
「審判が錯乱状態に!?」
「誰か! 抑えるのを手伝ってくれ!」
「混沌!」
カオスだ。
「〈格闘大会〉ってとんでもないところでしたのね」
「いえリーナさん、特殊なのはあの筋肉さんだけみたいですよ」
「こんなのがしょっちゅう起こってれば、そりゃ大変だわなぁ」
リーナが呆然とした様子で言った呟きにアイギスがツッコミを入れる珍しい状況。
さすがは学園の筋肉なんだぜ。
なお、審判はその後医務室へと送られ、筋肉の1人が「俺の筋肉の負けさ」と負けを認めたことでもう1人が勝ち上がるという結末に落ち着いた。
いったい筋肉たちにはなにが起こっていたのか、筋肉に詳しくないから分からないんだぜ。
「とりあえず、圧倒されている場合ではないな。これは確かに問題だ」
「ですわね。というか、根本のルールに問題がある気がしますわ」
「となると、問題解決には責任者のところへ行く必要がありますね」
俺たちは、ただ問題が起きないように警邏巡回していればいいのだが、すでに問題が起きている以上解決に乗り出さなければならない。
早速リーナが本部に連絡し、俺とアイギスで責任者の下へと向かう。
だが受付や他の運営人に聞いたところ、〈格闘大会〉の責任者は【鋼鉄筋戦士】だったからさあ大変。
「筋肉を魅せることに、なんの問題もない」
そんなことを言う御仁だったのだ。
いや、それで〈格闘大会〉に問題が出ているのだぜ?
しかも筋肉ファンが一定数いて、なぜか筋肉を見せ合う試合も一定の人気があるのだから、無闇に全面禁止にはできなかった。
これは本部や、果ては学園長にまで話が飛び火したのだが、禁止にはできなかったのだ。
そこで折衷案として「お互いHPが1も削れなかった時は勝者を審判に委ねる」というルールから「両者を敗退させる」というものに変更された。
これには責任者も抵抗してきたが、学園長から何かお話があったようでこの案が通り、ようやく筋肉同士で試合が組まれても〈格闘大会〉らしい試合が起こるようになったのだった。
「ありがとうございます! ありがとうございます! 本当に助かりました!」
「いやいや、俺らはほとんど学園長に投げただけだし、お気になさらず」
医務室に運び出された審判さんからなんか激しく感謝されたよ。
コネのなかった彼女たちでは責任者の意向を変えるまではできなかったらしかった。学園長のコネって大事!(※普通はそんなコネ持っていません)
今回は目立たずに問題を解決できたぞ。
良い感じじゃない?




